インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 音楽劇『星の王子さま』に飛行士役で出演する 伊礼彼方にインタビュー 「劇場で子どもの心を開放してほしい」

音楽劇『星の王子さま』に飛行士役で出演する
伊礼彼方にインタビュー
「劇場で子どもの心を開放してほしい」

誰もが知っている不朽の名作『星の王子さま』が、脚本・演出青木豪、作曲・音楽監督笠松泰洋で、音楽劇として上演される。作者のサン=テグジュペリ自身でもある飛行士を演じるのは、ミュージカルやストレートプレイで活躍する俳優の伊礼彼方。伊礼に作品に対する思いや、俳優としての今後の方向性などをたっぷりと語ってもらった。

――今回は、飛行士を演じられますが、オファーがあったのでしょうか。

そうですね。『星の王子さま』をやるということで、「あ、また王子さま役か」と思いつつも、「僕で良ければ」と返事をしたら、「今回は飛行士の役です」と言われました。ですよね(笑)。

――王子さま役だと思い込んでいたのですね(笑)。チラシには、飛行士ほかと書いてありますが、飛行士以外の役もされるのですか?

まだ脚本が出来上がっていないので、何とも言えませんが、動物や酔っ払いのおじさん、会計士などさまざまなキャラクターが登場人物として出て来るので、その辺りを担うんではないかと。特殊な役は、キャストの廣川三憲さんがされるのではないかと思います。

――もともとサン=テグジュペリの原作『星の王子さま』にはなじみはありましたか?

いえ、そんなになかったんですが、サン=テグジュペリが描いている有名な絵は知っていました。出演が決まって、改めてちゃんと読んでみると、ハートフルでキレイな作品だなと思いました。この作品で大切にしなければいけないも のは、飛行士が持っている子どもの心だと思うんです。飛行士は、星の王子さまに影響されて、過去の自分や新しい 自分と出会う。飛行士のイメージは白いキャンバスだと思うんです。星の王子さまが来て、そこに多彩な色を塗って いって、「僕にもこんなに感情がたくさんあったんだ」という、気づきになればいいと思いますね。もともとそれ は持っていた感情でもある。サン=テグジュペリも子どもみたいな人ですから。今、どうしたらそこへ行き着くのか 模索しています。

――飛行士はどういう人だと捉えられていますか。

自分が持っている想像の世界を大人たちは全然分かってくれなくて、大人たちと付き合うためには、そこに蓋をして生きている。でも、誰でもそうだと思うんですよ。僕自身もそうですし。大阪に来るとかなり心を開きますけど(笑)。

――それはまた、どうしてですか?

僕はハーフで、半分ラテンの血が流れているんです。関西人の弾け方やノリとなんとなく似ていて、僕は勝手に大阪を第二の故郷だと思っています(笑)。例えば、物が落ちていて、街を歩いているオジサンやお兄さんに平気で「落としました よ」と声がかけられるんです。そこから話が盛り上がって、飲みに行こうという雰囲気にさえなるんですよ。東京だ と、「ありがとうございます」で終わってしまう。

――よく、アーティストの皆さんが、「大阪はニューヨークやラテン系の街に似ている」とおっしゃるのを耳にします。私は大阪出身なので、近すぎてよく分からないのですけど。

本当ですよ。東京の人って皆、カプセルの中に入っているみたい。カプセル同士が話している感じなんです。「カプセル取ろうよ、そこから出ようよ」と思うんですよね。

――確かに、関東の人は自分を落とさないところがありますね。

落とさないですよね。カプセルを脱いだ状態だと向こうが引くから、こっちもカプセルを作ってしまう。大人ぶっているんですけど、大人じゃないんですよ、僕は。今だに大人に反抗していますから。「そんなに知識や理屈を並べられても、感情は違うでしょう」と思うことがある。『星の王子さま』みたいに、知識や理論だけでは得られないものがたくさんあると思うんです。生き残るためには、真実に蓋をして、政治や社会にまみれて生きていかなきゃいけないのは分かるんです。でも「闘おうよ」と思いますね。

――そういう「闘う」気持ちは大人になると、徐々に薄れていきますよね。でも、まだギラギラと持っていらっしゃると。

ええ。「新しい武器ねぇかな」と探しています(笑)。40になっても50になっても持ち続けていると思います。皆、そういう「闘う」気持ちが薄れる訳ではなく、一社会人として立場もあるし、反抗したくてもできにくくなる。僕は、極論で言ってしまうと、遠慮して我慢するんだったら、別の仕事をすればいいとさえ思っている。理不尽なことは許せないだけです。お陰さまで仕事は今まで繋がってきてはいますけど、それはお互いの信頼関係があってこそだと思います。僕はアルゼンチン育ち ですが、外国はあまり世間体がないんです。社会だけ。社会の人とすぐにハグできて仲良くなれる。日本人は皆、世間体 をすごく気にして生きていて、知らない人とのコミュニケーションを断っているからすごくもったいないと思うんです。大阪はその世間体がない感じがします。関西人のイメージは、皆オープンマインドでディープ。だから僕は好きなんです。その辺りが『星の王子さま』に出てくる登場人物と似ている。飛行士がいる他人と隔たりがある社会に、星の王子さまをはじめ、動物やバラなど他人とガンガンコミュニケーションを取って迫ってくるキャラクターが登場するんです。星の王子さまと関わるのを躊躇していた飛行士も、どんどんオープンマインドになっていく。

