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「このアルバムが聴く人の日々に寄り添って、
一緒に歩んで行けたら嬉しい」
自主レーベルからの初のアルバム『OVER THE RAINBOW』を
7/28(水)にリリース! 番匠谷紗衣インタビュー

地元大阪に戻って立ち上げた自主レーベル Fill RECORDSからの初めてのアルバムとなる『OVER THE RAINBOW』が完成した。孤独な時間に寄り添い、すぐそばで語りかけてくれるような歌声にそっと耳を傾けてみてほしい。“雨上がりを待つあなたとの22分間”をテーマにした今作はノスタルジーを掻き立てられるリリックとメロディー。音数を絞り打ち込みと生音が絶妙にブレンドされて暖かみを帯びたサウンドは郷愁感を孕みつつも新鮮な感動を与えてくれる。前回のインタビューで、「音楽を必要としている人の生活の一部になれる曲を作りたい」と話していた番匠谷紗衣の歌が今、聴き手の心に響くわけとは…。この作品に託された剥き出しの思いと現在のスタンスについて、彼女らしい言葉で語ってくれた。

曲のことばかりずーっと考えて…というより
日々の中で自然に浮かんできた時に書いていった

 
――今回は7月28日リリースのアルバム『OVER THE RAINBOW』についてお聞きします。一曲目の『君は綺麗』は学生時代を思い出して書かれたそうですね。
 
「はい。今まで、学生時代のことを書いた曲が全然ないんですけど、『君は綺麗』は唯一、“学生”というイメージの曲です。恋とか家の事情とか、いろんな悩みを抱えている友達がいて。その子がバイクの免許を取って、よく後ろに乗せてくれてたんです。逃避行みたいな感じですごく楽しくて。その瞬間、その子の楽しんでる姿が凄い綺麗やなあと思ったことが強く心に残っているんです。いろんな問題を抱えていても、その瞬間を本当に楽しめる人って凄いなっていう気持ちを曲にしました」
 
――大人になるとそういう気持ちを忘れてしまうから?
 
「うーん…、この『君は綺麗』は、元々歌詞の中に出てくる主人公に向けて、“君はずっとそのままでいてね”、みたいな気持ちを歌っているんですけど。どんな年代の方に対しても伝えたい曲になったかなと思います。ほんまはどこにでも行けるし、本気でやりたいと思ったらなんでも叶えられると思うんです」
 
――どんな困難な状況でも自分の気持ちを大切にして、その瞬間を楽しんでほしいというメッセージが込められているのですね。一方で、スローテンポの『ice cream』(M-4)はすごく切ないストーリー性があって胸に沁みてきます。
 
「これは、“ア~イスクリームが溶けてなくなる~”(歌いながら)っていうフレーズだけが寝る前にふっと浮かんできたんです。これ、ええな~って思ったから、覚えておこうって思ってそのまま寝たんですけど(笑)。次の日から続きが浮かんできたら少しずつ書いていって、半年ぐらいかけてゆっくり作っていきました。特に期限を決めずに焦らず、アイデアが浮かんできた時に続きを書いていったので、自然に浮かんできた曲です。“君が私の目をちゃんと見つめる瞬間 一番嬉しかったの”っていう歌詞があって、そこが出てきた時にこの曲に命が宿ったというか、あ、曲ができた!っと思いました」
 

 
――その大切なフレーズが出てくるまで、じっくり時間をかけて作っていけたのがきっと良かったのですね。
 
「うん、そうですね。その曲のことばかりずーっと考えて…というより、日々の中で浮かんできたことを書いていった感じです。この曲はレコーディングもアレンジも全部終わってから、アメリカで活動されているギタリストのケニー越前さんに聴いてもらった時に、“もしよかったらエレキギター入れるよ”って言ってくださって。後からエレキギターを入れることになったんです。そのギターソロがめっちゃ良くて! それで、一気に私の手元から離れていった気がしました」
 
――確かに、ちょっとレイドバックしたようなギターの音色が印象的です。この曲のMVも映画のような雰囲気です。
 
「完成した映像を見た時に、“ああ、素敵な作品になったな~”って思ったし、なんだか自分の曲と思えなくて(笑)。今まで経験したことがない不思議な感覚でしたね…」
 
――この『ice cream』という曲は、それだけ人を惹きつける力があるんですね。
 
「ありがたいことですね。この曲を必要としている人にもっと届いていけばいいなと思います」
 
 
 
『東京の街が笑ってる』は内面的なことを歌っている
一歩踏み出すために勇気を出して入れました
 
 
――今作のサウンド面で特に注目してほしいことはありますか?
 
「アレンジャーさん(marsh willow)のこだわりで、Foleyサウンドというのを全曲に散りばめてくれています。ガラスが鳴る音とか雷が落ちる音を効果音にしたり、アレンジャーさんが作ってる生活音を使ってビートを構成しているみたいで。私もそれがすごく素敵やなって思ってますので、ぜひ聴いてみてください。『東京の街が笑ってる』(M-5)と『NiJi』(M-3)は特にそうです」
 
――『NiJi』は後半の間奏から転調してジャジーな雰囲気になるところが素敵ですね!
 
