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舞台「オーファンズ」で見せる男同士の愛や嫉妬

アメリカ・フィラデルフィアのテラスハウスに二人きりで暮らす孤児の青年の兄弟が、ひょんなことからギャングの男と知り合い、3人で暮らし始める。そのギャングも孤児として育ち、3人には「疑似家族」のような意識が芽生え始めるが、次第に人間関係が変化していく。米国の劇作家・ライル・ケスラーによる名作『オーファンズ』が、10月14日(土)、15日(日)に兵庫県立芸術文化センターで開幕する。3人の俳優のみで繰り広げられる密室劇は、温かい家庭を知らずに育った3人の境遇、男同士の友愛や嫉妬などを切なく描き、1983年に米国で初演以来、国内外で繰り返し上演されてきた。今回、その名作に初めて出演するのは細貝圭、佐藤祐基、加藤虎ノ介だ。3人に作品の魅力やそれぞれの解釈、俳優として思うことなど鼎談をしてもらった。

――細貝さんは兄のトリート、佐藤さんはその弟のフィリップ、加藤さんはその兄弟と暮らすギャングのハロルドを演じます。まず、台本を読んでみていかがでしたか。

佐藤:サラッと読めば、サラッと読めるんですけど、色々なことがちりばめられていて、解釈の違いで見方が変わっていくんだろうなと思いました。そういうきっかけが多い作品ですね。芝居の空気感や3人のそれぞれの関係性がまだまだ謎に包まれています。

細貝:僕は翻訳劇ということで、少し構えていたんですけれど、意外にサラッと読めました。でも、祐基君が言っていたみたいに、クエスチョンはいっぱいあります。なぜハロルドは兄弟に対してあんなに良くしてくれるんだろう?など、疑問はありますが、物語は面白いし感動します。ヘルマンマヨネーズや、兄弟の母親のハイヒールなど、さまざまなアイテムが物語の要点としてもちりばめられています。いろんなことが物語に関わってくるので素敵な作品だと思います。

加藤:だいたい僕は、翻訳ものの台本をいただいたら、言葉が難しいこともあり、読むのに数日はかかるんです。同じ人間なんですけど、西洋のものの考え方がしっくりこないときもあって。この作品に関しては、珍しく2時間以内で読めて、腑に落ちる部分も多かった。それは僕にとっては珍しいことですね。

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細貝圭

 

――加藤さんは、翻訳劇には照れがあるとうかがいました。

加藤:いやぁ、なかなか慣れないですね(笑)。「お前、日本人だろう」と心の中でどこか突っ込んでいる自分がいる(笑)。ハロルドとは呼ばれないだろうと(笑)

佐藤:僕は舞台デビューが翻訳劇でしたので、深く考える余地もないまま、無我夢中で舞台に立っていました。ですから固定観念はあまりないですね。

加藤:プロだね。

(一同笑)

佐藤:いや、何も知らずに入ったんですよ(笑)。今、そう言われると、フィリップと呼ばれたら照れるかも知れないです(笑)。 

――細貝さんはアメリカでの生活が長いですし、照れはないですよね?

細貝:あんまりないですね。ハロルドというニックネームだと思えばいいんですよ。

加藤:いやぁ…。コテコテの大阪人の中で育ちましたので(笑)。それが言いわけになるのかは分からないですが。

細貝:稽古場以外でもハロルドと呼ぶようにしますよ(笑)。

加藤:ほんと、やめてくれないかな。

(一同笑)

――今まで出演された翻訳劇のセリフに関してはいかがでしょう。

加藤:言葉の面では難しいですよね。例えば英語だと一言で済むはずなのに、日本語だとどうしても回りくどい言い方になってしまう。観客も冷めてしまう。そういうところは難しいですよね。もっとストレートな言葉はないのか、むしろ、そこは言葉にしなくてもいいんじゃないかと思うときはありますね。


