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「現実を完全に忘れられるほど面白いものを」
MousePiece-ree、20周年記念興行第一弾!
後藤ひろひとを作・演出に迎えて贈る「ねこ争奪コメディ」

2002年、“子年生まれ”の森崎正弘、早川丈二、上田泰三の3人が立ち上げたユニット「MousePiece-ree」。息や間合いを駆使したスラップスティックヒューマンコメディを得意とする彼らが、結成から20周年を迎え、作・演出に後藤ひろひとを迎えて「ねこ争奪コメディ」を上演する。MousePiece-reeの3人と、後藤に話を聞いた。

昔、3人でPiperをしていた頃を思い出しちゃって(後藤)

 
――今回、後藤さんに作・演出を依頼されたきっかけから教えていただけますでしょうか。
 
森崎:2021年に吉本(興業)さんが主催された舞台が2本ありまして。ひとつは2月の『リバー・ソングス~大阪を流れていた6枚の枯葉』、もうひとつは12月の『STATION TO STATION~あなたの駅のものがたり』という舞台。どちらも後藤さんが総合演出をされていて、いろんな劇団さんが作った短編をオムニバスで構成するという公演でした。そこに僕たちも参加させていただいて、初めて後藤さんとお会いしたんです。『STATION~』のときは、後藤さんの脚本で僕たち3人が何かをするということになったので、さらに距離が近くなったんですよね。
 
後藤:それまでは一切知らなかったからね。
 
――そうなんですね。
 
後藤:名前だけは知ってたんですけど、話は全然したことがなくて。去年の2月の公演で河童のコントをやってて、じつに変な3人組だなと(笑)。総合演出なので稽古場をのぞきにいったら、やってる稽古も的を射てないような。“そこか!?、一生懸命やるところは”っていうことをやっている連中がいて。 
 
――オファーを受けて後藤さんはいかがでしたか?
 
後藤:新作を本当に長いこと書いていないので、書ける機会をいただけるんだったら、とてもありがたい話だなと思って。じつはちょっと予定がいろいろ詰まってはいたんですけど、新作を書かせてもらえるなら、ぜひと。今このご時世で、やらせていただけるのはありがたいなと思って受けましたね。

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――新作を書かれるのは実際、いつぶりですか?
 
後藤:4年前、KUTO-10の『財団法人親父倶楽部』というのを書いたとき。フルで新作を書いたのは、それ以来ですね。オムニバスとかで、短い作品は結構やっていましたけどね。どこかで「やっぱりできませんでした」って言われたときのショックを自分の中で無意識にガードしようとしている感じがして。「できない」ってなったときに、そのほうがダメージが少ないでしょ。だから、どこか守ってたところがあったかもしれないですね。でも今は守るときじゃないんじゃないかと思って、やってみようと思いました。あまりマウスに書いて得をするとは自分で思ってないですけど(笑)。
 
森崎:ちょっとリハビリ程度に書いていただいて(笑)。
 
後藤 私も楽しませてもらえたらと。
 
――作品が「CAT TOWER」というタイトルですが、どういうところから発想を広げていかれましたか?
 
後藤:(早川)丈二くんが猫好きで、うちに来てうちの猫と遊んだりして、気が付けば自分の家でも猫を飼っててね。
 
早川:影響で飼いました(笑)。後藤さんが「CAT TOWER」ってどうだい?って、プロットを見せていただいて。僕ら「MousePiece-ree」なので、“ねずみと猫”っていうのも面白そうだなと。
 
――後藤さんは、舞台上でどんなふうにMousePiece-reeの皆さんを動かしたいと?
 
