インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 演劇×音楽の人気シリーズ第3弾 豪華キャストが池袋の中心で浪花節を叫ぶ!? 大パルコ人③ステキロックオペラ『サンバイザー兄弟』 大阪公演開幕直前スペシャルインタビュー! 【前編】作・演出・出演:宮藤官九郎

演劇×音楽の人気シリーズ第3弾
豪華キャストが池袋の中心で浪花節を叫ぶ!?
大パルコ人③ステキロックオペラ『サンバイザー兄弟』
大阪公演開幕直前スペシャルインタビュー!
【前編】作・演出・出演:宮藤官九郎

絶賛ツアー開幕中の『サンバイザー兄弟』より、作家と出演者のインタビューを前後編でお届けするスペシャル企画。前編は作・演出・出演の宮藤官九郎さんが登場。本作の見所から創作に対する真摯な考えを、丁寧な語り口で明かしてくれました。結果、「みんなが宮藤さんみたいな考えなら良いのに!」と心がほんわかする事態に。ステキロックオペラに込められた作家・宮藤官九郎のリアルに迫ります。

「役者でありつつ演奏もする。その曖昧な感じが、ありそうでなかった」
 
――大阪では先日、脚本を手掛けられた劇団☆新感線SHINKANSEN☆RX『Vamp Bamboo Burn~ヴァン!バン!バーン!~』(以下、『VBB』)が大盛況のうちに千秋楽を迎えました。あの作品にもヤクザが登場しましたが、『サンバイザー兄弟』もヤクザ兄弟のお話ですね。
 
『VBB』は演出のいのうえさんから吸血鬼というお題を頂いていたので、「血」というところからヤクザの「血を分けた兄弟」みたいなことに繋げたんですけど。『サンバイザー兄弟』はわりとちゃんとした理由みたいなものがあって。『ブルース・ブラザース』(アメリカ映画)の主人公や音楽を、未来の東京に置き換えたら、現代で言うヤクザであり、音楽も、演歌や浪花節がしっくりくるんじゃないかと。今回、音楽を怒髪天(日本のロックバンド)の上原子友康さんにお願いしたこともあり、怒髪天の歌世界が任侠っぽい「男」というものがテーマにもなっていたので。それぞれ別の理由ですが、どちらもヤクザものになりました。
 
――今のところ、思惑通りの仕上がりですか。
 
そうですね。それは作劇的な着眼点というよりは、怒髪天さんの音楽がより『ブルース・ブラザース』に通じるものがあったというか。僕の手柄というよりは、音楽的な部分が大きいと思います。やっぱり、友康さんがちゃんと元ネタを咀嚼して曲を作ってきて下さったことと、増子(怒髪天のボーカル)さんの歌の説得力というのが、このお芝居には不可欠なので。稽古場で歌を聴いているだけで、そんな気がしてくる。二人にお願いして良かったなと、日々思っていますね。
 
――増子直純さんと言えば、今回初舞台にして瑛太さんと主演のヤクザ兄弟を演じることでも注目を集めています。
 
ミュージシャンとしてライブでステージに立ち続けているので、初舞台はあんまり関係ないですね。やっぱりステージ上では完全な素ではないし、歌いながら演じていると思うので。稽古場で我々と普通に演じている姿を見ると、「ずっとやってきた人みたいだな」って思います。それぐらい堂々と演技している。凄いなって。今回の作品は増子さんのステージングを見て影響された部分もあるので。ご本人は「やりやすいように書いてもらった」って思うかもしれないですけど、僕も増子さんと出会わなければ、こういう役を書いていなかったと思います。
 
――シリーズ第2弾のバカロックオペラバカ『高校中パニック!小激突!!』では、氣志團の綾小路翔さんがご出演されました。何か共通点はありますか?
 
