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ブージーの歌は、聴く人が主人公になれる歌
バンド結成から20年を記念して開催される東京・渋谷
でのワンマンを前に100%ナイスなバンドの現状を語る
BUGY CRAXONEすずきゆきこインタビュー

今年1月にリリースした20周年記念のベストアルバム『ミラクル』から約半年の速さで届けられたBUGY CRAXONE(ブージークラクション)のニューアルバム『ぼくたち わたしたち』。インタビューですずきゆきこ(vo&g)は“自分を励ませるような歌を書きたかった”と語っていたけれど、折に触れブージーの曲に揺さぶられている1人としては、よりダイレクトに力をくれるのみならず、この先また新しいスタンダードになっていく10曲に出会うことができたというのが率直な感想だ。 ブージーがメジャーデビューの翌年にあたる2000年に渋谷クラブクアトロでワンマンを行った時、ライブを終えた彼らの中では、ステージに立った喜びよりも悔しい思いが上回ったという。その同じ会場でリベンジを果たす11月19日(日)の20周年記念ワンマン『100パーセント ナイス!』がもう目前。ライブの定番曲にして鉄板曲でもある『たいにーたいにー』で彼らが歌っているように、悲しいことやわかりあえないことは山ほどあって、それでも“また明日”と笑うことで私たちは強くなってきた。21年目からもそうやって彼らの曲と共に歩みを進めていきたい。

“ロックバンドをやる”とかよりも自分は自分の書いている歌を
しっかり歌うんだってことに気が付いた

――最初に『ぼくたち わたしたち』という新作のタイトルを知った時に、今年初めのツアーの大阪ワンマンでステージに登場して最初にすずきさんが一言、“ウィーアーブージークラクション!”と言われていたのを思い出して、その言葉そのものといえるタイトルだなぁと。1月に出た結成20周年記念のベスト盤『ミラクル』の1曲目『ブルーでイージー、そんでつよいよ』の冒頭でもそう歌われていましたね。

今回の新作はそのツアーが終わってから着手したんですが、20周年のいろんなことはベスト盤でやれたので、今回のアルバムでは20年やってきた中でこういう夢が叶ってきたなぁとか全然まだまだだなと思うところとか、1人の社会人としてとっくに大人なのにまだ青いというか不甲斐なく思うところもある今の自分を励ませるような音楽を作りたくて。特にこの1年は、後輩バンドたちの若者ならではの勢いと、諸先輩たちのどっしりとした懐の大きさに触れて、自分は今そのどっちでもないなって気持ちになる時もあって。その中で、自分を励ませる曲を書きたかったんですね。自分たちって、なぜかわからないけど気がついたら生まれていて、いろんな人に大事にしてもらいながら育ってきて今も生きているけど、いつかは死ななきゃいけない。そう思った時に、いかに一生をまっとうしていくかということと、できるだけジメジメせずにあっけらかんとしていられるかというのが自分には大事だなぁと思ったんですね。

――なるほど。

そうやって気持ちを明るくしていく方法が今と20代の時では全然違って、昔だったら友達と夜遅くまで遊んだりいろんな解消方法があったけど、今はそうでもなくて。今の自分の年齢と、あまりそんなにネアカではない自分の性格を理解した上で、ちょうど良くカラッと生きていける応援歌がこのアルバムでは書けたかなと思うし、歌詞で言っていることはすごく普通なんだけど、ちょっとした語尾の工夫とかで自分らしく言えたんじゃないかな。たとえば、“命の限り生きろ”と言われちゃうと私の場合はしんどいんですけど、“いのちの限り生きるのだ”って言われると、ちょっと肩透かしな感じもあっていいかなって。何でもかんでも正しいことをそのまま言えば伝わるわけじゃないし、納得してもらうことが大事だなと思うんですけど私もひねくれてるから(笑)。ただ、そういうひねくれた自分でも納得できる言い方、聴いた人に理解してもらえる書き方が今回のアルバムではできたんじゃないかなと思います。

――『さーてぃーないんぶるーす』(M-3)は“ま、いっか”という歌詞で始まるのが斬新で(笑)。自分もすずきさんに似たタイプなのかもしれませんが、“行くぞ!”と言われるより、“ま、いっか”ってひと呼吸おいてから話が始まったほうがすっと聞ける気がします。

