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『上方落語若手噺家グランプリ2017』
決勝進出者インタビュー、桂雀太編

今年で第3回を迎える『上方落語若手噺家グランプリ』。毎年決勝に上がっているのが、おなじみ桂雀太だ。決勝戦へは他に桂華紋、桂小鯛、桂三四郎、桂雀五郎、桂二乗、桂米輝、笑福亭喬介、林家染吉が進出。6月20日(火)に2017年の勝者を決めるべく、勝負に挑む。今年の春、米朝事務所から独立した雀太。新境地で迎えた『上方落語若手噺家グランプリ』予選から決勝までを聞いた。

--予選通過、おめでとうございます。今年こそは三度目の正直ですか。
 
気持ち的には…(笑)。まあ、順番もまたトップ引いてしもうて。それは別にええんですけどね。
 
--二乗さんは自分が1番を引くんじゃないかとドキドキしたとおっしゃっていました。
 
一番下の者と一番上の者とでじゃんけんをしてくじ引きを引く順番を決めたんですよ。で、僕は若い人から先にどうぞとやったのが裏目に出て、残ったのが1番と9番で、1番を引いてしまった。(9番目の)雀五郎兄さんは(くじ引きをした記者会見に)来てなかったから、当日。米團治師匠が雀五郎兄さんに代わりに引くってなってたんやけど、僕が1番を引いたので9番が最後に残って。雀太に始まり雀五郎で終わるという、雀三郎一門で挟みます。
 
--予選では「商売根問」をされました。今年は8分~10分という時間になりましたが、ネタ時間の変化はいかがでしたか?
 
長さは指定されたもので調整はできるので。ただ、そこにセンスが出てくるのでね。どこを削るか、どういうものを入れるか、どういう演出で行くか…。普段15分でやっているものを8分でするとなったら、半分近くにするわけやから。そこに15分でやっていた時と同じくらいの笑いのエッセンスもキープしとかなあかんから、難しいけどやりがいもありますね。
 
--「商売根問」は予選に向けて練り上げました?
 
練りましたね。もう本当に、言葉2文字削るとか。
 
--「ほな」とか、ですか。
 
それとか、あとは最後まで言わずに相手がカットインしてくるとか。15分で普通にやっていたらそんなことも考えずにセリフを全部言うてるんですけど、実はそういうことにも気づかされるコンテストでもあるから、そういう意味でこのコンテストはすごくいんですよ。時間縛りがある。コンテストは基本、時間縛りはあるけど、8分の舞台ってまずないので。例えば、「わたいもなんぞ銭儲けをしないかんと思て」の「思て」を削ることでスリムになってシャープになるから、聞いてる方ももちゃっと感を感じなくなる。
 
--言葉をかぶせる演出でスピード感ある会話のやり取りも見せられますね。
 
そう、会話感が出ますね。
 
--会話でも、人の言葉を最後まで聞く人は少ないですもんね。みんなパッと入ってきます。
 
ここまで来たら次は何を言うか分かってるからというのもありますしね。最後まできちっと言ってしまったら、なんか朗読みたいになってしまいますし、会話で進めていくので、会話感を出すにはそういうやり方がええかなと思います。あと、トーンもパッと変えたり。会話で同じトーンやったら具合が悪い。相手がトーンを変えてカットインみたいな感じにすると、ふたりの会話感が出ますね。
 
--予選を拝見しましたが、落ち着いて、余裕があるなぁという感じがしたのですが、いかがでしたか?
 
確か、あの日めちゃくちゃ体調が悪かったんですよ。思いっきり風邪引いていて。予選の前まで劇的に忙しくて、ちょっと調子悪かったんですけども、まあまあいけました。でも後から聞いたら、「調子悪かったんか」って審査員の先輩には言われました。いつもよく見てくれる人が審査員やったし、点数で「2位とそないに変わらへんかったで」と。まあでもそやろなと思いました。一応その日できるベストは尽くしたと思いますけど、でも体調が悪いとか、そういうのはあかんなと思いますね。調整していかなあかん。
 
--予選通過の自信はありましたか?
 
