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「変わっていくのが分かるんです、今までの自分が嘘みたいに」
映画音楽からMr.Children、西野カナらのサポートに
大胆不敵でオルタナティブな傑作『Raw Scaramanga』に至る
変化の10年を語る世武裕子インタビュー&動画コメント

 『リバーズ・エッジ』『ママレード・ボーイ』『羊と鋼の森』劇場版アニメ『君の膵臓をたべたい』『日日是好日』『生きてるだけで、愛。』etc…彼女が劇伴を担当した映画は1年で8本。かと思えば、かのMr.Childrenや西野カナ、森山直太朗らのライブやレコーディングにも参加。目の回るような忙しさの中、迎えたキャリア10周年にはシンガーソングライターとしては約2年ぶりとなるアルバム『Raw Scaramanga』をリリースと、’18年をトップスピードで駆け抜けた才媛、世武裕子。“或る表現者の記録音源”というコンセプトの元、アヴァンギャルドでオルタナティブな音像と、音楽的な挑戦を止めないその確固たるスタンスが全編に血を通わせる最新作は、発売日までタイトルとジャケット以外の全ての情報が伏せられるなど、作品はもとよりそのリリースに至るまで徹底的に美学を貫いた、大胆不敵な意欲作となった。また、同作では詩人・御徒町凧との共作や、アデル、エド・シーラン、ジャスティン・ビーバー、ディアンジェロ、ロバート・グラスパーなど、多くのグラミー賞受賞タイトルにも携わる世界的ドラマー、クリス・デイヴの参加も話題に。映像面やアートワークにおいても、OK Go、サカナクション、Perfume等のMVを手掛ける田中裕介(CAVIAR)がその手腕を発揮するなど、全方位で世武裕子のほとばしる才能を磨き上げた『Raw Scaramanga』は、彼女の人生に何をもたらしたのか? 京都METROでのライブを控える彼女に、10年という歳月をかけてやってきたターニングポイントを、出会いが導いた世武裕子の変わりゆく今を、大いに語ってもらった。

 
 
本当はこの10周年で世武裕子を辞めようと思っていたんですよね
 
 
――劇伴、ライブのサポート、自身のアルバムも含めて、去年は今までで一番働いたんじゃないですか?
 
「いやもう、めっちゃ働きました!(笑) あと、去年は10周年だったのでベストアルバムを出す話もあったんですけど、本当に詭弁じゃなくて今が自分のベストな状態だから、過去の曲を寄せ集めてもねということで、じゃあ新譜を作ろうと。あと、本当はこの10周年で世武裕子を辞めようと思っていたんですよね。全然違う名義で、それこそRaw Scaramangaとして一から出直そうとしていたんですけど、いろいろと大人の事情もありまして(笑)。結局、アルバムタイトルにその怨念が残って(笑)、『Raw Scaramanga』になりました」
 
――劇伴に関しては世武裕子、ソロワークスに関してはsébuhiroko名義で差別化したかと思いきや、このタイミングでまたもイメージを刷新したくなったんですね。
 
「当時の活動はサントラかソロかという感じだったのでそれでよかったんですけど、ひょんなことからサポート業も増えてきて、“じゃあサポートのときは何名義?”とか、サントラで自分がエンディングテーマまで歌うことになったら、“じゃあそれは世武裕子とsébuhirokoどっちなの?”とか、もう垣根がよく分からないケースが出てきて(笑)。だったら、いっそのこと全部世武裕子でいいかなって」
 
――細かく名義を分けていくより、全活動を世武裕子として受け止める。
 
「あと、私のアルバムにはいろんなタイプの曲が入っているので、例えば『Vega』(M-1)『Do One Thing Everyday That Scares You』(M-2)『Gardien』(M-3)辺りの曲と、『スカート』(M-5)ではまるで違うし、そういうところも今まではすごく気にしていたんですけど、“全部が世武裕子の魅力じゃん”みたいなことを言われて、肯定できるようになってきたんですよね。それに伴って、私を知る入口によってイメージが全然違うことも、どっちかと言うとネガティブに捉えていたんですけど、今はそれも縁だと思える。音楽以外の人間としての生き方でもそうで、“タイミングが合わなきゃ合わないで仕方ない”みたいに、肩の力が抜けてきたところもあって」
 
――そういう意味では、昔は何とか帳尻を合わせようとしていた?
 
