「登場人物それぞれに面白味がある」
ケラリーノ・サンドロヴィッチの
チェーホフシリーズ第2弾
『三人姉妹』が豪華キャストを揃えて上演!
段田安則が作品の魅力を語る!
ダークな笑いと不条理な作劇で定評のあるケラリーノ・サンドロヴィッチが、チェーホフ四大戯曲に挑む【KERA meets CHEKHOV】シリーズ。2013年に上演された第1弾の『かもめ』に続いて、シリーズ第2弾となる『三人姉妹』の大阪公演が間もなく開幕する。同シリーズは、最高のキャスティング、シチュエーションが整ったところで上演が決定する不定期企画。今回は、三人姉妹を演じる余貴美子、宮沢りえ、蒼井優の他、段田安則、堤真一ら豪華キャストを揃えての上演だ。演じるのは、自分の意とは異なる人生に満たされぬ思いを抱きながら日々を過ごす人たち……。ロシアのとある田舎町を舞台に、故郷のモスクワへと思いを馳せるオーリガ(余)、マーシャ(宮沢)、イリーナ(蒼井)の三人姉妹とその兄弟アンドレイ(赤堀雅秋)らプローゾロフ家の人々と、屋敷に集う人たちの人間模様が描かれる。その中で、軍医チェブトゥイキンを演じる段田安則に、作品の見どころや本作にかける想いを聞いた。
――東京公演の感触はいかがですか?
「一般的に難しいイメージがあるチェーホフで、上演時間も長めなので、最初はお客さんが寝たらどうしようって思っていたんですけど(笑)、それほど心配することはなかったです。観に来てくれた知人も面白いと言ってくれましたし、カーテンコールの拍手を聞いていると、受け入れていただけたのかな、と感じています」
――最初はちょっと不安だったんですね。
「そうですね、古典で難しいイメージがある戯曲ですからね。役者側は自分の役を精一杯演じることがすべてなんですが、幕が開いて実際の評判を聞いてから、好評で良かったね、と演出家ともそんな話をしました」
――以前、栗山民也さん演出の『櫻の園』にも出られていますが、チェーホフ作品についてはどんなイメージを持たれていましたか?
「昔から有名な新劇の劇団が手掛けてきた作品ですし、立派な戯曲で面白いんだろうなという印象を漠然ともっていました。実際に、初めて『櫻の園』に出演したときは、自分の役にスッと入り込めたこともあってか、チェーホフだぞって構えることもなく、自然に演じられた記憶があります。でも、今回の役はなかなか手強くて、どう捉えてよいのか試行錯誤の繰り返しでした。物語の筋はそれほど難しくはないんですが、掴みどころのない空気があって、これがチェーホフの持ち味なのかなと改めて思いました」
――段田さんが演じられているチェブトゥイキンと、三人姉妹との関係はどんなふうに描かれているんですか?
「KERAさんの言葉を借りると、“親戚の困ったおじさん”みたいな感じです(笑)。姉妹たちのことは小さい頃から知っていて、大事に思っているんですけど、周りから見ると“困ったな、このおじさん”というニュアンスの人物。特にイリーナのことは幼い頃からずっと大事に思っていて、アンドレイのことも随分気にかけていることが、演じているとよく分かります。雰囲気としては、ちょっと他の人たちとは違う、浮世離れした人のようなイメージで捉えています」
――これまでも、色んなカンパニーで繰り返し上演されたり、形を変えて上演されたりしている作品ですが、その魅力はどこにあると思いますか?
「なぜか人を惹きつける魅力があるんですよね。どうにでも解釈できるし、分かるようで分からないモヤッとした感じが、皆、手を伸ばしたくなるんじゃないかな。“何なんだろう、この人間は”とか“何で生きているんだろう”とか、そういうことを考えさせる力がこの戯曲にはあるんだと思います。あと、姉妹だけではなく、ここに登場する人物たちは、みんなどこか欠陥があるんですよね。そういう人たちの可笑しみや哀しみが表現されていて、それはいつの時代も通じるものだと思います。」
――実際に演じている中でもモヤッとする部分があるんですか?
「やはりあります。そもそも100年以上前のロシアだったら、貴族、軍人はごく一部の特権階級で、農奴が多かった時代だと思いますが、その人たちの気持ちは、ここからはなかなか掴めないですから。ただ、今、日本に生きている僕らが分かる部分だったり、面白味を感じる部分を大事にして演じることが大切だと思っています。どうしても翻訳劇には、分からなくて仕方がない部分はある。でも、自分が面白いと思えるところに光を当てていくことで、今の時代に生きているお客さんにもちゃんと伝わるし、面白くとらえていただけるんじゃないかなと思います」
――KERAさんは自身の作品でも三姉妹ものなどを書かれていて、そこには『三人姉妹』が影響されているようですが、KERAさんの『三人姉妹』への向き合い方について、何か感じるものはありますか?
