インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「エネルギーを渡せる作品に」 鴻上尚史が主宰する虚構の劇団が 現代を照射した約3年ぶりの新作を上演!

「エネルギーを渡せる作品に」
鴻上尚史が主宰する虚構の劇団が
現代を照射した約3年ぶりの新作を上演!

2008年に作家・演出家の鴻上尚史が若い俳優たちを集めて立ち上げた虚構の劇団。劇団公演では約3年ぶりの新作となる『ホーボーズ・ソング HOBO’S SONG ~スナフキンの手紙Neo~』の大阪公演が、近鉄アート館にて間もなく開幕する。鴻上が今一番書きたいことを書いたという本作は、「賛成派と反対派に分かれて内戦を続ける日本があったとしたら」とイメージしたことから書き上げたSFの物語。その作品に込めた思いについて、鴻上に聞いた。

――まず、今回の作品について教えてください。

舞台は、ふたつの勢力が戦い合っている内戦状態の日本です。なぜ戦いが起こったかというと、昨今話題の、近隣のアジア諸国問題が原因で、日本はどういう態度を取るべきかと意見が分かれ、片方は近隣諸国と戦うべき、もう片方は戦うべきではないと、分裂したのが基本の世界観です。そんなパラレルワールドのSF世界設定でいろんなエピソードが起こります。ひとつ象徴的なことを挙げると、ある男が、捕虜の女性を尋問しに行ったところ、そこに昔の恋人が座っている。監視カメラのある尋問室で、口を割らなければ拷問しろと言われている男はさぁどうする…というエピソードがありますね。

――書いたきっかけは、昨今の社会情勢を受けてですか?

そうですね。劇団公演の場合は、大きなプロデュース公演とは違って、稽古初日に台本があればいいので、昨今の情勢を取り入れられることができるんです。ツイッターやネットとかを見ていても、憎しみを持って「戦えばいい」と語る人と、「そうじゃないんだ」と言う人たちがすごく分かれていて。今問題になっている安保法制も、「戦争を準備する法案だ」という側と、「日本を安全保障に導く抑止力として、世界に貢献する法案なんだ」という側の、対立のズレを見ているうちに物語のイメージが浮かんだんです。

――それを舞台でやることで表現したいことは?

あくまでも政治のことを言いたいわけではないので、どっちの立場に立とうとか言うつもりは全然なくて。何でこんなに考え方が違うんだろうとか、もし内戦になるような状況になったら僕たちはどうなるんだろうということを考えたいんです。政治がどれだけ対立していようが、芸術とか芸能がやれることを確認したり、繋いだりすることかなと思います。それも僕の作品なので、ちゃんと笑いもダンスも歌もあって、内戦ものなのでファイティングがたくさんある、実に盛りだくさんな舞台になります。

――ファイティングはアクションですよね。

そうです、殺陣があります。客演の佃井皆美が、JAC(JAPAN ACTION CLUB)改め、JAE(JAPAN ACTION ENTERPRISE)のイチオシの女優さんなんですよ。以前、『リンダリンダ』という作品で出ていただいて、すごく真面目でいい女優さんだったので、また今回もお願いしたんです。JAE仕込みのアクションを見せてもらおうと思っています。

――それは楽しみですね。劇団鹿殺しのオレノグラフィティさんも客演されますね。

昨年に引き続いて出ていただきます。オレノ君は元祖関西引きこもり(笑)。すごく優しい人だけど、舞台ではカッコよく見えるんですよね。気を抜くと引きこもっちゃうので、気を付けるように言ってるんですよ(笑)。彼には鹿殺しで小劇場界のヒーローとして真っ直ぐに育ってほしいなとすごく思いますね。

――ちなみに、劇団員の方々の平均年齢は何歳ですか?

25歳くらいですね。

――若いですね!

研修生が4人いて一番下が19歳というのも大きいですね。作家としては一番リアルな新作が書けるというところに劇団をやる意味があるんですけど、演出家としては、ひとりでもいいから将来の演劇界を背負うような俳優が生まれたらいいなと思っていて、そのためにやっているところが大きいですね。お客さんにとっても、先物買いの魅力というか、「この役者のあの時代を見ていたぞ」というために、今のうちに虚構の劇団に注目していただければと思っております。

――今回が11回公演ですね。これまでに10回上演してきて、役者さんたちに変化を感じることはありますか?

どうだろうねぇ(笑)。僕はついひいき目で見てしまうので、お客さんが冷静に見て、着実に成長していると思っていただけるかどうかですよね。でも、客演の話も外部からいただくようになってきているし、俳優たちが自分たちでユニットを作って、作品を作っていたりするので、成長してくれているといいなと思います。

――『ホーボーズ・ソング』というタイトルの意味を教えてください。

“ホーボー”というのは英語でさすらい人という意味で、いわゆる“バガボンド”とか“ドリフターズ”も同じような意味なんですよね。内戦状態の日本で、国がうまく定まらずふらふらと彷徨っているような印象がすごくあって。国自体がふらふら彷徨うと、この国で生きている僕たちもそれに翻弄されて彷徨うことになるだろうなと思って。実際、今の我々が彷徨っている人たちかなって思うので、そういう人たちの歌を書いてみようと、このタイトルにしました。

――サブタイトルにはどんな意図があるんですか?

