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『上方落語若手噺家グランプリ 2016』
決勝進出者インタビュー:笑福亭喬介

『上方落語若手噺家グランプリ2016』とは、昨年から始まった若手中心の落語コンテストで、エントリー資格は入門4年目から20年未満の上方落語協会員。今年は39名が参戦し、4回にわたって予選を繰り広げてきた。そして各予選の上位2名と、各予選3位の中から最も得点が高かった2人(同点のため)の計10人が6月21日(火)に開催される決勝戦に進出した。ぴあ関西版WEBでは決勝進出者へのインタビューをご紹介、2回目は笑福亭喬介だ。

--決勝進出おめでとうございます。予選はいかがでしたか? ちょっと緊張していたようにも見えましたが。

もうちょっと後に出たら気は楽なんでしょうけど、2番目に出ると結局トップとあんまり変わらないですね。持ち時間8分で、マクラであっためることはまず無理やろと。どうしよってなって、噛んでしまったんですよね。それがよかったのかな(笑)。

--噛んでしまったことがよかった?

「勝負や!」って言ってるのに、しかも8分しかないのに、いきなり噛みよったで、こいつみたいな(笑)。そこで緊張がほぐれて。お客さんの雰囲気がすっとよくなりました。

--演目は古典の「牛ほめ」でしたね?

「牛ほめ」に関してはたぶん、誰よりも自信があります。

--今、一番の自分押しのネタということですか?

自分でできるその中のひとつで、一番とは決めたないですね。一番って決めるとそれ以上の成長がなくなるのが嫌なんで。

--予選は「牛ほめ」で突破しようという気持ちで?

はい、思ってました。

--「牛ほめ」を8分でするのは難しいですよね?

(「牛ほめ」の半ばで終える)「普請ほめ」は嫌やったんです。「普請ほめ」で8分は誰だってできると思ったんです。仕込み、ばらしの構成の噺は基本的に言わなあかんことが決まってる。「牛ほめ」はそれだけ時間の調整が難しいと思うんです。

--省くポイントですね?

落語の本来の部分は絶対に必要やと思いますけど、8分にするんでしたら、ここそんな笑いないやんとか、このくだりは一切いらんやろと。早口でやって8分っていうのもお客さんがしんどいと思いますし、常に落ち着いて、ゆっくり焦らずやって、楽しいのに8分っていうのを目指そうかなと思いました。

--やり終わってどうでしたか? いけたと思いました?

いや、それは思わなかったです。下手したらあかんのちゃうかなと思いましたし、運が良けりゃあ、いけるんかなと思いました。

--予選は全部で四夜ありましたが、どの組になるかでも勝敗が左右されましたよね?

そこは運やと思います。それぞれみなさん個性あるし、それぞれ実力がありますし。

--今年からエントリー枠が入門20年までに広がりました。喬介さんは11年ですね?

半分くらいが先輩ですね。

--名前を呼ばれた時はどんな感じでした?

ほっとしました。予選を突破できたのは嬉しいです。

--師匠の三喬さんから何かアドバイスはありましたか?

一切ないですね。落語会で落語をした時には「なんでお前こういう風に言うてるの?」、「こういう感じで思ってます」という会話はします。「こういう風にやった方がよくない?」って言われて、「あ、それの方がいいですね」と言う時と、「いや、僕はこっちの方がいいです」と言う時と、どっちかですね(笑)。合う、合わんって絶対あるんですよ。

--合う、合わない?

いろんな人に稽古をつけてもらいに行きます。でも、結局、お客さんが見に来るのはその“人”を見に来るんでしょ? そのままがっつり同じことやるんやったら、オリジナルを聞きにいくでしょ? 教えてもらった落語にギャグを入れるとかじゃなくて、例えば人間性を変えていく。「こいつはこういう人間やから、俺はこういう風にしゃべってる」とある師匠が言うたとすれば、じゃあ僕はその人間性は無理やから、自分の中でその人間性を出そうというのが落語の稽古やと思うんですよね。

--自分に合ったように変えるということですか?

こんな「間」で教えられたからそのまま同じ「間」でやると、すごい違和感があるんです。落語で違和感があった時点で、聞いてる側も違和感があるんですよね、きっと。

--稽古をつけてもらう時はそのままですよね?

そのままやります。

--それから徐々に変えていくんですか?

変えていくのもあるし、元々こうやりたいっていうのもあります。僕はあほを演じるのが大好きなんですけど、このあほをどういう風に楽しくしたらいいのか。例えば、ここで「ハトがなんか落としていったな、ふーん」って言っても全然面白くない。でも、一つの落語の中でこのあほというのを確立させて、それをポンと言ったらたぶんお客さんはすごく笑うと思います。いわゆる空気とか想像ということでしょうね。そこが究極ですね、僕の中で。どれだけ想像させるかが。

--去年が入門10年目でしたが、ずっとそれを心掛けてきているのですか?

それは師匠を見て、徐々にですね。師匠が三喬でよかったと思います。ほかの人ではこの考えにはならなかったですね、きっと。師匠のおかげが大きいです。人は、三喬が大師匠の松喬と全然違うと、三喬さんは「三喬落語」やとか言うけど、松喬師匠にめっちゃくちゃ似てるんですよね。セリフは同じで、三喬が自分の何かを、人間性を入れてるわけですよね。

--そのやり方を教えられることがありましたか?

それはなかったですね。ひとつひとつの落語をここはこうやと3年間みっちり教えてもらいましたけどね。それは絶対的に大事なものやと思います。でも今、修業中に教えられたもので変わってないものはないですね。全部、なにがしかは変わっています。「元のんやれ」って言われてもできますけど。

--「牛ほめ」は三喬さんにお稽古をつけてもらったのですか?

