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自分と世界の関係性を見つめ直す
2ndアルバム『アントロポセン』からのメッセージ
蓮沼執太フィルインタビュー

1stアルバム『時が奏でる』から4年半の時を経て、蓮沼執太フィルの2ndアルバム『アントロポセン』がリリースされた。蓮沼執太フィルは、蓮沼執太がコンダクトする16人編成の現代版フィルハーモニック・ポップ・オーケストラ。5人組の蓮沼執太チームを母体として、2010年に結成された。ライブハウスから美術館、ホールまで様々な空間で演奏し、展覧会や建築、演劇とのコラボレーションなど、実験的な取り組みも積極的に行っている。“アントロポセン”とは、ドイツ人化学者パウル・クルッツェンによって考案された“人類の時代”という意味の新しい時代区分。人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった時代であり、現代社会を含む“完新世”の“次”の地質時代を表す。今年の酷暑や各地での自然災害を目の当たりにし、地球そのものの変化を肌で感じる機会も増えた。ただ蓮沼執太は、この作品で問題意識を持たせるのではなく、“いま目の前に広がる世界をどう生きていくか”という視点を、フィルの多様な音楽で内包し、詰め込んでいる。現代の人間の営みとしての音楽。総勢16名の奏でるハーモニーは軽やかで親しみやすく、繊細で力強く前向きな生命力が宿る。蓮沼執太は一体どんな想いをもって『アントロポセン』を生み出したのか。


自分ができる小さい出来事を丁寧に考えていくと、大きい問題とも対峙できる
 
 
――まずタイトルのお話からお聞きしたいのですが、“アントロポセン”とは、聞き慣れない言葉といいますか。
 
「そうですね、はい」
 
――大学時代に環境学を学ばれていたところからのタイトルなんですか?
 
「環境学から直接ではないんですけども、アントロポセンというのは、そもそも“人間が地球上に営みをするようになって、今まで地球上になかった物質を新しい地層のように作り上げてしまったから年代をつけましょう”ということなんです。地球規模のタイトルで、耳馴染みもないですし、普通に生きてたら関係のないような問題なのかもしれないですけど、ただここまで暑かったり、実際体験したことない気温まで上がってきてたりするし、環境も変化している」
 
――ほんとうに、身近に環境問題を感じとれますもんね。
 
「僕は啓蒙的に言っているわけではなくて、現実的な問題に真剣に向きあわないといけない時でもあると思うんです。ただ、これは音楽なので、そういうことがコンセプトというわけではなく、自分ができる小さい出来事を丁寧に考えていくと、大きい問題とも対峙できるだろうと思っていて」
 
――なるほど。
 
「蓮沼フィルって、いろんなミュージシャンが参加してくれているんですけど、そこまで合理的じゃないというか、手間がすごくかかるんです。でも、普段だったら非効率だと切ってしまうものを、丁寧にチャレンジして積み重ねていくという実践が、僕の中では資本主義や社会のサイクルの中で出来る音楽の1つなので、そういうところとアントロポセンと対峙するときの考え方はすごく近いかなと」
 
――先ほど啓蒙ではないとおっしゃいましたが、『Bridge Suites』(M-11)に“毎日 届くシグナルに 僕らのできることは何?”というフレーズがありますよね。音楽を聴いて、問題意識を持ってほしいということは?
 
「そうですね、歌詞を通じて“こうなんだぜ!”みたいなメッセージ性というよりも、音楽とともに自然と入ってきて、歌詞だけじゃなく音楽込みで、ニュアンスみたいなものが伝わってくれるといいですね。言葉って、どちらかというと意味性が強いので。強制的なものではなくて、ナチュラルに音楽として届けたいなというふうには思っていますね」
 
――音として。
 
「そう、音として。僕はシンガーソングライターではなくて、例えば感情的なことをすぐ歌にして大衆的に届けようとするような音楽ではなくて、アレンジや楽器の音が最初にあって、メロディーもあって、そこに言葉をつけていくので、全ては1つなんですよね。僕自身が歌ってるから説明もちょっと必要ですけど、ボーカリストというよりは、アートワークも込みで、全てが大きなメッセージですかね」
 
 
 
前は楽器のために書いてたんですよ。今回はもう“メンバーのため”なんですよ。

 
――今作を作ろうと思った最初のキッカケはどういうものだったんですか?
 
