眩しいほどの決意と肯定
ミニアルバム『まっすぐなままでいい』に込めた“ひかり”
ひかりのなかにインタビュー
希望や救いを表す象徴とも言える、“ひかり”。“ひかりのなかに”の由来をヤマシタカホ(vo&g)に尋ねると、「私にとって“ひかり”は目標とは違う、憧れや理想。その中にファンのみんなと一緒に行くというイメージでつけました」という答えが返ってきた。決意に満ちた瞳とともに。“ひかりのなかに”は、2017年、高校生の軽音部3人で結成された東京出身ロックバンド。結成1年半ながら『RO JACK for COUNTDOWN JAPAN 18/19』のオーディションで優勝を勝ち取り、『COUNTDOWN JAPAN 18/19』に出演。高校在学中にミニアルバム『放課後大戦争』を、卒業後の2020年4月にはデビューミニアルバム『トーキョー最前線』をリリース。その後、7月から4ヶ月連続でシングルを配信リリースするなど、勢いを増して活動を行っていたところ、2020年12月、たけうちひより(b&cho)とジョー(ds)が脱退。現在はヤマシタを中心に、新体制で活動を行っている。そして2月3日、新体制初となるミニアルバム『まっすぐなままでいい』がデジタルリリースとなった。新体制になってから書かれた、ヤマシタ自身の日常や正直な想いを綴った全6曲は、リスナーや受験生はもちろん、10代を過ごした全ての人に寄り添い背中を押してくれる楽曲に仕上がっている。何よりも、さまざまな過去や絶望、葛藤を乗り超えて音楽に込めたヤマシタの真摯な気持ちが色濃く、かつ軽やかにフレッシュに詰め込まれている。“ひかりのなかに”は、これから新世界へ踏み出していく。
エレカシを見て、ロックバンドを組みたいと思った
――結成は高校生の時なんですね。
「はい。2017年の4月、高校1年生の時に軽音部で結成しました」
――メンバーさんとはそこで初めて出会ったんですか?
「そうです。知り合いがいない高校に進学したので、本当に部活の友達から始まったバンドでした」
――元々バンドをやりたいという気持ちは持っていたんですか?
「中学の時に初めて『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』に行って、エレファントカシマシを見て、私もロックバンドをやりたいと思って。中学の時はロックバンド好きの友達が1人もいなかったんです。だからちゃんと軽音楽部があって、音楽の話ができる人がいる可能性のある高校を選んで、そこでバンドを組んだ感じです」
――昔から音楽を聴くのは好きだったんですか?
「小学4年生の時にiPodを買ってもらってから、めちゃめちゃ聴くようになりました。ipodにエレカシやユニコーン、aiko、木村カエラが入ってて。それからは自分でも音楽を探すようになりました」
――音楽を好きになって、音楽に関わる道に進みたいという気持ちが芽生えた?
「はい。私、1度アニメの声優に憧れたんですよ。声優さん自身も舞台で歌ったりするようになってきたのを見て、私も歌とアニメが好きだから声優になりたいと思ったんですけど、エレカシを見てロックバンドになりたいなって。でもバンドを組むまでは裏方になろうと思ってたんですよ。バンドもやりたいけど、いろんなバンドを見てきて、プロになるのはそんなに容易いものではないと知っていたので。だったら、裏方でもいいからバンドに関われる何かがしたい。そう考えてました」
――裏方というのは、PAさんや照明さんとか?
「そうです、イベントスタッフとか」
――自分で曲を作ってステージに立ちたいと思ったのは、実際にバンドを始めてからですか?
「そうです。バンドを始めてみたら、“バンドを続けたい”って気持ちの方が強くなっていったんです。裏方とか言ってる場合じゃないというか。2017年11月頃からライブハウスに出るようになって、最初は当たり前ですけどお客さんも全然いなくて。お客さんが1人とか、多くて2〜3人のライブを積み重ねていくうちに、“どうしてこんなに少ない人しか聴いてくれないんだろう。メンバーと一緒に作った曲をもっとたくさんの人に聴いてもらいたい”と強く思うようになりました」
――最初からオリジナル曲で活動されてたんですか?