「そうなんですよ。みんなではしゃいでる感じなんですけど、この曲は、あるダンスイベントにゲストで呼んでもらった時にダウン症の子供たちのダンスチームを見たことがきっかけで作りました。ほんまにただ純粋に楽しんでるパワーがすごく感じられて素敵過ぎて、涙が止まらなくなって…。この子達に踊ってもらえる曲を作りたいと思って作った曲なんです。今、制作中のMVもその子供達に出演してもらってるので、またぜひ見てください!」
 
――ところで、先ほどお話しされてた『ice cream』のギターサウンドもそうですが、全体的にどこか70年代のテイストが漂ってくるように感じたのですが、番匠谷さんの中にもそういうルーツがあるのでしょうか?
 
「うーーん、世代は違うんですけど、70年代とか80年代の音楽はすごく好きですね。レコードの音や歌謡曲も好きだし、そういうのは今の自分にも生きているなと思います。あみんさんの『待つわ』とか、(ピンクレディーの)『渚のシンドバッド』とか。ちっちゃい頃からいつも歌っていたし、ああ、懐かしいなあと思うのがそのへんの歌謡曲なんです。でも、小学生の頃から一番好きなのは河島英五さんなんです。私、“時代遅れな女になりたい”と思って生きてきたんです(笑)。河島英五さんからそのマインドをもらいました」
 
――そうなんですね! 歌謡曲や河島英五さんがルーツにあって、その後にR&Bを吸収されたのですか?
 
「そうなんですよ。自分でCDショップに行き始めたのが中一ぐらいで、そこから洋楽も好きになって聴くようになりました。その後、(神聖)かまってちゃんとか大森靖子さんのような闇の部分をさらけ出して歌っている人も好きになったので。歌詞の部分では、そこをめっちゃ吸収してると思います」
 
――『東京の街が笑ってる』は、“自分しか読まない日記のような気持ちで書いた”そうですが。
 
「はい。これは、人に聴かせるためというより、自分だけが読むと思って書いてたので、一生隠蔽しようと思ってたんですけど…。さっきお話ししたギターのケニー越前さんに聴いてもらったら、“こういう曲こそ、共感してくれる人がいると思うよ”って言ってくださったんです。めちゃ内面的なことを歌っているんですけど、私はシンガーソングライターやから、こういう曲こそ世に出さないとなって、改めて思えた曲ですね。ほんまの意味で新しく一皮剥けて、一歩踏み出すというのは、こういう曲を世にだしていくことなのかなって思って、勇気を出して入れました」
 
――前回のインタビューで、“素っ裸で、鋭いものを自分を剥き出しにして出していきたい”とお話しされてましたよね。
 
「今、何も隠してることはないです(笑)。自分を曝け出して生きて行こうと思っています」
 
 
 
私と同じように音楽を必要としている人が
しんどい時に思い出してもらえる存在でありたい
 
 
――前回のインタビューで、「音楽を必要としている人の生活の一部になれる曲を作りたいと本気で思って、Fill RECORDSを立ち上げた」とお話しされていましたが。番匠谷さん自身にとって、音楽というのはどういう存在ですか?
 
「私は何か問題が起きた時、誰かに頼るより、一人でなんとかしたほうがなんとかなる!って思ってるんですよ。だけど、音楽には素直に頼れるというか…。昨夜も全然寝られへんかったんですけど、凛として時雨のTKさんのアルバムを朝まで流してました。音楽はそういう時に絶対助けてくれるんですよ。自分がしっかり立てるように支えてくれるというか…。音楽はそういう存在なんです。自分が音楽をやるからには、私と同じように音楽を必要としている人がしんどい時に思い出してもらえる存在でありたいなと思っています。そういうアーティストでいることはすごい意識していて、一番大事にしています。そうじゃない人にももちろん聴いてもらいたいし、ライブに来てもらいたいし。普段仕事や学校で頑張ってて、ライブに来てもらって楽しんでもらってまた頑張れるとしたら、私の音楽が生活の一部になっているんやなと思います」
 
――世の中のアッパーな曲を聴いて元気が出る時もあるけど、それがしんどい時は番匠谷さんの歌声がふっと心に沁みてくるように思います。
 
「ありがとうございます。私は感じたものや生き方がそのまま音楽に出る人やと思うんですよ。実際そうで、そのままなんですよね。普段の生き方が出ちゃうんですよね。生き方が大事だと思ってて。音楽は自然にできるし、一生音楽は作るんやなというのは悟ったんです」
 
――番匠谷さんは音楽活動だけでなく、児童福祉施設で福祉のお仕事もされていますね。
 
「はい。世の中でいろんな大変なことが起きてるけど、自分の手が届く範囲でいいから、何か変えていきたいなと思っています。障がいのある子供達やちょっと生きづらさを抱えている子供たち、同世代の人たちにも寄り添って、出会えた人には絶対的に味方でいたいと思っています。その中で音楽を作りライブをするというやり方が一番自然で幸せやなと思っています」
 
――具体的に、何か目標にしていることはありますか?
 
