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6カ月連続独演会もいよいよクライマックス!
最終回を迎えた長編落語を披露する『たびちどり』と
毎年秋のライフワーク『ニッポンあちらこちら』が
控える柳家三三にインタビュー

江戸から明治時代に活躍した噺家、談洲楼燕枝(だんしゅうろう・えんし)が創作した『嶋鵆沖白浪(しまちどりおきつしらなみ)』という冒険活劇のような落語を柳家三三が口演している。長編である本作を全12話に編集し、1回の独演会で2話を披露。それを月に1回、名古屋、大阪、福岡で、6カ月連続開催しているのだ。題して『たびちどり』。今年6月からスタートし、早くも最終月を迎えた。12話連続ものだが、三三自らがまとめた「あらすじ」を掲載したプログラムも配布し、どの回に訪れても楽しめる仕組みとなっている。その面白さは口コミで広がり、動員数は右肩上がりとなった。

怪談噺の『牡丹燈籠』『真景累ヶ淵』などを創作した三遊亭圓朝と同時代に生き、圓朝と双璧をなしたと言われる談洲楼燕枝。そのころ三遊亭派と柳派という二大派閥があり、燕枝は今の柳亭の大本にもなった人物でもある。だが、その後圓朝の噺は多く残ったが、燕枝の創作した噺はぷっつり途絶えてしまった。三三は燕枝の存在を頭の片隅に入れつつ何年か過ごし、『嶋鵆沖白浪』を実際にやってみたら面白いのではないかと手を伸ばしたのが2010年のことだった。その時は半分だけを東京で口演し、翌2011年に横浜・にぎわい座にて6カ月連続で上演。そして2016年に東京で再演し、今年、名古屋、大阪、福岡の三都において開くことになった。

 

「名古屋も、福岡、大阪、ありがたいことに来てくださる方がだんだん増えてきて。評判のいいテレビドラマみたいに少しずつ上がっていっています。こういう続き物は“次も来なきゃ”と思ってもらってなんぼですから(笑)、なんとかしてお客様を引っ張っています。終演後に面白いものを聞いたなと思ってもらえればいいかなと思います」と三三。

物語は江戸時代、流刑地である三宅島から始まる。太平洋にぽつんと浮かぶ絶海の孤島から脱獄に成功した実話をもとに作られた。喜三郎と花魁・花鳥がこの島で出会い、同じく流された者を含め5人で脱獄。命からがら下総にたどり着き、それぞれの目的を果たすため、動き出す。

「連続ドラマを楽しむのもいいですが、その日だけ来てくださったお客様にも満足していたただけるよう、1回1回見どころがある構成にしています」

確かにシリーズ途中から聞いても入りやすい。ある程度のあらすじは事前に配布されるプログラムを開演前に見ておけば問題ない。映像が目の前に浮かんでくる語り口で引き込み、次の展開を期待させる。ありありと浮かんでくる情景につい、「歌舞伎で見ても面白そうだ」と思ったほどだ。

「お客様からも“お芝居でやったら面白そう”という声を随分いただきました。『嶋鵆沖白浪』にもお芝居にすると絵になるような、いろんな場面がたくさんある気がしますね。談洲楼燕枝はもともと『柳亭燕枝』という名前でしたが、九代目市川團十郎と親交が深く、『談洲楼(だんしゅうろう)』は『團十郎(だんじゅうろう)』をもじって名乗るようになりました。燕枝の噺は、いわゆる落とし噺にはないダイナミックな展開を随分取り入れていたと思います。それはきっと時代がそうさせたのではないかと思うんです。善や悪で割り切らないで、一人の人間にいいところもあれば悪いところもある、そういう人間の面白さというか。歌舞伎の世話物、時代物の勧善懲悪とは違う、悪い方にもスポットライトが当たったりとか。一人の人間がどちらも抱えている面白さを描いていると思います」

