『上方落語若手噺家グランプリ 2016』
決勝進出者インタビュー:露の眞
『上方落語若手噺家グランプリ2016』とは、昨年から始まった若手中心の落語コンテストで、エントリー資格は入門4年目から20年未満の上方落語協会員。今年は39名が参戦し、4回にわたって予選を繰り広げてきた。そして各予選の上位2名と、各予選3位の中から最も得点が高かった2人(同点のため)の計10人が6月21日(火)に開催される決勝戦に進出した。ぴあ関西版WEBでは決勝進出者へのインタビューをご紹介、5回目はファイナリスト紅一点、露の眞。
--眞さんは予選第一夜に出られて雀五郎さんと同点の3位でした。予選第四夜の日にすべての決勝進出が発表されましたが、いかがでしたか?
まさか通るとは思ってなかったので、ビックリしました。雀五郎兄さんと同点だったので、もしそこから選ぶとなったら私は行かれへんのちゃうかなって思ってました。
--今のお気持ちは?
嬉しい気持ちもあるんですけど、こういうコンテストで予選を通過することが今まで1回もなかったので、せっかく出させてもらえるならば自分らしさを出して、少しでも皆さんの記憶に残るようにやりたいと思っています。
--その自分らしさとは?
見た目が男か女か分からんっていうところもあるですけど、これは別に意識しているわけじゃなく、これも自分だと思うので。女の落語というのではなく露の眞の落語というのができたらと思っているんです。
--露の眞という落語をされるときに、何を一番心がけていますか?
登場人物を一部、自分のフィルターに通して、私がこの人やったらこんなこと言わへんやろうなとか、言うやろうなとか、自分に通して…。どちらかという漫画的な感じで描くようなイメージはしています。
--漫画好きですか?
好きですね(笑)。そんなめちゃくちゃ好きというわけではないですが。
--好きな漫画は?
『浦安鉄筋家族』とか好きです。面白いですよね。やっぱり私は女性なので、男をリアルに演じようとしたってできるわけないので。かといって女性をうまくできるかというとできない。それだったら全体的にコミカルにして、眞は男やったら、女やったらこんなんやろうなって、そんな感じで描きたいなって心がけてます。
--今回、予選で「忍法医者」をお選びになりましたが、ポイントは?
「蘭法医者」という古典落語があるんですけど、それがちょっとサゲがわかりにくいし、ちょっとエッチなんですよ。私の大師匠の露の五郎兵衛師匠が、現代でやるならば「忍法医者」という形で、オチも違いますし、この形でやったら現代でも十分通用するネタだよっていうふうにされたのがこの「忍法医者」なんです。それを一門に伝えはったネタなので、やっぱり露の一門ですし、五郎兵衛師匠のネタをやりたいなと思いまして。好きなネタです。
--去年も予選に出られましたが、今年との違いはありましたか?
去年はめっちゃガチガチな状態やったんですけども、今年は言うたらトップバッターだったので。
--本当にトップバッターですよね。初日の一番目。
それで逆にふ~って力が抜けて。いつも前座で出ることが多いので。前座のときほど別に責任もないの、好き放題させてもらいました(笑)。
--力が抜けたときっていうのは、抽選で順番が決まったときですか?
そうですね。初めはわっと思ったんですが、逆にこれはいいなと思って。
--いつもの寄席だったら場を盛り上げて、後につなぐ役割もありますが、今回はやりきったらいいという。
そうですね。
--見え方というか演じ方も去年とは違ったんですね。
去年は中トリやったんですけど、そのときはガチガチでしたし、今年はもう、出てパッと終わったらええんやと思って(笑)。
--去年は予選も12分でしたよね。今年は8分でしたが、いかがでしたか?
短かったです。めちゃくちゃ短かったです。視力が悪いので時計とか見えなくて、大体時間を計ってやるようにはしているんですが、それでも8分というのはこんなに短いんだというのを痛感しました。
--お稽古のときからですか?
思いましたね。どこを取ったらいいのかとか。
--「忍法医者」というのは、元々どのくらいの時間のネタなんですか?
