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ブラックミュージックの持つしなやかさ、躍動感を
圧倒的に心地良く聴かせる
TENDRE=河原太朗の1st EP『Red Focus』
より深く味わうためのインタビュー&動画コメント

良い音楽をかぎつける耳の速いリスナーの間では、昨年12月にリリースされたTENDRE(テンダー)のデビュー作『Red Focus』は早くから話題を呼んでいた。TENDREとは、現Yogee New Wavesの竹村郁哉(g)や元plentyの吉岡紘希(ds)と共にバンド、ampelでベース&ボーカルとしても活動している河原太朗のソロプロジェクト。ジャズミュージシャンである両親のもとで幼い頃からジャズやソウルミュージックに触れ、呼吸をするように音楽の滋養を吸収してきた彼の作る音楽は、ふわりと軽やかでなめらかなうねりのある音と、耳にするりと滑り込む歌声が心地良い。ギターや鍵盤、サックスなど幅広く演奏するマルチプレイヤーとしても知られ、これまでKANDYTOWNやsumikaのレコーディングにも参加し、昨年は呂布の『Blur』を共同プロデュース。2月の京都、3月は大阪でのライブも決定し、今年さらなる飛躍が期待できるTENDREがぴあ関西版WEB初登場!


最初に弾いた曲は『ゲゲゲの鬼太郎』でした(笑)
 
 
――とても気持ちのいいアルバムです。TENDREとしては『Red Focus』が初の作品になりますか。
 
「もともと大学時代にパソコンで音楽を作り始めて、5年ぐらい前からSoundCloudで公開してはいたんですが作品としてリリースするのは今回が初です」
 
――バンド、ampelと並行する形でソロでも曲を作られていた?
 
「そうですね。ampelはもともと、高校を卒業する頃に自分で歌うバンドをやってみたいと思って組んだのが始まりで、5年ぐらい前に現在のメンバー(竹村郁哉、吉岡紘希)がそろいました。今、ギターのボン(竹村)はYogee New Wavesでギターとして活動していて、僕もこういう形でソロをやり、それぞれ個々に活動しつつ時にはまた集まってバンドをやるという形もいいかなと思っていて。その時々、自分の道とか進路を選択しないといけない時期がやってくると、中には音楽を辞める人もいますけど、僕の周りにはそういう人が少なかったんですね。両親が今も現役で音楽をやっていることもあって、僕自身もこれまで音楽を辞めるということは考えたことはなくて」
 
――自分が音楽をやることはある意味、当たり前のことでもあった?
 
「無意識にというわけじゃないですが、ある種当然のことだったような気もします。両親ともジャズをやっていて、母はボーカルで父がウッドベースなんですね。父が家でウッドベースの練習をしている風景も当たり前の日常でしたし、大きな音を出しても大丈夫な環境だったり、母が歌のレッスンをやっていたので生徒さんが自宅に来てポップスやジャズを歌っているのも日常的な風景で。そんな感じで、音楽をやる人が常に周りにたくさんいる環境ではありましたね」
 
――最初からベースをやられていたんですか?
 
「最初にやり始めた楽器はピアノで、母の知り合いに教えてもらって『ゲゲゲの鬼太郎』とか弾いてました(笑)。両親ともにブラックミュージックが好きで、特に母がアル・ジャロウやルーサー・ヴァンドロス、エリック・ベネイをひたすら流していて、そういう歌ものやソウル、R&Bを聴く機会が多かったですね。逆に日本語の音楽をじっくり聴く機会がなくて、中学3年の時に友達とカラオケに行った時に初めてMr.Childrenを知って、“みんなはこういう音楽が好きなんだな”って知って(笑)。高校になってバンドをやり始めてからはASIAN KUNG-FU GENERATIONとかBUMP OF CHICKENとか邦楽ロックを知っていきましたね。その頃にやってたバンドは仲間内で好きな曲のコピーをやるバンドで、それと並行して中学から吹奏楽をやっていたので管楽器も続けていました」
 
――話している時もとても柔らかないい声ですが、歌を歌うためにある声なのかなという気もします。
 
「吉祥寺のジャズバーで母がよくライブをやっているんですけど、子供の頃に“アンタも歌ってみなさいよ”って言われて、お客さんの前で歌わせてもらう機会を何回かもらったんですね。一度、スティーヴィー・ワンダーの『オーバージョイド』を歌った時に、自分なりに頑張ったんですけど変声期だったこともあって思うように歌えなくて。すごく悔しい思いをしたことがあったんですね。その頃はもちろん自分がシンガーだっていう意識は全然なかったんですけど、後々ベースを弾きながらボーカルを取るということに関してはまったく違和感はなかったですね。今も時々、母の誕生日とかにライブがあったりすると一緒に歌ったりすることもありますよ(笑)」
 
――親孝行ですね。ampelもそうですが、一貫して音楽の中に心地よいムードがありますね。河原さん自身がそういうスムースな心地よさのあるものが好きですか? 
 