佐藤:そうですね。感情的にはそこはセリフにしなくていいと思っていても、それが当時の美学だったりする。いかに美しく言葉を響かせたりするかとか。

加藤:逆にこのシーンを言葉で表現すればいいのにと思うときもありますね。

――今作で演出・上演台本を手掛けるマキノノゾミさんは、役者が「英語で書かれた台本だ」と考えながら演じるのと、そうでないのとは全然違うとインタビューでおっしゃっていました。

佐藤:そうですね。でも、『オーファンズ』はシェイクスピアのような古典ではないですから。あの苦しみを経験すると、今回は古典よりは身体になじみやすいかなと思いますね。

細貝:僕もそう思います。身体的な表現も多いので、まずは稽古に入ってからですね。

加藤:がんばります。

――役どころは、暴力的な面はあるけれど、フィリップを愛するトリート、その兄を慕う純粋な弟のフィリップ、兄弟に食事のマナーから生きるすべまでを教えるハロルドと、三人三様ですね。

細貝:トリートは自分に正直で、一番真っ直ぐに生きている人間だと思います。親の愛情を受けずに孤児として育ち、弟を育てなきゃいけない中で、自分なりの愛情をフィリップに注いできた。でもハロルドの出現により、弟が自分の手を離れていってしまう。その寂しさは共感できます。トリートが今はいない母親のクローゼットの中にこもるなど、舞台には印象的なシーンがたくさんある。そんなシーンと彼の悲しさ、繊細さなど気持ちの流れを一つひとつ大切に演じていきたいです。

佐藤:フィリップはすごく純粋ですし、兄ちゃんもハロルドのことも大好き。彼はトリートと二人きりの家の中での世界しか知らなかったのですが、ハロルドに外界へ飛び出すきっかけをもらい、外の世界は広くて危険ではないと知るんです。ハロルドに地図をもらい、世界への切符を手に入れる。子供が一つずつ色んなことを覚えていくような、その純粋さ無垢さをいかに表現できるかが大きな鍵だと思います。

加藤:僕は、自分の解釈は内緒にしておきたいな…(笑)。

――そうおっしゃらずにお願いします(笑)

加藤:ハロルドは魔が差したんだろうなと。

――魔がさした。

加藤:トリート、フィリップと関係を持ってしまうことに対してです。言葉にするとあまりいい表現ではないですが、人が生きていると思いもしない行動を取ってしまうことがある。それはどこか心の底で望んでいたことでもあったりするんです。こうしたいからこうなった、ああなったという理由では、たぶんなくて。ハロルド自身、意思があって行動したわけではなく、何だかよく分からないまま関係を持ち、深く関わるようになってしまった。彼はギャングということもあり、子どものころから気を張りながら生きています。でも、ふとした拍子に、二人と関わってしまう。それが吉と出たのかは分かりませんが、二人との関係はハロルドにとって居心地が良かったんだろうなと思います。ただ、二人と関係を持つことによって、甘さが出て油断したこともある。でも、そういう密な人間関係を実は心の底では求めていたから、彼にとっては良かったのかも知れない。その解釈は僕は観客の判断に委ねたいですね。

佐藤:「魔が差した」か。なるほど、そういうときはありますよね。

細貝:あります。人間らしいことですよね。

――トリートとフィリップが孤児だから、哀れみで関係を持ったのではないと。

加藤:僕はそう思っていますけれど。孤児だったからということではない。

佐藤:「君たちも孤児?僕も。じゃあ、仲よくしよう」という空気にはならない気がするんです。孤児だからこそ、哀れまれたくない。

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佐藤祐基


――「孤児だから」ということでくくると、表面的すぎるかも知れませんね。

加藤:そうですね。

佐藤:確かに。「魔が差した」っていい表現ですね。

――その一方で、トリートはフィリップを籠の中に閉じ込めて、支配しようとします。

細貝:支配なんですかね。彼なりの曲がり曲がった愛ではないでしょうか。支配しようとする意識はなく、その愛し方しかできない。だって彼は、愛されたことがない人間ですから。だからどうしたらいいか分からなくて実力行使に出てしまう。

