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「落語のネタのように楽しんでほしい」
名物食堂や音楽ライブも楽しめる一人芝居シリーズ
『宮川サキのキャラクター大図鑑』大阪公演が間もなく!

関西小劇場を中心に活躍する女優・宮川サキが、老若男女の個性豊かなキャラクターに扮する一人芝居シリーズ『宮川サキのキャラクター大図鑑』。その全国ツアーの最終地である大阪公演が10月22日(月)よりin→dependent theatre 1stにて開催される。“おかん”“円山(まるやま)”“プレゼン男”など、身近にいそうな、不器用でがむしゃらで、アホだけど憎めない、そんな愛すべきキャラクターたち。宮川サキの一人芝居にかける思いを聞いた。

――まず、一人芝居を始めたきっかけから教えていただけますでしょうか?
 
「役者としてスタートしたのが30歳くらいの頃で、ちょっと遅かったんです。で、そのきっかけが伊丹AI・HALLの演劇ファクトリーで、1年間、役者やスタッフを育てることが趣旨のワークショップを受けたんです。それを終えて、この年齢で新しく劇団に入るのもなぁ…と考えていたら、“一度イッセー尾形さんの一人芝居を観てみたら?”って勧められたんです。そしたら衝撃を受けて、一人芝居に興味を持ってやり始めたんですけど、当時は作家さんとか演出家さんとか存じてなかったので、自分でやるしかないなと。自分でやって面白くなかったらそれまでやという開き直り精神で作り始めたんです(笑)。それがきっかけですね」
 
――いさぎよいですね(笑)。
 
「それしか選択肢がなかったんです。ちょっと書いてよって、気軽に頼める人もいなかったので。そこからはいろんな劇団さんとかプロデュース公演に呼んでいただけるようになって、仲間も少しずつ増えてきて。サポートしてくれる素敵なメンバーにも恵まれまして、でもちょっと行き詰って一人芝居をやめたんですよ 」
 
――何かあったんですか?
 
「そのときは、すごく内向きに作り込みすぎていて、いろんな年代とかいろんなキャラクターをやっていく中で、役作りを飛び越えて、身体のつくり的なことにすごく気をつけてやっていたんです。身体の重心から始まって、関節の動き方まで気にするというか。関節がここまで動くからこれはここまでいったら歳が老けた風には見えないから、この関節をこう向けたらこうなるとかって、ずっと鏡越しでやっていたんですよ。そしたら、段々“うちは医者か!”っていうくらい気持ち悪くなってきてしまって。皮膚の動きとか、老人に向かっていく顔筋とか、筋肉の衰え方だったりとか、関節が段々衰えて、どこまでが稼動範囲かっていうのをずっと調べてやるようになってきたら、段々しんどくなって。お客さんにはマニアックやとか、すごく作り込んでるとかって褒めていただくんですけど、“これはうちがほんまにやりたかったことかな?”って、どんどん真逆になっていって。それで、一回休もうと思ったんです」
 
――面白いと思ってやり始めたことが突き詰めるほどに辛くなるという…。
 
「そこから、一度一人芝居を休んで、いろんな舞台で表現を見つけていこうと思って、いろんな客演を受けるようになったんです。その中のひとつに、ウォーリー木下さんのカンパニーで、世界一団からsundayに変わる間にやられていた、sekai☆ichi☆dan interludeの『心がわりエアポート』というのがあって。劇団員の男優4人とゲストが私1人なんですけど、それがまた役者がそれぞれ自分達で作る一人芝居やったんですよね(笑)。一人ひとりのドラマがあって、最後に空港でみんなが出会ったときに全員のエピソードがつながるっていうストーリーやったんです。でもそのときにウォーリーさんが、今まで私が自分で作ってきた一人芝居と全然違うアプローチで、すごく発想豊かに演出をつけてくれて、改めて、面白いなって思うことができたんです。そこからsundayに入って、しばらくは客演とかでもあちこち出させてもらっていたんですけど、今だったらもう一回やれるかもと。今なら、技術的なことを重視するんじゃなくて、もうちょっと楽に、自分が楽しんでやれるんじゃないかと思ったんです。で、再始動するならやりたいことをとことんやろうと、全国ツアーを始めました。自分を知らない人たちの前や、自分の知らない場所でもやりつつ、応援していただいている大阪でもやりたいし。今年は5年目で、東京から九州まで全国をまわっています」
 
――各地でやるキャラクターは違うんですか?
 