後藤:彼らを観ていると、昔の自分がいたPiperをふと思い出しちゃって。3人組だった頃のね。最終的に5人組になって、今はもうまったく動いてないんですけど。川下大洋と山内圭哉と3人で、何をやっても怖いと思ってなかった頃があったんですね。彼らにもすごくそれを感じるものがあるので、そのときにやってきた面白かったパターンを、彼らに預けてみようかなと。楠見薫、山内圭哉、平田敦子が家族で、勝手に空き家に住み着くっていうシリーズが3本あって、3本とも間取りが一緒だったんですよ。今回もそのパターンで書きたいからと、舞台美術の方にも間取りを同じものにしてもらって。なので、設定としては違うけれど、間取りは一緒にして、懐かしみながら新しいものをつくりたいなと思っています。
 
――それぞれどんなキャラクターを演じられるのでしょうか?
 
後藤:物語としては、丈二くんと樋口みどりこさんが演じる若い夫婦が、いなくなった猫を探しに廃墟になったホテルにやってくるところから話は始まります。廃墟になっている状態を管理しているのが春野恵子さんで。どうやら廃墟になった建物には野良猫がたくさん住み着いていて、ここにいるだろうというので探しにくる話です。この建物はオーナーが死んで廃墟になっていて、どうやらオーナーが自分の遺産を猫に託しているようだと。その猫を手に入れて飼うと遺産が全部入ってくるという噂を聞いてやってくる、あくどいダメ~な兄妹を(上田)泰三くんと是常祐美さんが演じます。森崎君は引っ越しの業者さんで、引っ越しの最中に人から預かっている猫を殺してしまった。似た猫をなんとか探さなきゃいけないっていうのでそのビルに入ってくる。みんな誰もいないと思って探しているせいで、大変な勘違いがどんどん起きていくっていう話です。その中に、猫大嫌い人間の兵動大樹さんが現れて、次々と猫を殺そうとする。でも殺させないぞっていう、壮絶な戦いが生まれていく…という物語です。
 
――「MousePiece-ree」の皆さんは、20周年を振り返っていかがでしょうか?
 
後藤:解散の危機とかはないの?
 
早川:危機はないですね。ムカつきはずっとあります(笑)。
 
森崎:年に1回は絶対公演やっていて。
 
後藤:コロナ禍でも?
 
森崎:ちょうど僕らがやるときに収まるんですよ。
 
――3人だけでお酒を飲みに行かれたりもするんですか?
 
上田:稽古の時はほぼ毎日行きますね。
 
早川:なんか意地みたいになってて、「今日は行かない」って言えないんです。ひとりで帰るのはちょっと嫌やなって思うんです。
 
上田:どうしても用事があって、ふたりだけだったら解散になるんです。
 
後藤:何をそんなに喋ることがあるの?
 
早川:そんなに喋ってないんですよね。森崎は携帯を持って、泰三はひとりで喋ってる(笑)。
 
森崎:しかも行きつけの居酒屋さんが何にも言わなくても飲むものを知ってるので、どんどん持ってきてくれはるんです。何も言わずに。携帯みてたらどんどん出てくる(笑)
 
早川:客演さんとかもいるのに、客演さんがこなくても3人で行きます。コロナ禍では行ってないですけど。

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――それぞれの役割分担は?
 
早川:森崎が座長で演出、上田と早川が脚本を担当しています。
 
上田:最近は丈二がほとんどですね。
 
後藤:泰三くんが書くこともある?
 
上田:たまに書きます。昔はよく短いのを書いてたんですけど。
 
森崎:ミュージカルも書いたことあるんです。冒頭のキャッチボールのシーンだけで25分やって。
 
早川:アンケートにこれはいるんですか?って書かれました(笑)。
 
後藤:去年11月の公演を見せてもらって、この台本はどうやって書かれてるのかな? いや、書いてないな~と思って。台本ペラッペラちゃうかなって(笑)。でも正しいかもしれない。少なく書いてアドリブで伸ばして、90分に仕上げるってすごくカッコいいなって思う。
 
早川:泰三くんが書くホンってすごく短いんですよ。1時間くらいのお芝居の台本書いてきたって言うて、7ページやったっけ?
 
上田:そこまではないわ(笑)。
 
早川:読み合わせしたら15分くらいで終わるんです。
 
上田:それはなぜかというと、稽古をやってるときに、森崎と早川がいらんことばっかりやるんですよ。書いてるときも、違うこと言うやろなって分かるんです。そしたらもうこの辺はフリーにして終わっとこって(笑)。
 
――本番中も、稽古と違うことが出てきたり?
 