「すごくしていました。いろんな曲を書くことがコンプレックスというか…だから逆に、“これしかできない”=アーティストっぽくて羨ましいと思っていたんですけど、時代も変わってそうでもなくなってきてよかったなって(笑)」
 
――さっき話に出たサポート業では、Mr.Chirldrenとか西野カナとか、日本でも最大級の規模のツアーにも参加していますけど、そこでの経験は自分に何をもたらしました?
 
「’18年は映画音楽を8本やったし、Mr.Childrenのアルバム制作とツアー、西野カナちゃんのロングツアー、そして自分のアルバムも作って。もうこれ以上ないぐらいの忙しさを経験してから、いろいろ考えたいと思ったんですよ。だからもう、死なない程度になるべく断らないスタンスでした(笑)。周りからもワーカホリックってよく言われたんですけど、自分は本当に根っからのワーカホリックなのか、いろんなことからそうなってきただけなのか、ちょっと分からなくなっていたところがあって。と言うのも、私の元々の性質はのんびり屋なんですよ。ほとんどの人は私の小っちゃい頃を知らないので、結構せかせかしたヤツだと思っているかもしれないですけど(笑)。だから、1回とことん忙しくなって、自分の本質を見てみたかったというか」
 
――確かに、割とせっかちな関西人のイメージはありますね(笑)。
 
「アハハ!(笑) 経験したことがないと、“本当はそっちの方が向いてるんじゃないか?”とか、ずっと気になるじゃないですか。だから去年はそれをやってみて、得るものもすごく多かった。西野カナちゃんと一緒にいてその人柄を感じると、たくさんファンがいる理由がよく分かったし、ずっと幸せでいてほしいなぁと単純に思う。Mr.Childrenみたいに誰もが知っているバンドからしたら、私なんて“誰やねん”状態なのに(笑)、一緒に音楽をやる人としてフラットに意見を聞いてくれる。そういう人間が大きい人たちと出会う幸運が続いて、音楽的にというより人間的に変わっていくのが自分でも分かるんです、今までの自分が嘘みたいに。そういう意味でも影響力はすごいし、彼らと一緒にやった人はみんなハッピーになるんじゃないかと思いました」
 
――ただ、世武裕子のソロ楽曲のイメージは、ダークだったりアバンギャルドだったりで、J-POPのド真ん中を行く人たちとは、まぁ真逆じゃないですか。
 
「そうですよね。しかもMr.Childrenは、そういう私を面白がって採用してくれたみたいで。ただ、Mr.Childrenの音楽自体がめちゃめちゃ強いから、私がいくらアバンギャルドなことをやろうが、誰も置いてけぼりにならないんです。私が好き放題に弾いてもちょうどいいぐらいにしかならない(笑)。だから、私も不思議な感覚でした。ものすごくマスな人たちと一緒にやっているけど、自分の素の超オルタナなままでいける。むしろ、“もっと好きに、もっと自由に、どうぞどうぞ!”みたいな感じ(笑)。その中で、自分の得意/不得意もだんだん整理されてくるし、“じゃあ自分は何がやりたいのか?”っていうことも冷静に分かってくるから、すごくいい経験ですね」
 
 
何でもお膳立てされて、ようやく聴いてくれた人が好きになるかと言ったら
そういうアルバムじゃないと思うんですよ
 
 
――“じゃあ自分は何がやりたいのか?”というところで、10周年にベストではなくオリジナルを作ろうとなったとき、何かビジョンはあったんですか?
 
「SF作品を作りたいのはありました。私には音楽的なルーツがあんまりないと思っているんですけど、曲を作れば作るほど、ちょっと年上の人たちに“懐かしい”みたいなことをよく言われるんです。“じゃあこのアーティスト好きでしょ? あのバンドも好きでしょ?”とかいろいろ挙げてもらうんですけど、実際は全然通っていないから、“いや、知らないです”みたいな(笑)。多分、私は80~90年代の洋画をむちゃくちゃ観ていたから、あのとき鳴っていた音楽が染み付いていて、そこをリアルタイムで生きてきた人たちが反応してくれてるのかなって。リバイバルというよりは、単純に自分から滲み出ているだけなんですよね」
 
――『Vega』のMVには、その辺りも顕著に出ていますね。
 


「私は(ニコラス・ウィンディング・)レフン監督の『ネオン・デーモン』('17)がすごく好きなんですけど、それを映像作家の田中裕介(CAVIAR)さんがインスタでめっちゃ褒めていたんです。以前から裕介さんの映像が好きだったのもあって、それを見てもう“やっぱりこの人に頼むしかない!”と思って。こっちが何も言わなくても、“そうそう! そういう感じ!!”の連続で、素晴らしいMVにしてくれました」
 
