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 歌は人生とともにあり、世代を超えて輝く
 55年の音楽生活に感謝を込めて
「加藤登紀子 ほろ酔いコンサート2020」

「いろいろな制約の中にあった1年で、私自身この先はどうなってしまうんだろうっていう暗澹たる思いもあったんですが、こういう時は一つ一つ、今やれることだけを見つめてやっていくということが大切なんだと思います。今年、55周年の記念のツアーはできませんでしたから『ほろ酔いコンサート』はぜひ、がんばってやり遂げたいですね」
 
そう語るのは公演に先駆けて大阪を訪れた加藤登紀子。11月29日(日)、年末恒例の『加藤登紀子 ほろ酔いコンサート』が梅田芸術劇場メインホールで幕を開ける。加藤にとって歌手生活55周年という節目の年は、未曽有のコロナ禍に見舞われた1年となった。それだけにライフワークのひとつともいえる『ほろ酔いコンサート』に懸ける思いには、特別なものが感じられる。55年という歳月を第一線で歌い続けるだけでも並大抵のことではないが、この人ほど数多くのヒット曲を持ち、長きにわたってそれを歌い継いで来た歌手も稀と言えるだろう。レコード大賞受賞曲『ひとり寝の子守唄』をはじめ、『知床旅情』『百万本のバラ』『この空を飛べたら』など代表曲は枚挙にいとまがない。比較的若い世代には宮崎駿監督のアニメ『紅の豚』のヒロイン、ジーナの声や『さくらんぼの実る頃』『時には昔の話を』の名唱も忘れがたい。
 
「いろんなジャンルの音楽があると思うんですけど、私はそれにはこだわらずに、あらゆるいいものを歌っていこうと思いながら55年間、活動してきたんです。自分が作った曲や、シャンソンやアジアの曲やワールドミュージック中から、いいなと思った曲をどんどん日本語にして歌ってきました。だから『さくらんぼの実る頃』なんかは150年前の歌ですが『紅の豚』という映画のおかげで私の新曲として歌うことができたわけです。そうして自分で作った曲と、遠い昔から贈り届けられた遺産のような曲を二つの車輪のようにして歌ってきて、振り返ってみるとその中には、もう50年以上歌い続けた歌もあるんですね。歌が持っている生命力みたいなものにいつか自分が支えられて、いっときのものではなくてずっと意味を深めながら50年分私の中にある。その意味で歌自体の生命力に対してリスペクトと言うか、歌って素晴らしいねっていう気持ちがはっきりと自分の中に感じられるようになりましたね」
 
『ほろ酔いコンサート』はそんな彼女が、1年間の思いのたけを込めて歌うコンサートだ。43回目となる今回は全国8都市9会場を巡る。今年のテーマは『Never Give Up Tomorrow』。コンサートは1996年に書いた同名の曲からスタートするという。
 
「『Never Give Up Tomorrow』は20世紀が終わる頃に書いた歌なんです。そこから始めようと思っています。20世紀が終わってその向こうに何か新しい時代が来るのかどうかという瀬戸際で作った歌で、直接的には1996年、作家の司馬遼太郎さんが亡くなった時の私の心境から作りました。司馬さんの最後の対談集に『日本人への遺言』というのがあって、その中で司馬さんは、もう未来なんてないかも知れないって言ってる。それはとても厳しい認識で司馬さんらしい鋭い見方なんだけど、私は思ったんです。そうかも知れない、そうかも知れないけど、そう言ってしまったら身も蓋もないよねって。だから押し返したいって。それでこの曲を作ったんです。今も同じでしょう? 新しい時代はもう来ない。どん詰まりまでもう人間は来たっていう人もいる。でも悔しいね、それだけじゃ。 だから言わせたくない。リベンジしよう、もういっぺん。 あきらめないで。そんな思いを込めています」
 
今年5月、加藤登紀子は『未来への詩』と題した楽曲をリリースした。CDには加藤自身と、劇団ひまわり、そして加藤の娘であるYaeによる3つの歌唱とピアノ・バージョンが収められている。その歌はシンプルな表現に溢れ、55年を歌い紡いできた加藤がたどり着いた、ひとつの境地を示しているようにも見える。大切なことはとても簡単なこと、そしてそれは気が付けば身近にある。コンサートでこの歌が歌われる時、人は現在の閉塞した状況においてさえ、歌がその力を失っていないこと、かけがえのない希望へと導くものであることに気づいて、きっと笑顔とともに日常を生きる元気を取り戻すことだろう。
 
「『未来への詩』は私も含めて三世代の人が歌っています。歌う人によって描かれるシーンが違うでしょ。そんな歌にしたいっていう計算がありました。劇団ひまわりの子供たちは演技をしたり歌ったりすることを、学び始めたばかりの人たち。Pray foreverって遠くにいる人のために祈ったり、困った人がいたら手を差し伸べる気持ちを、今はわからなくてもいいから呪文のように歌ってねって。そうしたらいつのまにかそれが気持ちの中に理解できてくるんじゃないかなって、そんな風に説明して歌ってもらいました。Yaeは今40代半ばで、綺麗な声にやっとリアリティが出てきた。だから今が旬だと思ってレコーディングしました。きれいな声というのは貴重なもので、歳とともに変わっていくものだから」
 
「この曲はコロナになる前に作った曲だけど、こんな状況の中で今思っていることは世の中がややこしくなり過ぎている言う実感ですね。それは人がたくさん求めすぎたからなのかどうなのかわからないけど、1回ガラガラポンしたいねって言うみたいな。じゃあ美しいものってどこにあるんだろうってことなんだけど、それはやっぱり人間が生き抜こうとする姿の中にあるんだと思います。理想を掲げて生きようとする姿に。大きなものじゃなくていいんですよ。例えば母親だったら自分の家族がすごくいい笑顔見せてくれたとか、そういう瞬間の積み重ねに人生はある。そうした日々の中で自分はこうありたいと思う小さな気持ちでいいんです。社会の中で勝者だったか敗者だったか、そんなことではなくて自分が生きている時間の中で見つけた理想や光、それを大切にしましょうよ、ということなんです。そんな気持ちを込めて、歌いたいと思っています」



(2020年11月 3日更新)


Check

加藤登紀子
ほろ酔いコンサート2020

●11月29日(日)15:30
梅田芸術劇場メインホール
S席-7000円 A席-5000円 
チケット発売中 Pコード 187-573

【予定曲目】
Never Give Up Tomorrow
知床旅情
百万本のバラ
未来への詩 ほか

梅田芸術劇場■06-6377-3800
サマーズプランニング■0797-71-8831

チケット情報はこちら


Now On Sale

未来への詩(うた)

01.未来への詩 加藤登紀子
02.未来への詩 劇団ひまわり ヴァージョン
03.未来への詩 Yae ヴァージョン
04.未来への詩 Piano version(Instrumental)

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MHCL-2846  ¥1,500+税


あなたに捧げる歌

6枚組 CDBOX
[収録曲]
01.赤い風船
02.ひとり寝の子守唄
03.知床旅情
04.琵琶湖周航の歌
05.少年は街を出る
06.灰色の瞳
07.黒の舟歌 ほか 全107曲

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10,000 円+税 

加藤登紀子OFFICIAL SITE
「TOKIKO WORLD」