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「やっぱり残したいんですよね、自分が生きた証拠というか“証”を」
生命力と感謝を詰め込んで軽やかに前進する
椎名慶治の現在進行形『-ing』から、SURFACE再始動の後日談、
20年目の決意表明までを語るインタビュー&動画コメント

 2018年5月27日、東京・豊洲PIT。この運命の日の実現を祈るように待ち侘びた3000人のオーディエンスを前に、8年の時を経てついに再始動を果たした椎名慶治(vo)×永谷喬夫(g)によるユニットSURFACE。そこから間髪入れずにリリースされた椎名慶治の2年5ヵ月ぶりのソロアルバム『-ing』(イング)は、SURFACEとしての12年、ソロとしての8年、JET SET BOYSとしての2年、そして、椎名慶治としての20年のキャリアが結実。盟友・山口寛雄や磯貝サイモン、イトヲカシのメンバーとしても活動している宮田“レフティ”リョウらに加え、SURFACEのギタリスト永谷喬夫も参加し、デビュー20周年にしてトップギアに入れ直したようなアグレッシブさとみなぎる生命力で、ソロアーティストとしてのネクストフェイズを作り上げている。様々な現場でその唯一無二の歌声を響かせる椎名慶治に、パラレルでマジカルな音楽人生の現在地を聞いた。



これからはもう“SURFACEがいて当たり前”になるんで
 
 
――まずはね、『-ing』の話の前に、ついに実現したSURFACEの8年ぶりの復活ライブについて聞きたいなと。
 
「奥さん(=筆者)とは一緒にメモリアルブック(※再始動ライブ当日より販売が開始された『SURFACE 20th Anniversary Book「Re:BIRTH」』)を作ったじゃないですか? あそこのインタビューで心境を吐露できたことが結構大きくて。とりあえず8年間の想いを1回全部吐き出して、永谷(喬夫・g)も同じように吐き出した。2人きりじゃ話せないようなことを、聞いてもらう人がいたから話せた。あれでお互いの心境が分かった上で挑んだんで、ライブ自体は実は円滑でしたね。もちろん永谷は俺以上に緊張したと思うし、気持ちは計り知れないけど、俺が見る限りあいつも楽しんでたし、俺も楽しんでたし、お客さんも楽しんだ。逆に語るエピソードがないぐらい、すんごいサラッと終わったなと思うぐらい(笑)」
 
――やっとこの日が来た…みたいな感覚はなかったんですか?
 
「それはありました。でも、SEが流れた時点でもうお客さんの手拍子が始まって、ステージに出て行った瞬間のドカーン!っていうあの歓声を聞いたときは、“やっべ! すげー人来てる!!”とかじゃなくて(笑)、“8年分の歓声ってこんな感じなんだ”って案外冷静でした。 隣にはガタガタ震えてる人がいたと思うんですけど(笑)」
 
――そうなんですね。椎名さん、始まっていきなり泣くんじゃね?って勝手に想像してたんですけど(笑)。
 
「もう全く。でも、永谷は出ていく前から言ってましたよ、“僕、泣きそうだ”って。あいつはもしかしたら少し泣いてたかもしれないですけど、俺はものすごく冷静でしたね」
 
――意外ですね。この8年間、毎回インタビューで“SURFACEが~SURFACEが~”って言い続けてたのに(笑)。
 
「アハハハハ!(笑) 結局ね、冷静にならなきゃいけない確固たる理由があって。目の前にお客さんが3000人いて、これから2時間楽しませなきゃいけない、フロントマンとしての責任感の方が勝っちゃったんですよね。舞い上がってる場合じゃないよと(笑)。もちろん嬉しいんですよ? 嬉しいんですけど、やっぱり率先して俺が引っ張っていかなきゃいけないから、最後までずーっと冷静でしたよ。でも、それが俺のやるべきことなんで」
 
――永谷さんがいる途端に、お兄ちゃんポジションになってしまう椎名さん(笑)。やっぱり1人のときとは全然違う。何かスイッチが入るんでしょうね。
 
「もうあのメモリアルブックのインタビューの通りですよね、そんなつもりはないんですけど(笑)。SURFACEに関しては一歩引いて、永谷が動いたことに対して俺がフォローするやり方が身に付いちゃってて、8年ぶりのステージでも“あいつ動けてないな、向こうのお客さんの前に連れて行こう”とかそんな感じで。でも、リハーサルのときは感動しました。改めて一緒に音を出したとき、“うわ、SURFACEだ”って思いましたね。ただ、そこから何回もリハーサルもしたので、本番ではもう慣れちゃってたところもあったんで(笑)」
 
――じゃあ、後日談的にライブが無事に終わってから、何か思うことはありました?
 