「そもそも蓮沼フィルというのは、僕が作っていた音楽を生楽器でアレンジするところから始まってるんですよ。僕、コンピューターやシンセサイザーを使って音楽を作ってるんですけど、ライブだと表現できない部分があって、それを管楽器や弦楽器にアレンジし直すんですね。で、ライブのために作ってきたものをまとめたのが、前のアルバム『時が奏でる』なんです。レパートリーが20〜30曲になって、その中から選んでレコーディングしたのが前作で、ツアーとリリースが終わって、ある程度やったぞという気持ちになって。僕は普段東京に住んでるんですけど、2014年にNYに行くことになったんですね。フィルのツアーが終わったと同時に日本を離れるので、ある種、自分の移動も込みで、もうやらないんじゃないかなというぐらいまで思ってたんですけど」
 
――そうなんですね。
 
「で、日本に帰ってきてからも僕はソロで『メロディーズ』というアルバムや、 タブラ奏者のU-zhaanと一緒に『2 Tone』というアルバムを作っていて。で、2017年2月にスパイラルホールでMeeting Placeというイベントをやったんですよ。2年ぶりくらいにフィルの皆が集まったのかな。その時の演奏がほんと素晴らしくて。やっぱり1人で音楽を作ると、どうしても他人の変化がわからないんですよ。あまりに素晴らしくて、2年前は“やりきった”とか言ってた自分が愚かだなと」
 
――2年間でフィルのメンバーも変わっていった。
 
「そうですね、皆さんいろんなところでさらにキャリアを積んでるし、演奏だけじゃなくてやっぱり人間性も変わっていくし。“昔そんな服装じゃなかったよね?”とか。おもしろいなと思って」
 
――それで、もう1度フィルのメンバーでやりたいとなった?
 
「その時に音楽的な可能性を感じたというか。僕、日本とNYを行き来しているんですよ。なので、すぐにどんどんフィルの活動をしようというよりかは、NYに帰って、どういうことができるかなとすごく考えていて。前はライブをして曲が貯まったからリリースしたんですけど、今度はその逆をやってみようと思って。いきなりアルバムを作って、そこからライブに転換していこうというイメージでやってます」
 
――今作の制作を始められたのが、2017年1月からの1年半ということですね。
 
「そうなんですよ。スパイラルホールのMeeting Placeで来場者に新曲音源プレゼントをやったので、イベント前に1回レコーディングしたんですよ。2年ぶりに皆で演奏して、かなり生き生きしてましたね。レコーディングは1週間毎日やるというより、次は半年後という感じで、飛び飛びで録ってました」
 
――それで1年半という長い時間がかかったんですね。
 
「そう。じっくり作ってたというのもありますね」
 

 
――『Meeting Place』 (M-2) はリード曲にもなっていますね。
 
「この曲の原型をイベントでお配りしたんです。『Meeting Place』はフィルの皆のことを考えながら作った曲なんです。人数が多いので、ダイナミックに“どーん!”と音を鳴らすみたいなものが1stアルバムだったんですけど、今回は1つの大きい音楽というよりかは、メンバーそれぞれの人間性が見えたり、性格が知れるような音楽にしたいと思っていて。『Meeting Place』は特に、音色がどんどん変わっていったり、音の層になってたりするんです。メンバー1人1人に対して手紙を渡す感じ。スコアや指示を、ラブレター的に“お願いします!”みたいな(笑)」
 
