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「生身の人間が演じるからこそ伝わるものがある」
劇団Patchが“夢”をテーマに、自分をさらけ出して見せる物語
主人公を演じる三好大貴、田中亨、演出の菜月チョビにインタビュー

大阪市が主催する演劇鑑賞会で、大阪を拠点に活動する劇団Patchが『大阪ドンキホーテ~スーパースター Patch ver.~』を上演する。本作は、岸田國士戯曲賞最終選考にノミネートされた劇団鹿殺し・丸尾丸一郎の『スーパースター』を原案に、丸尾自身がPatchと大阪の街にインスピレーションを受けて翻案したもので、鹿殺しの菜月チョビが演出を務める。不器用で泥臭くて、必死のパッチで「夢」を追いかける男の姿を描いた物語で、主人公・輝一(ぴかいち)を演じる三好大貴、少年時代の輝一を演じる田中亨、演出の菜月に公演にかける思いを聞いた。

――劇団Patchでチョビさんが演出されるのは初めてですよね。
 
三好「そうですね。大阪市の事業の一環で、今年初めて演劇鑑賞会を行うことになり、Patchにお話をいただいたのが始まりなんです。“演劇を観たことがない方へのきっかけになるような作品”という大阪市さんの意向があったので、誰もが笑えて、泣けて、興奮できるような作品として鹿殺しさんの『スーパースター』をやりたい、と。エンタテインメント性が高くて、キャッチーで、初めて観る方にもきっと楽しんでいただけるんじゃないかと、鹿殺しさんにお話させていただいたんです」。
 
チョビ「『スーパースター』は2010年の作品で、まだ私たちが若い頃に作ったから、一番無茶していた頃の作品なんです(笑)。やたらと早替えしたり、やらなくていいくらいダンスとか歌があったりして、無駄にしんどいんですけど、どうしてもやりたいって(笑)」
 
――前回は尼崎が舞台でしたが、今回は大阪を舞台に展開するそうですね。
 
チョビ「設定が違うだけで、構成はほぼそのままですね。削ぎ落とせるところは落としたいと思うんですが、台本がそうなっているからあまり削ぎ落とせなくて。出演者が増えた分、役を振り分けたりすることはできるけど、基本の人たちの大変さはあまり変わらないと思います(笑)」

patch2.jpg――三好さんと田中さんは、『スーパースター』の映像を観てどんな印象を受けましたか?
 
三好「初演で丸尾さんがやられた輝一(ぴかいち)を僕が演じて、チョビさんがやられていた少年時代の輝一を田中が演じるんですね。で、初演のときの丸尾さんは、その輝一以外にも、どうやって出てるんやろう?って思うくらいの早替えをして出まくってるんですよ。きっと人が足りないからすごい出てるんやろうなって(笑)。今回、大阪市さんと鹿殺しさんとPatchが手を組んでやるので、原作をリスペクトしながら、何か違うエッセンスを付け加えないといけないなと思っています」
 
田中「チョビさんは初演ですごく歌ってはって、大変そうだなと思っていたんですが、今回はひとりじゃなくてみんなで手分けして歌うので、ちょっとホッとしてます(笑)」
 
三好「チョビさんめちゃくちゃ歌ってましたもんね!」
 
チョビ「当時は歌えるメンバーがいなかったからね」
 
田中「僕ももっと歌えるようになりたいので、歌のうまい劇団員に教えてもらいつつ頑張ります!」
 
――劇団内でワークショップなどをしつつ、配役を決められたそうですが、チョビさんはおふたりのどういうところを見て役を選ばれたのですか?
 
チョビ「丸尾がやっていた大人の輝一は鬱屈した思いを抱えていて、何も根拠はないけど“何かになれる”という夢をあきらめきれない、爆発した気持ちを抱えている役なんです。三好君はそういうのを一番抱えてそうだなと思って(笑)。
 
三好「そうやったんですか!(笑)」
 
チョビ「Patch全体に言えることなんですけど、単に事務所に所属して、キレイでいろんなことができてっていうタレントさん以上に、何か表現したいものがあって、何者かになりたいっていう思いを抱えて、いろんなことに挑戦したい気持ちがある人たちなんだなっていうのを感じました。Patch自体の爆発したい気持ちは、当時の鹿殺しが持っていた気持ちにも通じるものがあると思いますね。で、特に三好君は劇団の中でも先輩だし、みんなを引っ張って“もっと違うものになりたいんだ!”っていう姿を見せるリーダーになってくれたらいいなと思って、大人輝一をやってもらおうと」
 