「ちゃんとやり遂げて楽しいライブになったし、嬉しい言葉もTwitterにいろいろ転がっていて。ただ、俺に返信してくれる感想はみんな“よかった”になるんですけど、意外と裏では何を言ってるか分かんないじゃないですか?(笑) それをファンがエゴサしてまとめてくれたものを見ても、“やっぱり私はSURFACEが好きだ”とか、“最高だった”っていう言葉がものすごく多かったんで、ホッとしましたよね。でもね、俺はSURFACEが終わった後も8年間、死に物狂いでソロをやってたわけで、“やっぱりSURFACEが好きだ”って言われると、それはそれで、“ん?”ってなるじゃないですか?(笑) あと2週間ちょっとで『-ing』も発売だったから、みんなの頭の中がSURFACEでいっぱいになってる今、ソロアルバムを聴いてもらうためには何をすべきなんだろう?って」
 
――これで、“ソロはいいからSURFACEでもっと動く時間を作れや”っていうムードがあまりにあっても(笑)、それはそれで何だったんだこの8年ってなりますもんね。
 
「キッツイっすよね(笑)。SURFACEに期待値高めでいてくれたのはありがたいんですけど、ここ最近のインストアライブとかで、“SURFACEが復活してくれて嬉しいけど、この8年の間に椎名さんが好きになっちゃったから、ソロは辞めないって宣言をしてくれたことが嬉しい”って面と向かって言ってもらえたのは、一番嬉しい言葉だったかな。この8年も無駄じゃなかったなぁって思いますけどね」
 
――さっきの復活ライブの感想もそうですけど、永谷さんのソロワークスをまとめてくれる人がいたり、ファンの方々が素晴らしい。それもこの20年の積み重ねじゃないですけど。
 
「ね。5日27日はお祭りでいいんです。2人が同じステージに立ってる喜びを噛み締めて2時間が終わる。でも、この次なんですよね。SURFACEとしての新しい作品も掲げなきゃいけないし、ここからが勝負なんで。そこも見据えてるから、みんなが盛り上がってくれてたって、ここで調子こいてたら終わるぞって」
 
――みんなが明らかにSURFACEが動いてることに慣れ始めたぞ~って(笑)。
 
「そうそう! これからはもう“SURFACEがいて当たり前”になるんで。ソロはソロでもちろんやっていくけど、いざSURFACEが動いたらウワッて人が集まってくれる状態をずっと作っていきたいのはありますね」
 
 
『MY LIFE IS MY LIFE』に負けない、SURFACEに寄らない、
この2つの軸は最初にありましたね
 
 
――それこそメモリアルブックでもね、ただでさえSURFACEが再始動してバタバタするのに、わざわざ同じ時期にソロアルバムを作らなくてもっていう話が(笑)。
 
「そうなんですよねぇ。でも、元々は再始動する/しないに関わらず、’18年の6月にアルバムを出しましょうっていうことで動いてたので、それを実行しただけなんですよね。結局、やるかやらないか分からないけど一応押さえてた豊洲PITでやることになった。最後に、なぜか知らないけど永谷もソロアルバムを出すことになったっていう(笑)」

(一同笑)

「豊洲PITって、ホントいい具合の大きさなんですよね。SURFACEが再始動することがもっとハッキリ決まっていれば、解散した東京国際フォーラムでもう1回5000人を前にやればいいんですよ。ただ、ここからが生々しい話で、やらない可能性もやっぱりあったわけですよね。国際フォーラムは最初から椅子があるので、5000人=絶対数なんです。豊洲PITは椅子席なら1500人でもできるし、オールスタンディングなら3000人でもできる絶妙なところで」
 