「各地というより、日替わりで差し替えネタもあるんですけど、基本的には落語みたいな感じで、持ちネタを持っていく。何回か行っているツアー地とかはお客さんも慣れてきているので、衣装を見たらあのネタが始まるんやって分かるんですよ。毎回新しいネタを出すというより、落語のネタのように楽しんでもらえたらと思って、新旧ネタを織りまぜてやってます。新ネタだけは、いつも大阪で下ろしてます」
 
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――各地での反応って違いますか?
 
「あまり地域差はないですね。日本中のどこにでもいそうな、何かちょっと懐かしいと思う感じの人とか、変な人やなって思う人が何種類もいるから、みんなが共通して“あ~、いるいる!”って思うキャラクターが多いと思うんです。大阪のお客さんは、あまりにもネタを知り尽くしてはるので、ステージ上の衣紋掛けに吊られた衣装を見て、そこのキャラクターが相手を見る目線の場所に座ったりするんです。そうやって楽しんでいただけるのもうれしいなと思います。客席が映っているモニターを見てると、妙なところから埋まっていくなと思うんですけど、あのキャラクターの目線の先に座ろうとしてくれてはんねんなって」
 
――「キャラクター大図鑑」のツアーを初めて5年目とのことですが、今はどう感じられていますか?
 
「昔とは全然違いますね。心配してくれる仲間もできて、うちがやりたいと思っていることを汲み取ってくれる。何よりツアー地はいつも自分で決めて、アポ取りも自分でやるんです。本来なら、制作さんやプロデューサーさんがやるんでしょうけど、うちは自分で土地の人と会話して、場所を見て、ここでこんなんやりたいっていう熱意を伝える。それをしてこそ“応援してやろうじゃねぇか”っていう気持ちになってもらえると思うんです。実際、どんどんツアー地が増えてきていて、その心強い応援というか、愛情、サポートしてくれている人たちの寄り添ってくれている気持ちがすごくうれしいなって。稽古では煮詰まるときもありますけど、それ以上に愛情を感じられるので、今は楽しいやらありがたいやらで、すごくやりがいを持ってやらせてもらっています」
 
――キャラクターを演じるときに意識されていることは?
 
「そのキャラクターをバカにしないことですね。アホみたいなキャラクターだらけなんですけど、それを笑うのはお客さんであって、自分が笑ったらあかんなと。自分は常にこの人であって、正当化しないといけない。じゃないと空回りしないし、面白くないと思うんです。コントとかやったらオチをつけるために面白くやろうとか、笑わせるためにこうしようと、ちょっと客観的になるとは思うんですけど、私の一人芝居の場合は完全に自分がキャラクターになるので、自分は何も間違っていない、自分は正しいってしっかり思っておかないと、相手とのズレが出てこないやろうなって思うんです。それをお客さんが観て、“なんでやねん”“そらあかんやろ”って笑ってくれるような形にしていかんとあかんなと思ってやってます」
 
――例えば代表的なネタに「おかん」がありますけど、それはキャラクター作りに自分のおかんをイメージされたり?
 
「自分のおかんももちろんそうなんですけど、このおかあちゃんはめちゃくちゃ子だくさんなんですよ。お客さんに、“結局何人子どもおったんですか?”ってよく言われるんですけど、ネタばらしはしていないので、それはまた観に来て数えてくださいって(笑)。とにかく大人数」
 
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――一応設定はあるんですね。
 
「ありますね。台本見たら何人か分かりますよ。私の場合、割と昭和な懐かしい感じのキャラクターが多い。昔、近所に子だくさんの家族おったなとか、ブラウン管のテレビが壊れたとかって騒いでるおかんおったなとか、団地に住んでるおかんとか、そういう人たちがモデル。ただ、子だくさんのおかんをモデルにするのは大変でしたね。自分がまだおかんではないので、とにかく“おかん”って言われるいろんな年代の人と喋ったり、兄弟が5~6人いてる人を紹介してもらって、その子のところにいろいろ話を聞きにいったり、実際団地に住んでいる家族のところに泊まり込んで、ずっとおかんのやりとりを観察したり。小学生とか幼稚園の子どもがいる家庭の台所に置いてそうなものを、めっちゃリサーチしたりもしましたね(笑)」
 
――なるほど!どういうところからキャラクターを生み出されているのかなと。
 
「一人ではないですね。自分が今まで気になった人たちのストックがあるんですけど、その人たちの掛け合わせで輪郭が分厚くなるというか。この人だけをそのままモデルにするっていうのはないですね」
 

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――どれくらいのキャラクターがいるんですか?
 