前回の翔もそうだったんですけど、普段フロントにいる人は、周りが自分に合わせるのが当たり前という中でやっているので、芝居の間の取り方とかが、すごい独特なんですよね。ボーカリストって、人に合わせないんだなって。二人とも「自分の気持ちいいようにやっていたら、今までは周りが合わせてくれてたんだな」と言っていたので、やっぱりそうなんだと(笑)。すぐに台詞を言わないから、芝居は止まってるけど、増子さんの中では成立してるんだろうなとか。そこが面白いですよね。
 
――その場合、演出というのは…。
 
早く言ってくださいとは言うんですけど。本人が言わなければ、まあ、いいかと(笑)。そこが埋まらないから、やっぱり役者って難しいところなんですけど。今回はサンバイザーブラザーズがコンサートをする場面があるので、結構増子さんが歌われる場面が多いんですよ。歌でかなりの動きを表現しているので、「台詞が付いているライブ」というぐらい自由にやってくれたらいいなと思っています。
 
――バンド演奏や歌という面では、役者さんも初挑戦な部分が多いのでは?
 
そうなんですよ。りょうさんもピアノを練習してくれたり、瑛太くんは歌を歌います。ミュージシャンの方が演奏して我々は芝居に専念した方が、クオリティは高いのかもしれない。でも、役者が演奏すると独特な空気やムードが生まれるんですよね。自分たちで演奏することで、芝居も変わってくるし。全部自分たちでやる”DIY精神”というか。たまたま芝居ができるミュージシャンと、たまたま楽器ができる役者が一緒にやることで、”ちゃんとしてないもの”が生まれる。それが3作目にしてやっと。役者でありつつ演奏もする、その曖昧な感じがありそうでなかったんじゃないかな。
 
――今回は、出演者全員が歌を歌うか楽器を演奏し、それぞれに見せ場があるんですね。
 
そうですね。そういう意味でもすごく達者な人たちに見えるかもしれないですけど、無理してやってもらってますから(笑)。役を演じながら演奏するからなのか、すごく演奏にも気持ちが入ってる。僕はそこが凄くいいなと思います。
 
 
「お客さんには『今日一日だけのものを観た!』という気持ちで帰ってもらいたい」
 
――宮藤さんにとって、同シリーズはどういう位置付けですか。
 
本番はすごく楽しい。ダンスや仕掛けも色々あって。ただ稽古は通常の2.5倍ぐらい大変な気がする。やっぱり生演奏だから良い日もあれば悪い日もあって、どんなに準備をして行っても本番では何かしらのトラブルがある。楽器を持つことによって、作り込んだ芝居をお客さんの前でやるだけでは許されない緊張感があるんですよね。それがプラス高揚感にもつながっているとは思うんですけど。お客さんには、「今日一日だけのものを観た」という気持ちになって帰ってもらいたい。そういう思いがあるから、毎回違う雰囲気にしたいんだろうなと思います。
 
――想像しただけで、皆さんの緊張感が伝わってきそうです。
 
芝居って完成度を上げていくこともできるんでしょうけど、あんまり興味がそっちに向かわない。作っていて不安定なものに惹かれるというか、そういう部分を残したい。新感線のお芝居を観ていても思うんですけど。いのうえさんて日々ちょっとずつ演出を変えるんですね。『VBB』も3回ぐらい観たんですけど、ちょっとずつ変わっている。その上、役者がちょっとずつ疲れて、ダメになっている(笑)。最初すごく声が出ていた人が、今日は全然声が出てないとか。そういうのも、その日観たお客さんにしか感じられないこと。毎日同じ声でやる人もすごいと思いますけど、声出てないのに同じように面白い人って、それも凄いな!と。それに合わせて演出もちょっとずつ変えてるし。
 
――同シリーズは、チャレンジングなことを試せる場でもあると。
 
そうでもありますし、どうしてもそうなっちゃう。自分たちで演奏して歌っているので、不安定な部分が如実に出ちゃうんですよね。それでもやりたいなと思うのは、やっぱり性格かな。自分の性格が出てるんだろうなと思います。だから性格的には本来、自分には舞台は合ってないのかも(笑)。毎日同じようにやらなきゃいけないものなので。でもずっと続けてきて、辿り着いた形がこれなのかな。
 