音楽って人の気分を良くするためにあると思うんですけど、今の私だったら音楽を聴いて大騒ぎしたいっていうよりも、“あぁ、明日もガンバろう”みたいな気持ちになれる音楽を聴きたいことが多くて。だから、自分でもそういうものを作ってるんだと思う。昔から悩みごとがあっても大騒ぎするタイプじゃないし、それぞれの季節に違いがあるみたいに自分の気持ちにも波みたいなものがあって当然だと思うから、雨が止むのをじっと待つタイプで。そういう時に気が付いたら頭の中で鳴ってる音楽が玉置浩二さんだったりして、そういう音楽を作りたいなって。

――玉置浩二さんですか。

そう。私は観れなかったんですけど、以前『RISING SUN ROCK FESTIVAL』に安全地帯が出た時のライブがすごく良かったって周りのみんなが言っていて。安全地帯は子供の頃にテレビで観ていたから、玉置さんといえばドラマの主題歌をやったりテレビで音楽を歌っている人という印象がずっとあったんですけど、改めて曲を聴いてみたらとんでもなくて。だって、『しあわせのランプ』の“大切なことなんかわかってくるんだから 好きなことをやっていきなさい”という歌詞は本当にすごいと思うんですよ! 誰もがみんな、自分にとって大切なことって何だろうっていうのを知りたくて一生懸命になっているわけで、それを“そんなことはいずれわかってくる”と歌うこの曲を聴いた時は“マジか!”って(笑)。

――(笑)。とても重みのあることをそんなにも軽やかな言葉で。

そう。ここ数年を振り返ってみると、‘09年に前のドラムが脱けて、その辺りに自分の中で何かが変わったのはわかっているんですね。自分がバンドをやる上での在り方が変わったというか、それまでは自分はロックバンドをやろうとしてたんだと思う。でもある時から、ロックバンド云々よりも自分は自分の書いている歌をしっかり歌うんだってことに気が付いたというか。歌いはじめた時の感じを思い出したのかな。単純に、自分が歌っていて泣いてしまいそうな時間が増えたということもあるし、自分の年齢的なものも大きかったと思う。1人の人が生きて暮らしていくのは大変なことで、周りの皆の想いがあって自分は一日一日を過ごしてるんだってことがわかって、思いやりとか、情熱とか、そういったものをしっかり受け止められるようになったんだと思う。それまでは自己完結していたものが、ライブに来てくれてるお客さんとも自分ともコミュニケーションするようになったんじゃないかな。それが`09年ごろですね。

――同じ年に、ドラムのヤマダさんが初めてサポートで入られたんですね。

そうですね。今回、『シャララ』(M-6)が地元の北海道で夕方に放送されている報道番組の金曜日のエンディングテーマ曲になったんですね。曲が流れている時にテレビで流れる映像は、その週の良かったことや残念でたまらないことも含めたいろんな出来事で、そこで“来週も頑張ろうという気持ちになれる曲を書いて欲しい”と言われた時に、今自分がバンドをやろうとしていることそのまんまだなと思った。その話を頂いたことで、このバンドの使命や役割がより明確になったところがあるんですよね。音楽だからどんなふうに聴いて頂いても構わないんですけど、週末の真夜中のライブイベントでガンガン流れるよりは、ウィークデイのちょっとした時間の隙間、ふと自分に立ち返った時に心の中で鳴るような音楽を作ったと思っています。

――あぁ、そういう曲ですね。本当に。

たぶん私の書いていることって、“みんな、こっちに来いよ!”って励ますことよりも、“私もここにいます”とか“こう思うけど、たぶんみんなもそうじゃない?”ぐらいの感じで、聴く人が主人公になれるものなんだと思うんですよね。夕方にご飯を作ってるどこかのお母さんでもいいし、会社帰りの女性でもいいんですけど、すずきの歌というよりは、聴いてくれたあなたが主役になる音楽だったらいいなと思います。

――『ベッドの上でさ』(M-7)もとても自然体な曲で、すずきさんが日常的につぶやいているであろう独り言だったり、誰かと交わしている会話だったり、いつもの日常に限りなく近いものでできている気がして。

『ベッドの上でさ』ってのんきでしょ?(笑)。たとえば法律が変わったりいろんなことが起きる時に自分の正義感が激しく駆り立てられたりするんですけど、最終的にはベッドの上でうだうだ言って終わってるよなぁってところもあって。今の時点で人生の半分ぐらいが経過していて、この先のことも考えるけどひとりの人間としてできることは日々ある生活を暮らしていくことや日々最善を尽くしていくことで、それがいちばん気分が良いんじゃないかなって。その辺はあまり音楽にしてこなかったんですけど、このタイミングで書いておきたいなって。ぐうたらしてるけど、人生をまじめに捉えてもいるしさって。