「再始動する前は毎年新ネタを下ろしてたんですけど、飽きて二度とやらなくなったキャラクターもいっぱいいるし、一回だけやってやめたものを入れると、数えられないくらい。再始動してからレギュラーで登場しているのは、10人ちょっとですね。今は新ネタをどんどん作るというよりも、さっき言ったみたいに落語のネタのように、毎年あの人に会いに行きたい、あの人にまた会えたらいいなって思ってもらいたい。日替わりで1ステージ3人しか出てこない。しかも毎回ネタが変わるので、どの人が出てくるかはお楽しみなんです。毎年、レギュラー陣のキャラクターと、大阪だったら新しいキャラクターを混ぜて用意するっていうスタイルにしています。チラシに載っているのが大体登場しますね。この中からどれが出てくるかっていう。あと、「おかん」は後日談バージョンもあるんです。再始動してから、キャラクターをちゃんと向き合おうと思ってやっていて、すごく些細なことなんですけど、ちょっと考え方を変えただけで広がりができたというか。やかましいおかんだけやったんですけど、人間ってやかましいこともあればしんみりするときもあるし。いろんな顔がある中で、このおかんも、子どもが大きくなったときにどうやって子どもに向き合っているのかなって思うところから、今やったら後日談が作れるなと。その後日談は、大ネタの人情ものとしていつもラストにやっています。そうやってあるキャラクターの別バージョンを作れるようになったのは今の強みかなと。新ネタをここの中からやるか、新しいキャラクターからするか、選択肢が増えたのは楽しいなと思います」
 
――一人芝居っていろんなパターンがありますよね。相手がその場にいるかのようにやるパターンと、一人語りみたいなことをやるパターンと、一人で何役もやるパターンと。サキさんの場合は?
 
「相手がそこにいるかのようにやりますね。あと、私の場合、そこのお客さんと一緒に、そこのお客さんとしか作られへんものを毎回作りたくて。だから説明ゼリフを全然入れないんです。こっちが投げたセリフを分かってくれたかな?って思うことと、相手が言っているセリフを重ねながら喋っているので、お客さんの理解が遅かったら、そこの間合いって変わってくるんですよね。お客さんの集中度合いっていうのは人によっても会場によっても違うので、その辺の理解の速さとか、常連さんが多かったら速いですし、初めての人が多かったらちょっと反応が遅いこともあるやろうし。毎回反応が変わってくるんですけど、それをあえてちゃんと自分でキャッチしながらやると、お客さんも一緒にそこにいる感覚にリンクしてくれるんですよね。それを説明しちゃうと、お客さんは聞かされているだけになっちゃうかなと思うので、そこはあえてお客さんと確認しながらやりたいなと思っています」
 
――大阪公演では名物食堂があったり、音楽ライブも行われるとか。
 
「元々、維新派の屋台村が大好きで、すごく素敵やなって思ってたんです。お芝居だけでもしっかりといい作品なのに、維新派を盛り上げようとしている屋台村の皆さんがすごくいい空間を作っているし、そういうお客さんへのサービス精神がすごく素敵やなと。それにキャンプとかお祭りも好きで。どうしても劇場でお芝居観るとなったら、閉鎖的に思われるところもあるんですよね。でも、もっともっとお芝居を知らないお客さんが、閉鎖的どころか、あの中に行くとすごい世界が広がっているんだよっていう、入門編みたいになれたらいいなと思って。うちの芝居はすごく分かりやすいし、入りやすい玄関になれたらいいなと、公演の制作をしてくださっている秋津ねをさんにお願いして、開演前と終演後に「秋津食堂」っていうのを開いてもらうようにしたんです。ねをさんもお客さんと一緒に盛り上がってくれるし、飲んでわいわい楽しんで、時間になったら劇場に入るような感じ。せっかくほろ酔いでええ感じやから、飲食物も持ち込んでもらって、大阪は客席のイスを全部取っ払って野外フェスみたいにレジャーシート敷いて、好きなところに座ってもらう。開場中の30分は日替わりでミュージシャンを呼んでいて、アンプラグドライブを楽しんでいただけるようにしています。音楽を聴きながら、飲んだり食べたりして待ってたら、キャラクター大図鑑が始まって、終わったらまた秋津食堂がオープンしてみんなでわいわい楽しむ。年に1回、大阪は平日ですが、仕事帰りにお祭り気分を楽しんでいただけるような3日間にしたいと思っていますので、ぜひ一緒に楽しんでほしいですね」

取材・文:黒石悦子




(2018年10月18日更新)


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『宮川サキのキャラクター大図鑑2018 下巻』

●10月22日(月)~24日(水)
(月)(水)20:00 (火)14:00/20:00
in→dependent theatre 1st
一般-2500円 U-22-1500円(要身分証)
[作]【出演・演出】宮川サキ
※U-22は要身分証明書。

https://sakiyan.info/