――好きなことや試したいことの一方で、観客の共感みたいな部分は意識されますか。
 
音楽かな。友康さんがすごく間口を広げて、分かりやすく明快な音楽を作ってくださったので。音楽によって随分物語が伝わりやすくなってるんじゃないかな。やりたいことはあるんですけど、一番にそれを考えるというよりは、作っていって最後に何をやりたかったのかが分かる。そういうのも自分にはあるんですよね。今回で言ったらサンバイザー兄弟の関係。その面白さがブルース・ブラザースにもあるけど、日本のヤクザ映画にもあって。正しいとか正しくないとかいう物差しではなく、兄弟分だからこうするみたいな。やっぱり今の時代にはあまりない感覚だから、面白いのかな。作りながら最後の方に何となく見えてきた感じです。瑛太くんが弟分を演じることもあって、芝居としても可愛いげがあるし、男女問わず分かってもらえる、分かりやすい世界観だと思います。
 
――瑛太さんが演じる弟分は、どんなキャラクターですか。
 
瑛太くんには、まったく深みのない芝居をやってもらいたいなと思っていて。頻繁にすぐキレるとか。あまり含みのない、考えていることを全部口に出している人の面白さみたいなことをやって欲しくて。それは言葉で伝えるより前に、理解してくれていました。本読みの段階から全力でやってくれたのが、凄く良かったですよね。演出するのは初めてですが、柔軟な人だなと。今のところ自由に演じてもらってますね。結果、誰も観たことがない瑛太くんの芝居を観られるんじゃないかな。
 
――清野菜名さんはいかがですか? 宮藤作品は、映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』に次いで2作目です。
 
いいですよ。決して器用ではないので、言われたことに対してその場では理解できなくても、ちゃんと次の日には自分の中で筋が通るようにして変えてくるので。自分で考えて、とりあえずやってみる人なんだなと。度胸がいいなと思います。映画の現場でも自由に動いてもらったのが、すごい良かったので。上手にやろうとか、可愛く見せようとか思わず、感覚的に反応しているところに共感が持てた。まだ若いからこの先どうなるか分かんないですけど、面白いですよ。
 
kudo2.jpg
 
「音楽と演劇、それぞれのファンがいいな!と思える、広がりのある芝居を作りたい」
 
――20代から創作活動を始められ、その後年齢や経験を重ねる中で、興味の対象や見方が変わった部分はありますか?
 
変わった部分もあるし変わらない部分もあって、どうしても円熟する方向には行かない。仕方が分からないっていうか。そこは変わらない部分だと思うんですけど。興味の対象が変わってきているなと思うのは、例えば今年ゆとり世代のドラマ『ゆとりですがなにか』を書いたときに、今までならこういう人たちとは、こういう距離感で関われなかったなと。彼らを客観視した作品を書くことは、数年前まではできなかったことだなと思います。ただ、そこから自分を通して生まれてくるものは、あまり変わらない。それが良いことだとは思ってないですし、ずっと若い頃の感覚にしがみついてる訳ではないんですけど。
 
――宮藤さんの作品には、中高生時代の風景や感性がモチーフとなった作品も多いと思うのですが、その辺りはいかがですか。
 
そこも、記憶はどんどん薄れて来てはいるんですが、いつの時代も変わらないものはあると思うんですよね。その普遍的な部分をちゃんと見極められれば、ずっと10代の物語も書けるかなと思います。ただやっぱり時代と共に変わってきている部分はあって。さっき話したドラマ『ゆとりですがなにか』を作るときに、これは感覚的に全然違う世代だなと思って。分からないことを人に聞けないとか、人に怒られたら会社辞めちゃうとか。仕事に対する考え方とか、やっぱり自分には理解できないなと。それに腹が立つとか世の中が悪いとか、それとは違う距離感で取材して。それまで取材してドラマを書くこととか、やったことがなかったんですけど。
 
――そういう意味では、転機となった作品とも言えそうです。
 
やっぱり、やればやるだけ分かることがあって。例えば10代の頃の感覚とか、今までなら何となくみんなも共感できる、自分との共通点を拠り所に書いてきた気がするんですけど。40代も半ばを過ぎて、逆に「この人たちが分からない」ということにも興味が湧くようになった。何でこうなんだろう。話せば話すほど、自分との距離がどんどん遠退いていくんだけど、取材ではそれが面白かったですね。相手は僕が思っていることとは全然違うこと思っているんだけど、それを台詞として書けるようになった。それは年齢を重ねたからか、経験を積んだからなのか、分からないんですけど。
 
――また、映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』では若い世代に観て欲しくて、主題歌を工夫されたとか。その辺りにも心境の変化が?
 