――なるほど、その関係性がラテンや関西人のようなのですね。面白い解釈ですね。ところで、『星の王子さまミュージアム』に行かれたそうですね。

早々に今年の春に(笑)。ミュージアムは箱根にあって、とても素敵な環境で当然ですけど『星の王子さま』づくし(笑)。原画のほか、サン=テグジュペリの書斎を模した部屋や、彼の住んでいた建物、乗っていた飛行機のミニチュアなど、作品にまつわるものがたくさんありました。 当初はもっと複雑だったこの原作が何らかの経緯で、分かりやすく変わっていったという過程も見られるんです。非常に興味深かったですね。ヨーロピアン貴族出身だったサン=テグジュペリは幼少期にはお城に住んでいて、早くに弟を亡くして、飛行士だった彼自身も志願して戦地へ赴き各国を転々としたり、亡命したり。度々結婚し、結構、複雑な人生を歩んできた。子どもの心を抱えたまま大人になった人だから、僕と同じで、「何 故、皆、分かってくれないんだろう」という気持ちが強かったんだと思います。

――作品に登場するキャラクターのバラは、星の王子さまと言葉が通じない。星の王子さまが後に、「その言葉の裏に隠された優しさに気づくべきだった」という場面がありますね。

それは老夫婦にならなきゃ分からないレベルの話かもしれませんね(笑)。「あれ取って」「ああ、お茶が欲しいのね」みたいな。僕はバラと星の王子さまのシーンは、そういうふうにとりました。男女にかかわらず、深い仲の関係。長くいて、二人にしか分からない感覚だと思うんです。親やきょうだい、恋人、友人にも共通しますよね。でも、見えない優しさってなかなか気づかないもんなのですよね。気づきますか?

――いえ、全然気づかないです(笑)。その難しさも作品が教えてくれますよね。ところで、話は変わって、今回、作曲を担当される笠松泰洋さんの音楽はいかがですか。

オペレッタ風なんですよ。今のところ、しゃべる感じの曲調ですね。アーティスティックでかっこいいです。ジャズ風でもあったり。歌って聞かせるソロもあると聞いています。

――星の王子さまは、女性の昆夏美さんが演じられます。

僕は『ハムレット』で昆さんと共演していますが、いやぁ、もう彼女がやるなら勝ちでしょう(笑)。キャスティングで7、8割成功が決まると思うんです。昆さんは演技力はもちろんのこと、とても透き通った声をしているので、それが星の王子さまとして、スーッと心の中に刺さっていく鋭い言葉につながれば素敵だなと、思います。原作を読む限り、星の王子さまの言葉は、大人が傷つくぐらい、すごく、鋭いんですよ。飛行士は星の王子さまに「こういう気持ちがあったんだ」と引き出してもらう。星の王子さまは飛び道具なんですよ。

――キャスティングで勝ちとおっしゃっていましたが、廣川さんは?

お会いしたときにイメージとは違って、すごく面白い方だなと。良い意味で、怪物のようで何でもできそうな方です。そして、歌が得意!という。最強ですね。女性役をやっていてもすごいだろうなと 思います。今回は昆さん、廣川さんで、ほら、勝ち!でしょ(笑)。

――『星の王子さま』といえば、かの有名なキツネの「本当に大切なものは目に見えない」というセリフがあります。伊礼さんはどう解釈されていますか?

大切なものは目に見えないから、人を傷つけてしまう。気づいたときには形になって、傷つけて目に見えてしまう。傷ついた人を見ているんです。僕はそう感じました。いつも頭で考えるより、口が先に出ちゃうんですよ(笑)。

――私もそうです(笑)。一言多いと後悔しますよね。

言いながら自分で認識しているので、あららと思っても方向修正できない(笑)。サガですね。だから大切なものは目に 見えない。見えたときは傷つけちゃってるから(笑)。

――心したいと思います(笑)。ほかに好きなセリフはありますか?

「たくさんの星のひとつに僕がいて、そこで僕は笑っているんだからね」というセリフが好きです。なんて切ないんだろうと。死んでも僕はそこにいるわけだから。「僕のバラはほかのバラよりずっと大切だ。僕がお世話したバラだから」というのもいいですね。観客も恋人や友達、兄妹のほか、敵対する人に置き換えて、見てもらえれば感じ方は変わると思います。すごくピュアになれる作品ですね。子どもの心を持ったまま生きていくのは大変なんですが、この作品を読むとそのままでいいんだと改めて気づかされます。忘れちゃいかんなと思いますね。