――CDで曲だけを聴くと、丸かったり柔らかい印象もありますが、ライブで目の前で聴いていると熱く鋭くもなるし優しいだけの曲じゃなくなる。なので、たとえのんきな曲であったとしてもそれだけには終わらないし、とはいえその柔らかさや心地よさがブージーのロックンロールなんだろうなとも思う。それとは逆に、もしも自分が今10代、20代だったらパンクやロックっていうのはもっと攻撃的なことを歌う音楽なんじゃないの、と思ったかもしれないなという気持ちもあって。

私もそうかもしれない。もともと最初はロックやパンクをやりたくて始めたし、ただ、今思うのは“パンクをやる”とかっていうのはテーマじゃないなって。それよりも、いたって普通に暮らしている39歳の女性であり、同じように生活をしている仲間たちも特別変わった人たちじゃないし、そういう人たちの悲喜こもごもを歌いたい。後は、ずっと小さい頃から気になっている“人間とは?”みたいなのがいまだにあるから、そこを美しいものだと信じられるように。信じている気持ちを書いてるところもあります。

――『ベッドの上でさ』の歌詞にも“性善説”という言葉が出てきますね。

そう。わかり合えないとしても悪じゃないし、誰も悪くないはず、というのが自分の中では大きくて、それを書くのが個人的なテーマとしてずっとあるんですね。悪いことをする人もされる人もいるし、それを考え出すと果てしないんですけど、簡単に善悪を言い切れないことはいっぱいあるし誰も悪くないと言いたい。それは20年変わらないかな。

来てくれた人たちの中に新たな力が湧いてくるようなライブになれば。
新しい力が湧いてくるということは、今持っている重たいものが軽くなること

――『ぼくたち わたしたち』(M-1)も、「励まし合って」「楽しまなくちゃ」というような歌詞はまさにバンドのことを歌われているのかなぁと思いました。

私にとってバンドって職場みたいなものだから、同僚とどう頑張って働いていくかはとても重要で、仲間でもありつつ適度な距離感が保てているのはものすごく励みでもあるんですね。その時々でガッツリ向き合って悩みを相談する時間は取れなくても、“あの人も今こうして頑張っている”と思える同志がいることはすごく心強いし、そういう助け合いみたいなものに素直に甘えられる関係性というか。今のこの年齢で、友達なのか仲間なのかわからない関係性なんですけど。

――“バンド=家族”という表現をする方もいますね。

んー、家族みたいなものだなとは思うけど、家族ほどではない(笑) 。とはいえ同級生とか、青春を共にした人たちと組んだバンドではないから、友情がベースになっているわけではなくて今ある信頼関係とかお互いがお互いの日々の努力を信用してる。4人ともそうなんですけど、うまくいかない時に人に原因を向けない人たちなんですね。あいつが調子悪いんだったら、イコール自分の責任だろ、という考え方をする4人で、その関係性はすごく大切。『ぼくたち わたしたち』って要するに“みんな”という意味なんですけど、“みんな”という言葉はチョイスしなかったんですね。“みんな”と言われても“それは誰のこと?”という感じで曖昧だし、『ぼくたち わたしたち』のほうが向き合えている気がして。みんなで頑張ろうじゃなく、ぼくたちわたしたちはそれぞれの場所で頑張ってるよって。それで、たまにライブで近くへ行くことがあったら顔見せに来てよって感じですね(笑)。

――向き合えてもいるし、聴き手とバンドの良い関係性が築けているような気がします。

今回、CDのブックレットの写真をお願いしたカメラマンの関めぐみさんは、1999年のデビューシングルを撮ってくれた方なんですね。デザイナーさんも関さんが紹介してくれた方で、ブックレットができた時に自分でも不思議だったけど、もうすでにあったはずの音がそれまでとは違って聴こえたんです。今って配信も多いしそれはすごく便利だけど、今回のアルバムは特にブックレットを手に取って、歌詞があって写真もあってということも踏まえて聴いてもらいたい。そういうものの力も借りて1つの作品としてでき上がったなぁと思う。だから是非CDを買って聴いて下さい(笑)。