――そうか、SURFACEだろうがソロだろうが、椎名さんはデビュー20周年。SURFACEが動かなくても20周年ライブと銘打てばソロの動員も普段よりは増えるだろうから、豊洲PITで椅子席なら形にはなる、って生々しいわ!(笑)
 
「アハハハハ!(笑) そこまで踏まえて、豊洲PITでやることになったわけです。逆に言うと、あそこしかなかったんですよね。だから、ソロアルバムが一番最初に決まってたことで、たまたまその近くの時期でSURFACEの再始動が決まった。例えば、俺がデビュー20周年ライブをやってからアルバムを出しても、何の違和感もないじゃないですか。美しいですよね~(笑)。実はそんなオチがあったんです」
 
――本当に絶妙なパズルというか(笑)。とは言え、今回のソロアルバムは今までと作り方が違いますよね?
 
「いやらしい話ですけど、今まではソロでもどこかにSURFACEの匂いを感じさせようとしてるところはあったんです。でも、アルバムを作り始めてすぐにSURFACEの再始動が正式に決まったんで、『-ing』にホーンセクションを一切入れなかったのは、SURFACEと差別化したいのはありましたね。あと、前作『MY LIFE IS MY LIFE』('16)が自分の道のりの中で一番“らしく”作れたと思ってるし、“ベスト盤より『MY LIFE IS MY LIFE』の方が好き”っていう声もあるぐらいなんで、『MY LIFE IS MY LIFE』に負けない、SURFACEに寄らない、この2つの軸は最初にありましたね。でも、これが難しくて、寄るなって言われても勝手に寄るんですよね。俺、SURFACEなんで(笑)」
 
――ソロとSURFACEの両立が大前提になったという意味では、やっぱり今までのソロアルバムとは構造が違いますね。そもそも、シングルの『凹凸』('17)が先に出て、それと同じぐらいのタイミングで、アルバムの核になった『20th century boy』(M-2)ができていたと。
 


「ぶっちゃけた話、“『RABBIT-MAN』('11)を超える自分のテーマソングが欲しい”っていう話を山口寛雄にして、2人で気持ちをぶつけ合いながら作った曲が『20th century boy』なんですよ。ただ、この曲に適したアレンジャーが過去に出会った中にいなくて、そのときにエンジニアの渡辺(敏広)から紹介されたのが、イトヲカシの宮田“レフティ”リョウ(b&g&key)で。ヤツに投げてみたらもうストーン!と腑に落ちて」
 
――メモリアルブックでも話してましたけど渡辺さんはキーマンというか、いろんな人に出会わせてくれてますね。
 
「今回のマスタリングも、“柴晃浩(TEMAS)さんっていう方を今抜群に気に入ってて、椎名くんも1回やりません?”って渡辺に言われて。実際に頼んでみたんですけど、まぁ素晴らしくて! そんな人を紹介してくれたのも渡辺だから、今回のアルバムの音という音、世界観を作ってくれてる1人ではありますよね。あと、宮田が連れてきたギタリストの香取真人は、いい意味で出しゃばらないんですよね。俺はもうSURFACEの再始動が決まってたから、ギターをフィーチャーした感じにはしたくなかったんで。ヤツは言わなくても一歩引いてくれるし、とても上手いし、結果、宮田がアレンジしてない曲でも香取が弾いてたりして。香取が弾くことによって、ボーカルが逆にグッと前に出る。JET SET BOYSでもSURFACEでもないソロ感が生まれたんで、本当にいい出会いだったなと」
 
――今作には何より生命力があるし、SURFACEとの差別化と同時に、SURFACEという大きな船がある安心感、だからこそ思い切れる挑戦心みたいなものがある気がしました。
 
「アレンジにしてもメロディにして、ちょっと攻めてますもんね。永谷から再始動に向けて何度も口説かれてきた中で、自分の精神状態としてもビジネスとしても、“本当にSURFACEをまたやることがプラスなのか?”ってずっと考えてましたけど、今回のアルバムもSURFACEがあるからできたことは確かにあるし、『天国で会いましょう』(M-4)みたいな曲を作ったときも、何かすげぇ楽しかったんですよね」
 