「ライブハウスに出てる時は、コピー半分とオリジナル半分でやってました。オリジナルを作るようになったのは、2017年の6月くらいです」
――YouTubeチャンネルで、“0から1を作るのは得意”だとおっしゃっていましたね。
「2歳からピアノをやってたのもあって、何となく“この音の次にこの音が来ると曲になりそうだな”、というのが感覚としてあったので、曲は自然に書けましたね」
――作曲の源になるものは何ですか?
「バンドを始めたばかりの頃は、自分の中に蓄積されていたいろんな感情でした。私、1回高校を辞めてるんですよ。それもあって、“自分は当たり前のことができなかった”という絶望感を曲に落とし込んでたんですけど、バンドを続けていくうちにだんだん聴いてくれる人も増えてきて、最近は聴く人がどう感じるかを意識して書いています」
――“こんなバンドにしたい”というビジョンはありましたか?
「結成当初は全くそういうのがなかったんですよね。とにかく自分はバンドをやりたいし、メンバーもバンドがやりたくて組んだので。でもコピーしたり曲を書いたりしてるうちに、どういう音楽が自分たちに合ってて、どう伝えればいろんな人に聴いてもらえるのかが、だんだん分かってきました」
――具体的なキッカケはありますか?
「『COUNTDOWN JAPAN 18/19』のオーディションで、バンドのキャッチコピーを決めなきゃいけなかったんですよ。そこで初めて、“自分たちはどういうバンドなのか”と考えて。その時つけたキャッチコピーは、“大人になるってどういうことですか?”だったんです。だから、その時その時でバンドが感じてることを、等身大にまっすぐ伝えていくのが自分たちらしさで、たくさんの人に聴いてもらうための武器だと思ったんですよね。しかもその時優勝できたことで、“これで合ってたんだ”って自信になったというか。だけど新体制になるタイミングで、そこも少し変わってきましたね」
――お2人が脱退されたのが昨年の11月ですね。理由をお聞きしても?
「はい。2人に、バンド以外にも新しくやってみたいことができたんですよね。バンドを続けるか、別のことに挑戦するか迷った末、2人はバンドじゃなくて新しい方を取りたいと。まだ10代ですから、私もいろんな選択肢があっていいと思ってるんです。ここで引き止めるのは私のエゴというか、メンバー1人1人にそれぞれの人生があるし、中途半端にバンドを続けるよりは、やりたいことをやるのが本人にとっても1番良いと思ったので、引き止めなかったし、“そうか、分かった”と言うくらいでした」
――なるほど。等身大を歌っていきたいという部分は、新体制になってどのように変わりましたか?
「もちろん、根本に自分の気持ちを大事にしたいという想いはあって、バンドは“ひかりのなかに”として続いているから、そこを変えることはできないと思ったんですよね。プラス、聴いてくれる人がいることを大事にしたいと思いました。自分が書く曲たちはいずれ誰かの曲になるし、誰かを支える曲になってくれると私は信じているので。悩んだり辛かったり、楽しかった時に、“ひかりのなかに”を思い出して、曲を聴こうと思ってもらいたい。“ひかりのなかに”とリスナーを、今までよりも近い存在にしたい。今後はそういうイメージで曲を書こうと、自分の中で整理をして決めました」
本当に真摯に、音楽に向き合い続ける姿勢を伝えたい
――今作『まっすぐなままでいい』のレコーディングは、お1人で進めていかれたんですか?
「そうです。今作は新体制になってからの作品だと位置づけたかったので、メンバーは私1人で、ギター、ベース、ドラムのサポートメンバーを呼んで、レコーディングを進めました。今まで3人だったので、ライブで表現できるアレンジに留めていた部分もあったんですけど、1人になって制約がないから、欲しい音を追求できるようになりました。例えばパーカッションとしてシェイカーを入れてみようとか、ギターが2人いるからリードギターはずっと鳴っててほしいなとか。音楽をやる意味では自由になったレコーディングでしたね」
――今作の前に、4ヶ月連続でシングルを配信されていますが、この形態で発表していこうとなった経緯は?