――今後は、『星の王子さま』のほか、ミュージカル『王家の紋章』などに出演されますね。

今は半々ぐらい、ミュージカルもストレートプレイも出ていますが、2年ぐらいはストレートプレイばかりでした。 ミュージカルでも芝居要素の強い作品に出させて頂いてました。ショー的な作品はあまり自分の性に合わない。今は様々な 演出家の方と様々な作品に出会いたいですね。でも、そういう経験を重ねて一周したら、また、ショー的な作品にも出た いと思うようになるかもしれない。今回も色んな経験をしたからこそ、帝国劇場での『王家の紋章』のようなビッグカンパニーで も自分を見失わずに舞台に立てるかなと。デビュー当時から、芝居的要素が強い作品に出たいという思いは一貫し ていたんですが、とにかく、王子さまとして見られることから脱却しなきゃいけないと思っていました。本格ミュージカルデビューが『エリザベート』のルドルフ役だったので、なかなかそのイメージが取れない。取れないなら自分から振り切っち ゃえと。それこそ着ぐるみを着たり、三枚目の役をしたり。率先して受け入れてます。

――二枚目だと苦労されるのですね。

一度ついてしまった印象はなかなかぬぐえないですね。そういうイメージを払拭したいのと、もっと視野を広くしたいと思って、ミュージカルはしばらくお休み していたんです。振り切った役はどこでできるのかと考えたときに、ストレートプレイに出会えた。この見てくれで、はっちゃけたことをやっても受け入れてもらえたんです。

――伊礼さんの歌声も関西のファンは楽しみにしていると思います。

最近歌をあんまり歌っていないので、頑張ります。でも、あくまでも僕の好みですけど、技術的に歌がすぐれた人間より、芝居畑の人間が歌ったほうが魅力的に感じる。音程が危なっかしくて下手でも、芝居畑の人が歌うと表現が豊かだから言葉がスッと入ってくる。そこは強みだなと。僕もそうなりたいと思って、お芝居をしようと思ったんです。お芝居をしないと役としての幅の広い感情表現は生まれない。でもミュージカルをするには歌の技術も必要不可欠だし、その匙加減が難しいんですよ。 激烈に謳い上げるシーンで音程外しちゃうと、観客は「お金返せ」と思いますよね。これは謳い上げる系、お芝居系、これは その中間と、僕の中でジャンル分けをすればいいんですけれど。しばらくミュージカルを離れて、ストレートプレイ中心だったけど、久々に歌うとなぜか「歌うまくなったね」と言われて。当然レッスンもしてなかったんですが、そう思って頂けるのは、少しずつでも表現力 が身についてきたんだと思います。

――今はご自身の中では、役者としてちょうどいい方向性に向かっていると思いますか?

いや、まだまだですね。スタートラインからちょっと進んで、遠くに目標が見えてきたぐらいな感じ(笑)。とにかく、ミュージカルというカテゴリーだけに捕らわれたくはないですね。ジャンルも固定してしまうと面白くないし。そこは常に葛藤しています。ミュージカルも ストレートプレイも関係なく、どっちもやれる俳優はまだ少ないので、そういうカテゴリーの呼び方はないですかね?両立プレイと か?(笑)。いい言葉はないのかなぁ…。

――伊礼さんがその言葉を作って、ぜひ、広めて下さい(笑)。最後に読者にメッセージをお願いします。

皆が知っている作品ですが、青木豪さんが視点を変えて脚本を書かれるので、原作を読んだイメージと違う世界観が 生まれると思います。役者が放つセリフで心への響き方も変わるはずです。水戸、埼玉、福井、東京、兵庫など色んな土地 を回り、その地、その地に星の王子さまが降り立ったようになればいいですね。皆が抱えていて、隠している子ども の心を開放してほしいと思います。「そんなんじゃ、生きていけねぇんだよ!」と言われそうだけど、劇場にいる時 間はそれでいいんです。チケット代で子どもの心を買ってください!劇場でお待ちしています!

取材・文 米満ゆうこ




(2015年10月 6日更新)


Check
伊礼彼方
いれいかなた●1982年2月3日生まれ。沖縄県出身の父とチリ出身の母 の間に生まれる。幼少期は海外(アルゼンチン)で過ごし、その 後、横浜へ。中学生の頃より音楽活動を始め、ライブ等で活動しながらミュージカルと出会う。その後、舞台を中心にミュージカル以外にもストレートプレイや朗読劇など、ジャンルを問わず、幅広い表現力と歌唱力を武器に多方面で活動中。2016年、『ピアフ』『あわれ彼女は娼婦』『王家の紋章』に出演予定。

音楽劇「星の王子さま」

発売中

Pコード:445-189

▼2016年1月16日(土)・17日(日) 14:00

兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

全席指定-4500円

[劇作・脚本][演出]青木豪

[作曲]笠松泰洋

[演奏]服部桂奈(ピアノ)/小美濃悠太(コントラバス)

[出演]昆夏美/伊礼彼方/廣川三憲

※音楽監督、笠松泰洋
※未就学児童は入場不可。1/16(土)、演出家と出演者によるアフタートークあり。

[問]芸術文化センターチケットオフィス
[TEL]0798-68-0255

チケット情報はこちら