――こういうラブソングのアプローチなかなかないですもんね。ファンタジーというか、ヲタというか(笑)。
 
「ファンからも、“この曲を聴くと、同じ時代を生きて、椎名さんの歌を聴ける幸せをすごく感じる”とか言われて。それでいてクスッと笑えるというかね。オードリー・ヘップバーンでもマイケル・ジャクソンでもいいけど、亡くなっても作品は残る。俺もそんな人に少しでもなれたらなっていう想いを込めて書きましたね。やっぱり残したいんですよね、自分が生きた証拠というか“証”を。他の仕事よりも自分が長けてるのが歌だと思ってやってるところもあるから、ここで満足しないように、ちゃんと残せるように」
 
 
音楽は見えない、触れられない。なのに、しっかりそこにある
何も残せない中で、何かを残してきたんだなぁって
 
 
――とは言え、『20th century boy』の歌詞には“まだリタイヤって/言葉は頭をかすめた程度さ”っていう一節がありますけど、実際に音楽を辞めようと思ったことはあるんですか?
 
「何十回、何百回とありますよ(笑)。世の中を冷静に見た需要と供給じゃないですけど…そのバランスが自分の中で取れなくなったことがあって。“もしかしたら自分でBARを開いて働いた方が儲かるんじゃねぇか?”とか、そういうこともいろいろ考えたし(笑)。ただね、ソロになってから辞めたいと思ったことはないです。ソロの方が苦しくないんですよ、大人を納得させなきゃいけない比率が減ったので(笑)。SURFACEはやっぱり抱えてるものが大き過ぎて…売れなくなっても売れてるときと変わらないプレッシャーがあるわけですから。だからこそ、ソロになってでも音楽をやるからには、楽しくないのは絶対にイヤだと。ライブにしても、レコーディングにしても、俺に関わってくれる人みんなが楽しかったと言える空気を作る。そういう意味では、掲げたことをちゃんとやってこれた8年かなっていう自信はありますね。例えば、友森(昭一・g)さんとの出会いもこの8年だし、ずっとSURFACEが続いてたら逆に友森さんとは出会えてないし、あげく今度は永谷もサポートしてもらうっていう(笑)」
 
――いずれ友森さんから、“この日は永谷くんのサポートが入ってるんだよね~”って椎名さんが断られるようになったら面白いですね(笑)。
 
(同席していた)友森「俺は早いもん勝ちだから、そこは永谷くんと話し合って(笑)」
 
(一同爆笑)
 
――ちなみにですけど、『君の叫びは僕に届く』(M-8)『メッセージ』(M-12)のクレジットにある、“しいみやいしかとまぼ”とは?
 
「これは椎名、宮田、石川=ICCHAN.(ds)、香取、まぼちゃん=北村真奈美(p)さんで、そのときレコーディングに関わってた人をマイクの前に立たせて叫ばせてるんですよ(笑)」
 
――そして、この曲は椎名さんにしては珍しく第三者に向けて書いたと。
 
「今って面白いぐらいにみんながスマホ依存症じゃないですか。Twitter、Instagram、Facebook…SNSではみんなが主役で、だけどどこか寂しそうで。それを見て、“お前ら本音で語ってねぇだろ、腹の中ではどう思ってんだよ? ちゃんと叫んでみろよ”ってちょっと書いてみようかなぁって。電車の中とかヤバいですからね、ビックリするぐらい誰も顔を上げないですから。なので、こういう歌詞がまた響いちゃうんですよね」
 
――その『君の叫びは僕に届く』『メッセージ』、『点-roots-』(M-10)とかもそうですけど、このアルバムから感じるのは、20年やってきた自分の音楽のフォロワーへの“感謝”で。
 
「やっぱり“ありがとう”の気持ちは込めてますからね。だけど、“ここがゴールじゃないよ、まだ見せてない俺がいるからついてこいよ”って、アルバムの最後の『メッセージ』で残してるんで。この曲も自然と書けました、ファンクラブ旅行中に石和温泉で(笑)。20周年だから『20th century boy』も書けたし、やっぱり自分の中で1つの区切りだったんでしょうね。どうしても区切られてしまうからこそ、“現在進行形でまだ止まらないよ、21年目も頑張りますよ”という想いを込めてるのはあります。意外と早かったなぁと思いますし、本当に音楽だけで食ってきた20年なんで自分を褒めてあげたい部分もありますけど、そもそも自分が作った音楽に賛同してくれる人がいたからこそ今があるので、リスナーには頭が上がらないですよ。口から発せられた瞬間に音楽ですから、本当に面白い職業だなって。芸術の中でも音楽は見えない、触れられない。なのに、しっかりそこにある。とんでもない仕事をしてるんだなと、たまにゾクッとしますけどね。何も残せない中で、何かを残してきたんだなぁって」
 