20分くらいですかね。半分以下をカットして。
--どういう感じで8分に収めたんですか?
これは結局、最後が一番面白いなのでそこは極力カットせずに、前半の導入部分を。結構いろんな入れごとがあるんですよ、ちょっとエッチな入れごととか(笑)。そういうのを全部、カットして、もうポンポンポンと。で、すぐお医者さんに行く。後半に広がりを持たせるように前半はかなりカットしました。
--先輩方にアドバイスを乞われたりは?
これは一門の(露の)団四郎師匠に稽古をつけてもらったんですけど、とにかく遊びなさいと言われました。好き放題、もう自分の感覚ではっちゃけたらええねんと。特にこういう決まった形はないからと。
--そのとおりに出来ましたか?
めちゃくちゃ楽しかったです!(笑)
--コンタクトはされないんですか? 高座で。
コンタクトをすると見えすぎてイヤなんですよ、逆に。このうっすら具合がいいんです。お客さんの顔は一応見えるので。
--普段からコンタクトもせずに。
昔はめがねをして上がってたんですけど、それやとまた古典の雰囲気に違和感あるかなと思って。
--めがねはキャラクターがつきやすいですよね。
そうなんです、それでフラットな状態でやってます。
--あまり見えすぎても緊張するし。
もう無理ですね、怖いです(笑)。でも、もともと緊張しぃじゃないので、そこまででもなんですけどね(笑)。
--緊張しぃじゃないということは、去年の予選の緊張は思いのほかだったんですね。
思いのほかでした。何なんでしょうね。あの空気感とか。待ってるのもイヤでしたし。
--今年は空気ができてないところだったので、余計に肩の力が抜けたんですね。
そうですね、もう何も考えなくてよかったですし。
--決勝のネタは、何か考えられてるんですか?
どうしようかなと思ってまして。どうしましょう(笑)。順番とかでもまた違ってきますし。
--めぼしいものは?
今のところ3つか4つ、上げてますけど、決勝はすごいお兄さん方ばっかりで。後輩も。
--結構、キャリアの幅も広いですよね。あおばさんの6年目からたまさんの18年目。
そうですね。もう胸を借りるつもりで好き放題させてもらおうと思います。
--今年で9年目。4月23日で8周年を迎えられて、この8年はどんな日々でしたか?
この8年ですか? 初めのうちは大変でしたね。師匠に怒られてばっかりでしたし。
--露の都師匠に。
めちゃくちゃ怒られましたね。特に私は本当に人間形成がなってなかったので。師匠は技術とかテクニックとか、そういうものばっかり求めるんじゃなくて、人間形成、その人の経験とか感じてきたこと、傷ついてきたこと、そういうの全部が落語に出るという指導なんです。
--「芸は人なり」ですね。
まさにそれで、技術ばっかり追求するのじゃなくて人間を磨きなさいと。それを常々言っていただいているので、この8年間、特に後半の4年間ぐらいは特にそこが見えてきたというか、自分はこんなあかん人間やったんやっていうのがよく分かりました。それに気づけてちょっと変わったような気がしました。
--気づかされる何かがあってのことで?
ありましたね。何で自分だけこんな目に…ということがあって師匠に相談すると、そういうのも全部、落語の糧になるから耐えやというか、負けたらあかんでと言われました。そしたらすごい楽ですね、今。めっちゃ楽です。
--それは成長した証では?
そういうことなんですかね。ちょっと分からないですけど、そう信じたいですね。楽しいですね、今は。
--師匠の「それも落語だ」というご指導があったから、イヤだなと思うことも受け止められるようになった?
そうですね、だいぶ打たれ強くなった気はします。師匠も初めからそれを狙ってたんでしょうね。厳しかったですけど、修行中も。すごいです、師匠は偉大です。
--修行はどのくらいだったんですか?
