目で耳で楽しめる“朗読演劇”
「極上文學」シリーズ第10弾『春琴抄』が上演!
春琴役に挑む若手俳優・伊崎龍次郎にインタビュー
日本文学を朗読しながら、パフォーマンス、衣裳、舞台美術、生演奏などで立体的に表現し、“朗読演劇”という新スタイルを確立しつつある「極上文學」シリーズ。第10弾となる今回は、谷崎潤一郎の『春琴抄』を上演する。9歳の頃に失明した大阪の薬問屋の娘・春琴と、春琴に仕える佐助との愛を耽美的に描いた作品で、タイトルロールでもある春琴に、期待の若手俳優・伊崎龍次郎が挑む。近年はミュージカル『テニスの王子様』をはじめ、舞台、映像への出演で力をつけている伊崎。今作でも「一皮むけたい!」と気合十分だ。
――今回「極上文學」シリーズ初出演ですね。
昨年上演された『高瀬舟』を観させていただいたんですけど、まさか自分が出演できることになるとは思いませんでした。「極上文學」はただの朗読劇ではなくて、美しいセットが組まれていて、衣裳も素敵で目で見ても楽しくて。それに生演奏が入るので、すごく心地いい空間が生まれるというか…、とても惹かれました。
――『春琴抄』の本は読まれたんですか?
読みました。句読点がない独特な文体にも驚いたんですが、世界観がとても耽美で、想像を絶する作品でした。簡単に言えば“S(サディズム)とM(マゾヒズム)”の関係に形容できると思うんですけど、究極の愛の形だなと感じて、すごく引き込まれました。着替えやトイレの世話も、すべて佐助がする。そこまで尽くしてくれる男性というのは、ある種女性の理想なんじゃないかなとか、いろんなことを想像しましたね。
――春琴を演じているうちに、その気持ちが分かるようになるかもしれませんね。
尽くしてくれることに快感を覚えるかもしれないですよね(笑)。僕は、1歳上の姉がいて、昔はよく衝突することもあったので、姉の記憶とかも思い出して、役に反映したいなと思っています。
――女性を演じるのは今回が初めてですか?
初めてなので、自分にとって大きなチャレンジだと思っています。ましてや、お嬢様でわがままで、ドSで、盲目。演じるにあたって、一筋縄ではいかない女性だと思うので、どう探っていこうかと想像するだけでとても楽しみなんです。
――衣裳を着てのビジュアル撮影、いかがでした?
佐助役の藤原祐規さんや松本祐一さんとも一緒に撮影をして、自分の中にない感覚のものが芽生えかけた気がします(笑)。いつもだったら、同性にしがみつかれると引いたりすると思うんですが、着物を着て女性の姿になっているし、周りの環境も作り込まれているから、とてもナチュラルにできました。春琴をイメージできたので、早く演じたいですね。それに、朗読劇で盲目の役をどう見せるんだろうって、その演出も楽しみなんです。
――言葉は関西弁なんですよね。
大阪弁になると聞いています。僕は大阪出身なので、慣れた言葉でできるのがうれしいですね。女性としての言葉遣いはまた変わってくると思うんですが、地元の言葉を使えるのは、とても楽しみです!でも、ト書きを読むときは標準語なんです。
――なるほど!その切り替えも大変ですね。
そこは、今まで培ってきた標準語力を活かしたいです。そういう読み方の違いも面白いですよね。いろんなことを想像するたびに、どんどん楽しみが増えてきます。和服、大阪弁、目が見えない、女性、わがまま、ドSな性格…、僕個人としては、チャレンジすることばかりですね。本来の僕とも全然違うので、より楽しんで演じられるかなと思います。
――プレッシャーというよりも楽しみの方が大きい?
春琴という大役でもあるので、プレッシャーもあります(笑)。女性のしぐさ大丈夫かな~とか、半々ですね。でも、そのプレッシャーもちゃんと受け取って楽しんでいかないといい形にはならないと思うので、春琴を突き詰めて、楽しみながら演じたいと思います。あと、「極上文學」は、“マルチキャスティング”というシステムも見どころで、公演回によって演じる人が違うんです。相手によって、言葉の言い方とかニュアンスも変わってくると思うので、そこで生まれる空気感も、どういうふうになるのだろうって、ワクワクします。
――大阪公演で佐助役をされる藤原祐規さんと松本祐一さん、おふたりの印象は?
おふたりともビジュアル撮影の日に初めてお会いして、藤原さんはすごく気さくで、オープンな方だなと思いました。それに、どっしりと構えていて頼りがいがあるので、甘えたいないと思います(笑)。松本さんはすごく柔らかくて面白い方で、それでいて真面目な雰囲気もあって。先輩方に甘えつつ、自分もしっかりとそれぞれの佐助を受け止めながら、頑張っていきたいです。
――春琴の役作りについて、現時点で考えていることはありますか?
作り込んで臨んでも、周りの雰囲気や相手によっても変わっていくと思うので、まだふわっとしていますね(笑)。僕ならではの春琴を作り上げつつ、和田さんが演じる春琴も見て、盗めるところは盗みたいなと思っています。
――ちょっと話は変わりますが、元々、伊崎さんが演技をしたいと思ったきっかけは何だったんですか?
『ダークナイト』という映画を観たとき、ヒース・レジャーの演技がガツンと心に響いたんです。どうしたらこんな風に演じられるんだろうって、すごく興味が沸きました。その後、別の作品を観たら、当たり前なんですけど全然別人で、同じ人がこんなにも変わるのかと(笑)。いろんな人生をいくつも生きられるのはすごく魅力的だなと思って、作品に関わりたいなという思いが生まれました。演技というものを何も分かっていないときに、自分の人生が180度変わるくらい影響を受けたので、僕もいずれはそんな影響を与えられる役者になれたらいいなという思いで頑張っています。
――この作品を経ることで、一歩近づけるかもしれませんね。
本当に自分にとって初めてのことばかりなので、終わった後に一皮むけていたいなという思いはありますね。本気で挑む覚悟はできています。怖いですけど、しっかりとやり遂げたいですね。
――日本文学を朗読する難しさもありそうですよね。言葉も全然違いますし。
難しさはあると思いますが、言葉の力が人に与える影響はとても大きいと思っているので、一つひとつ大切に読み上げたいですね。観に来てくださる方にしっかりと伝えたいと思います。それに、普通の朗読劇とは違い、この“朗読演劇”は視覚でも楽しめますし、生演奏もあるので、その時代にタイムスリップしたかのような、非現実的な空間を味わっていただけます。現実から離れて、その世界に浸っていただけると思いますので、ぜひ目で、耳で体感しにきてください!
取材・文:黒石悦子
(2016年6月 8日更新)
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