――だからこそ、そんな自分の音楽に一喜一憂したり、感動できる感覚を持ってくれてる人には。
 
「ホント感謝ですよね」
 
 
“誰よりも僕が 待っていたんだと”っていうのは本当に嘘偽りない気持ち
 
 
――『あんたがいなけりゃよかったのに』(M-9)はいかにも椎名節の曲ですけど、この曲に参加しているLUV K RAFTとのそもそものつながりはどこから?
 
「元々は、『点-roots-』のRABBIT-MAN’s合唱団=ファンクラブのコーラス隊を録るときも柔軟に対応してくれたスタジオのオーナーさんが、LUV K RAFTの面倒を見ていて知り合って。最近向こうが『RABBIT-MAN』をカバーしてくれたんですよ。それが8月に出るLUV K RAFTのミニアルバム『Luv it』に収録されてるんですけど、なぜかメインボーカルが俺で(笑)。じゃあお前たちも俺のアルバムでラップを入れろと。そしたら頼んでもいないコーラスも入れてきて(笑)、そのコーラスもオシャレでかわいかったから採用したんです」
 
――そういう持ちつ持たれつで言ったら、まさに『5月27日』(M-11)も(笑)。
 
「これはもう永谷のソロアルバム『Heartbeat』(‘18)で『BPM』の詞を書いたから、こっちもアレンジしろと(笑)。まぁ異彩を放ってますよね、他の曲と音も全然違うし。山口寛雄がいて、野口圭がいて、俺がいて、永谷がいて…もう完全にSURFACEですよね」
 
――どの段階から『5月27日』=再始動の日について歌おうと思ってたんですか?
 
「『凹凸』の制作中に作ったバラードで、ハッキリ覚えてるんですけど去年の9月28日に、“データフォルダの名前を527にしといて”って山口寛雄に言ってるんです。それから今年の3月ぐらいまで保留になってて、いざ1番を書いてみたら、“デビュー日は俺たちで決めたわけじゃねぇし、全然記念日じゃねぇし”みたいに捻くれた歌詞になってたんですよ。これはマズいなと思って野口に、“今、俺が言いたいこと分かる?”って投げたら、“客観視して、お客さんを泣かせる歌詞にしたいんでしょ?”って言われて、“その通りです!”と(笑)。そこから、“これで永谷がアレンジしたらSURFACEになっちゃうよなぁ…でも、永谷抜きで勝手に5月27日について歌って、1人で終わらせるのは違うよなぁ”と思ってたら、俺が向こうの歌詞を書くことになったときに、永谷が“僕もやらせて”って言ってくれたんですよ」
 
――歌詞の内容もですけど、お客さんを泣かせようとして椎名さんの方が泣くんちゃうかと思いましたけど(笑)。
 
「あ、だから俺はツアーでは歌えない、歌わないです(笑)。今回のツアーでやるとお客さんも泣いちゃうだろうし。その代わり、8月25日(土)のOTODAMA SEA STUDIOは、永谷喬夫、椎名慶治、SURFACEの3組で出るから、そういうところでなら歌ってもいいかなと。SURFACEで俺のソロ曲をやるのもまたややこしいし」
 
――この曲を書いたのって5月27日以前じゃないですか。実際にその日を迎えたら、自分の中で曲の響き方がちょっと変わりませんでした?
 