――あのブラウン管のサイズとか、映像のレトロフューチャー感も絶妙でしたけど、今回はそういったビジュアルワークを含めて、情報をあえて出さない逆プロモーション展開で。
 
「10年やってきて思うことは、こういうインタビューとかもそうですけど、だいたいアルバムを出す前に宣伝するじゃないですか。でも、結局、音楽を聴いてもらうのが一番早いから、まだアルバムが出てもいない段階で、“今回のアルバムは相当ヤバい!”とか言っていても、“それって実際、意味あるのかな”っていうのもあって(笑)。去年は私がめちゃくちゃ忙しかったのもあるけど、まずは音源を聴いて、好きだったらライブに来てほしいし、むしろリリースしてからプロモーションしたい気持ちの方があって」
 
――リリースでもライブでも、“解禁”とか“最速”と謳うニュースが毎日のように世に出る中で、発売されるまで実体が分からないのは、なかなか面白い仕掛けでしたね。
 
「今はすごく便利な世の中で、もちろん自分もそこに乗っかっている部分もあるんですけど、機材とか(笑)。Twitterで、“ホームページはある方がいいと思いますか?”とか質問してみたんですけど、みんなが“やっぱりあると親切だと思います”っていう答えでした。でも、その理由だったらなくてもいいなと思ったんですよね。“この曲いいな”と出会ったときに、調べたら何でもWEBに載っていて、その情報からどんどん好き/嫌いとか、良い/悪いのジャッジをしちゃって、今そこにあった“いいな”が濁っていっちゃう。例えばそれが芸能人なら、“この人いいな”と思ってネットで調べたら、過去に誰々と付き合っていたのが分かって、“何かこの人、やっぱりあんまり好きじゃないかも”、みたいなね(笑)。人間って一度見ちゃったらなかったことにはできないし、情報過多過ぎて疲れちゃって、“もういいや”ってなっちゃう。自分が今生きている社会の問題とか、無視できない情報だけでもいっぱいいっぱいなのに」
 
――自分の“いいな”というピュアな衝動の出鼻をくじかれたり、これから徐々に知っていく楽しみや歓びが、ある意味、強制的にショートカットされますもんね。
 
「そうやって何でもお膳立てされて、ようやく聴いてくれた人が好きになるかと言ったら、そういうアルバムじゃないと思うんですよ。だから掴みに来てほしいと思うし、遊び心を常に持っていたい。実際、私もSpotifyとかはすごく便利だと思うし、別にネットを完全否定しているわけではないんですけどね」
 
――自分の音楽にたどり着く道筋も含めて、プロデュースする。
 
「そうですね、ちょっと整理した感じです」
 
 
セオリーから解き離れたいと思うし
同時にそれが歌モノとしても成立していることが大事
 
 
――そんな今作は、冒頭の『Vega』から一気に引き込まれる感覚があって。全表現、果てまで振り切っている(笑)。
 
「アハハ!(笑) “はい、ここでまずはサビがきて…”とかいうセオリーから解き離れたいと思うし、同時にそれが歌モノとしても成立していることが大事だとも思っていて。これがサントラとかインストゥルメンタルのアルバムで、“だからややこしくてもOK”じゃ、いつまで経っても垣根はなくならないので」
 
――それは、その両方の世界を見てきた世武裕子だからこそのトライアルでもあって。『スカート』と『1/5000』(M-9)での、御徒町凧さんとの詞の共作に関してはどうでした?
 


「森山直太朗さんの『人間の森』('18)という曲でピアノを弾いたとき、御徒町さんと直太朗さんが言葉に対する本当に微妙なニュアンスの話をしていて、やっぱりそういうところが完成度に影響するんだなと改めて思いました。直太朗さんは歌う人という立場で私に近いところがある感覚派の人だけど、御徒町さんは緻密に言葉について考えている人というか。詩人という職業の人にも会ったことがなかったし、一緒に作ってみたいなと思って。言わば、私が作った歌詞を御徒町さんが添削してくれている状態が『スカート』ですね。『1/5000』は曲を書いたときに歌詞が思い付かなくて、それを御徒町さんに投げてみたら、“とりあえず文になっていなくてもいいから、何かしら歌ってみて”と言われて、私が“くらい”とかってずーっと歌っていたんですよ。そうしたら、全部3文字の言葉で返ってきて、“なるほどな、人と作るとこういう面白さがあるんだな”と思って。語らないのに多くを語る、それはやっぱり素晴らしい歌詞なので。自分だけで書いていたらそうはならなかったから」
 
――クリス・デイヴ(ds)はどういう経緯で参加してもらえることに?
 