三好「そうなんですね。全然知らなかったです(笑)」
 
チョビ「さらけ出してほしいなって思います。上手さとかは置いといて、お客さんもビックリするくらい、こんなに何かを抱えている人だったんだって。きっとPatchを応援している方たちも、彼らがもがいている姿を見て応援していると思うんですけど、その想像を超えるものを持っていたんだなって、ドキッとするくらいのところを見せてほしいなと。子どもの輝一は、女性がやると実際に子どもじゃなくても子どもに見えたり、嘘になりやすいけど、今回は男性がやるから、この通り、田中君のまっすぐな感じがいいなと思うんです。自分をよく見せようとか、上手くやってやろうっていう、大人の雑念が少なめだから(笑)」
 
三好「確かに、そうですね!」
 
チョビ「背がすごく小さいとか、身体的に子どもっていうわけじゃないけど、子どもに見える。子ども役って一番難しいんですよね。“可愛い子ぶってる”って思われるとダメだから、そういうところで好感度がすごいあるんじゃないかなと思います」
 
――確かに、子ども役でも違和感なく入ってきそうな気がしますね。
 
チョビ「そうなんです。でも、見た目には雑念はないんだけど、沸々とした思いはめっちゃ持ってそうだなと思っていて。子ども輝一も同じく、いじめられっ子で、走っていると一番後ろになっちゃうような子だけど、実は誰よりも“自分が主役になれる”って信じている子なんです。その野心と自分の実力の差にもどかしさを感じている子だから、そこも自分を投影してやってもらえるんじゃないかなと期待していますね。普段の活動ではあまり見せちゃいけない部分かもしれないけど、この舞台ではそこをガッと出してもらえたら、お客さんにもすごく感情移入して観ていただけるんじゃないかなと思います」
 
三好「チョビさんに見透かされているなって思いますね(笑)。僕は旗揚げメンバーで、この2~3年くらい、後輩が入ってくるようになってからは、自己中心的にならずに、ちゃんと自分の立ち位置を考えるようになってきたんです。でも今回の舞台では、その辺を爆発させていこうって思いますね。亨のこともすごく当たっているなって思います」
 
田中「当たってますね(笑)」
 
三好「亨はみんなでいるときに、悔しさとか憤りとか、あまり感情を出したりしないんですよ。でも今回、初めて亨からこの作品のことで相談したいって連絡くれたりして。たぶん実はめっちゃ野心があるというか、“もっとこうしたい”っていう思いを持っている子なんやと思います。今までの現場では、あまり自分の意見を主張してなかったと思うんですけど」
 
田中「基本、ずっと受身でしたね」
 
三好「とりあえず聞いて、自分の中で考えるタイプ」
 
田中「そうですね。でも最近、ちょっとメラメラと(笑)」
 
三好「だからすごくチョビさんの言っていることが当たっているなと。それを、輝一を通して出せると、今までPatchを観てくださってきたお客さんも、観たことのないものが観れるのかなと」
 
patch1.jpg――田中さんは何か心境の変化があったんですか?
 
田中「僕はずっと受身で、Patchの会議のときでも、意見が出てこなくてずっと聞いている側だったんです。でも、自分も意見を出さないとあかんなと思って、ちょっとずつ考えるようになって、そこから少しずつ、らん君に話をしたりするようになりましたね」
 
三好「あと、彼は去年高校を卒業したばかりなんですよ。大学進学せずに役者の道に進むことをきっぱり決め込んだので、卒業するまでとは意識が違う気がします。役者にかけてる感じが見えますね」
 
チョビ「もう後戻りはできないですね(笑)」
 
――三好さんと田中さんは、どんな役にしていきたいと思っていますか?
 
三好「輝一は、少年でも大人でも、一貫した思いがある人物なんですよね。この作品は“夢”というのがひとつ大きなテーマとしてあって、そこをすごく追いかけている。今回登場する人たちは、みんな何かしら憧れだったり理想がある中で、そこに辿り着けなかった人だったり、何かを抱えている人しか出てこない。それって、Patchもそうだし、学校や職場でも一緒だと思うんです。100%理想を叶えられていますっていう人はたぶんいないなと思っていて、何かしら妥協していたり、抑制している人がほとんどで、その象徴が輝一だと思うんです。僕もこの作品に触れて改めて“夢っていいな”って思ったし、ちょっとないがしろにしていたことを見直したりとか、理想に近づくために今を頑張って生きようって前より思えたり。そういうことをこの主人公たちを通して届けたいなと思っています」
 
田中「僕は幼少期の輝一なんですけど、楽しいことは楽しいとか、怖いことは怖いとか、気分が落ち込んでいるときでも、褒められたら“ほんまに?”って気分がコロッと変わる単純さとかは、自分の小さいときにすごく似ているなと思っていて。だから半分僕で、半分輝一みたいな感じで、うまく合わせて作っていけたらなと思います。あとは、大人の輝一がらん君なので、ちゃんと同一人物に見えるように演じたいと思います」
 
――チョビさんは、2010年の作品ですけど改めてどう思います?
 