やっぱり自分の趣味だけで作品を作っていくと、自分にとっては宝物ですけど、広がりに限度があるというか。間口をもっと広げたいと思ったときに、だからといってまわりに迎合するのではなく、好きでもない事をやらなくても、そこを解決する方法があるなと。柔軟さですかね。それはここ数年で身に付けた気がします。あとは、お金を掛けたら「こんなことができると思わなかった!」ってことができるんだとか。それが、どんどん凄くなり過ぎてて笑っちゃう感覚っていうのは、新感線の舞台を観ていても思うんですが。あれだけビカビカに照明を使ったりできるんだとか。やっぱり自分の信念を曲げずに多くの人に伝えることによって得られるもの、変われるものって、いっぱいあるんだなとは思います。
 
――そんな思いの丈が、最新作『サンバイザー兄弟』にも込められているんですね。
 
そうですね。そもそも自分の好きな怒髪天というバンドの人とお芝居をやるってことは、少なくとも誰もやってないことですし。怒髪天や僕のファンに観ていただきたいのはもちろんですが、演劇を観たことがないロック好きな人とか、怒髪天を聴いたことがない演劇好きの人とかにも観てほしい。両方がひとつの世界観の中ですごく良い形で融合している姿を観ることによって、それぞれのファンがそれぞれに「良いな」と思ってもらえたら嬉しいですね。なんかそういう広がりが、最近ないなと思っていて。ロックが好きな人はロック好きな人のところにしか集まらないし、芝居が好きな人は芝居しか観に行かない。なんか言い方悪いかもしれないですけど、お客さんの取り合いというか。やっぱり我々のバンド(グループ魂)が夏フェスとかに呼ばれて、他のバンドが絶対にやらないようなことをやるっていうのは、何か意味があるとことだと思うんですよね。そういうことを、お芝居でもやれたらなと。
 
――素敵なお話ですね。だから、”素敵ロックオペラ”なんですね!
 
まあ、そうですね(笑)。

取材・文:石橋法子



(2016年11月25日更新)


Check

大パルコ人③ ステキロックオペラ
『サンバイザー兄弟』

【東京公演】
▼11月13日(日)~12月4日(日)
サンシャイン劇場

Pick Up!!

【大阪公演】

発売中 Pコード:452-635

▼12月8日(木)19:00
▼12月9日(金)19:00
▼12月10日(土)13:00/18:00
▼12月11日(日)13:00
▼12月12日(月)14:00
▼12月14日(水)14:00/19:00
▼12月15日(木)14:00
▼12月16日(金)19:00
▼12月17日(土)13:00/18:00
▼12月18日(日)13:00

森ノ宮ピロティホール

全席指定-9800円 ヤング券(U-25チケット)-5500円(25歳以下/要身分証明書)

[作][演出]宮藤官九郎
[音楽]上原子友康(怒髪天)
[出演]瑛太/増子直純(怒髪天)/三宅弘城/皆川猿時/清野菜名/少路勇介/よーかいくん/篠原悠伸/上川周作/宮藤官九郎/りょう

※未就学児童は入場不可。車椅子での来場は公演前日までに問合せ先まで要連絡。

[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

【宮城公演】
▼12月21日(水)~23日(金・祝)
仙台サンプラザホール

チケット情報はこちら

関連記事

大パルコ人③ステキロックオペラ
『サンバイザー兄弟』大阪公演
開幕直前スペシャルインタビュー!
【後編】出演:宮藤官九郎×りょう
×三宅弘城
特設ページはこちら