森崎:それはね、ほとんどないんですよ。稽古で積み重ねたものしか舞台上にのせなくて。たまに、違う言葉でツッコませるっていうくだりがあるので、そこで一言くらいは違うことを言ったりしますけど、ほぼ稽古でやったことしかやらないですね。
 
上田:それがアドリブに見えるっていう感じですね。ほんまは稽古してるんですけど。
 
後藤:さっき、自分が3人でやってたPiperを重ねたって言ったけど、一緒にいる感触では、転球劇場の感じですね。彼らも3人組で、台本なしでやってた人たちで。
 
森崎:僕が転球劇場さんにすごく憧れがあって。転球劇場さんも同級生3人組だったので、形から入ったんです(笑)。
 
上田:(福田)転球さんに、「名前ください」って言うてるくらいですよ。
 
森崎:「ピン球劇場ってつけていいですか?」って言うたら、「いいけど、転球劇場とは関係ありませんって書いてね」って言われました(笑)。


 
自分たちが一番楽しみたい(森崎)

 
――20年間、メンバーが変わらずひとつの集団が続くことって、なかなか難しいと思うのですが…。
 
上田:実際、僕ら知り合ってから30年経つんです。ほんまに長い。
 
早川:人生の半分以上一緒にいるんですよね。
 
森崎:最初は20年も続けようなんてこれっぽっちも思ってなかったんですけど、ダラダラと続いてますね(笑)。
 
早川:5年くらいかなって思ってたんですけどね。
 
森崎:団体じゃなかったからよかったのかもしれないですね。
 
上田:他に客演とかで出させていただいていて、そういうのをやりながら年に1回3人で集まれるっていうのがちょうどいいのかもしれないです。たくさんメンバーがいてたら、その人らのことを考えて公演を打っていかなあかんっていうようなところもあると思うんですけど。
 
早川:じつは劇団員募集も何回かやったんですけど、ひとりも来ないんです。出演者オーディションだったら来るんですけど、劇団員募集って書いたら誰も来ないんです。
 
後藤:それはいまどきの風潮もあるのかも。劇団というものに所属したがらない役者が多いのかな。
 
森崎:壱劇屋とかステージタイガーはどんどん増えてますけどね(笑)。
 
――後藤さんから見られて、それぞれの役者としての魅力をどう感じられていますか?
 
後藤:よくぞこんなに3人が全員バラバラな芝居をする人たちだなと。まとまりはないけどバランスがいい3人だなと思いますね。面白い役者たちですよ。声の質もバラバラだし。それってすごく大事だなと思うんです。同じ音階で喋る3人だったら、ちょっと鬱陶しくてあまり近寄りたくないけど(笑)。全員がいいバランスでっていう3人だと思いますね。今回、丈二くんは九州出身だから、関西弁を書いていなくて。そんなところでストレスを感じずに、やりやすいように芝居をしてほしいから。でも、森崎くんと泰三くんにはどぎつい関西弁を喋ってもらいます。
 
――劇団として、これからの目標は?
 
森崎:20年も続けてこれるかどうかも分からずにダラダラとやってきた劇団なんで、次もたぶん目標もなくダラダラとやっているような気もするんですが…。他の方、何か目標ありますか?
 