『スナフキンの手紙』というのは、僕が1990年代に書いて岸田國士戯曲賞をいただいた作品で、その時の設定が、「表面上は平和に見えているけど、実は無数の正しい戦いに溢れた日本」という物語だったんです。で、今回内戦状態の日本で、現代だけどパラレルワールドの日本で戦いで溢れているというのは、『スナフキンの手紙』と構造が一緒だなと思って“Neo”とつけたんです。今書くなら、どちらもこの国の将来を考えているものの、非妥協的で、お互いが歩み寄らないふたつの勢力だなと思ったんです。だから、『スナフキンの手紙』を知らなくても全然楽しめるというか、単に同じようなこの世界で、日本、現代、デモ、並行世界、打開っていうキーワードで考えました。

――受け取る側もさまざまでしょうね。

ただ、「彷徨っているこの国は、どこにいくんだろう…」って、深刻になったり落ち込んだりするよりも、殺陣もダンスも歌も笑いもあるので、基本的には楽しんでいただきたいんですよ。そういう状況に打ちひしがれるのではなく、何とか生きていこう!というエネルギーを持ってもらえればそれでいいんです。お客さんの中には、近隣アジア諸国と戦うべきだと思っている方もいるだろうし、絶対戦ってはいけないと思っている方もいると思う。それは、それぞれが思うかもしれないけど、そこにいる人間のしんどさや切なさや大変さを受け取ってもらいつつ、どういう状況になっても元気に生きていかないと!って思っていただけたらなと思います。どんな作品でも、最終的にはお客さんに劇場に来る前よりも帰る時の方が元気になってもらいたいので、しっかりとエネルギーを渡せる作品にしたいですね。

――社会的な枠組みの中で、人間がどう生きていくべきかと。

そうですね。それが見せたいことであって、どっちの陣営が良い悪いということではないので。戦争って、上層部はある考え方で突っ走るかもしれないけど、下の人たちは何かに影響されて始めることも多かったりする。だから内戦になったときも、はっきりとした考え方でこっち側につく人は少ないんじゃないかと思っていて。割と単純に、知り合いとか、親とか親戚とか近所の人に影響されていく人が多いんじゃないかなと思うので、そういう状況に放り込まれた人間のもどかしさとか、悲しさとかを描きたいんです。

――そうした作品を、若い人たちがやるからこその面白さがあるかもしれませんね。

そうですね。彼らが逃げずに格闘してくれたらね(笑)。虚構の劇団は若い役者たちがヒィヒィ言いながら僕のセリフと格闘しているので、その姿に元気をもらう人がいるような気がします。僕は演劇のキャリアが少ないからって、台本を甘くするわけじゃなく、作品としてしか書かないんですよ。だから、必死になって演じている姿が感動的に見えることもあると思います。彼らが逃げないように、今彼らができることを限界まで引き出すことが僕の演出家としての役目ですね。

――また舞台に立つと、さらに役者さんたちの意識が高まるでしょうね。

生の舞台は俳優を育てるんですよね。“今すごく頑張っているのに、お客さんが引いていってる”とか、逆に“すごく楽に演じているのに、お客さんが引きつけられてる”とか、リアルタイムで自分の演技に対するリアクションが分かりますからね。本当に、お客さんが入ることで俳優がすごく成長するんです。

――お客さんも、若い人に観てほしいという想いはありますか?

そうですね。今回は会場が近鉄アート館なんですよ。僕ら20年くらい前、第三舞台の時にアート館で公演をしていて、ちょうど大阪の演劇シーンが一番活気づいていた頃だったので、若い子がすごく集まっていたんです。またそんな盛り上がりが見たいですし、初めて観るお芝居としても楽しんでいただけると思うので、若い方はもちろん、色んな人に楽しんでいただきたいですね。

 

取材・文/黒石悦子




(2015年9月12日更新)


Check
鴻上尚史
こうかみ・しょうじ●1958年生まれ、愛媛県出身。作家・演出家。1981年に劇団「第三舞台」を結成し、ポップで批評性に富み、疾走感のある舞台を繰り広げる。以降、作・演出を手がけ、『朝日のような夕日をつれて』『ハッシャ・バイ』『天使は瞳を閉じて』『トランス』などの作品群を発表し、2001年に劇団の10年間封印を宣言。現在は虚構の劇団の他、プロデュースユニットKOKAMI@networkでの作・演出を中心に活動している。ドラマの脚本や、映像の脚本・監督も務めるなど、幅広い活躍を見せる。

虚構の劇団
「ホーボーズ・ソング~スナフキンの手紙Neo~」

【大阪公演】
発売中 Pコード:445-470

▼9月11日(金) 19:00

▼9月12日(土)14:00/19:00

▼9月13日(日)14:00

全席指定-4500円

近鉄アート館

[作][演出]鴻上尚史

[出演]小沢道成/小野川晶/杉浦一輝/三上陽永/渡辺芳博/森田ひかり/木村美月/オレノグラフィティ/佃井皆美/他

※未就学児童は入場不可。

[問]キョードーインフォメーション
[TEL]0570-200-888

当日引換券もあります!
チケット情報はこちら


【新居浜公演】
発売中 Pコード:445-439

▼9月22日(火・祝)13:30/18:30

▼9月23日(水・祝)13:30/18:30

指定席引換券-3000円

あかがねミュージアム 多目的ホール

※未就学児童は入場不可。

チケット情報はこちら


【愛媛公演】
発売中 Pコード:445-211

▼9月26日(土)18:00

▼9月27日(日)13:00

S席-3500円 A席-3000円

内子座

※未就学児童は入場不可。

チケット情報はこちら