「実家が無くなった」
スマイル瀬戸の笑ってはいられない話

2017年3月4日(日)13時13分、「実家無くなった、」。スマイル瀬戸がツイッターに呟いた。その後、そのいきさつを続けてポスト。「実家は落ちていないか」「差し入れで実家をもらえないか」といった心の声が呟かれること数回、翌日には「現金一括で実家を買うか…」という思いに至ったようだった。

それら一連のツイートは、芸人たちの間でも話題になっていた。瀬戸不在のライブでもトークのネタとして取り上げる者もいた。一体瀬戸に何が起こったのか？　取材班は瀬戸の元へ飛んだ。

「去年、貯金300万をはたいて実家をリフォームしたんですよ。ずっと前からおかんが“きれいな家に住みたいな”言うてたんですけど、家を買う資金はなくて。でもリフォームやったらできると思って5年くらいかけて貯金して。“床がまっすぐになってうれしいわ～”っておかんもすごい喜んでくれたんです」

喜びはそう長くは続かなかった。リフォームから数ヵ月後、事態は急転する。瀬戸の元にかかってきた母親からの電話。「6月には退去してほしい」と瀬戸家に通告があったというのだ。実家に飛んで帰って事情を聞いた。だが、どうにもならなかった。立ち退きまでの猶予もわずか。このままでは一家が路頭に迷ってしまう。瀬戸の心中にある思いが去来した。「またあのときみたいになるのか…」。人生で味わった最大の絶望。瀬戸が高校生のとき、一家は自己破産した。どん底に落ちた。そこから這い上がってきた。あんな思いは真っ平ごめんだ。そう思いながら生きてきた。「またか…」。十数年ぶりに襲ってきた絶望に打ちのめされそうだった。

そんな瀬戸に転機となる出来事が訪れる。かまいたち、和牛と楽屋で談笑していたときのことだ。「和牛の水田が話の流れで“瀬戸さんの実家ってあの辺でしたっけ？”って聞いてきたんです。そのとき、“そうやねん！　でも実家なくなんねん！”ってつい言ってしまったんです。よしたか（相方。ウーウェイよしたか）にも黙ってたのに。そしたらみんなが“何やそれ！！！”ってめちゃくちゃ笑ってくれたんですよ。そのときまでもう、どうしよう、どうしようって思い悩んでてて、元々すごいネガティブ思考やから抱え込んでたんですけど、めちゃくちゃ笑ってくれてなんかおもろなってきて、あれ？　これって笑ってええんや”って思ったらすっと気が楽になったんですよね。もちろん、実家に帰ったりしたら現実が待ち受けてるから気が重くなるんですけど、でも笑いに変えられるんやって思ったら何かほっとして、仕事をもっと頑張ろうって思えるようになったんです」

以降、瀬戸は実家立ち退きエピソードを自虐も交えてテレビや舞台で披露する。いまやすっかり武器だ。今年からおおよそ月1回のペースで始めたZAZA POCKET'S（大阪・道頓堀）でのスマイル単独ライブ「スマイルの1hライブ」では、事件の展開を報告するコーナーも設けた。この月１ライブでこんなことを話すつもりなど全くなかった。そもそも始めた当初はまさか実家が無くなるなんて夢にも思わなかった。奇しくもそれをネタとして披露する場を自ら設けたことになったのだった。

「今までも頑張ってきましたが、本当、今年はもっと頑張ろうって、気持ちがめちゃくちゃ切り替わりました。よしたかも子どもができて一家の大黒柱として頑張らないといけないし、僕は不幸のどん底なのでよしたかとは雲泥の差ですけど、でも、お互いにふんどしを締めなおして頑張っていかなあかんっていう気持ちになりましたね。ギアがぐっと入ったというか、そういう感覚はありました。芸人っていう職業は本当にすごいなと思いますね。自分の不幸も笑いという仕事に変えられる。僕、ほんまに芸人でよかったって思います」

笑いが瀬戸を救った。ネガティブ思考だと自己分析する瀬戸だが、目の前で語るその表情は飄々としており、悲壮感を感じさせない。それもスマイル瀬戸というキャラクターを印象づける一つの武器になっているのだろう。そして瀬戸は、この取材の翌日に一大決心をすると話した。だが、それを思うと全身が震え……

（2017年5月 9日更新）