「『リバース・エッジ』('18)のサントラで、初めてエンジニアの小森(雅仁)さんと一緒にやったんです。小森さんは宇多田ヒカルさんの最近の作品も手掛けているエンジニアで、音楽の話がすごく合うのと、初めて自分の理想のピアノの音にすごく近い音で録ってくれた人なんですよ」
 
――過去のインタビューで、“これというピアノとエンジニアに出会えていない”と言っていましたけど、ようやく。
 
「そうなんですよ。ただ、それがもうレコーディングの後半だったので、今回はピアノの曲が少ないんですけど。小森さんと“ビルボードで観たクリス・デイヴがヤバかった”みたいな話になったとき、“宇多田さんの作品にクリス・デイヴが参加しているのはすごいですね”って言ったら、“クリスは日本のアーティストにも興味があると言っていたよ”って小森さんから聞いて、“じゃあダメ元で私のデモを送ってください!”と頼んで。そうしたら、クリスが『Vega』をすごく褒めてくれて、一緒にやれることになったんです。あと、『John Doe (feat.Chris Dave)』(M-7)は前作『L/GB』('16)の曲ですけど、クリスとやったら面白そうだなと」
 
――なるほど、だからこの曲だけ再録したんですね。
 
「クリスには元の音源を事前に聴かせず、好きにやってもらいました。せっかく一緒にやるなら、私もクリスの演奏を聴いてから出方を決めようと思っていたから、ちょっとオリジナルとは違う展開になっています。クリスのドラムは、どんどん乗せられる感じというか、人の想像力を引っ張り出すドラムだなって思う。何か本当に“線路”っていう感じ(笑)。自分が電車で、あとは敷かれた線路の上を快適に走るだけでいいっていう」
 
――個人的には、『Bradford』(M-6)が改めていい曲だなと思いました。
 
「私がすごく仲良くしている人が、上司が若くして亡くなってすごく落ち込んでいて。励ましはしたんですけど、“私がこんなことを言っても何も解消されないし、非力だなぁ”と思っていたときに、じゃあその気持ちを歌にしようと」
 
――それって、めちゃくちゃシンガーソングライター的じゃないですか。
 
「そうそう! だからもう、これが一番素の曲です。歌詞もそのとき思ったことを書いて」
 
――こんな曲をさらっと書ける日本人はなかなかいないなと思いました。制作においてスランプとかはなく?
 
「私はまだスランプになったことがないですね。だから、逆にだんだんビビり始めていて。若いうちならまだ乗り越えられそうだけど、40、50とかになって初めてスランプになって立ち直れるのかっていう…あぁ〜怖い怖い(笑)」
 
 
人生のターニングポイントでした、本当に
 
 
――歌に関してはどうですか? “今までで一番思ったように歌える”と、Twitterではつぶやいていましたけど。
 
「アデルとか、それこそMr.Childrenの桜井さんとか、“この人は歌うために生まれてきたんだ”っていう、選ばれた人がいるじゃないですか。本当にアカペラだけでいける人。でも、私はそうじゃないので。じゃあどう歌えば、誤差なく自分の世界観を表現できるのかと。だから、“歌も楽器の1つ”みたいなことではないんです。私の曲は歌詞がない部分も多いので言われがちですけど、ちゃんと自分がどこを歌えば気持ちがいいか、どういう言葉を置いたらいい声で歌えるかは、すごく考えました」
 
――ここまで先鋭的なサウンドでありながら、ちゃんと軸には歌があると。
 
「それは直太朗さん、桜井さんや西野カナちゃんのお陰もあると思います。ずっと一線で歌ってきた人を近くで見て、見るどころかその人が歌うためのピアノも弾いている。この人のこの歌に対して、自分がバンドの中のどういうポジションで、どうあればいいのか。それを瞬間瞬間で判断していくのが=演奏なので、すごい集中力で歌を聴いたり、歌う姿を見たりするし、それもその日その日で違う。歌に対する考え方は、よりストイックになってきました」
 
――瞬間瞬間にすごくいろんなことを見て、感じているから、やっぱりのんびり屋な感じはしない(笑)。
 
「いやいや、一緒にいる人に、“ちょっと! 今こっちが喋っているのにオフり過ぎだから”って言われるぐらい、急にぐうたらしたりしていますよ(笑)。逆に、オンのときはもう尋常じゃないぐらいの集中力を使っちゃっているので、今後はのんびり屋な本質もちょっとは大事にしてあげないとなって思います。これからの10年は、好きなことを引き続きやりながら、どうやってその本質と共存していくかがテーマかなと」
 
――振り返って、どんな10年でした?
 