――なるほど、そんな感じで作られていったんですね。
 
「フィルも以前はライブごとに“新曲作ろうかな”、ってやってたんですよ。新曲にマリンバ必要だな、じゃあマリンバの人探そう。ネットで“マリンバ 検索”みたいな」
 
――えっ(笑)。
 
「冗談ですけどね(笑)。普通に友達に、いい人いないか聞くんですけど」
 
――ですよね(笑)。
 
「それってメンバーというより“マリンバに”書いてるんですよ。音楽って普通、そういう考え方で曲が作られるんです。スティールパンが欲しいからスティールパンが目立つような曲、みたいに。前は楽器のために書いてたんですよ。今回はもう“メンバーのため”なんですよ。楽器ありきじゃなくて、メンバーありきからの音。そこは全然違って。やっぱりそれは、Meeting Placeのイベントで僕がメンバーのことをカッコ良いなと思ったので、そういうところからきてると思います」
 
――メンバーの皆さんとのコミュニケーションは、ミーティングを頻繁にされたり?
 
「あんまりミーティングしないんですよ」
 
――しないんですか?
 
「はははは(笑)」
 
――演奏する時は?
 
「リハで、“新曲でーす”ってコード渡して、“じゃあちょっとデモ音源あるんで聴きまーす”って聴いて、“じゃあ合わせまーす”って。そしたら合わせられますよ」
 
――すごいですね。その人に向けて書く、というのは、日常の会話や性格、楽器の癖みたいなのも鑑みるんですか?
 
「そうそう、もちろん。まあ結構活動歴も長いし、毎日会うわけじゃないんで、そこがいいっていうか(笑)。皆仲良いんですよ。仲良いからじゃれてるみたいな感じでもなく、さっぱりと会う時にあって、音楽やって、終わったら帰る、っていう感じですし、やっぱり僕が参加してくださいってみんなにお願いしてますし、それなりに信じてますし、メンバーのことを見てますからね」
 
 
 
美術と音楽はアウトプットが全然違う。音楽は記録されたメディア。
展覧会は音楽というものをどうビジュアライズしていくか。

 
――ちなみに2018年4月〜6月まで資生堂ギャラリーで行われていた展覧会『蓮沼執太: 〜 ing』を拝見させていただきました。
 
「ありがとうございます!」
 
――この会期中も『アントロポセン』を制作されてる真っ只中だったということですよね?
 
「その通りです。もうど真ん中ですね。並行して作ってたんですけど、ほんとにてんやわんやだったんです。展覧会の作品作ってる時にミックスなどをしていたので。展覧会のスタッフに、言えるわけないじゃないですか」
 
――黙ってたんですか?
 
「言ってないですね。こっそりというか黙って。だって展示のことに集中してると思うじゃないですか。もし同時進行がわかってしまったら“何やってんの、信じらんない”、みたいになっちゃうんで(笑)」
 
――そうだったんですか(笑)。展示のテーマが“人と人以外の関係性”についてで、アントロポセンと同じものを感じました。だから連動しているのかなと。
 
「美術と音楽はアウトプットが全然違うんですよね。音楽は記録されたメディアで、展覧会は、音楽というものをどうビジュアライズしていくか。最近は人との関係性というものをコンセプトとして作ってますが、とても近しいアウトプットですよね。フィルも、メンバーと僕らの関係性だったりするし、歌詞の内容も、直接的な部分もありますけど、世界とどう向き合うかとか、そういうことを言っています。あと、やっぱり1人の人間が作るんで、全く違うものは生まれないというか、関心あるテーマは同じ。資生堂の展覧会とアントロポセンは特に同時期に作っているので、とても同じような位置にありますね。なので同時進行が出来たんです」
 
――分解された楽器を踏んで音を出す展示が印象的でした。
 
「あれはホーンを作る時に使われなかった廃材なんですよ。なので、素材は楽器にならなかったもの、要はリサイクルなんです。それが空間一面にわーって敷いてあって、上に乗ると自然と音が鳴るんです」
 
――とてもきれいで、静謐な音でした。
 
「楽器の金属の音って良いんですよ。ピアノもボディをコンコンって叩くとすごく良い音がするし、楽器という物は非常によくできてるんですよね。あの廃材もすごく良い音鳴るし」
 