佐藤:トリートは弟が怖いんでしょうね。フィリップもかつては家の外の世界に出たことがあって、どんなところかを知らないわけではない。トリートはフィリップが色んな物事を知り、大人になっていくのが怖いのかなと思います。

細貝:フィリップへの依存が、トリートのほうが強いんです。

佐藤:そうですね。依存と人とかかわることへの嫉妬。フィリップは自分だけのフィリップでいてほしい。

加藤:ハロルドがフィリップに色んなことを教えるのは、深い意味があるわけではない。「なんだそんなことも知らねぇのか。これはこうだよ」ということの繰り返しだったと思うんです。その結果二人がものすごく仲良くなり、トリートの感情を逆なですることになった。

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加藤虎ノ介
 

――そういったトリートの感情は皆さん、理解できますか。


佐藤:嫉妬心は人間なら誰にでもあると思います。でもトリートとフィリップは兄弟ですからね。

加藤:最近、友達からそういうことを言われたことがあって(笑)。「なんであいつらと飯行くの?何で誘ってくれないの?」と。「自分と一番親しいはずなのに、この人は…」というのは、きっと誰にでもあると思います。嫉妬もしくは、寂しいという感情でもありますからね。

細貝:僕にもそういう感情はありますね。トリートが持つ感情は皆に共通していると思います。

佐藤:女同士よりは、男同士のほうが言いやすいかもしれませんね。「なんで、俺だけいないんだよ」とサラッと(笑)。

――その一方で、3人は「疑似家族」ともいえる関係を築きます。この舞台にあるような男同士の「友愛」についてはどうでしょうか。

細貝:付き合いが深い浅いではなく、馬が合う人はいますよね。「疑似家族」とまでは言いませんが、シンパシーに近いなというのはありますね。

佐藤:そうですね。細かく説明しなくても何でも分かってくれる。

――ちなみに皆さんは、俳優のお友達は多いのですか。

細貝、佐藤:そんなに多くはないですね。

細貝:よく一緒に飲みに行くのは、違う職種の友達ですね。

佐藤:僕もです。

加藤:今はいないですね。

――世界が一緒だとしんどいですか。

加藤:はい。 

細貝、佐藤:そういうわけではないです。

加藤:しんどいって言っちゃったよ(笑)

(一同爆笑)

細貝、佐藤:別にしんどくはないです(笑)

加藤:すごいな、プロだなぁ(笑)。僕はまったく関係ない友人ばかりです。外で会う人に「仕事何?」と聞かれても「俳優」とは言わないです。

――何と答えるのですか。

加藤:自営業(笑)。僕のことを俳優と知っている人もいますが、知らない人に対しては俳優とはいわない。

佐藤:僕もそうですね。

細貝:僕は言います。

――仕事の内容を根掘り葉掘り聞かれると、面倒なときがありますものね。ところで、細貝さんと佐藤さんは同世代の30代で、加藤さんは40代です。それぞれ皆さん舞台や映像でご活躍されていますが、今、役者という仕事をどのように捉えていらっしゃいますか。

佐藤:いきなりデカい質問ですね。

(一同笑)

加藤:始めたときから、それほど深い思いはなかったんです。30代半ばでこれしかできないんだなと思いました。どう捉えているかと聞かれても、どうも捉えていないんですよ(笑)。

――加藤さんは特に明確なヴィジョンはないそうですね。

加藤:ないんですよ。でも、それでやっぱり、苦労しました。俳優同士で話をしていても「こうなりたい」「こういう作品に出たい」もしくは、「有名になりたい」、ほとんど皆、はっきりとしたヴィジョンがある。僕は何もなくて、一時期、俳優と会話するのが嫌になったことがありました(笑)。聞かれると、本当に困るんですよ。

