ホーム > インタビュー&レポート > 野村萬斎が歌うがごとく演じる「祝祭大狂言会2017」
「僕ら東の和泉流の狂言師と、西の大蔵流の狂言師がぶつかるのが今回の目玉」だという。まず、「千鳥(ちどり)」では、昨年、ダブルで襲名を果たした大蔵流の茂山千作・千五郎らが出演する。支払いの滞っている酒屋から酒を取ってくるように命じられた太郎冠者と、その酒屋とのやり取りがテンポのよい作品だ。「『ちりちりやちりちりや』と、一度聞いたら忘れられない音も楽しめます」。
「奈須与市語(なすのよいちのかたり)」では、萬斎が一人、語りで見せる。「源平合戦を描いた平家物語の一節を狂言風にアレンジした演目です。ナレーターでもあり、源義経、奈須与市、後藤兵衛実基をメインに一人で4、5役をこなします」。この作品では「膝行(しっこう)」といい、袴を引きずりながら膝を使って移動する所作も見どころだ。「膝はずっとついたまま。競歩のように足を上げたらダメなんです(笑)。音がクリアに聞こえるフェスティバルホールで、一人で歌うがごとく演じなければいけない。僕はすっくと立っただけ、一声発しただけで、皆が集中するのが役者としての基本だと思う。2700人の客席のエネルギーを跳ね返すのは大変ですが、私の魂を隅から隅まで届けたい」。
最後は、唐に滞在する萬斎演じる日本の相撲取りと、唐の皇帝の臣下たちとの相撲対決が、面白おかしくアクロバティックに描かれる「唐人相撲」。「痩せっぽちの私のことはインナーマッスルでブルース・リー系の相撲取りと思っていただければ(笑)。皆が総当たりでかかってきて相撲を取るのは50歳ではしんどいです(笑)」。唐音(とういん)というデタラメの中国語を使った会話も笑いを誘う。「以前、茂山家と共演したときに、彼らが『ジャッキー・チェン』と叫びまして。これは中国語?と複雑な気持ちでした(笑)」。
この演目のように弱者と強者が闘うときに、狂言の目線はどこにあるのだろうか。「負けるが勝ちで、人間の弱さを笑い飛ばして生きる糧にするのが狂言。そこが演出のポイントでもある。世田谷パブリックシアターから移築した3本の橋掛かりが放射状に伸びた会場で、舞台というのは、人と人を繋ぐ交差点だと思ってもらえれば」
また、6月3日からは萬斎が華道家・池坊専好に扮した映画『花戦さ』も公開される。舞台、映画と注目作品が続く萬斎から目が離せない。
取材・文 米満ゆうこ
(2017年2月15日更新)