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「人によって味わい方がまったく異なる、
癖のある料理のような作品」
清水邦夫脚本の伝説の舞台を蜷川幸雄が初演出!
正気と狂気の狭間で揺れる男を好演する
段田安則に作品についてインタビュー!

1978年に劇作家・清水邦夫が、自身が主宰する演劇企画集団「木冬社」で初演し、1996年には清水自ら演出を手がけ再演された舞台『火のようにさみしい姉がいて』。記憶の迷宮をスリリングに描いた本作は上演当時、大きな話題を呼んだ。だが、以降は一度も上演されることなく、いつしか人々の間では「伝説的な戯曲」となっていた。そんな“幻の舞台”を蜷川幸雄が2014年、初めて演出を手がける。
人生に疲れ果て、「転地療養」と称して20年ぶりに雪国の故郷に戻ってきた俳優(段田)と、その妻(宮沢)。道を尋ねるために入った理髪店の女主人(大竹)は、いつしか男の姉だと言い張るが、男にはその記憶はない。やがて男の“弟”と称する人物や、謎の老女3人が現れて、男の過去に踏み込んでいく…。
終始張り詰める緊張感、その中でふっと訪れるユーモア、美しい言葉の数々、そして鏡を多用して重層的な世界を作り上げた演出の妙が観客をうならせ、さきの東京公演は連日、好評を博した。妻と“姉”を前にして、夢と現の境界線上でゆらめきながら、記憶を翻弄される男を怪演する段田。大阪公演を前に話を聞いた。

--東京公演を終えられまして、まずは東京公演の手ごたえを教えてください。
 
これまで蜷川さん演出で清水さんの戯曲を何作かやっていますが、僕も好きな世界観です。約1ヶ月、東京でやってきたので、とてもいい舞台になっていると思います。
 
--清水さんのお好きな世界というのは?
 
この作品もそうなんですが、現実と虚構、あるいは真実と嘘とか、正気と狂気など、これはどこまで現実の話なのか、あるいは夢の中なのか、虚構なのかなという境界線を行ったり来たりする。そういうところが面白いです。台詞も清水さん独特の台詞まわしで、それをどこまで自分が理解できているのか分かりませんが、しゃべっていて心地よいですし楽しいです。
難しいとおっしゃる方もいたり、引き込まれたとおっしゃる人もいたり、観る方によっていろいろ感じ方が異なる面白い戯曲だと思います。
 
--今回、俳優さんの役ですが、俳優を演じるということについては?
 
俳優の役を演じることには、それほど特別な意識はないです。それこそお豆腐屋さんをやっても、中世の騎士をやっても、そんなに変わりませんね(笑)。今回、僕がやる男は俳優としての自分の限界とか、戸惑いとか、そういうものを抱えていて、それで精神的に疲弊しているところがあるんです。俳優として分からないでもない心情ではありますが、この男は、自分でいいと思っていても、本当にこれでいいのだろうかとか、俳優をやっていていいのかということを自問しながら、どんどん追い詰められていくんです。
 
--この物語の持つ強さを感じられることは? 
 
冬の日本海、自分の故郷という寂しい土地に帰ってという、その状況は、静かで寒い。登場人物も静かなのですが、その中には何か、マグマのような熱いものを持っていて、それが時々顔を出すというような感じはありますね。
 
--蜷川さんは演出される際に何かおっしゃっていましたか?
 
昔、新劇に対抗して新しい演劇を作ろうと闘っていたという、自分たちの若かった頃のこととか、1960年代当時の演劇状況とか自分たちの姿勢、社会全体のこと…。蜷川さんは、そうやって自分たちが闘っていた若い時代に特別な思い入れがあって、それが作品の中に反映されていると――。それは自分が台本を読んだだけでは気づかなかったことでした。
 
--その部分は、お芝居の中にも片鱗が見えているんですか?
 
そのことは蜷川さんがおっしゃっていて、自分も「あ、なるほど、そういうことなのか」と、そのニュアンスをやってみようとはしたんですけど、反映できているのかどうかは分かりません。「その時代に生きていないと難しい」と言ってしまうと、じゃあ、時代劇やシェイクスピアはできないじゃないかということになるんですが(笑)、やっぱり実体験として自分が持っているかどうかというのは大きいと思います。その時代のどんな作品をやるにしても、「自分だったらこうなのかな?」と、自分なりに決着をつけて芝居を作るしかないんじゃないかな、と思っています。
 
--お稽古のときも、東京公演の幕が開くまで、そういう感じでしたか?
 
蜷川さんは早くから本番のように通し稽古をやっていくというスタイルなのですが、緊張感のある稽古でした。稽古場と劇場は単純に広さも違うので本番では少し変わるのですが、最初の通し稽古から劇場に入って本番が始まっても、その緊張感がずっと続いているような気がします。
 
--それは現時点でもですか?
 