――ええ。
 
「楽器というのは人間の知恵と歴史が詰まった、音を奏でるためにすごく合理的に作られているものなんですよね。ピアノも叩けば綺麗な調律が鳴る。すごいテクノロジーがそこにはあるんですよね。合理的に音楽をやるというのは、そもそも日本ではあんまりなかったことですし、主に西洋音楽の話ですよね。今じゃ僕らはそういう音楽を当たり前のように思ってますけど、実際そうなのかな?と見直してみる。というのも、環境音楽とか、環境音でフィールドレコーディングを録っていたりすると、もちろん音楽という側面もあるんですけど、あれは音だし、やっぱり調律ではない部分に魅力を感じます」
 
――自然発生しているものですね。
 
「そうです。だから展覧会では、そういったものを疑うことと、楽器だったものが急に必要ないからといって、モノになってしまう。モノと自分はどう対峙するか、ということを問うてるんです」
 
――人と外部、自分とそれ以外のもの、に対する感覚や意識は、いつ頃からお持ちだったんですか?
 
「うーん、そうだなー。音楽というのは基本的には空間がないと聴こえないんですよ。空気振動なんで、外で音楽やっても基本的には聴こえない。空間があるから音が響くというものもあるし、音楽をやりだしてから丁寧に考えてるとは思います。僕の音楽歴はライブをするんじゃなくて、レコーディングをするところから始まってるんですよ。実はCDも空間なんです。CDという空間の中にどういう音をレコーディングしていくか。やっぱり器があって音楽があるという発想なんですよね。で、ライブでこれを発展させる。応用してどういうふうに鳴らすか。たとえばそこに人がいたらどうなるか。そういったところから、自分と他者や、自分と世界というものを具体的に考えていくようになったと思います」
 
――なるほど。
 
「でもそういったことはいつの時代の音楽家もずっと考えてたことで。本とか読んでたら、“そんなこと考えてたんだ! じゃあ現代を生きる自分の場合どうだろう”って思ったりする。そんな感じですね」
 
 
 
視点を多く持った方が、豊かに生きれるんじゃないかなと思います
 
 
――曲のお話もお聞きしたいのですが、1曲目の『Anthropocene - intro』には“時が奏でる”という言葉が入っていて、はじまりを示唆しているので、前作から続いている流れがあるのかなと。
 
「そうなんですよ、まさに。今年2月にNYのPioneer Worksというアートスペースで展覧会をやったんですけど、そこに音楽スタジオがあって。僕、年明け1月2日からそのスタジオにいたんですけど、超豪雪で人が誰もいなくて、ぽつんと1人作業してたんです。その時『アントロポセン』が12曲出来てたんですよ」
 
――12曲。
 
「1曲足りなかった。で、曲順をバスに乗りながらとか、あらゆる時間ずっと考えてて。“何か足んないな、何か足んないな、イントロだ!”となって、アルバムがある程度できてから作った曲が『Anthropocene - intro』なんです」
 
――そうなんですね。『Anthropocene - outro』は最初からあったんですか?
 
「アウトロは『5 windows』という曲のお尻部分をアウトロにしたので、もともとあった曲なんですね。イントロもその時に歌詞を考えたので、意図的に前作と今作を結ぶような形になればいいなと思って。あと実はループするとアウトロからイントロにもいけるようにもしてあるんです。自然とイントロにいく感じになればいいなと思って作ったんです。それってCDならではだな、と思って。レコードだったらやっぱり無理だし、配信だとどうしても1曲で聴いたりするし」
 
――確かにそうですね。『Anthropocene - intro』ができて、しっくりきたと。
 
「そう、これで聴いてもらえる! なんとかなるぞと」
 
――あと『TIME』(M-10)は、蓮沼さんのソロアルバム『メロディーズ』にも収録されていますよね。なぜ今作にも入れようと思われたんですか?
 