「変わりましたね。この曲を書いたときは、豊洲PITが成功するか分からなかったわけじゃないですか? だけど、その後に歌詞を見ると、ちゃんと豊洲PITも踏まえた歌詞になってるからよかったなと。まるで予知夢、預言者みたいな(笑)。この曲の、“誰よりも僕が 待っていたんだと”っていうのは、本当に嘘偽りない気持ちで。でも、永谷は永谷でメモリアルブックの最後の手書きのところで、“再始動を一番心待ちにしていたのは僕かもしれません”って書いてたから、あいつもやっぱりそう思ってたんだなって、うん」
 
 
この気持ちをずっと持っていたいし
そのときにやりたいことをちゃんとできるように
 
 
――今作の最後の『メッセージ』で、“歌います 歌い続けます/この想い ちゃんと届くまで 幾つになっても”と歌ってるのは、1つの決意表明というか。
 
「この曲はマネージャーのひと言がなければ書いてない曲だったんですよね。今だから言えますけど、『RUNNING-MAN』の仮タイトルは『メッセージ』だったんですよ。そしたらマネージャーが“『メッセージ』っていうタイトル、いいですね”って。今までタイトルに固執されたことがなかったし、『メッセージ』って誰でも思い付くベタなタイトルじゃないですか? それに何か引っ掛かったんだなと思ったとき、これは無下にしちゃダメだなと。あと、『5月27日』がアルバムの最後の曲だと、泣いて終わっちゃうじゃないですか。過去に浸って“SURFACEが好き!”で終わっちゃう(笑)。最後にグッと椎名に戻すために、これぞ“椎名節”っていう曲を入れたいのはありましたね」
 
――この曲の裏でこっそりシャウトしてる『ゴゾウ☆ロック』(‘16)が世に出た頃は、“まだまだ歌い続けよう自分の為に”と歌っていたのが、この曲では“気合い入れ君への為だけに”になったのが、この2年での変化ですよね。
 
「そうですそうです。わぁ〜よくお気付きで(笑)。その通りです、はい」
 
――前作『MY LIFE IS MY LIFE』は退路がなくなって開き直ったアルバムで。でも今回は、状況云々じゃなくて椎名さん自身がもう前を向いてる感じが全然違うというか。
 
「面白いことにそれが音に出てるのか言葉に出てるのか、お客さんってそれを感知するんですよね。前作以上に背中を押されるとか、元気が出るとか、一番好きですっていう声が多くて。リスナーは耳が肥えてるなって改めて感じるし、これから生歌を聴いたらどんな印象になるんだろう?とか思いますね」
 
――今回のツアーでは大阪初の男性限定ライブもありますけど、やっぱり雰囲気は違うもんですか?
 
「男って女がいるとカッコつける生き物なんで、そういう意味ではタガが外れてるのでいつも以上に吠えたりするんですけど、キャーキャー言わないじゃないですか、男たちは(笑)。だから、どこがこいつらを楽しませるポイントなのかが見えなくて、それを面白がりながら迷ってます。もう3年ぐらい男性限定ライブをやってきて、どんなライブになるかは毎回自分でも未知数ですけど、楽しいライブになるのは間違いないんで。逆に追加公演で女性限定ライブも決まったんですけど、そっちは簡単!(笑)」
 
――あと、SURFACEが動いてる状態でのソロツアーは初なんで、何か違う感覚があるかもしれないですね。
 
「どうなるんでしょうね。ただ、ソロで8年やってきたキャリアは嘘じゃないし、今は楽しく音楽ができてるんで、SURFACEとは違うことをしようとした意欲作の『-ing』を、今まで応援してくれてたファンにも楽しんでもらえてることには、すごくホッとしてます。これから先は、現在進行形の『-ing』という言葉を掲げた以上、SURFACEも、JET SET BOYSも、ソロも、流されるんじゃなくて、“今はこれがやりたい!”ってちゃんと言えるようにやっていきたい。“うわ〜もう辛い、やりたくないのにSURFACEやってる”とか、“今はソロをやるべきじゃないのに”とか、考え方次第で全てがダメになっちゃうと思うんで。自分がやらなきゃいけないことと、自分の心境のバロメーターをうまく照らし合わせながら、20周年が終わる来年までにはSURFACEの新しいアルバムを出したくてしょうがないし。この気持ちをずっと持っていたいし、そのときにやりたいことをちゃんとできるようにしていきたい。だからヘンに冷静ですよ。パッパラパーになってイェ〜イ!みたいなことはもう一切ないです(笑)」
 
