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「悲しんでる時には浸ってもらえるように
真っ暗な部屋にいるような気分の時もちょっとだけ扉が開いて
光が指し込むような音楽ができればいいなと…」
新たな音のミクスチャーを体感させるシンガーソングライター
碧海祐人インタビュー

昨年9月にリリースしたEP『逃避行の窓』収録曲『夕凪、慕情』がSpotifyなどのプレイリストカバーに選出され、ZIP-FMのパワープレイとなるなど、注目を集めている新進気鋭のシンガーソングライター、碧海祐人。今年上半期は弾き語りのライブを精力的に行ってきた彼が、7月23日に心斎橋CONPASSで開催されるイベント『ものがたりのあとに』に出演する! “語りかけるように日常に特別な色を添え、何かが起こる、そんな気持ちにしてくれる”唯一無二の音楽性を持つアーティストが集う同イベントで、どんなライブを披露してくれるのかとても興味深い。J-POPを原点に音楽性の幅を広げてゆき、シティポップ、ネオソウル、オルタナティヴ・フォーク、アンビエント・ミュージックなど多様な音楽要素が自在にクロスオーヴァーする彼の音楽観とは? そして今の制作現場から、どんな楽曲が新たに生まれているのか? 今年の春、地元の名古屋から拠点を東京に移した彼にリモートインタビューを行った。

元々のヒップホップやソウルよりも少しずれてるような
独特のビート感を自分の音楽に取り入れたい
 
 
――昨年9月にリリースされたEP『逃避行の窓』は気怠い歌声とゆったりしたビートの曲がとても心地良く感じましたが、12月にリリースされたデジタルEP『夜光雲』ではテンポアップして軽快な曲調の『眷恋』やジャジー・ヒップホップ的な『逃げ水踊る(feat.浦上想起)』といった曲も聴けて新たな景色が広がりました。そもそも碧海さんの音楽的な原点はどういったところにあるのですか?
 
「もともと僕はJ-POPが大好きで、そういったところが原点にあると感じています。家族の影響もあり、コブクロさんやMr.Childrenさん、秦基博さんを昔からよく聞いていました」
 
――オリジナル曲を作り始めたのはいつですか?
 
「音楽を作り始めたのは高校生ぐらいで、当時はギター一本で弾き語りの曲を作っていました。大学に入ってから、パソコンでGarageBandというソフトを使い始めてから、編曲に興味が出てきて、一気に曲の作り方が変わりました。GarageBandを使って宅録を始めた頃は、ずっと弾き語りで作っていたものの延長でアレンジをやっていたんですが、そこから楽器をあまり使わずに音楽を作るという方向にシフトしてきたんです。今に近いような曲を作り始めたのは、ここ2~3年くらいですね」
 
――近作にはどんな音楽的要素が強く反映されていると思いますか?
 
「ああ…僕は最近それについてよく考えてたんですが、一番はローファイ・チルというか、チルアウト系の要素が大きいのかなと思い始めました。近作ではアレンジ面でビートの心地良さをすごく求めていました。もともとネオソウルやソウルも好きなんですけど、大元にあるビートや音楽の構成の仕方は、ループから作っていくようなトラックメーカー的なことをしていると思います。元々のヒップホップやソウルよりもちょっとずれてるような、ちょっと気持ち悪いけど心地良いみたいな、あの独特のビート感を自分の音楽に取り入れたいなという感じで。そういうのは無意識下でやってるんじゃないかなと思います」
 

 
歌い方を曲ごとで大きく変えることが
自分が目指す一番の理想かもしれない
 
 
――曲作りだけでなく、もともと歌うことも好きだったのですか?
 
「そうですね。弾き語りをやっていたのは歌うためなので。歌はもともと好きで、いろんな歌い方を模索してきました」
 
――インスタ動画でも以前は、コブクロ、ミスチル、スピッツ、米津玄師、あいみょんなど、けっこう王道のJ-POPアーティストの曲を弾き語りでカバーされていますね。
 
「はい、あの頃はいろいろ試してみようと思って(笑)。ギターと声だけで何ができるのかということを模索していました。最近、割と弾き語りのライブをさせてもらっているので、あの時の延長みたいなことをやっている感じがします」
 
――ちなみに、碧海さんが理想としているのはどのような歌い方なのですか?
 