「何か…よく分からなかった(笑)」
 
(一同爆笑)
 
「細かいことは何も覚えていないですね…今、オフってないですよ!(笑) でも、結果としてその10年があって今があるわけじゃないですか。本当にいろんな人に支えられてきたと思うし、今でも日々面白い体験をいっぱいするんですよ。道行く人から急にドリップコーヒーをもらったり(笑)。そういうときですら毎回思うんですけど、“じゃあ私は何を返せるのかな”って。そういう日々が積み重なって、仕事なら西野カナちゃんとの出会いもそうだし、Mr.Childrenもそうだし、映画も全部そうで、“私、もらってばっかりだ”ってやっぱりすごく思うから。だから次の10年は返したい。そう思えている今が、10年っていうことだと思う」
 
――そう思わせてくれる人たちと、尊敬できる仲間たちと出会えたなら、幸せですね。
 
「今まではそういう人の存在に気付けなかったのもあると思うけど、そのロールモデルみたいな人たちと去年はたくさん出会えました。映画監督の行定(勲)さんとかもそうですけど、尊敬できる人に自分もちょっとは近付きたいと思うし、これから10年経ったとき、若い人たちに“あいつ面倒臭いな、文句ばっかり言って。自分の作品はイマイチのくせに”って言われたくはないので(笑)。そういうふうに自分をこじらせていかないための’18年の出会いだったとも思うし、一緒にできて嬉しいとか以上に、人生のターニングポイントでした、本当に」
 
 
ライブが自分の作品を押し上げてくれる
結構重要なキーワードになるんじゃないかと思っていて
 
 
――世武裕子は作品至上主義なイメージもありましたけど、最近はライブが一番力を発揮できる場所だと。
 
「サポートの現場に行っても、“本番で急に輝き出すタイプだね”って言われたりもします(笑)。やっぱり何だかんだ人が好きだから、目の前にお客さんがいると全然違うというか。よくよく考えたら、小っちゃい頃からずっと人前で演奏してきたから、そこが自分のホームグラウンドなんでしょうね。私はクラシック出身ですけど、よほど有名なピアニストにでもならない限り録音物を残す文化はないし、散々弾かれてきた曲を一発勝負のコンサートで演奏するのがクラシックの世界。私もそういうところがあるって去年は気付けたし、ライブが自分の作品を押し上げてくれる、結構重要なキーワードになるんじゃないかと思っていて。そういう意識もあって、このアルバムを作り始めたぐらいからライブにPAも導入して、マニュピレーターも付けて。自分の作品の世界観をちゃんといい音で体験してもらうっていう、ものすごくベーシックなところに立ち返れたのは、小森さんとの出会いだったり、PAの志村(直樹)くんだったり…それも全部’18年の出会いなので」
 
――今回の作品も、ライブに来てもらうために作られたところもあると。
 
「そこはかなり意識しました、今回は」
 
――そして、この耳慣れないタイトルは、『007 黄金銃を持つ男』(‘74)に出てくる殺し屋の名前から来ていて。
 
「“スカラマンガ”って言うだけで、めっちゃ気持ちよくないですか?(笑) やっぱりあの映画は私の原点の1つです。あと、このアルバムの裏テーマは、“こういうサントラを作りたいから、こういう映画のオファーをください”っていう(笑)。レフン監督みたいな日本人がいるなら、ぜひ音楽をやらせてください!」
 
――最後に、今年の活動に向けて思うところを。
 
「こういうアルバムが作れてよかったなと思うし、今年は’18年に自分がやってきた全ての仕事を経て、ステージの上でもっと演奏がしたい。自分の音楽を立体的に聴いてほしいし、そういう肉体的なところを、頭できっちり作られたものじゃないはみ出した部分を、ちゃんと観てほしいので。ひとまずはやっぱりライブに来ていただきたいっていうのが一番大きいかな。あとはもう、私が単純に裕介さんのファンなので、MVを見てください(笑)。好きな映画を紹介するように、“ちょっと一回観てみて!”っていう気持ちはすごくあります」
 
 
Text by 奥“ボウイ”昌史



(2019年2月21日更新)


Check

Movie

なぜか動画はいつもユーモラス(笑)
世武裕子からの動画コメント!