チョビ「個人的に、大好きな作品なんです。丸さん(丸尾)のすべてが出ているというか。他の人が同じストーリーを書いたら、嫌な話になると思うんですね。主人公はただのニートの人で、頑張っている社会人とかからしたらまったく共感できない人なんですけど、そこを、すべての人の“今よりちょっと良くなりたい”っていう気持ちにつなげて可愛い人間に見せる。丸さんだからこその不思議なマジックが絶妙にかかった作品で、私がお芝居で見せたい人間の根本が描かれているんです。今回、Patchバージョンで、一般公募からのキャストも交えての上演になるので、このカンパニーでしかできない、新しい物をお見せしたいというのはすごくあります。生身の人間が演じて見せるからこそ伝わるものがある作品で、こんなに不思議な、温かい気持ちで観れるのは演劇だけのマジックだと思うので、それを体現できるようにしたいなと思います」

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――Patchらしさはどういうところに出そうですか?

チョビ「スーパースターへの思いですかね(笑)。Patchとして守ってきたイメージとかがあるかもしれないですが、この作品では、ひとりの人間として思いを爆発させつつ、その中身をもっと愛してもらえるようになれたらいいなと。ただ欲しがるだけじゃなくて、欲しがっている姿が可愛いなって思われる、爆発の先に可愛らしさが見えるようにしたいですね。みんなが表現者として、存在感がグッと増していくきっかけになる作品にもなり得ると思うんです。だから、みんなが自分をさらけ出して、見たことがない中身が出せるといいなと思います。そこが今回のメンバーならではのものになってくるはず」
 
――この作品を通して何を感じてほしいですか?
 
三好「ひとつは、これをきっかけに演劇にハマる人がひとりでも増えたらいいなと思いますし、演劇が好きな方も、やっぱり演劇って面白いなって再確認できる作品であったらいいなと思います。この作品は、エンタテインメント性にあふれていて、歌もダンスもあるし、役者が入れ替わり立ち替わり動きまわるし、アクションもある。照明も衣装も派手で、小さい子が観ても楽しくなれる作品だなと思うんですけど、その中にホロッと泣けたり、自分に問い直してみたりするシーンがしっかりと根底にあるんです。僕は、いいお芝居を観たときってすごく家族のことが愛おしくなったり、自分のことが前よりちょっと好きになったりするんですよね。だから、このお芝居を観て、そんな感覚になる人がいたらいいなと思いますね」
 
田中「会場が大きいので、僕たちも大きく動かないといけないですし、それぞれのパワフルさだったり、エネルギッシュな“熱”が伝わるように演じたいと思っています。そして観終わった後に、来て良かったと思っていただきたいですし、“私も頑張ろう!”って、元気になって帰っていただけたらいいなと思いますね。来る前からワクワクしてもらって、またもう一回観に来たいなと思ってもらえる作品にしたいなと思います」
 
三好「あと、大阪市主催ということもあって、チケットが安いんですよ。だから“これが一般2000円でいいのか”と思わせたいですね。本当にケタひとつ多いくらい払いたかったって思ってもらえる作品作りを全力でします。たった3公演しかないですけど、観に来て良かったと、誰もが思ってもらえる作品にしたいので、期待していただきたいですね」

チョビ「本当に、2000円に注目してほしいですね(笑)。演劇に気軽に触れていただくための値段設定なので。でもそれを観たときに、これは2000円じゃできないわって感じるような、舞台の根本を自然と体感できるような作品にしたいなと思っているので、ぜひこの機会に演劇の魅力に触れていただきたいなと思います」

取材・文:黒石悦子



(2018年3月16日更新)


Check
左から田中亨、菜月チョビ、三好大貴

平成29年度演劇鑑賞会
劇団Patch特別公演
『大阪ドンキホーテ
~スーパースター Patch ver.~』

チケット発売中 Pコード:483-351

▼3月23日(金) 18:30
▼3月24日(土) 11:30/16:00

大阪市中央公会堂 大集会室

一般-2000円(指定)
学生-1000円(指定、高校以下)

【劇作・脚本】丸尾丸一郎
【演出】菜月チョビ
【出演】星璃/竹下健人/三好大貴/吉本考志/近藤頌利/尾形大悟/田中亨/納谷健/藤戸佑飛/他

※未就学児童は入場不可。

[問]劇団Patch公演窓口■06-6981-6660

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