――そんな椎名さんも見てみたい気がしますけどね(笑)。
 
「8月のOTODAMA SEA STUDIOのライブの日は、もしかしたらパッパラパーかもしれない(笑)。永谷は翌週の1stソロワンマン前に初めて人前で歌うんで、多分ガッチガチなわけですよ。でも俺は、ビーチサンダル履いて海でウェ〜イ!ってやってるんで、永谷はイライラすると思います(笑)。リリースツアーに関しては、最初は『-ing』の曲をライブで再現できないかもしれないから、セットリストから結構削ろうと思ってたんですよ。ツアータイトルにも“jump”を付けて、『Yoshiharu Shiina 20th Anniversary TOUR「jump-ing」』だから『-ing』じゃないよって軽く言い訳できるようにして(笑)。でも、その不安もリハーサルで一蹴されました。ちゃんとみんなに楽しんでもらえるツアーになる自信も付いたので、ぜひライブで会いたいですね!」
 
 
Text by 奥“ボウイ”昌史



(2018年7月13日更新)


Check

Movie Comment

サポートの友森昭一(g)も参加とレアな
椎名慶治からの動画コメント!

Release

SURFACE永谷喬夫(g)他も参加!
2年5ヵ月ぶり充実の4thアルバム

Album
『-ing』
発売中 3000円
UNIVERSAL D
POCS-1698

<収録曲>
01. R U ready 2 jump wiz me?
02. 20th century boy
03. 咲き誇れ
04. 天国で会いましょう
05. SLIT
06. 凹凸
07. RUNNING-MAN
08. 君の叫びは僕に届く
09. あんたがいなけりゃよかったのに
10. 点-roots-
11. 5月27日
12. メッセージ

Memorial Book

SURFACEとして久々の新曲CDも付属
この8年の全てが分かる20周年記念本

Book
『SURFACE 20th Anniversary Book「Re:BIRTH」』
発売中 4800円
High Wind
A4サイズ 全52P フルカラー
※『LIKE a CAT』CD付

<掲載内容>
・巻頭グラビア
・永谷喬夫/椎名慶治ソロインタビュー
・20th Anniversary × 20 Questions
・SURFACEロングインタビュー
・直筆メッセージ
・『LIKE a CAT』歌詞

購入はコチラから!

Profile

しいな・よしはる…’75年12月30日生まれ。SURFACEのボーカルとして、’98年にシングル『それじゃあバイバイ』でデビュー。ドラマ『ショムニ』『お水の花道』や、アニメ『守って守護月天!』『D.Gray-man』『NARUTO』等、幅広いジャンルのテーマソングを手掛ける。’10年6月13日、東京国際フォーラム・ホールA公演にてSURFACEは解散。’10年11月に1stミニアルバム『I』でソロデビュー、’11年6月リリースの1stアルバム『RABBIT-MAN』より本格始動。他にも、『仮面ライダーフォーゼ』のエンディングテーマをきっかけに結成されたAstronauts (May’n&椎名慶治)や、タッキー&翼らをはじめとする作詞提供など、その活動は多岐にわたる。現在は、高橋まこと(ex. BOφWY)率いるJET SET BOYSのボーカリストとしても活動中。デビュー20周年を迎えた’18年5月27日、豊洲PIT公演にてSURFACEが再始動。6月16日には4thアルバム『-ing』をリリース。

椎名慶治 オフィシャルサイト
http://www.yoshiharushiina.com/

Live

大阪2DAYSでは初の男性限定ライブも
リリースツアーが絶賛開催中!

 
『Yoshiharu Shiina
 20th Anniversary TOUR
「jump-ing」』

【福岡公演】
▼6月30日(土)DRUM Be-1
【福島公演】
▼7月7日(土)Hip Shot Japan
【埼玉公演】
▼7月8日(日)HEAVEN'S ROCK
さいたま新都心 VJ-3