――20周年記念の11月19日(日)の渋谷クラブクアトロワンマンには関西からも大勢のファンが詰めかけると思います。

ブージーの20年を過ごしてきたのは私と笈川君だけなんですけど、旭さんもヤマダも、自分のバンド人生、音楽人生の20年を振り返ったり1つの節目として今回のワンマンを迎えようとしているから、怖くもあり楽しみでもあると、みんな言ってましたね。今の自分たちがどこまでできるのかなってちょっとした不安みたいなのもあるけど、今ここにきて出せるものって“自分”しかないと思うから。それはメロディーとかよりもみんなの歌なんだと思う。心が出るっていうか。だから、歌の響くワンマンになるんじゃないかな。ブージーの20年という時間全部が重ならなくても、今バンドをやっている私たちの鳴らす音が聴きに来てくれるその人の心とか、日常に響くか。私たちの音楽を聴いてくれている人たちって、自分の生活にフィードバックしながら、心を照らし合わせながら聴いてくれている人が多いと思うので、また明日でもいいし、21年目でも未来でもいいんですけど、来てくれた人たちの中に新たな力が湧いてくるようなライブになれば。新しい力が湧いてくるということは、今持っている重たいものが軽くなることだと思うんですね。気持ちが重いと何に対してもワクワクしないし、“この先、自分はどうしよう?”と考えると重くなっちゃうけど、“この先、自分は何しよう?”だと気持ちも軽いですよね。

――確かに!“どうしよう?”と“何しよう?”では全然違いますね。

ちょっとした差でしかないけど、その軽やかさは今の自分たちにも大事なのかもしれない。私はいい人になれたらいいなとは思うんですけど、ものわかりのいい人になりたいわけじゃないから、大人になったってふてくされたり怒ったりしてもいいと思うし、何かを諦めない気持ちや何かを信じる気持ちを持ち続けたい。バンドは20年経ったけど、そうやってまだまだいろいろなことに挑戦している最中だなぁと思います。
 

取材・文/梶原有紀子




(2017年11月15日更新)


Check

BUGY CRAXONE
20周年記念ワンマン
"100パーセント ナイス!"

発売中
Pコード:316-275

▼11月19日(日)17:00
渋谷CLUB QUATTRO
立見 前売-2900円/当日-3400円
※ドリンク代別途必要。
[問]ホットスタッフ・プロモーション:03-5720-9999

チケット情報はこちら


●Profile

ブージークラクション…写真左から、笈川司(g)、旭司(b)、すずきゆきこ(vo&g)、ヤマダヨウイチ(ds)。’97年、札幌にて結成。’99年にシングル『ピストルと天使』でメジャーデビュー。’03年にレーベルとマネジメントを兼ねたZubRockA RECORDSを設立し、精力的にリリース&ツアーを重ね、’07年、怒髪天の増子直純主宰のレーベル、Northern Blossom Recordsでの活動を開始。’09年にはデビュー10周年を記念するアニバーサリーアルバム『Cheeseburgers Diary』をリリース。4年ぶりのオリジナルアルバムとなった『Joyful Joyful』(‘12)以降、『いいかげんなBlue』(‘13)『ナポリタン・レモネード・ウィーアー ハッピー』(‘14)『Lesson 1』(‘15)とコンスタントにリリース。’17年には再びメジャーに移籍し1月に発売した結成20周年ベストアルバム『ミラクル』に続き、13枚目となるオリジナルアルバム『ぼくたち わたしたち』をリリース。11月19日(日)には、結成20周年記念ワンマンライブ『100パーセント ナイス!』を渋谷クラブクアトロにて開催する。

BUGY CRAXONE オフィシャルサイト
http://www.bugycraxone.com/

ライター梶原有紀子さんのオススメコメント

「インタビューの最後ですずきさんが話していた、『この先、自分はどうしよう?』と『この先、自分は何しよう?』は、紙の表か裏かぐらいの本当にわずかの違いでしかないのに、その言葉を口にした時に自分の中に生まれる気持ちの重さと軽さには雲泥の差があった。改めて、すずきさんはみずみずしい感性のかたまりのような人だと思う。4月にあったファンダンゴのライブでは4人がステージに出てきた瞬間から涙が止まらなかった。1曲1曲の何気ない言葉や音に触れることで、自分の中から力が湧いてくるのを感じる。21年目からも素晴らしい音楽を聴かせてくれると信じさせてくれるミラクルのようなバンドです」