「僕は自分の声があまり好きじゃないので、それで模索していたということにつながるんですけど。Mr.Childrenの桜井さんとか、 秦基博さんのように地声で歌が強い人に憧れて歌を始めているので、もともとはそういう方向に行こうとしてたんですけどね…。いろんな人のカバーをしたりして、試行錯誤してきた結果、いろんな声に変えられるのが自分の強みだなと思うようになりました。尚且つ、今はそれを曲によってもっと色々使えたらなと思っています。それは宅録で曲を作る時もすごく使えるし、歌い方を曲ごとで大きく変えることが自分が目指す一番の理想かもしれないですね。声色を変えるといっても、同じ人の声だからこそ、それができれば面白い幅になるのかなと思っています」
 
――声も楽曲の中の一つの音の要素として、打ち込みや楽器の演奏と合わせて組み立ていくというような作り方をしているのでしょうか?
 
「そうですね。だけど、ソウルフルに歌い上げるようなこともちょっとやりたいなと思っていて、それは練習中です」
 
 
 
言葉にできないことを音楽にしている
 
 
――EP『逃避行の窓』の中の『秋霖(しゅうりん)』、デジタルEP『夜光雲』の中の『眷恋(けんれん)』など、曲のタイトルに古風な熟語や漢字が出てきたり、歌詞には文学的な雰囲気が漂っていたりしますがどのような意識で書かれていますか?
 
「文学的と言ってもらえるのはありがたいのですが、実は僕は活字が苦手で(笑)。今も意識して読むようにしています。僕が歌詞を書く時に重要視しているのは、言葉と音の印象です。同じ内容でも違う言葉を使うことで聞こえ方が変わるっていうことがあると思うので。例えば、言葉の中に、パ行の音が入ると可愛くなっちゃうんですよ(笑)。それは歌を歌う上でも、音を楽しむ上でも結構気にしています」
 
――音楽を作る上でテーマにしていることはありますか?
 
「単純に、言葉にできないことを音楽にしているんだと思います。例えば、ある一つの出来事で感じたこと(感情)が言葉にできなかったとして、ある映画を見て、それと似た感情があれば、そこには共通のものがあると思っていて。その映画のことを同じ歌の中で歌うことが僕の中での説明なんですよ。だから、(自分の曲は)表現というよりも説明に近くて。こういうものを感じました、こういう時にも感じますという共通項が一つの曲になっているように思います。その説明となるような質感を表現するためのアレンジやメロディーがある。自分はそういう作り方をしてるなと思います」
 
――そんな碧海さんの楽曲をリスナーの方はどんなふうに受け取られているのでしょうか?
 
「“癒される”とか、“背中を撫でてくれる”みたいな言葉をいただいたり、“諦めを許してくれる”とか、そういうような言葉をいただくこともあります。僕が陰鬱な、真っ暗な部屋の中でコツコツ作った音楽が、そういうふうに受け取ってもらえるのは嬉しいし、そういうふうに変わっていくのはすごくいいことだなと思います。“元気出せよ!”って歌う人もいるけど、そういうふうに歌える立場ではないと思っているので。悲しんでる時には浸ってもらえるように。そこにちょっとだけ前を向けるじゃないけど、真っ暗な部屋にいるような気分の時も、ちょっとだけ扉が開いて、光が指し込むような音楽ができればいいなと…。それをぶしつけに言葉で説明してしまうのは違うなという気持ちがあるので」
 
 
 
弾き語りのライブはたくさんしてきたので、
さらに磨きをかけて、洗練されたライブが作れたらなと
 
 
――次の作品に向けて、新曲は作り始めているのですか?
 
「はい!作っています。説明するのがちょっと難しいんですけど。どういう人たちにどういう聞かれ方をするかということも含めて、一つのジャンルではなく、いろんな方向に引き伸ばすような作り方をしています。例えば、ベッドルームポップっぽくも、日本の80年代のシティポップのようでもあり、かつそこにすごくみんなが歌いたくなるような要素もあるメロディーを作ろうみたいな感じで。(実際にそういうものを作っているのではなくて)これは全部例えですけど。すごくミクスチャーされたものになると思います。どこの出身かわからないけれど、日本のものであるっていうような感じですかね…」
 
――7月23日に開催されるイベント『ものがたりのあとに』について出演されますね。今回のラインナップはいかがですか?

