ホーム > インタビュー&レポート > 「究極だからこそ、突き刺すように感じられる」 同性愛者の“極限の愛”を描く舞台『BENT』で主演 佐々木蔵之介が意気込みを語る!
ナチス政権下のベルリンの強制収容所を舞台に、ナチスにより迫害された同性愛者の“極限の愛”を描く『BENT』。1979年にロンドンで初演され、日本でも数々のカンパニーで上演されてきた名作が、佐々木蔵之介主演で上演される。
2014年に出演した舞台『ショーシャンクの空に』では刑務所、2015年の『マクベス』では精神病棟というシチュエーションで役を生きた佐々木。「正直言うと、そろそろ軽いタッチのライトコメディをやってみたいなと思っているんですよ」と笑うが、出演の決め手となったのは、演劇の醍醐味を感じたことにある。「ホンを読んでみると、いい作品だなと。特に2幕、私が演じるマックスと北村有起哉さん演じるホルストが、石を右から左に一つずつ運んで、終わったら左から右へ一つずつ運んで…という、何の生産性もない、無意味な作業を黙々とやり続けるんですが、そんな中で、お互いの目も見ず、触れることもせず、言葉だけで愛し合う。僕は演劇の力って言葉にあると思うので、そのシーンはすごく衝撃的でしたね。お客様にも観ていて“おぉ、すごいな!”と思っていただけたらいいなと思いました」。
強制収容所内で出会い、次第に心通わせることになるホルスト役の北村は、舞台では3度目の共演。「舞台上でとても信用できる、日本の演劇俳優の中でも大好きなひとりですね。稽古中に失敗しながらもいろいろと試していく姿勢がすごく好き。いつも彼にしかできない縁起プランをそばで見て、一緒に楽しみながら作っています」と厚い信頼を寄せる。また、演出を手掛ける森新太郎とは今回が初めての仕事となる。「森さんと同じ演劇集団円の橋爪功さんに森さんとご一緒することを伝えたら、“あいつ稽古長いぞ~、いつまでもやるぞ~”って。長すぎるのも嫌ですけど(笑)、演劇というのは1ヵ月稽古して、2ヵ月本番があって、トータルで3ヵ月作品と向き合うことになる。その中でとことん作品を掘り下げて突きつめていける演出家はいいですよね。才能ある演出家さんなので、すごく楽しみにしています」。
7~8年ほど前、いつか戦争ものに出るときのためにポーランドのアウシュヴィッツ強制収容所へと訪れ、実際にそこで陰惨たる空気を肌で感じた佐々木。この舞台も一見ダークな雰囲気が漂うが、エンタテインメントの力でいろんなハードルを凌駕したいと語る。「希望を持っちゃいけない、人として生きられない人が、究極な状態でお互いを愛することによって、生きている喜びを感じる。愛することの大切さが、究極だからこそ突き刺すように感じられるんじゃないかなと思います。恋愛の好き嫌いではなく、もっと深い愛、すべてを受け入れて愛する美しさを感じていただけたらと思います。終戦時期での上演で、いろいろと考えることもあると思います。皆さまの心に残る、希望あふれる舞台にしたいと思いますので、みなさん強制収容所に一緒に入ってみましょうか(笑)」。
取材・文:黒石悦子
撮影:木村正史
(2016年6月15日更新)