ホーム > インタビュー&レポート > 動物から青年に〝成長〟する「白鳥」役に挑む 俳優、細貝圭にインタビュー!
――まず、台本を読んだ感想を聞かせていただけますか?
初めて読んだときは、全然理解できませんでした(笑)。あまりにも現実離れしていて。一体この作品をどうやって演出するんだろうとお客さん目線で考えましたね。白鳥が、疲れて、傷だらけになっていた女性の心を少しずつ癒やしていく物語なんです。ああ、これはファンタジーなんだと、いったん、その世界観を受け入れれば、難しい話ではないと思いました。
――「スワン」という役どころについて教えてください。
最初は完全に動物の白鳥なんです。でも、だんだん、手が生えてきたりするようなシーンもあって、若い男性の姿に変わっていきます。そして、中年女性のドラ(一路真輝)と、不倫とはいえど、彼女と愛し合っている男性ケビン(大澄賢也)の関係性の中に深く入り込んでしまう。そこで嫉妬や憎悪が芽生え、色んな人間の感情が入り乱れていく。もしかしたら、スワンはドラの幻想かもしれない。さまざまな存在に捉えることができる役ですね。
――役作りはどうされるのですか?
白鳥として鳴くシーンがあるので、演出家の深作健太さんから動物園に行って白鳥を観察してほしいと指令がありました(笑)。舞台の序盤はほとんどしゃべらないんです。僕、かなり身体がデカイんですけど、そのデカイ僕が白鳥としてずっと舞台に居るだけです。ですので、しばらく動物園に通う日々が続きそうです(笑)。その後、白鳥が段々、青年に変わるあたりから言葉を発するようになるんですが、セリフがまた、難しいんですよ。さらに、英語のセリフもあるんです。
――抽象的なセリフとダイレクトなセリフが混在していますよね?
そうなんです。詩のような感じでもあるし。ドラとケビンの会話は普通なんですけど、会話という点では白鳥だけ成立していないので、本当に難しいです。今まで出演していた舞台とは全然違いますね。翻訳劇は、シェイクスピア以外は初めてなので。シェイスクピアも難しかったですけれど。さっきから難しいしか言ってなくて、すみません(笑)。シェイクスピアは、文章の裏に隠された物語があり、一つの言葉で通じるものをあえて遠回りして伝えている。今回のエリザベス・エグロフさんの作品は、お客さんによってどうとでも解釈ができるんです。僕が一番大事だなと思うのは、スワンが初めて青年としてしゃべりだすシーンですね。急に動物が人間になって心を開き、ドラへの中に入り込もうとするんです。
――スワンとドラとの関係性はどう捉えていらっしゃいますか?
結構、スワンはドラの中にズカズカ入っていくんですよ。ダイレクトに愛情表現もしますし。子供がストレートにお母さん大好き、お母さん結婚してと言っているようなものです。スワンの年齢が子供からどこまで成長していくのか、まだ僕は理解できていないんです。例えば、ドラとケビンがセックスを始めるところをスワンが黙って見つめているシーンがある。そこは不気味にも映ると思いますけど、どこか健気で純粋でもある。ドラに対して母親や恋人のような多面性を求めているんだと思いますね。僕だって女性に対してそうですから。そこはスワンと似ているかも。
―― 一路真輝さん、大澄賢也さんと初共演ですね。
この間、一路さんの舞台を拝見して、楽屋でお会いしました。一路さんも海外の戯曲のストレートプレイは初めてだそうです。一緒に頑張っていこうとおっしゃってくださいました。大澄さんはお会いしたことはありませんが、すごくいい方で兄貴的存在だよと周りから聞いているので安心しています。3人しかキャストがいない密室劇だからこそ、大先輩の方々とディスカッションを重ね、チームワークで作り上げていければと思います。
――演出は深作健太さんです。
深作さんは僕が主演していた舞台『マルガリータ~戦国の天使たち~』を見に来てくださって、一緒に頑張りましょうと。物腰が柔らかくて優しそうな方だと思ったのですが、演出家は豹変するので、第一印象はあまり信じないようにしています(笑)。
――それは、以前、シェイクスピア劇でご一緒された蜷川幸雄さんのことでしょうか(笑)?
いえいえ(笑)。蜷川さんも厳しかったですけど、それは噂に聞いていた通りですし、人間を、役者を、愛してくださっている方だと、怒鳴られているのに伝わってくるんです。頭は真っ白になりましたけれど(笑)。今回は役作りが難しいので、勝手に解釈して、そこにどっぷり自分の中でプランを立てると大変だと思うので、フラットに臨みたいです。深作さんに演出していただけることを本当に楽しみにしています。
――今秋、舞台『マルガリータ~戦国の天使たち~』で初座長を務められ、俳優としてさらに成長できましたか?
初座長という意識はなるべくもたないように臨み、アンサンブルの方たちとも分け隔てなく過ごすことができました。それでも、一番上に立つとどんな風景が見えるのかということや、今までになかった新たな気持ちが芽生えたりして、大きな糧になりました。今後は、得意な英語を使って海外のドラマや舞台に出るのが僕の一つの目標です。常にどこにでも出続けられている役者でありたいですね。気が付いたら、いつも三番手、四番手みたいな(笑)。
―― 一番手ではないのですね(笑)?
そのほうが息長く活躍できそうだから(笑)
――最後にメッセージをお願いします。
30歳になって初めての舞台で、大先輩の方々と共演できるのは幸福ですし、僕の違った一面を見せられたらと思います。ぜひ、白鳥になった細貝圭に会いに来てください。
取材・文 米満ゆうこ
(2014年11月18日更新)
発売中
Pコード:438-079
▼12月6日(土)15:00
▼12月7日(日)14:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
全席指定-5000円
[作]エリザベス・エグロフ
[翻訳]高橋知伽江
[演出]深作健太
[出演]一路真輝/細貝圭/大澄賢也
※未就学児童は入場不可。
[問]芸術文化センターチケットオフィス
[TEL]0798-68-0255
不倫関係の男性ケビンとの日常にも仕事にも疲れた中年女性ドラのもとに、ある日傷ついた白鳥が飛びこんでくる。ところが、手当てをしているうちにその白鳥は、若い男性の姿に変身してしまう。人間の姿になり、少しずつ言葉を覚え、ドラと会話もできるようになる白鳥(ビル)。人生そのものに希望を失っていたドラは、純粋なビル(白鳥)との交流の中で心が満たされていくのを感じる。
一方、ケビンはドラとビルの暮らしに嫉妬を覚え、なんとかビルをドラから遠ざけようとする。そして、ケビンもドラへの正直な愛に目覚め、妻子から逃げて、彼女と新しい人生を築こうと決意するのだった。ひたすらに愛を求めるビルと、これからの人生を彼女との愛に生きたいと願うケビンの間に立ったドラは、どんな選択をするのか…。