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「泥の中にある一粒の輝きを見てほしい」
バンドの生演奏に乗せた
“移動しないロードムービー悲喜劇”
悪い芝居が新作『メロメロたち』を上演!

沸々と湧き上がる鬱憤をエネルギーに変え、ドロ臭くもポップに見せる京都の劇団・悪い芝居。2014年上演の『スーパーふぃクション』からは、バンドの生演奏を織り交ぜながらよりエネルギッシュに展開してきた彼らが、その集大成となる新作『メロメロたち』を上演する。7月15日(金)よりHEP HALLにて開幕する本公演について、作・演出を手掛ける山崎彬に話を聞いた。

――今回は、生バンドの演奏を取り入れたスタイルの集大成とのことで、まずはどんなことを企んでいるのか、教えてください。

元々バンドをやっていた岡田太郎が入団してからは、ずっとオリジナルの音楽でやっていて、2年前の本公演から、生バンドを入れてお芝居を作ってきたんですね。自分としても追求したいことがあったし、お客さんも楽しんでくださっていたので、とりあえず3回は続けようと思って。その3回目が今回の『メロメロたち』。バンドそのものを物語にしているので、作曲家の岡田君もバンドマンの役として舞台に立ちます。だから、彼が役として音楽を作り、役として演奏するというのがいつもと違うところですね。物語としては、バンドと戦争のお話で、売れてないのに伝説化されたバンドと戦争に直面した高校生たちの話との、2本の軸で展開していきます。

――タイミング的には、情勢を反映していると思われそうですよね。

でも、今の日本の情勢がどうとかを語るものではないです。僕は自分の状況そのものを作品に投影することが多いというか、そこからイメージを飛躍させることでしか書けないんです。劇団結成して10年が経って、劇団員の入れ替わりもあって。ふと、このメンバーで芝居を作るのは最後かもしれないんだよなって考えたとき、もし明日公演ができなくなる、未来がなくなるとしたらどんな作品を書くのかな、と思ったんですよ。そこから、いざ戦争が起きて、今を情熱的に生きなければいけない状況に強制的に置かれたとき、表現する人や将来が見えていない若者たちはどう生きるのかを描いてみようと思ったんです。メッセージ的なこともあるかもしれませんが、その要素を使っていかに楽しむかが大事だと思っています。観た人が楽しくなるような作品にはなると思います。

――キャッチコピーにある“前代未聞の移動しないロードムービー悲喜劇”とは、どういうことですか?

最初に、場所移動ができない演劇でロードムービーをやってみたいなと思ったんです。実際にはロードムービーみたいな展開はないんですけど、僕の中では、“傾いているから玉が転がる”みたいな、そういうところにロードムービー感を感じるんですよね。例えば、今って、家の中にいるだけで物も情報も何でも手に入るし、家にいるだけで自分の性格とかって他人によってどんどん転がされていくような時代だと思うんです。そういう状況を描きたくて。その重力に逆らって生きている人たちと、戦争で明日命がどうなるかわからない状況の若者たちの物語です。

――今回のゲストは、NMB48の石塚朱莉さんと、D-BOYSの大久保祥太郎さん、それに、ワンダフルボーイズのギタリスト・アツムさん(フジロックフェスティバル’16にも出演)と、豪華な面々が集まりました。

みんな僕らの舞台を観てくれていて、お声がけしたら“出てみたいと思っていた”って言ってくれて。石塚さんは普段ステージに立たれていますけど、本格的な舞台は初めて。それぞれのファンの方々は、この舞台を見逃すと彼らのことを語れない、それくらいの作品になると思いますよ。僕らとしても音楽ものの集大成になるだろうし…。悪い芝居のこと、うるさいんかな、ガチャガチャしてるんかなっていうイメージを持たれる人も多くて、実際その通りなんですけど、ただ、そのイメージだけで観ていない人はもったいないなと思います。思った以上にガチャガチャしてて、頭抱えて帰ったとしても、もう一回観たいなって思える作品になると思います。僕らは期待通り、予想通りの芝居をやります。ただ、その中に落ちているダイヤモンドって、尋常じゃない輝きをしていると思うんです。6割がキラキラ光っている砂よりは、泥の中で光るダイヤモンドを見る方が感動は大きいと思うんですよね。

――予想通りガチャガチャしてるしうるさいけど、見たことがない輝きが潜んでいる…。

いつも、ハチャメチャなことをやりたいとは思っていて。自分が理解できる範囲を超えるまでいきたい。役者さんにもそういう役を織り込んだときの方が、思いもよらなかった見え方がして、興奮するんですよね。10年で培った芝居作りのノウハウを使いながら作るので、結局やることは今までと同じなんですけど、それをどれだけ珍しい芝居にできるか。“観たことある感じなのに、観たことないもの”を目指しています。いつも言うんですけど、僕は、お客さんはとんでもない想像力を持っていると信じています。しかも、好みじゃないものと出合ったときにこそ、さらに想像力は広がると思うんです。俳優もそうだし、お客さんも、僕自身も知らない想像に出合えるような作品にしたい。今回の作品は“これが最後だったらどう書くかな…”というイメージで書いているから、書きたいこといろいろ盛り込んじゃってて(笑)。いろんな種類が入っているチョコレートアソートってあるじゃないですか。なんか、そんなお芝居になりそうですよ(笑)。

 

取材・文/黒石悦子




(2016年7月12日更新)


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悪い芝居「メロメロたち」

発売中

Pコード:450-149

▼7月15日(金)19:00
▼7月16日(土)13:00/18:00
▼7月17日(日)13:00/18:00
▼7月18日(月・祝)13:00
▼7月19日(火)14:00/19:00
▼7月20日(水)14:00

HEP HALL

一般前売-3900円
U25(25歳以下)-2900円

[作・演出]山崎彬

[出演]植田順平/呉城久美/中西柚貴/渡邊りょう/北岸淳生/畑中華香/長南洸生/岡田太郎/山崎彬/石塚朱莉/大久保祥太郎/アツム

※未就学児童は入場不可。

[問]ナッポスユナイテッド
[TEL]03-5342-0909

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●プロフィール

悪い芝居(わるいしばい)●2004年12月、脚本家・演出家・俳優の山崎彬を中心に、京都で旗揚げ。「現在でしか、自分たちでしか、この場所でしか表現できないこと」を芯にすえ、中毒性の高い作品を発表し続けている。劇団名の由来は「悪いけど、芝居させてください」の略。2009年上演の『嘘ツキ、号泣』が第17回OMS戯曲賞佳作を受賞、2011年上演の『駄々の塊です』が第56回岸田國士戯曲賞最終選考ノミネート、佐藤佐吉賞で最優秀作品賞に選ばれた。9月には京都芸術センターにて、『春よ行くな、』を上演する。