「作曲が木下美紗都さんで、山田亮太さんという詩人の方が作詞なんですけど、ほんとうに良い曲で、大好きなんです。『TIME』は、60分の舞台作品で作った中の1シーケンスなんですけど、ちょうど震災の後に初めて作ったシアターピースで、直接的に災害のことを扱っていたテーマだったので、僕の中でも大切な、ずーっと続けていくべき音楽の1つだなと思っていたんですね。自分でも『メロディーズ』で収録しましたけど、フィルでもライブでずっと演奏してたんですよ。レコーディングするのは記録することなんで、どうしても2ndアルバムに入れたかった。ほんとは1stに入れてもよかったんですけど、このタイミングで入れることになりました」
 
――個人的に、『TIME』から『Bridge Suites』、『NEW』(M-12)への流れがすごく好きです。
 
「あ、嬉しいですね。1曲1曲粒ぞろいで、曲順すごい悩んでたんで。今回ニュージャージー州のジョー・ランバートさんにマスタリングをお願いしたんですけど、曲間に2秒〜3秒かけていて、通常ならもっとすぐ次の曲にいくんですけど、じっくりと1曲ずつ聴いてもらえるようにしていったんです」
 
――『4O』(M-5)の後半ぐらいからだんだん重くなって、混沌とした時代の中に入っていく感じからの『NEW』までの展開はストーリー的で、旅をしている感覚になりました。
 
「その辺すごい苦労したというか、いろいろ考えてたので、そう言ってもらえると非常に嬉しいです」
 
――ジャケットのアートワークは、飛行機の窓ですよね。
 
「はい、飛行機の窓からの景色です。なんか飛行機乗ってて外とか見ると、ちょっとワクワクするというか」
 
――しますね。自分の住んでる地球を少し俯瞰するというか。
 
「うん、いつもとは違う視点で日常を見てみるというか」
 
――蓮沼さんは“視点を増やす”ということが大事だと考えてらっしゃるんですよね。
 
「そうですね。何て言うんですか、再発見というか、“自分、こんなことしか見てなかったわ”と思うことも、当たり前だと思ってたことが全然当たり前じゃないってこともたくさんありますし、たとえば移民の話とかもそうですけど、全然慣習が違う外国の方がいらっしゃった時には、“何で違うんだろう”って考えた方がいい。まあ日本にいたら、なかなかそこまで考える機会はないですけど、これからオリンピックで、外国の方に対する意識もまたちょっと変わるかもしれないですね。こういうことは視点を多く持った方が豊かに生きれるんじゃないかなと思いますね」
 
――そうですね、どうしても排除してしまいがちになってしまうというか。
 
「そう! 僕もそうですけど、自分勝手なんでね(笑)。反省してるんですけどね」
 
――過去のインタビューで“フィルでありながらも強い音楽を作っていきたい”とおっしゃっているのを拝見したのですが、今作『アントロポセン』は生命力にあふれているし、前向きな印象が強いですよね。今後はどのような音楽を作っていきたいと思ってらっしゃいますか?
 
「『アントロポセン』の延長線上なんですけど、8月18日に蓮沼フィルに新加入のメンバー10人を加えた26人編成での『フルフォニー』というライブに向けての新曲を今ちょうど作っていますけど、それはこのアルバムにそのまま流れている流れなんで、作りたい音楽という感じではないんですよね。いずれにせよ、ソロにフィードバックしてくるんじゃないですかね。皆でやるのもとても刺激的だけど、じゃあ自分はどうなんだろうと思ったりすると思うんですよね。だからちょっと冷静になって考えたいですけど」
 
――今作のツアーが終わってからという感じですか?
 
「いやー、どうなんでしょうね。実はフィールドレコーディングを今ずっとしてるんですよ。外の音録りに行ってたりするし、あとネットで、フィルで絶対使わないような機材をチェックしちゃって(笑)。まだ自分でも言語化してないですけど、何かしら次のものを作る欲はあるんじゃないでしょうか」
 
――そして9月17日(月・祝)に味園ユニバースで『アントロポセン-360℃ 大阪全方位型』が行われますね。ユニバースは初めてですよね?
 