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「共演者の中の2名は僕と結構ゆかりのある方なんです。(佐々木)海真さんとは交流があってSNS上でしゃべったり、一緒に曲を作ってみようって話したりして、仲良くしてもらっています。好きなジャンルやアーティストも結構合うので通じるものがあるんです。いろんな音楽を聞かれていて、本当に引き出しが多いなあと。僕が到底思いつかないようなアレンジをバンバン作っていて、すごくセンスが良いし本当に尊敬しています。若月(雄佑)さん(ムノーノ=モーゼス)は、もともと共通の知り合いがいて知っていたのですが、個人的にすごく好きなんです。完全にファン目線で楽しみです(笑)」
 
――若月さんはどんなところがお好きなのですか?
 
「やっぱり声がすごくイイですよね。『通り雨の夜を抜けて』という曲がものすごく好きで。この曲に関しては、もっともっと知られて欲しいと思うぐらい、心酔してます」
 
――このイベントで新曲は披露されますか?
 
「ああ、やるかもしれないですね(笑)。5月以降、ライブは8回ぐらい出させてもらっていて、その中で新曲は3曲すでにやっています。弾き語りライブの時は、宅録で音源を作る時とは全然違う形でライブをするので。これまで発表している音源の曲も違う印象を受けるんじゃないかなと。バンドでやる時はブラック寄りの作り方をしているんですけど、弾き語りに関しては歌とギター一本で、フォーキーな感じでどこまでやれるかみたいなところはあるので」
 
――そうなんですね。いつもライブをする時に何か意識していることはありますか?
 
「毎回違うことをやろうっていうのは意識してます。僕はライブで、こういう演奏をするっていう決まり事を全く作らずにやるんですよ。そうすると、その時の気分や考え方とか、昨日感じたこととかによって、出てくることが毎回違うので。聴いてくれた方に楽しんでもらうということはもちろん大事にしていますが、その上で自分も何が出てくるかわからないということを楽しむというか…。その日にしか出ないコードがあったりして、それが意外に良かったりするので。意識的に変なことは色々やってますね」
 
――大阪でのライブはどういう印象ですか?
 
「コロナ禍ではあるので今は静かに観ている感じですが暖かいイメージはありますね、ライブハウスの方がリハの時もとても優しく接してくれるのですごくやりやすいですね」
 
――最後にお客さまに向けてメッセージをお願いします。
 
「5、6月で弾き語り形式でのライブをたくさんしてきたので、その集大成じゃないけど、僕としては、二段三段上がったつもりです。この7月でさらに磨きをかけて洗練されたライブが作れたらと思っているので、ぜひお越し頂きたいです!」

Text by エイミー野中



(2021年7月14日更新)


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Profile

おおみまさと…名古屋出身のSSW。メロウでジャジーなムードを携えた情緒的なサウンドと海外のインディR&Bなどからの要素も感じ取れるような、繊細さと気怠さを混在させた歌声で早耳のリスナーから早くも注目の的となっている。2020年9月にリリースしたEP「逃避行の窓」収録のドラマー・石若駿が客演した楽曲「夕凪、慕情」はSpotifyなどの数々のプレイリストカバーに選出され、ZIP-FMのパワープレイ選出やKAMITSUBAKI STUDIO・理芽のカバーで話題となる。2020年12月にはマルチミュージシャン・浦上想起の客演曲「逃げ水踊る(feat. 浦上想起)」をリード曲と したDEGITAL EP「夜行雲」をリリース。

碧海祐人 Twitter
https://twitter.com/masat_o_mi


Live

『CONPASS & KYODO OSAKA Presents ものがたりのあとに』
チケット発売中 Pコード:199-746
▼7月23日(金・祝) 16:00
CONPASS
自由-2980円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[出演]アツムワンダフル/碧海祐人/佐々木海真/Sundayカミデ/若月雄佑
※出店:HOLIDAY! RECORDS
※未就学児童は入場不可。
※公演中止の場合を除き、出演者変更やお客様のご事情によるチケットのキャンセル及び払い戻しは致しかねますのでご了承ください。<ご来場のお客様へのお願い>
※ご来場の際はマスクの着用を必須とし、着用のない場合の入場はお断りいたします。マスクは必ずご自身でご用意をお願いします。
※入場時は、消毒液による手指消毒・検温にご協力をお願いいたします。また37.5度以上の熱がある場合は入場をお断りさせていただきます。
※公演当日、会場にて大阪コロナ追跡システムへの登録にご協力をお願いいたします。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888

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