「台本もすべてKERAさんが手を加えていらっしゃるのですが、本質的な部分はいじらずに、テンポよく書かれています。奇をてらわずオーソドックスに、正面からぶつかって面白いものを作ろうという挑み方をされているなと感じますね」
――座組みも素敵な面々が揃いましたね。
「そうですね。姉妹を演じる三人はそれぞれに素晴らしい女優さんで、しっかりと役に向き合っていらっしゃいますが、アンドレイ役の赤堀君も面白いです。僕個人としては、三人姉妹の中ではオーリガ役が一番難しい役なんじゃないかなあ、と思っているんです。長女ゆえに、皆のことを考えながら、自分は婚期を逃してしまうような女性の微妙な感情を、余さんが見事に表現しているなと思います。あと、近藤(公園)君が演じる男爵と優ちゃん演じるイリーナの、若いふたりの初々しい場面があって、これがまた良いんですよ。若かったら男爵役やりたいなって思いますね(笑)。三人姉妹が中心ですが、チェーホフはどの役も丁寧に描いていて物語が組み立てているんです。どの役にも面白味があって、俳優としてどれもやってみたいと思える役ばかり。ちゃんと人物が描かれているから戯曲自体も長くなるんだと思うんです(笑)。KERAさんのオリジナル作品もそれぞれの登場人物に物語があって長いものが多いですよね。そこは共通していますね(笑)」
――では、チェブトゥイキン役を演じていかがですか?
「自分なりにチェブトゥイキンを作りあげているつもりなんですが、どうにでも捉えられる作品なので、“これだ!”と自信を持てるかといったら、まだまだそうではなくて(笑)。でも“こうかな~、違うのかな~”とグズグズ言っていることが、ちゃっかりチェーホフの罠にハマっているのかもしれないですね」
――演じる側も一筋縄ではいかない面白さがあるんですね。では、最後に大阪の方に向けて、見どころを教えてください。
「素晴らしい俳優が勢ぞろいしましたし、オーソドックスに古典に挑んでいるのですが、チェーホフ作品ながら、現代的なところもあって見やすくて面白いものになっていると思います。これまで色んな『三人姉妹』をご覧になった方も観ていただきたいですし、チェーホフを観たことがない方も、初めて観ていただくには入りやすい作品だと思いますので、ぜひ劇場に来ていただきたいと思います」
(取材・文:黒石悦子)
(2015年3月 3日更新)
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だんた・やすのり●1957年生まれ、京都市出身。1981年、野田秀樹主宰の「劇団夢の遊眠社」に入団し、1992年の解散まで主演俳優として活躍。以降、舞台、映像を問わず幅広く活動中。2006年度第14回読売演劇大賞 大賞・最優秀男優賞受賞をはじめ受賞歴多数。2015年は『三人姉妹』の他、6月5日(金)より東京・シアタートラムにて上演の主演舞台『草枕』(共演:小泉今日子、浅野和之ほか)、4月18日(土)スタートのドラマ『64(ロクヨン)』(NHK・毎土曜22時~)に出演。
『三人姉妹』
撮影:加藤孝
『三人姉妹』
発売中
Pコード:439-828
▼3月5日(木)18:30
▼3月6日(金)13:00
▼3月7日(土)13:00/18:30
▼3月8日(日)13:00
▼3月9日(月)18:30
▼3月10日(火)13:00
▼3月12日(木)18:30
▼3月13日(金)13:00
▼3月14日(土)13:00/18:30
▼3月15日(日)13:00
シアターBRAVA!
S席-9500円 A席-7500円
[作]アントン・チェーホフ
[上演台本・演出]ケラリーノ・サンドロヴィッチ
[出演]
余貴美子/宮沢りえ/蒼井優
山崎一/神野三鈴/今井朋彦/近藤公園/
遠山俊也/猪俣三四郎/塚本幸男/福井裕子/赤堀雅秋/
段田安則/堤真一
[問]キョードーインフォメーション
[TEL]06-7732-8888
三人姉妹
http://www.siscompany.com/shimai/
あらすじ
将軍であった亡き父の最後の赴任地で暮らすプローゾロフ家の人々。故郷モスクワから遠く離れた田舎町での暮らしは平穏ながら退屈で寂しく、モスクワでの日々を懐かしむばかり…。家族で唯一の男性であるアンドレイの出世を願い、いずれ皆でモスクワに帰ることを夢に見ている。そんな単調な毎日だが、一家の屋敷には、軍医チェブトゥイキン、陸軍大尉のソリョーヌイ(今井朋彦)、陸軍中尉のトゥーゼンバフ男爵(近藤公園)や町に駐屯する軍人たちが頻繁に集い、姉妹たちのささやかな気晴らしの時間になっていた。そして、次女マーシャの夫・クルイギン(山崎一)、アンドレイの妻となるナターシャ(神野三鈴)らを含め、それぞれが心に満たされぬ思いを抱いて日々を生きている。そんな中、モスクワから陸軍中佐ヴェルシーニン(堤真一)が赴任してきた。亡き父の部下でもあった中佐が運んできたモスクワの香りに、気持ちが華やぐ姉妹たち…。そして、一家を巡る人間模様が動き出した。