はい、三喬からみっちりと。もちろん、松喬師匠のを聞いても、三喬のを聞いてもこう教えてもらったなと。

--ネタが受け継がれているということですね?

で、自分で変えましたね。だんだん短くなって、今の形になっています。

--新しい時代ってことですか。

僕、思うんですけど、米朝師匠が落語をいろいろ新しく変え、新しく掘り出して現代に合うように変えたと。でも、それから40年くらいたってるわけですよね。僕らの時代には僕らの時代の大衆芸能の落語としてやるべきことがあると思うんです。変えてはいけない部分はあると思うんです。でもお客さんがわからなかったら、変えないかん部分が絶対あると思うんです。変えなくてわからんでもええ部分は変えなくていいと思うんです。でも、ここはこうした方がいいというものは取り入れていく。そういう時代やと思うんです。

--上方では260人以上、東西でたくさんの落語家さんがいますからね。

かっちりやる人もいますよ。でも、全員かっちりしたら、きっとおもしろくないですね。私はこういう風にやるんだというのが絶対的に今の時代は必要になってきてると思います。だから、あっこ間違ってるで、これこれこうやねんというのは違うと思います。その人には間違いであったとしても、別の人間にとったら正解かもしれない。それはお客さんにも言えて、お客さんにとってこの人は正解かもしれへんけど、こっちは間違いかもしれへん。選ぶ時代ですもんね。それは考えないかんなと思いますね。

--堅い頭を柔らかくするということですね?

これから先、特にそうやと思います。

--大学は近畿大学ですよね。大学時代は?

落研でした。ひとつ上に講談の旭堂南青さんがいて、この世界に入るのに南青さんに相談したんです。そしたら、今は中堅でものすごくいい人がいると。笑福亭三喬さんと林家染二さん。で、三喬の方がほわっとしてるのが合うなと思って、行かしてもらいました。

--三喬さんに弟子入りしてどうでしたか?

ほんとよかったと思います。注意されたこととか、怒られたこととか、破門になったこととかいろいろありますけど。

--破門ですか?!

何回もありますよ。で、そのたびに松喬師匠に助けてもらったり、一門の人に助けてもらったり。一番最後の破門の時は師匠の奥さんに助けてもらいました。「嫌味な人間やったら私は嫌ですけど、まっすぐやから助ける」って。

--人柄は大事ですからね。

めっちゃ嬉しかったですね。感謝です。

--今年はなにわ芸術祭で新人賞を受賞されました。発表の時、喜ぶ姿が感動的でした。

本当に嬉しかったです。

--このグランプリができたことに対してはどうですか? 

グランプリを創っていただいてありがたいです。チャンスが増えるっていうのもあるし、お客さんがいろいろ言うてくれますしね。知らないお客さんがよかったよ、今度見に行くわって言ってくれて。

--師匠はもっとガンガンいってくれたらいいのになって思っているかも。

なにわ芸術祭で受賞したことを師匠に報告しに家に行った時に「うちの一門は、そんな一気にバンて売れるところやないって、お前も10年やってわかったやろ。だからこれから10年先、20年先、なにか賞に巡り合えたらそれはそれでありがたいけど、長く自分で考えてやっていくことやな」って言われました。

--決勝に向けてネタは決めてるんですか?

笑いだけにこだわるんやったら、「時うどん」とかでもいいんですけど、またそれかって、僕の場合よけい思われる(笑)。なんかいうたら「時うどん」やるなって。それ思われるのが非常に嫌で。最終決戦に「時うどん」を出した時点で「負けたな」って。だから違うのやります(笑)

--ネタ選びですでに負けた気に?

まわりに負けるよりも自分に負けた気がするから。たぶん、選ばないです(笑)。

--決勝のほかのメンバーを見てどうですか? キャリアが上の人もいるし、下の人もいる。

噺家自身個性が強いっていうのもありますけど、その中でも、なんか一癖も二癖もあるような人が残ったかなと思いますね(笑)。それぞれ考え方が違いますもん。あと、順番がほんとにイヤ。トップにはなりたない、頼むわー!

--今回のトップはトップといえども強敵ですよ。

みなが何をするか…。いやー、自分に負けて「時うどん」出したらどうしよう。世間の圧力に負けて「時うどん」! 

--決勝は12分ですよね。予選より4分多いとだいぶ違いますよね?

だいぶ違います! なんでもできるんちゃうかなと思います。

--じゃ、その中で喬介ワールドを炸裂させると?!

させたい! させたい! 結果がどうなるかわからないですけど、勝ちたいなー、やっぱり。

--決勝に向けての意気込みをお願いします。

「牛ほめ」論と一緒で、長い落語を短くして、さらに楽しくするっていうことをしたいですね。登場人物とか、空間の世界の楽しさを自分らしく見せれる落語がいいかなと。決勝も自分らしい人物を見せれる落語をしたいです!

取材・文/日高美恵




(2016年6月17日更新)


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笑福亭喬介
しょうふくてい・きょうすけ●1981年7月22日生まれ、大阪府堺市出身。2005年6月に笑福亭三喬に入門。

上方落語若手噺家グランプリ2016 決勝

▼6月21日(火) 18:30
天満天神繁昌亭
[出演]
笑福亭たま
林家笑丸
桂雀五郎
桂ちょうば
桂雀太
桂三四郎
笑福亭喬介
露の眞
桂三語
桂あおば

※未就学児童は入場不可。
[問]天満天神繁昌亭
[TEL]06-6352-4874

※前売券完売

当日券(補助席)情報!

6月21日(火)17時30分より天満天神繁昌亭にて発売!
(数に限りあり)

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