――すみません(笑)。取材でもよく聞かれるのではないですか。

加藤:聞かれますね。何かヴィジョンがあったほうがいいんだろうなぁ…と思いながら、毎日を過ごしています(笑)。持ちたいなとは思うんですけれど。

佐藤:うわっと思ったのが、30代になったときですね。役者や仕事に対して、多感になるというか。ヴィジョンはあったんですけど、現実的な部分もある。自分がやっている仕事、俳優とは何だろうと、今、すごく考える時期ですね。現実的に、若いときから一緒にやっていた俳優が、次々と辞めていくことが多くなりました。もちろん、皆、好きでやっているわけです。でも、泣く泣く諦めたり、結婚したりして、別の選択をする。

加藤:東京でも30代で、俳優の仕事に見切りをつけて辞める人がいるの?

細貝、佐藤:います、います。

佐藤:食っていけないとか、向いていないとかいろんな理由があります。向いていないと思っていても、好きだから続ける。向いているけど、仕事がないとか。そういうのをひっくるめて30代は色々考える時期なんだと思います。僕は、俳優の仕事が好きですし、活動できる状況なら無理して辞める必要もない。「俳優とはなんですか」というよりは、こっちが「演じるとは何か」と考えていますし、逆に聞きたいぐらいです。

細貝:祐基君とは年が近いだけあって、似ていますね。僕は24歳のときにアメリカから日本に帰ってきて、それからデビューして、この仕事を始めるのが遅かったんです。そのときは夢があって、日本で俳優をやりたいと希望に満ちた気持ちでした。それから、仕事を始めて、俳優になりたいから、売れたい、有名になりたいと思うようになった。自分に合わないな、辞めようかなと思う時期もありました。でも、30代になるとそういうのがなくなってきましたね。どうやったら、このままお芝居をしてこの世界で生き残っていけるのかなと考え方が変わってきました。もっと、年を重ねていくと、違う考え方になるのかなと思いますね。僕も俳優の仕事が好きですから。

加藤:深いな…。

細貝:今、つぶやきましたね(笑)。

加藤:僕は小劇場の出身で、周りも食べていけない人が多かったんです。ひょんなことで、僕は食べて行けるようになって、僕がやっていていいのかなと思ったことは一時期ありました。それ以降は、考えないようにしています(笑)。

細貝:僕も漠然と「演じるってなんだろう」と思いますね。20代のときは考えなかったクエスチョンがいきなり出て来る。急に不安になることもあります。でも、絶対的に違うことは、20代のときはひたすらがむしゃらだったのが、今はもっと落ち着いて作品や役に向き合えるようになりました。

加藤:役者とは何かと考えると、答えが出ないんです。それよりも、僕は日々、楽しく暮らしていける方法を考えます。その一つが俳優なのではないかなと思います。

細貝、佐藤:なるほど…。

――そういう捉え方もいいですね。もうすぐ稽古が始まり、『オーファンズ』は兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールで初日を迎えます。

佐藤:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールには何度か立たせてもらっていますが、あの空間は大好きです。素晴らしい劇場で、この3人による『オーファンズ』をしっかりとお届したいです。

加藤:僕は久しぶりの舞台で、もっと久しぶりに関西に行けるので楽しみです。観客が物語の3人の関係性にひっかかりを持たず、すんなりと入っていけて、色んな解釈をして楽しんでいただければいいなと思います。

細貝:僕も3年前の舞台『スワン』以来、久々に兵庫県立芸術文化センターの舞台に立てるのがうれしいですね。この3人でどんな作品になるのか、早く作り上げていきたい。今は稽古に入るのが待ちきれません。ぜひ、見に来ていただきたいです。

取材・文 米満ゆうこ




(2017年9月19日更新)


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「オーファンズ」

発売中

Pコード:457-967

▼10月14日(土) 14:00

▼10月15日(日) 14:00

兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

全席指定-6000円

[作]ライル・ケスラー
[上演台本・演出]マキノノゾミ
[翻訳]小田島恒志
[出演]細貝圭/佐藤祐基/加藤虎ノ介

※未就学児童は入場不可。

[問]芸術文化センターチケットオフィス
[TEL]0798-68-0255

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