そうですね、集中力が切れると崩れるような気がして。この芝居は油断ができない感じがします。ちょっと油断すると、それまで組み立ててきたものが崩れるという、そんな感じがします。シリアスなものであれ、コミカルなものであれ、やっているうちにだんだん慣れるのですが、この芝居は、稽古場でやっていた張り詰めた空気そのままのような気がします。自分もですし、周りもそう感じているようです。
 
--主演女優が大竹しのぶさんと宮沢りえさんですが、このおふたりの印象を教えてください。
 
大竹さんはもう何本かご一緒していますので、気心も知れていて、芝居をするのが楽しいです。今回の大竹さんの役も難しい役なんですが、お互いに分からないことがあると「こういうことじゃない?」と話し合ったりできるので、信頼していますし安心ですね。宮沢さんは一度、舞台でご一緒したことはあるんですが、その時はあまりからむ場面がなかったんです。今回は夫婦役でずっと一緒ですから、改めて初めて一緒に舞台をしているような感覚です。宮沢さんも難しい役ですから、それをどう捉えていくか、稽古中もいろいろと悩まれていたと思いますが、常に芝居に前向きに取り組まれています。結果的に、どういう舞台になったかは観ていただいた方の評価に尽きると思いますが、お2人との共演は楽しいですね。
 
--妻と、姉と称する理髪店の女主人、それぞれの女性像は?
 
妻は、自分は女優を辞めて旦那さんに寄り添って、旦那さんの才能を認めているんだけども、旦那が精神的に疲弊してきたことで、自分も何とか一緒に立て直そうとしている女性。お姉さんの方は、これは清水さんの面白いところで、お姉さんなのか、違うのか…。最初はお姉さんとは名乗らず、後にお姉さんだと言い出すんですが、それを僕も拒絶したり、そう信じているような反応をしたり、普通の姉と弟ではない関係を匂わせるところもあって、とにかく不思議な人物ですね。
 
--お客さんも、どっちなんだろうと惑わされるような感じですね。
 
そうですね、清水さんは「サスペンスを書きたい」と、本作に限らず蜷川さんにおっしゃっていたそうですが、この作品もサスペンスといえばサスペンスかもしれません。でも、サスペンスというのは大抵は、最後に謎解きが待っていたりするんですけど、この作品は、誰の視点で見るかによって、その結末も形が変わって見えてくるかもしれません。妻の立場になって観ると、「さっきはこう言っていたのに、今度は逆」とか、頭で理解しようとすると矛盾も出てきますが、でも男が精神的に疲弊しているところに身を委ねるとクリアになった、とかいろいろな見方があるみたいです。
 
--お姉さんの視点、妻の視点、男の視点とで…。
 
また捉え方が変わるんだと思います。
 
--正解を探そうと思えば思うほど、観ている側も迷宮に迷い込むような。
 
そうだと思いますね。
 
--心理としては、本当のことを知りたくなりますね。
 
そうなんです。僕もお客さんだったらきっと、「どっちなんだよ、結局は」って思うかもしれませんが、それも作者は考えた上なのかもしれません。作家さんの頭の構造は緻密ですから。
 
--観ている側も、面白い舞台体験になりそうですね。
 
「なんだか分かんないけど、涙が止まらなかった」という人もいますし、自分にぴぴっと来たら最高に面白い芝居になるんじゃないかと思いますね。
 
--鏡を多用した演出とお聞きしました。
 
それは台本のト書きにも書かれていて、鏡がいっぱいある楽屋のシーンで始まって、後半になると遊園地にあるようなミラーハウスも出てきます。鏡に映っているものは左右反対の言わば虚の姿ですので、そこにも現実と嘘と、夢とか真実という意味合いがあるんです。ちょっと歪むと絵も狂ってきますし、普段、目に見えるもの、自分で理解できるものこそ真実と考えがちですが、本当にそこに真実はあるのか、狂気や嘘の中にも真実があるのかもしれない、、、と思えてくるような戯曲です。
 
--では、関西公演を楽しみにされているお客様に、メッセージをお願いします。
 
お客様がどのように観てくださるのか、どう感じていただくかは、皆さんの想像力にお任せする部分が多いと思います。この不思議で懐かしい世界に一緒に漂っていただけると嬉しいなと思います。
 
--ちなみにアングラな雰囲気もあるんですか?
 
あると思います。年配の方は「久しぶりに芝居を観た気がする」とおっしゃる人もいらっしゃいますし、懐かしい思いを抱かれる方も多いと思います。若い方だと、今まで観たことない世界だと思われるかもしれません。料理に例えるなら、「これは美味い」「これは好みじゃない」と感想は分かれたとしても、「美味しいと言う人は絶対に美味しいと言う」みたいな、人によって味わい方が全く異なる、癖のある料理みたいなものかもしれませんね。
 
舞台『火のようにさみしい姉がいて』は10月5日(日)から大阪・シアターBRAVA!で幕を開ける。今とときめく俳優陣からベテランの舞台人まで、豪華キャストがそろった。緊張と緩和、現実と虚構が絶妙なタイミングで押し寄せ名作舞台をぜひ、体感してほしい。公演は10月13日(月・祝)まで。チケット発売中。
 



(2014年10月 4日更新)


Check
  
  
撮影:谷古宇正彦

「火のようにさみしい姉がいて」

発売中

Pコード:436-751

▼10月5日(日)13:00
▼10月6日(月)19:00
▼10月7日(火)14:00/19:00
▼10月9日(木)14:00
▼10月10日(金)19:00
▼10月11日(土)13:00/18:00
▼10月12日(日)13:00
▼10月13日(月・祝)13:00

シアターBRAVA!

S席-9500円 A席-7500円

[作]清水邦夫

[演出]蜷川幸雄

[出演]大竹しのぶ/宮沢りえ/段田安則/山崎一/平岳大/満島真之介/西尾まり/中山祐一郎/市川夏江/立石涼子/新橋耐子
ほか

※未就学児童は入場不可。

[問]キョードーインフォメーション
[TEL]06-7732-8888

「火のようにさみしい姉がいて」
http://www.siscompany.com/ane/

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