「もともと7月と8月にシングルを2曲出すことは決まっていたんです。コロナ禍でしばらくライブが出来なくなって、その間何もしないのはバンド的にもモチベーションが下がっちゃうと思ったんですよね。それなら連続で音源のリリースをしていこうという話になって。」
――デビューミニアルバム『トーキョー最前線』から4ヶ月連続配信リリースを経て、今作につなげようとしていたけど頓挫してしまったと。気持ちの切り替えはどのようにされましたか?
「正直なところ、やっぱり悲しいし、どうして今なんだろうと思いました。人の気持ちなので決められないし、いつ変わるかもわからないから、そこを責め立てるのは違うかなと思ったので、腹も立ちましたけど、仕方ないなという気持ちの方が強くて。じゃあ新体制になってからのアルバムについてやりたいことを再確認したり、初心に戻ろうと切り替えました。時間はかかりましたけど、自分の中で新体制に向けての準備をゆっくりしていった感じですかね」
――もともと配信リリースの先に出そうと考えていたアルバムの内容と、今回実際に出たアルバムの内容は、新体制になったことで変わりましたか?
「変わりましたね。やっぱり“3人だからこういうコンセプトがいいよね”とか、“3人だから”という前提で曲を作っていたので、それを1回更地にして、1人になる上でどういうことを伝えたいかを再構築したので、全く違うものになりました」
――どう再構築しましたか?
「『まっすぐなまでいい』というタイトル通り、まずは自分が、本当に真摯に音楽に向き合い続ける姿勢を伝えたいと思いました。あとはやっぱりリスナーへの感謝ですね」
――ファンに寄り添う想いは曲からも感じ取れますね。今作収録の曲は、新体制になると分かってから書かれたものなんですか?
「新体制になって書いた曲が多いですね。でも2020年はコロナで家から出ないし、ライブもできないしで、内側に籠るような曲をめちゃめちゃ書いてきたんですよ。今までは自分との向き合い方とか、自分の考えや想いが中心でしたが、今作は聴く人のことを第一に考えました。“コロナ禍でみんなはどう考えてるかな、受験生は今どんな気持ちかな”、ってたくさん想像しながら。あとはいただいたメッセージや手紙を参考に、大切にインプットしてきました」
――今のお話は『そばにいたいんです』(M-5)の内容に通じますね。
「ライブがなくなると、目の前で曲を聴いてもらえる環境がないんですよね。ライブはダイレクトにリスナーの反応が分かる場所でもあるんです。“この曲はみんな盛り上がってくれるなとか、この曲はそんなに好きじゃないのかな”とか。でもライブがない分、言葉でわざわざ伝えてくれる人も増えて。新曲が出たらメッセージを飛ばしてくれたり、手紙をくれたり。嬉しかったですね」
――あと、ヤマシタさんの歌詞は一人称が多いですが、意識しておられますか。
「3人だった頃はメンバーに男性もいたし、“ガールズバンド”って見られるのがあんまり好きじゃなかったので、一人称が全部“僕”だったんですよね。そこから1人になって、ほぼ“私”になったんですよ。語呂の関係で“僕”になったりもするけど、基本的には“私”をメインに使おうかなと。そういう変化も分かってくれればいいなと思います」
自分の音楽を信じてれば、自分が思い描いた姿になれる
――『MOVE ON!』(M-1)はラジオ番組『SCHOOL OF LOCK!』と一緒に作った曲だとか。
「『SCHOOL OF LOCK!』に出演させてもらった時、受験生の生の声を聞く機会をいただいて。放送終了後、コピー用紙の分厚い束に印刷された受験生のメッセージを全部読んだんですよ。“世の中には悩める受験生がこんなにいるんだ、音楽で何かできないかな”と思ってたら、番組側から“ひかりのなかにの曲で受験生の背中を押せると思うから、番組と一緒に曲を作るのはどうですか?”というお話をいただいて生まれた楽曲です」
――ヤマシタさんご自身は、音楽で救われた経験はありますか。
「あります。さっきもチラッと言いましたけど、私、高校1年生の2月に、高校生活でいろんなことがあってしんどくなっちゃって、昼休みに学校を抜け出したんです。そこから不登校になって。普通に中学高校に通って、卒業して大学行って、音楽系の会社に就職をして……みたいな、自分にとって当たり前の道を歩けると思ってたんですけど、それができなかったので、本当に絶望しちゃったんですよね。だけどその時に唯一、そんな自分でさえも肯定してくれる存在が、友達でも先生でもなく、音楽だったんです。特に銀杏BOYZとSAKANAMONには本当に助けられました。で、自分にもこういう力が欲しいし、せっかくバンドをやってるんだから、誰かを救える存在になりたいと思いました」
――なるほど。きっとどの曲も大事だと思いますが、特に想いを込めた曲は?