「そうなんです。僕はそこでライブをやったことがなくて、夜中に酔っ払ってバーに行ったくらいなので、まだ情報がないんですよ。動画や写真はいただいてますけど。だから、どういうふうになるのか楽しみという感じですね」
 
――ユニバースは生命力の強い会場ですから、『アントロポセン』の音楽が鳴ると、どんな空間になるのか楽しみです。
 
「さっき空間の話をしましたけど、空間あっての音楽で、空間の中には演奏家もいれば聴きに来る人もいる。僕は、オーディエンスも空間の中にいるから、音楽の1つだと思ってるんですよ。センターステージは人に囲まれてやるから、まあ安易な言葉ですけど、すべてが1つとして会場が一体になればいいなと思っています。味園は元キャバレーですよね?どうなっちゃうんだろう」
 
――周りの環境も独特ですからね。
 
「フィルのメンバーね、スティールパンの小林うてなさん以外は全員すーごい飲むんですよ」
 
――蓮沼さんも?
 
「はい、僕も。みんなキャバレーの雰囲気、大好きだと思うし、だから楽しむんじゃないですかね」
 
――楽しみですね。
 
「楽しみです。大阪やりたかったんですよ。なんかどうも“京都っぽい”ってよく言われるんですけど」
 
――ああ~。
 
「いやいや何言ってるんですか!と。僕はどっちも好きなんですけど、比べたら大阪の方が好きなんです」
 
――大阪のどこが好きなんですか?
 
「仲良い友達がいっぱいいるんですよ。人も良いし。そこ重要ですよ。此花に住んでる建築家の友達がいて、古い家をリノベーションなどの活動も見てて元気もらえます」
 
――大阪全方位型ライブ、期待しております。
 
「はい、ぜひ遊びにきてください」
 
――では改めて『アントロポセン』、どういう作品になったと思われますか? 
 
「音楽っていうのは作ったら終わりじゃなくて、人に聴いてもらって音楽になると思ってます。だからもちろん聴いてもらいたいし、フィルのメンバーのために曲を書いたと言いましたけど、やっぱりメンバーそれぞれ、各々のフィールドで活動していて、そこにはいろんな音楽のジャンルや文脈があって、そういう人たちを束ねてやっているので、ある種ごった煮だし、この音楽にはジャンルとかもない。つまり、いろんな人が聴いて楽しめるポイントがいくつもあるんじゃないかなというアルバムなので、こういうアルバムが作れたことはとても嬉しく思っています。自分にとっても前向きな要素になっているし、結構素直に作って、ほんとに固定概念持たずに聴けるアルバムだと思うので、届くといいな~って思っています」

text by ERI KUBOTA



(2018年9月 5日更新)


Check

Release

蓮沼執太フィル4年ぶりのセカンドアルバム

発売中 3056円(税別)
COCP-40486

《収録曲》
<収録曲>
01. Anthropocene - intro
02. Meeting Place
03. Juxtaposition with Tokyo
04. the unseen
05. 4O
06. off-site
07. centers #1
08. centers #2
09. centers #3
10. TIME
11. Bridge Suites
12. NEW
13. Anthropocene - outro

Profile

蓮沼執太がコンダクトする、総勢16名が奏でる現代版フィルハーモニック・ポップ・オーケストラ。 2010年に結成、これまでにラフォーレミュージアム原宿、WWW、WWW X、リキッドルームなどのライブハウスから、東京都現代美術館、東京オペラシティ・リサイタルホール、大阪国立国際美術館、愛知芸術文化センターなどで演奏の機会を重ねてきた。2014年1月にファーストアルバム『時が奏でる』をリリース。同年、札幌、福島、名古屋、京都、広島、高松にてリリースツアーを敢行。2017年2月にスパイラルホール2daysを実施、2017年1月に草月ホールにて単独公演を実施。2018年7月18日、セカンドアルバム『アントロポセン』をリリース。すみだトリニティーホールでのアルバム発売記念公演『フルフォニー』を皮切りに、全国ツアーを実施予定。

蓮沼執太フィル オフィシャルサイト
https://www.hasunumaphil.com/


Live

『蓮沼執太フィル』

チケット発売中 Pコード:118-043
▼9月17日(月・祝) 18:00
味園 ユニバース
全自由-5000円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[問]清水音泉■06-6357-3666

チケット情報はこちら