Release

最強ドラマー、クリス・デイヴも参加
才気溢れる2年ぶりのニューアルバム!

Album
『Raw Scaramanga』
発売中 3000円(税別)
ポニーキャニオン
PCCA-04718

<収録曲>
01. Vega
02. Do One Thing Everyday
  That Scares You
03. Gardien
04. Secrets
05. スカート
06. Bradford
07. John Doe(feat.Chris Dave)
08. Movie Palace
09. 1/5000
10. The Death of Indifference

パリにてフィールドレコーディング!
10分超のインスト曲を急遽リリース

Digital Single
『「Sweep」field recording』 New!
発売中
ポニーキャニオン

<収録曲>
1. 「Sweep」field recording

Profile

せぶ・ひろこ…東京・葛飾生まれ、滋賀育ち。シンガーソングライター、映画音楽作曲家。Ecole Normale de Musique de Paris映画音楽学科を首席で卒業。帰国後、映画やテレビドラマ、数多くのCM音楽を手掛ける傍ら、シンガーソングライターとしても活動を開始する。sébuhiroko名義では『WONDERLAND』(‘15)に続き、ダーク、踊れる、プログレッシヴ、ミニマルミュージックをテーマにより色濃い世界を描く『L/GB』(‘16)を発表。『リバーズ・エッジ』『ママレード・ボーイ』『羊と鋼の森』劇場版アニメ『君の膵臓をたべたい』『日日是好日』『生きてるだけで、愛。』など’18年公開の映画音楽も数多く担当している。ピアノ演奏・キーボーディストとして西野カナ、森山直太朗、Mr.Childrenのレコーディングやライブなどにも参加するなど、幅広い活動で注目を集めている。’18年10月24日には、最新作となるアルバム『Raw Scaramanga』をリリース。

世武裕子 オフィシャルTwitter
https://twitter.com/sebuhiroko
世武裕子 オフィシャルInstagram
https://www.instagram.com/sebuhiroko/

Live

リリースツアー唯一の関西公演
貴重なライブが京都にて間もなく!

 
【東京公演】
『世武裕子「Raw Scaramanga」
 showcase 1』
‪▼11月6日(火)神楽音
『世武裕子「Raw Scaramanga」
 showcase 2』
‪▼12月12日(水)神楽音

【東京公演】
『世武裕子「Raw Scaramanga」
 in Tokyo』
▼1月14日(月・祝)WALL&WALL

 

Pick Up!!

【京都公演】

『世武裕子「Raw Scaramanga」
 in Kyoto』
チケット発売中 Pコード133-907
▼2月22日(金)19:30
京都メトロ
前売3000円(オールスタンディング)
ZAC UP■075(752)2787

チケット情報はこちら


【福岡公演】
『世武裕子「Raw Scaramanga」
 in Fukuoka』
チケット発売中
▼4月16日(火)20:30
Kieth Flack
前売3000円
Kieth Flack■092(762)7733


Column

「社会に思うことを音楽でやる」
美しく神秘的で、ダークでポップ
混迷する社会にsébuhirokoが
提示する直感が誘う音楽
『WONDERLAND』インタビュー

Recommend!!

ライター奥“ボウイ”昌史さんの
オススメコメントはコチラ!

「アンダーグラウンドからオーバーグラウンド、オルタナティブからメインストリーム。それも確かによくある話なんですが、世武裕子に限ってはどちらも行き来できちゃうというか、どっちに振り切ってもここまで説得力のある音楽とクオリティを叩き出せる人は、そうはいません。劇伴を手掛ける作曲家としての顔、己の表現たるシンガーソングライターとしての顔。サポートするかと思えば、ミスチル、西野カナって、この人には間がないんかい(笑)。新作の『Raw Scaramanga』も素晴らしい出来で、彼女の底知れぬ才能を存分に味わえます。でも、いざ会うとざっくばらんというか、めちゃめちゃ関西人(笑)。音楽から、会話から、溢れる創作意欲とプロ意識をひしひしと感じつつ、このまま燃え尽きちゃうんじゃないかとちょっと心配になるぐらい、生き急ぐように表現し続ける。それでも深刻になり過ぎないのは、彼女の持っている人柄なのか何なのか。初めて会ったときから、何か好きなんですよね~この人。そんな彼女の音楽的な魅力はもちろん、人間的なそれが伝わるインタビューになっていれば本望です。世武裕子の次の10年はどんなものになるのか? 彼女自身も自覚し始めた変化が今後も楽しみ」