「スムース……というものになるのかなぁとも思うんですが、リズムがちゃんとあった上でそういう心地よさのある曲がずっと好きだったのかなと思うし、曲を作る上でもそれが基本にあってブラックミュージックならではのリズムからスタートさせることが多かったですね。それが自然で、自分になじんでいるもののような気がします」
 


 
TENDRE=柔らかいという意味があって、
そういうものを持ちながら人の近くに居られる音楽でありたい
 
 
――お話を聞いていて、『Red Focus』はソロ名義の1枚目ということもあり、河原さんのいちばん得意なものや、これまでの人生で得てきた音楽的な滋養がギュッと凝縮した6曲なのかなと思いました。
 
「そうですね。自分の好きなニュアンス、好きなフレーバー、自分がいちばん歌いやすくて、やっていて楽しいものというのが今回のアルバムになっているんだなと思います。『Drama』(M-1)、『Discovery』(M-2)、『Night and Day』(M-4)は’17年に入ってから作った曲で、後の3曲は4、5年前に作った曲とサンダーキャットのカバー(『Them Changes』)ですね。『Drama』に関しては、手法としても自分のいちばん得意なところをふんだんに出せました。音が心地よく飛び交うような印象を持たせつつ、ビートはちゃんとしっかりと根を張っているようにあって、その上に僕がどんなふうに歌を乗せるか。それがキーになるなと思ったんですが、いちばんうまく形になったかなって。『Discovery』は実験的というか、自分の中であまりやったことのない曲を作ろうと思っていろいろチャレンジできた曲ですね」
 
――以前からある曲はいかがですか?
 
「『Hanashi』(M-5)に関しては、聴いていただくとわかるんですが声も今とは若干違っていて、収録するかどうか自分でも迷いました。なんか、いろいろ若いんですよね(笑)。声も若いし歌詞もその当時に言いたいこともあったんでしょうけどうまくまとめられていない状態で、でも曲としては作り上げていて。ただ、5年経った今改めて聴いてみて、それはそれでいいなと思えたんですね。5年前の自分を振り返りつつ、当時の自分にはわからなかった新鮮さが歌詞にあったり、音の良さを今になって感じるところもあって。年齢を重ねるごとに音楽の聴こえ方は変わってくると思うんですけど、自分が作ったものってなおさらそうなんですね。そう思えるものがあるんだったら、ということで今回収録しました」
 
――『Crave』(M-3)はAORっぽさも感じました。ちょっと懐かしいような感じもあって。
 
「そうですね。『Crave』は、特に深く考えることなく、自分から出てくるものをとりあえず形にしておこうという感じで作っていて。歌詞も言葉遊びのような感じで、フィクションなのかノンフィクションなのか、具体的な感じじゃなく何かを語る歌ともまた違って。音像に関してはもともとああいうクリスピーな音が好きだったので、音自体を楽しんでもらえればいいなって」
 
――今回カバーしているサンダーキャットもそうですが、RhyeやMoonchild、HonneなどTENDREと距離の近さを感じる海外のミュージシャンも多いです。ソウルやR&Bをバックボーンに持ちながら同じように心地よい音楽を作る人たちが同時に出てきているのが面白いなと。
 
「サンダーキャットは最初に彼の音楽を聴いた印象で、“あ、こういうのが好きだったんだろうな”って察しが付くところもあってシンパシーを感じていて。ただ、ブラックミュージックは根底にあれど、日本人である僕がやるブラックミュージックは、ブラックミュージックじゃないと思っているんですね。僕にとってブラックミュージックはあくまでも土で、そこにどうやって自分が根付いていくかというところがいちばん大事なのかなと思っています」
 
――それと、歌詞の中に“静(しず)やか”という言葉が聴こえてきた時、とても新鮮でした。その言葉自体も初めて知りましたし、繊細な表現を使われるんだなぁと思いました。
 
「あまり日常で使う言葉ではないですよね。もともとリリックに関して自信がなかったんで、日本語の歌詞ってどうやったら伝わるんだろうという思いがあって、歌詞を書き始める時にも自分の中でかみ砕くのに時間がかかったりして。なので、辞書を見ることがとても多かったんですね。日常的にはなかなか使い慣れないけど響きとして美しい言葉もいっぱいあるし、“静やか”という言葉にしても、初めて耳にしたとしても言葉の持つ雰囲気があるから意味も伝わりますよね。そういう言葉っていいなぁと思うんですね」
 
――小さな頃から洋楽に接する時間も長かったでしょうし、英語詞で歌うことは考えませんでしたか?
 
「歌ってみたいなという気持ちはあったんですけど自分で英詞を書くスキルがなかったんで(笑)。ただ、ゆくゆくはやっていきたいなとも思いますね。ニュアンスとしてはそっちの方が伝えやすいのかもしれないし、次の作品はそういうところもやっていきたいかなと思いますね」
 
――気が早いですが、そういうふうに次作の動きも始まっていますか?
 