「新体制になるタイミングに自分が思ってたことや決意が1番表れているのは、最後の『ひかり』(M-6)ですね。すごくいろんなことがあったけど、自分は未だに憧れの中に行きたいし、自分の音楽を信じてれば、思い描いた姿になれる。この曲には唯一、私個人の本音が表れていると思います」
――本音。
「Aメロの“溢れた気持ちをかき集めたら 触れられないほど鋭く尖ったナイフになって”の部分は、自分が今まで“こうなりたい”と思っていたバンドの在り方を押し付けすぎて、元メンバーにも辛い想いをさせてしまってたかなという気持ちも実は書いてて。“壊れてしまったものに愛と涙を手向けたら”の、“手向けたら”という表現は、亡くなった人に対して向ける言葉なんです。それは3人の“ひかりのなかに”を表しています」
――冒頭に“信じたいものはここにある”とありますが、ヤマシタさんにとって、信じたいものは何ですか。
「自分が作る音楽もそうだし、“ひかりのなかに”を続けていくことは、自分にとって意味があると信じたいんですよね。自分が音楽を続ける意味、歌う意味、歌詞を書く意味は、誰かが見出してくれないと生まれないけど、自分自身くらいはそこに意味があると信じたいです」
――今のヤマシタさんのモードはどんな感じですか?
「正直、メンバーへの後ろめたさや、1人になることへの不安はありました。脱退したいと告げられた9月末から、発表する11月1日までの1ヶ月が本当にしんどくて。3人の“ひかりのなかに”を見て“最高です”と言ってくれるお客さんを見て、“ああ、みんなは2人が脱退して1人になることも知らないんだ。でも私は3人のひかりのなかにとして振る舞わなきゃいけないし、表情に曇りがあっちゃいけない”、って考えると、隠し事をずっとしてるようで、かなりしんどくて。発表後はすごく気持ちが楽になって、そこからは一気に新体制について考えるようになりました」
――肩の荷が下りたというか。
「そうですね」
――今年20歳になられますが、これからどういう曲を作っていきたいですか?
「少し前までは、自分が20代になってからの音楽って、価値がないと思ってたんですよね。というのも、等身大を歌って引き合いに出すのは、大人が多かったんです。自分が大人になると、過去の曲の説得力がなくなるんじゃないかとか、等身大を歌ってきたからこそ、今までの曲が無価値になるんじゃないかと考えていたんですけど、それも新体制になるタイミングで整理をした時に、変わらず等身大を歌うのは自分にとって良いことだなと。20代になったら20代なりの悩みや不安があるだろうし、30代は30代なりに、また新しい気持ちが生まれるんだろうなと気付けたので。大人になっても自分の性格は変わらないから、きっとめちゃめちゃ悩むし、人と比べるし、こうでありたいという理想も持ち続けるんだろうなって。自分は自分でしかないですからね」
――改めて『まっすぐなままでいい』、どんな作品になったと思われますか?
「新しい第1歩が踏み出せたなと思います。伝えたいことを整理したからこそ、全体を通してまとまりができたと思うし、大事な作品になりましたね」
――3月13日(土)には阿倍野ロックタウンで初のワンマンツアーがあります。意気込みは?
「次大阪にいつ来れるか分からない状態だし、新体制なので100%自分が伝えたいことを伝えきりたい。目の前のお客さんや景色を、ちゃんと記憶に留めておきたいと思います」
(2021年3月 5日更新)
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