『たびちどり』の大阪公演は10月13日(金)でファイナルを迎える。残すは2話。前回の第5回でもクライマックスへと向かってどんどん高めていき、観客の意識が前のめりになっていくのが伝わってきた。そんな観客たちの気の高ぶりも会場に独特の空気を醸成し、『たびちどり』にしかない高揚感を見せていた。最終回だけ足を運んでも全く物語に乗り遅れることはないので、そんな会場の雰囲気もぜひ味わってみてほしい。

2013年に47都道府県で落語会を開いた三三。今では毎年秋にあちこちで独演会を開くことがライフワークになっている。近畿圏で立ち寄るのは兵庫県西宮市の「酒蔵通り煉瓦館」と京都市の「大江能楽堂」。今年は『ニッポンあちらこちら』というツアータイトルで、10月15日(日)に西宮で、22日(日)に京都で開催する。

「どちらの会場も普段は落語会をやる雰囲気ではないのですが、環境がよくて。灘の酒の本場や、築100年以上の能楽堂でやらせてもらうこともなかなかないので、いつも楽しみにしています。『ニッポンあちらこちら』では本来の何となくうらぶれた旅芸人の姿というのか、楽しい思いもしつつ、どこかで惨めな思いを味わいつつという、そんな哀愁漂う旅にできればいいかなと思っています」。

演目は西宮の13:00公演が「三味線栗毛」他、16:30公演が「五貫裁き」他。京都が「居残り佐平次」他。人情噺の「三味線栗毛」、政談ものの「五貫裁き」、廓噺の「居残り佐平次」と、ぞれぞれの味わいを楽しめる。

とはいえ三三自身は、例えば人情噺だからといって意識はしないと語る。「以前は何とか理屈をつけようとしていましたが、理想は自分の中でお話を思い浮かべたときに見えている景色をそのまましゃべること。それは人情噺でも、落とし噺でも変わりません。それぞれ話が違うので、そこは聞く方の印象が違ったらいいわけで、自分がこねくり回すのは違う気がするんです。なので、前よりはあんまり考えないでしゃべるようになったと思います。以前の自分に対して“そんなに難しく考えなくもよかったんだよ”って言ってあげたい感じですが、いろいろ理屈をつけたり、こねくり回した結果だからこそ言えることかなとも思います」

シリーズもののクライマックスを熱量たっぷりに聞かせる『たびちどり』と、本来の旅芸人の姿で今やりたいネタで楽しませる『ニッポンあちらこちら』、いずれも三三の真骨頂を堪能できる。




(2017年10月10日更新)


Check

たびちどり
柳家三三 六ヶ月連続独演会

発売中

Pコード:456-697

「嶋鵆沖白浪」
▼10月13日(金) 19:00
ナレッジシアター
(グランフロント大阪 北館4F)

全席指定-3500円
[出演]柳家三三
※未就学児童は入場不可。
[問]サンライズプロモーション東京
[TEL]0570-00-3337

チケット情報はこちら


柳家三三独演会
ニッポンあちらこちら

【西宮公演】

発売中

Pコード:480-756

▼10月15日(日) 13:00/16:30
酒蔵通り煉瓦館 ホール

[演目]
13:00公演「三味線栗毛」他
16:30公演「五貫裁き」他

全席指定-3500円

※未就学児童は入場不可。

チケット情報はこちら


【京都公演】

発売中

Pコード:480-970

▼10月22日(日) 13:00
大江能楽堂

[演目]
「居残り佐平次」他

イス席-3500円
1階ざぶとん席-3500円
2階ざぶとん席-3500円

※未就学児童は入場不可。

チケット情報はこちら

[問]サンライズプロモーション東京
[TEL]0570-00-3337

プロフィール

柳家三三(やなぎや さんざ)

神奈川県小田原市出身。1993年3月に柳家小三治に入門。1996年5月、二ツ目に昇進し、前座名「小多け」から「三三」と改名。2006年3月に真打昇進。2016年3月に平成27年度(第66回)文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)受賞したほか、受賞歴多数の実力派。2010年6月から小学館刊「ビッグコミックオリジナル」連載中の漫画「どうらく息子」(作・尾瀬あきら)の落語監修。