私は2年半でした。
--では年季明けから厳しくなって。
修行中は師匠がそばでずっと守ってくださってますから、師匠の言うことを素直に聞いてたらよかったんですが、年季が明けちゃうとずっと師匠に伺える状況でもないですし。年季が明けてふわ~ってネジが緩んじゃうところもあって。ぱ~ってなって、酒わ~ってなって楽し~!とか言って。それで失敗もたくさんあって師匠に怒られてっていう繰り返しで。それで4年ぐらい前にもバーン!っていうことがあって。戒めですね…。
--意外ですね。落ち着いているふうに見えますが。
ひどいですよ、伝説の眞ですよ(笑)。
--言える範囲の伝説をお願いします(笑)。
着物一式、全部なくなってて。朝起きたら。あら!と思って探しに行ったら、駅までの道に一つずつ落ちてたんですよ。あ、着物があった、小物があった、襦袢があった。で、駅で全部揃ったんです(笑)。全部落ちてたたんです(笑)。
--それも落語みたいですね。
きれいに落ちてたんです、一つずつちゃんと落ちてたんです。間隔を置いて。
--漫画みたいですね。
この間に何があったんやろうって。
--伝説の眞、恐るべしですね(笑)。
ここしばらくないんですよ、そういうのは。年季明けてすぐがひどかったです。ちょっと気のゆるみで至らないことがたくさんなって、反省して。
--そういうところも芸に取り入れて。
失敗した人は強いですからね。
--先ほどと重複するかもしれませんが、将来はどんな噺家になりたいですか?
うちの師匠もいち女性落語家ですけども、でも性別じゃなくて、男でも女でもないし、露の都なんですよね。露の都という存在なんです。性別を超越しているというか、一人の存在の落語なんです。それに惹かれて師匠に入門したので、私も。なので、師匠の真似でもなく露の眞という一つの存在の落語ができたらなといつも思ってます。
--師匠の落語を初めてご覧になったきっかけは何だったんですか?
20歳くらいで落語に興味を持ち始めたときに、私は三重県志摩市出身なんですけど、師匠が志摩市に講演できはるというのを見つけて。運命を感じて大学をさぼって見に行って。そしたら講演と落語、「初天神」やったんですけど、それを見て一目ぼれというか、一気にカーッとなって、その日の夜に親に「入門する」と言っちゃって(笑)。「あんた何考えてんの!」って言われて。
--落語には興味はあったけど、落語家になりたいとは…。
思ってはなかったんです。1年後に入門しちゃいまして。
--行動的ですね。思ったらすぐ…。
そうです、惚れたらもうすぐ行動です。若かったですね、はい。元々落研やったんです。でも、漫才をしていて。コンビ組んでたんです。それでやってて、ほんだら落語を聞けと言われて聞いたら、それではまり込んで。それが20歳くらいでしたね。
--現時点では漫才とかに行かず、落語を選んでよかったと思いますか?
思いますね。もう今は見なくなりました。
--最初、お笑いに興味があって、漫才コントをされていて。それがだんだん落語にはまって。そこで感じられた落語の魅力とは何でしょうか?
無限大ですよね。私一人が男にもなれるし、女にもなれるし、犬にもなれるし、「忍法医者」みたいなネタはドラマとかお芝居ではできませんからね。
--CGになりますね。
それが想像力だけでお客さんの頭でそれぞれ膨らませられる。これはすごいなと思いまして。もうどこまでも行けますよね。そこが魅力ちゃいますかね。人によってもちゃいますしね。本当、人となりも出ますし、そういうのを全部入れてったら無限大やなと思います。
--想像力さえあれば。
そうですよね、そんなのむっちゃ楽しいですよね。ちょっと昔の、ノスタルジーとか味わえたりしますしね。
--では最後に、決勝への意気込みを。
決勝はすごい兄さん方、すごい後輩ばっかりなんですけど、とにかく結果にこだわるんじゃなくて、皆さんの記憶に残るような落語をしたいと思います!
--決勝進出者の中で紅一点ですが、その点については?
……そうでしたね。…私の色っぽさを少し見てもらえたらなと(笑)。ちょっとグレーゾーンみたいな感じですけどね、私は(笑)。グレー一点で。
--そういう色っぽさも…。
注目してください(笑)。
(2016年6月18日更新)
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