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード124-299
※販売期間中は店頭、インターネットでの直接販売のみ。
▼7月14日(土)17:00
心斎橋JANUS
▼7月15日(日)17:00 ※男性限定ライブ
梅田Zeela
オールスタンディング5000円
(当日引換券)
キョードーインフォメーション■0570(200)888
※未就学児童は入場不可。
※公演当日、開場時間より当日券窓口にて入場チケットと引換えいたします。お渡しするチケットは先着順ではございません。予めご了承ください。
※7/15(日)は男性限定ライブ。女性の方はチケットをお持ちでも入場はできません。誤って購入され、入場をお断りした場合も一切返金不可。氏名と性別が明記された公的証明書(各種健康保険証・年金手帳・パスポート・住民票などのうちいずれか1つ)を要持参。同伴者の方も要持参。当日性別が確認できない場合、入場をお断りする場合あり。戸籍上の性別を偽って、男装や女装されていた場合は入場不可。

チケット情報はこちら

 
【北海道公演】
▼7月21日(土)DUCE
【愛知公演】
▼7月28日(土)名古屋クラブクアトロ
【神奈川追加公演】
▼8月3日(金)BAYSIS ※女性限定ライブ
【東京公演】
▼8月5日(日)WWW X
 

Column1

「大丈夫? こんなアーティストを
 20年も応援してて(笑)」
SURFACE再始動も話題の椎名慶治
が挑戦のバラードシングル『凹凸』
からデビュー20周年への想いを語る
ニコニコ本社でのぶっちゃけ
公開インタビューを再現!

Column2

「人前でやったらさ、いつもは
あんなにぶっちゃけトークなのに
すんげぇカッコつけそう(笑)」
あの日の興奮を完全再現!?
椎名慶治が表も裏も語り倒す!
『RABBIT “BEST” MAN』
抱腹絶倒公開インタビュー

Column3

諦めが生んだ“俺は俺でしかない”
決意表明。ソロ最高傑作
『MY LIFE IS MY LIFE』に
コロチキの『さぁ』騒動
SURFACE再結成の行方までを
とことんぶっちゃける!(笑)

Column4

変わりたい気持ち、変われない現実
ユニゾン田淵、高橋まことらも
参加した『I & key EN Ⅱ』を語れ
揺れ動く感情の中で、自身と、
そして過去=SURFACEと対峙する
インタビュー&動画コメント

Column5

『それじゃあバイバイ』
『なにしてんの』『さぁ』他収録
SURFACE時代の大ヒット作を
完全セルフカバーした大胆不敵で
前代未聞の『Phase』制作秘話!
15周年を駆け抜けるインタビュー

Column6

らしさと懐かしさと新しさ
SURFACE→椎名慶治の15周年
幸福なハプニングが生み出した
2ndアルバム『S』インタビュー

Column7

SURFACEから続くキャリアと
ソロとしての新たな刺激が結実
人と人の縁が導いたミニアルバム
『I & key EN』を語る

Column8

SURFACEの解散から何から
ぶっちゃける!(笑) 1stアルバム
『RABBIT-MAN』インタビュー

Comment!!

ライター奥“ボウイ”昌史さんの
オススメコメントはコチラ!

「いや~ここ数ヵ月の椎名さんとの濃厚な日々が、この記事をもってとりあえずひと段落です。と言うのも、『SURFACE 20th Anniversary Book「Re:BIRTH」』を水面下でずっと作っていたからで。もう何時間椎名さんと話したことでしょう(笑)。この8年、椎名さんにずっとインタビューをしてきましたけど、徐々にSURFACEの再始動が現実になっていく様を体験できたのは、本当にドラマチックでしたね。そして、SURFACEが復活したら椎名さんがいきなりパワーアップ(笑)。『-ing』に収録された『20th century boy』はもちろん、『咲き誇れ』(M-3) (個人的にはハードボイルドで好き)だって『RUNNING-MAN』だってリード級の曲だし、『天国で会いましょう』『あんたがいなけりゃよかったのに』『メッセージ』だってそれに迫る。今回はアルバムに1曲あれば安パイな曲がごまんとあるんですよね。デビュー20周年でこの前のめり感はなかなかないですよ。極めつけが『5月27日』って、こんなん泣くでしょ(笑)。何なら本人が一番。こういう曲を椎名さんが歌える日が来たことを喜びつつ、これからも椎名慶治の行く末を追いかけていきたいですね。
【追記】メモリアルブック、ファンなら間違いなく満足できるし、この8年間のいろんな疑問が解消され愛に変わるはずなので、売り切れる前に絶対買ってね!(笑)」