「そうですね。『Red Focus』は6曲入りですけど、やりたいことが多すぎて6曲にまとめるのはなかなか難しかったところもあって。自分はプロデューサーという立場でもあり歌手という立場でもあるので、自分をプロデュースする感じで、“河原太朗にこういう歌を歌わせたら良いんじゃないか”とか、“こういうビートを作らせたらうまい”とかの軸を持ちながら作っていくのもおもしろいなって。ピアノ一本だけの曲があってもいいし、まったく毛色の違う音楽があってもいいし、その辺はずっとチャンレンジしていきたいって強い気持ちがありますね」
 
――TENDREの音楽が聴く人にとってどのようなものであればいいと思いますか?
 
「寄り添っていたいなという感じでしょうか。自分の音楽は何かを強く主張したいわけじゃなくて、自分が心地いいなと思うものやそう思う場所、そう思う人との中から生まれるものだと思うんですね。TENDRE=テンダーって“柔らかい”という意味があるんですけど、そういうものを持ちつつ人の近くに居られる音楽であればいいかなって。それを基調としながらも時にはその感じを覆したくもなったりするでしょうし、ちょっとした驚きなんかも楽しんでもらいながら、いい距離感でリスナーと居られたら。音楽も、自分自身もそうあれたらいいなと思いますね」
 
――わかりました。3月の大阪でのライブも楽しみにしています。最後に、これからTENDREの音楽に出会う方たちにメッセージをお願いします。
 
「一緒に楽しみましょう! という気持ちです。本当に楽しいことって、日常のふとした瞬間にあると思うんですね。音楽を通じて、みんなをおもしろいところに連れて行けるようなプロジェクトにしていけたらいいなと思います。ライブでは、もともとの自分の楽器がベースなのでそれも弾きたいんですが、曲によって自分がやりたい楽器をやるのもいいなと思っていて。自分自身がTENDREというものにどこまで欲張りでいられるかというのもテーマのひとつなので、自分自身も楽しめる仕組みを作りたい。今回のアルバム『Red Focus』はどんな時に聴いても耳なじみのいいものになったんじゃないかなと思うので、これから先もいろんなコンセプトを持たせたいい音楽を作っていきたいですね」

text by 梶原由紀子



(2018年1月29日更新)


Check

Movie Comment

Release

1st EP『Red Focus』
発売中 1800円(税抜)
Rallye Label/SPACE SHOWER MUSIC
DDCR-7101

《収録曲》
01. DRAMA
02. DISCOVERY
03. crave
04. Night & Day
05. hanashi
06. Them Changes

Profile

テンダー…河原太朗のソロプロジェクト。’88年生まれ。Yogee New WaveやKANDYTOWN、sumikaのレコーディングに参加し、昨年10月にリリースされた呂布のEP『Blur』では共同プロデュースを務める。ベーシストとしての活動に加え、鍵盤やサックスなども演奏。マルチプレイヤーとしての独特の存在感を様々な現場で発揮している。’17年よりソロプロジェクトTENDRE(テンダー)を始動し、同年12月6日にソロでの初EP『Red Focus』をリリース。バンド、ampelではベース&ヴォーカル、作詞作曲を担当。2月3日(土)、4日(日)に京都 磔磔、KYOTO MUSE、METROの3会場で開催される『京音-KYOTO-2018』の4日昼の部に出演。3月22日(木)心斎橋CONPASSにてMELRAWとのダブルリリースパーティも決定。3月24日(土)、25日(日)に開催されるサーキットイベント『IMAIKE GO NOW』に出演。

TENDRE オフィシャルサイト
http://kawaharataro.com/


Live

「TENDRE × MELRAW “W” double release party」

【東京公演】
2月3日(土)チケット発売 Pコード105-851
▼3月11日(日)19:00
TSUTAYA O-nest
オールスタンディング3000円
※小学生以下は入場不可。
[問]スマッシュ■03(3444)6751

【大阪公演】
2月3日(土)チケット発売 Pコード106-447
▼3月22日(木)19:00
CONPASS
オールスタンディング3000円
※小学生以下は入場不可。
[問]GREENS■06(6882)1224

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『京音-KYOTO-2018』
※TENDREは4日に出演

チケット発売中 Pコード101-490
▼2月4日(日)13:30
磔磔/KYOTO MUSE
全自由5000円
[出演]Caravan/在日ファンク/OGRE YOU ASSHOLE/奇妙礼太郎/Nabowa/LUCKY TAPES/neco眠る/Michael Kaneko/TENDRE/他
※4歳未満は入場不可。
※昼の部は2会場同時開催(移動が可能です)。
全会場通し券(2/3(土)昼・夜・4(日)昼)をご希望の方は、2/3公演から「全会場通し券」を選択して下さい。
[問]夢番地■06-6341-3525

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