「最初から、目指すところは変わってないんです。いろんな人に知ってもらいたい!とか、大阪城(ホール)でやるぞ!とか。その気持ちは全然変わって無いので。何が近道で何か遠回りかはわからないけど、自分が認められた時に、ほんまに心から喜べるやり方を続けていって、そこにもし辿り着けたら、ほんまに何か成し遂げたって気持ちを知れるやろうし、今はそのやり方をできてるかなと思います」
 
――そうですよね。自主レーベル、Fill RECODESからの初めてのアルバムとなる『OVER THE RAINBOW』が完成して、どんなことを実感していますか?
 
「周りに好きな人しかいないから、すごい楽しいし、良い方向に進んでいるんやろうなと思います。ずっと休みもないし、大変なことも正直、めちゃくちゃあるんですけど…」
 
――クリエイティブなことだけでなく、MVの制作やライブのことまで携わって、自主レーベルの経営面やビジネス的なやり取りも全てご自分でされてるんですよね。
 
「はい、セルフプロデュースでやっています。全部自分の意思です。ほんまに自分で判断して選んだ道だったら、例え失敗したとしても、後から自分で正解にできるというか…。失敗を糧にして、成長して行けると思っています。まだ自分に判断能力が無いと思ったら、ちょっと待ってもらいます」
 
――今、聴いてくれる人に向けて一番伝えたいことはなんですか?
 
「このアルバムが、(聴いた人の)日々に寄り添って、一緒に歩んで行けたら嬉しいなあってすごい思ってます。一曲一曲の届き方は、ほんまに人それぞれやと思うので、なんとも言えないんですけど。私が、休みたいと思ったら休んで、動きたいと思ったら動いて、曲を作ってという感じで、マイペースに生きていく中で生まれたアルバムなので、この曲たちは聴いてくれた方が休みたい時もそばにいるし、さーやるぞ!と思った時もそばで支えると思います。2年間リリースがなかったけれど、その間もずっと変わらずに好きで応援してくれていた人たちには、ほんまに感謝しかない。私もやっと音楽で返せるのがすごく嬉しくて。今作から知ってくれた人にも同じようにこれからそばで支えていきたいと思っているので。ぜひ、感じるままに音楽を心と体に入れてもらえたらいいなと思います」

Text by エイミー野中



(2021年7月28日更新)


Check

Movie

Release

Album
『OVER THE RAINBOW』
2021年7月28日(水)発売
2200円(税込)
FILL-0021

《収録曲》
01. 君は綺麗
02. glow
03. NiJi
04. ice cream
05. 東京の街が笑ってる
06. 素直になりたい

Profile

ばんじょうや・さえ…1999年1月4日生まれ、大阪出身。中学生の時にアコースティックギターで曲を作り始め、同時にライブ活動も始める。ライブハウス、福祉施設などを中心に老若男女問わず歌を届け続ける。高校時代からセルフマネージメントで大阪のライブハウス umeda TRADや、心斎橋BIGCATにてワンマンライブを行い、全てsold outとなり頭角を現す。デビュー前にして「前を向いて」がAbemaTV『マリキュラム- 出会って 1か月で結婚する方法-』の主題歌に抜擢。東芝クライアントソリューション(株)「dynabook.com」WEBムービー広告出演&歌唱など、様々なメディアに出演する。「FUJI ROCK FESTIVAL '17」、「ap bank fes '18 pieni stage」、毎年アメリカで開催される世界最大規模の楽器ショー「The NAMM Show 2020」(愛用のTAYLOR GUITARS特設ステージ)など様々な大型フェスにも出演。2017年、UNIVERSAL MUSIC JAPANと契約し、翌年Virgin Musicから「ここにある光」でメジャーデビュー。テレビ朝日『科捜研の女』主題歌。2019年、2ndシングル「自分だけの空」をリリース。ABCテレビ『ランウェイ 24』のエンディングテーマとして起用される。2020年、一生音楽を続けていく場所として自主レーベルを発足する。自身のレーベル、Fill RECORDSから、2021年2月24日に初のデジタルシングルリリース。2021年 4月3日(土)にはなんばhatchにてワンマンライブを成功させる。2021年7月28日(水)、約2年振りにニューアルバム『OVER THE RAINBOW』をリリース。番匠谷自身が尊敬するミュージシャン、アレンジャーとタッグを組み、新しいサウンドに仕上がっている。

番匠谷紗衣 オフィシャルサイト
https://www.saebanjoya.com/


Live

「番匠谷紗衣 ツーマンライブツアー2021
meet “DOUBLE RAINBOW”」

▼9月11日(土) 17:00
Shangri-La
オールスタンディング-4500円(足マーク・立ち位置指定、ドリンク代別途要)
[共演]TOMOO
※小学生以上は有料、未就学児童は入場不可。
[問]サウンドクリエーター■06-6357-4400