上田:『ぼくらの時代』っていうテレビ番組で、シティボーイズさんが出てはったんですよ。あの人たちは70歳を超えてる3人なんやけども、年に1回集まってコントをやってるんです。それがすごくカッコよくて。トークを見ててもめちゃくちゃ自由で、収録中にトイレがんがん行くし(笑)。カッコよすぎて。だから年をとっても、それぞれが個人で活動しながら、年に1回、なんかできたらええなぁと思います。
 
後藤:俺が理想と思いながらできなかったことを、3人がやってる気がする。なんかうらやましいですね。
 
森崎:だから目標は、3人でシアター・ドラマシティで公演することですかね。
 
後藤:一昔前だと、劇団とかで目標って言われたら、番組持ちたいとかあったけど、今って、民放に頼る必要がなく、YouTubeなりPodcastなりいろんなところでできるから、その辺の目標っていうのも、今の若い劇団のなかでもちょっと変わってきてるよね。俺らの世代とはちょっと違う気がしますね。

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――では最後に改めて、今回の公演に向けておひとりずつ意気込みをお願いします。
 
森崎:楽しいお祭り騒ぎになればいいなと思っています。自分たちが楽しむということが先にあるので、もしかしたらお客さんを置いてけぼりにしちゃうかもしれないですけど、でもそれを一番芯に置いて自分たちが一番楽しみたいなと思っています。
 
上田:僕たちが二十歳くらいのときには小劇場のブームがあって、お客さんが何千人と入る劇団さんがたくさんある中、僕たちがやりだしてからは、なかなか千人を動員する劇団が少なくなってきて。やっぱり昔のようなブームじゃないですけど、もっといろんなお客さんに観てもらいたいっていう想いはずっとあるんですね。なんとか僕らで盛り上げて、あいつらのところこれだけ入れよったぞ。これだけファンがいっぱいついてきたぞと、そうやって言われるような劇団にしたいなと。そこから火がついて、いろんな劇団さんやいろんなお芝居に、多くのお客さんが観に行ってもらえたらなと思っています。
 
早川:10周年から20周年の10年間はあっという間で、20年というのは結構感慨深いものがあります。めでたい年に、いわゆる小劇場の全盛期を知ってらっしゃる後藤さんと初めて一緒に作品をやれるので、いままでのマウスと違うぞと思っていただきたいのと、やっぱりマウスって面白いねって言っていただけるように、盛り上げていきたいなと思います。
 
後藤:今、コロナから始まり、戦時中になっちゃって。普通に生きてて楽しいこと、幸せなことの方が少なくなっている。そんなときに劇場まで来てくれてお金まで払ってくれる人に何を提供しなきゃいけないのかと思ったら、観てくれてる時間だけでも現実を完全に忘れられるほど面白いものを作らなきゃいけないと思っているんですよ。今回は、それを思い切ってできそうな公演です。来てくれた時間だけは幸せな時間を提供したいなと。そのプロフェッショナルなんじゃないかな、俺らはという気持ちで向き合いたいと思います。
 
――日常を忘れて爆笑できる舞台を期待しています!
 
後藤:キングコングの西野くんが、三谷幸喜さんと俺と仲良しなんですよ。普通そういう人、演劇界にいない(笑)。その西野くんが言ったのは、三谷さんの台本の登場人物は、みんなすごくちゃんとした人たちが一生懸命やっていく中で歯車がズレていくけど、後藤さんの書く作品の登場人物は全員バカって(笑)。俺はそれが正しいと思うんです。今回の作品でも全員がバカです(笑)。加害者ひとりもいないのに、全員被害者になるっていう世界。ゲラゲラ笑いながら書きましたから、楽しみにしていてください。観に来てくれる人よりも、全員知性が低いので、安心して観にきてください(笑)。

取材・文/黒石悦子



(2022年5月17日更新)


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MousePiece-ree『CAT TOWER』

チケット発売中 Pコード:511-289
▼5月20日(金) 20:00
▼5月21日(土) 14:00/18:00
▼5月22日(日) 13:00/17:00
ABCホール
全席指定-5000円
[作][演出]後藤ひろひと
[出演]森崎正弘/早川丈二/上田泰三/樋口みどりこ/武田訓佳/是常祐美/春野恵子/兵動大樹
※未就学児童は入場不可。感染症拡大防止策を講じて公演致します。ご来場の際はマスク着用必須、入り口での検温、手指消毒などご協力をお願いします。感染症対策のお願いにつきましては公式SNSでも発信して参りますのでご確認くださいませ。
[問]オフィスマウス■090-8378-2532

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