まあ、2位までには入るんちゃうかなと思ってたんですけど、途中からひょっとしたらあかんかもとも思いましたね。「あ、あかんかも、今回」って。
 
--ベストは尽くしたけど確信は低かったんですね。
 
尽くしたんですけど、他の人を見て「あ、これは行くんちゃうかな」とか思ったりしていましたね。華紋もそうですし。そう思いましたね。
 
--そして決勝のネタは「くやみ」にされました。
 
はっきり言って難しいです。お通夜に来る人と受付の人のやりとり。何の筋もないんです。しかもやり慣れていないという(笑)。長いこと、2年間くらい1回もやってませんでした。1回やってちょっとだけ自分の中でブームがあったんですけど、そこから縁がなかったのか、しばらくやっていなくて。まあええように言ったら「寝かしてた」なんですけど、まあまあ、ほったらかしにしてました。
 
--特に手を加えることもなく? 体には染み込んでるけど…ていう感じですか?
 
いや、身体にも染み込んでません。染み込む前にやらなくなって。でも今回はちょっと追い込むというか、刺激的ですし(笑)。ドキドキしますしね。
 
--持ちネタの中から、候補としては最初の方に出てきたんですか?
 
第一で出したんちゃうかな。予選と同じネタでもいいと言われたんですけど、なんかな…と思ったんです。別に「代書」で出してもいいじゃないですか。もっとやり慣れているものを出してもいいんですけど、NHKも「代書」で獲ったし、第1回目も「代書」でしたし、「また『代書』かい!」って思われるのも…と思ったんです。ネタを決める時の体調とかもあったと思います。ちょっと気が上がってたんですしょうね。「『くやみ』で行ったろ~!」言うて。で、今になって何であんなこと言ってもうたんやろうと(笑)。
 
--ちょっと冷静になって思うと…。
 
まあ思っても仕方ないですし、ありがたいことに決勝までに試す場もあるので。
 
--このネタ自体は長いんですか?
 
20分弱くらいですかね。筋のない噺、スケッチ落語なのでどこでも削られるんです。お通夜の受付に二人いて、くやみに来た人が宣伝だけして帰ったとか、きれいな女の人が来るとか、人の顔見たらすぐ嫁さんののろけを言うてしまう人が来るとか、それだけの話です。
 
--そういうネタ、得意そうですね。
 
めちゃくちゃ好きです。「商売根問」も筋がないでしょう? 「こんなこと考えた」「どんなんや」っていう、ただの二人の会話です。これは本に書いて読んだら全然面白くないんですよ。「商売根問」でも「くやみ」でも、例えば「貧乏花見」もそうですね。全然面白くないんですけど、その面白くないことを面白く伝えるというのが噺家の醍醐味であると前々から思っていて。本で読んでおもろかったら、もう本でええやんって思うんです。筋のある話、たとえば「動物園」なんかはドラマチックじゃないですか。あらすじを聞いただけでも面白いじゃないですか。「くやみ」とかは“あるある”だと思うんです。みんなお通夜とか行ったことありますし、ああいう時はどうしたらいいのか分からへんし、こんな人おりそうやしという共感も持ってもらえると思います。
 
--一瞬、何でこのネタと思ったけど、そこまででもなく。
 
なんでそう思ったかというと、それはやり慣れていないだけで。あとはもう、ネタをくっていって。
 
--2年前に比べて何か変わったところはあるんですか?
 
新しいくすぐりというか、ギャグというか、そういうものを足していく作業をやってきたんですけど、それはそれでいいと思うんですけど、元々あるものを引いていく作業もしていこうと思いましたね。じっくり考えてみたら、この言葉要らんのちゃう?とか、ここでこう言うてんねやから、ここでこの言葉を言わんでも分かるやろとか、そういうところを削っていくとすごくスリムになりましたね。
 
--去年は「NHK新人落語大賞」を受賞されました。大賞受賞で訪れた変化はありましたか?
 
やっぱり大いなる自信にはなりましたね。もうコンテストに出られる機会がないですから。出場資格が最後の年でしたから。それで獲れたので…。東京とかだったら平均15年で大体真打になるんですけど、基礎工事みたいなものが受賞したことで出来上がったかなという感じでした。今から、さあどんな上物を作っていこうかと。やっぱり土台が大事なので。
 
--基礎工事を終わらせるためにNHKは絶対獲りに行こうという気持ちだったんですか?
 
獲れたということは一つの区切りとして分かりやすい区切りにはなるんですよね。あれを獲れてなかったら自分で決めないといけないので、やっぱり。基礎が完成したというのをどこで線を引くか自分で決断しないと。そんな、死ぬまで基礎を作ってる場合じゃないので。どこかで上も建てていかなあかんし。だから分かりやすいものを与えてもらってよかったと思いました。
 
--初の受賞ですよね。
 
そうですね。準優勝はありましたけど…。初の1位、しかも東西合わせての1位なので…。
 
--気持ちいいですか?
 
そらもう(笑)。やっぱり師匠に恩返しできるのってこういうことですからね。後日、「師匠がこんなん言うてはったで」と聞いたんですけど、「師匠というものはいろいろ悩むと。「教え方はよかったんやろうかとか。けど、ああいう分かりやすいものを持って帰ってきたら、まあまあ、間違ってはなかったのかなってほっとしたわ」と。
 
--それは本当に、親孝行ですね。基礎工事を終えて、終わったと思ったのが大体どのくらいのタイミングだったんですか?
 
受賞して浮かれ気分も落ち着いたころですかね。冷静に考えて、浮かれてる場合ちゃうぞと。ちゃんと前向いていかなあかんって。まあ、年明けてからですかね。
 
--入門15年ですけど、いわゆる雀太落語はここから作っていく感じですか? 
 
そうですかね。いろんなネタに応用できるであろう技術はそこそこ身に着いたと思うので、あとはやってみて、微調整しながらネタ数を増やして、やる回数も増やして。お客さんも増えればいいかなと思います。
 
--年明けに基礎工事が終わり、どんどんやっていこうと思って、新たに自分を試してみようと思われたんですか?
 
どんどんやってやっていこうと思ったのは、事務所独立後ですかね。よく考えたら。独立した次の日からの舞台が全然違いました。
 
--どう違ったんですか。
 
責任が出てきましたね。ここですべったらもう、後がないよっていう。そういう崖っぷち精神が毎回、生まれるようになりました。崖っぷちですけど、これからどんどん仕掛けて行こうと、いろいろ考えてます!
 
--最後に、意気込みをお願いします。
 
僕以外8人との戦いというよりも、最大のライバルは自分やと。桂雀太を倒しにいこうかなと。トップやから、終わってから他の人のネタを見ると思いますが、そこで「すべってくれ」とか、そんなしょうもないことは思わない(笑)。与えられた時間にやりきって、それを目標に準備していく。それプラス評価もしてくれたら嬉しいなと。タイトルを狙いに行くのではなく、自分との戦いに勝たないと。その先にあるものがタイトルだと思うので。もし、自分で自分に勝てたなと思えたけどタイトルはもらえなかったとしても、参加した意義はたっぷりあると思うので、まずは自分に勝つことを意識して、本番までに準備していきたいと思います。
 
 



(2017年6月19日更新)


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繁昌亭夜席 第三回 上方落語若手噺家グランプリ2017 決勝戦

▼6月20日(火) 18:30

天満天神繁昌亭

当日-2500円

[出演]桂華紋/桂小鯛/桂三四郎/桂雀五郎/桂雀太/桂二乗/桂米輝/笑福亭喬介/林家染吉

※未就学児童は入場不可。

[問]天満天神繁昌亭
[TEL]06-6352-4874

※前売り券完売ため、当日券若干枚数あり。

天満天神繁昌亭
http://www.hanjotei.jp/

【会見レポート】ファイナリストが意気込みを語る!
https://kansai.pia.co.jp/interview/stage/2017-05/1705-whgp2017.html

桂雀太

1977年2月26日生まれ
奈良県五條市出身
2002年5月、桂雀三郎に入門