LOSTAGE ニューアルバム『In Dreams』のリリース
イベントを地元奈良で開催！“夢の結晶”ともいえる
新作を全曲演奏！異様な熱気を帯びた現場をレポート！

奈良を拠点に活動するLOSTAGEが、約3年ぶりとなるニューアルバム『In Dreams』を発表、6月9日に奈良NEVER LANDで開催されたライブイベント、「LOSTAGE presents [SHOWNEN]」より販売がスタートされた。同イベントには、奈良在住のDJでミュージシャンのmoanyuskyがオープニングで登場。さらにニューアルバム『The Shape of Dope to Come』を引っ提げたヒップホップ・バンドのskillkillsが分厚いビートでフロアのテンションをぶち上げる。今回、トリを飾ったLOSTAGEの異様な熱気を帯びたライブの模様をレポートするのだが、この“異様な熱気”にはひと味違う訳があった。

というのも、この日この会場を皮切りにリリースされたニューアルバム『In Dreams』は、事前にジャケットデザインと収録曲、リリース日、そして販売方法のアナウンスしかされていなかった。なので、メディアに宣伝や告知を依頼するため資料として渡されるサンプル音源も出回っておらず、レビューなどの掲載も皆無。インターネットなどで先に内容を視聴することもできなかった。つまり、この日は初めて解禁され、アルバムを手に取ることができるという特別な日だったのだ。

販売方法も、今後のライブ会場と、五味兄こと五味岳久(Ba＆Vo)のレコード店「THROAT RECORDS」の店頭およびオンラインショップでのみ購入可能。大手レコード店などでの流通、ネットでのデータ配信も行わず、MVも制作しない。楽曲に触れるにはライブに足を運ぶか、直接CDを購入するしかないのだ。今の時代では極端ともいえる販売方法だが、それが反響を呼んだ。一体どんなアルバムになっているのかと想像を膨らませた大勢の人々が6月9日、NEVER LANDに詰めかけたのだ。超満員の会場、観客の期待と興奮でライブ前からボルテージは最高潮に達しており、みな鼻息を荒くして彼らの登場を待っていた。

ステージに現れるや否や、五味兄がいきなりライブのセットリストを明かす。アルバムの1曲目から10曲目までを順に披露していくという。「誰も知らない曲ばかりだからこそ、各々が好きなように楽しんでほしい」と投げかけ、そのまま疾走感あふれる1曲目『さよならおもいでよ』、岩城智和のドラムが効いた『ガス』を丁寧かつダイナミックに畳みかけていく。じっとステージを見つめて嚙みしめるように聴き耽る者、頭を振り乱し、身体を揺らす者など、アルバムの全貌を浴びるようにしてそれぞれが初めて聴く喜びを露わにしていた。




MCに入ると、すかさず会場から「名盤やん！」と声が飛んだ。販売方法だけでなく、明らかにこれまでとは何かが違う。ライブで直に目の当たりにし、観客たちはそう確信したのだろう。確かに、これまでにないほどメロディアスだ。綴られる歌詞も、歌も、じんわりと身体に沁みわたり、温もりを感じさせてくれるポジティブな楽曲ばかり。自分たちの音楽とそこに込めた想いを広げていく、伝えていく…といった覚悟がひしひしと感じられ、胸を強く打つ。

「16年かかって元に戻ってきた。その間に、時間も若さも、何もかも無くなった。今更、仕事もつぶしがきかない」と五味兄が切り出すと、弟の五味拓人(Gt)が「だけど、夢だけが残った」と返す。続けて五味兄は、「そう。今作は“夢の結晶”と言ってもいい。今日まで不安だったけど、あとは楽曲がどうだったか、聴いた人が自由にこねくりまわして、友達に伝えたり、広げるサポートをしてもらえたら嬉しいです」と観客に想いを託した。


音源を流通していないバンドは、ライブ会場で販売してやっと誰かの手に渡り、聴いてもらえる。今回の販売方法は、2001年の結成以来16年、奈良に拠点を置きながら「どうすれば全国津々浦々に自分たちの音楽を届けられるのか」ということを追求しながら、活動を積み重ねてきたひとつの答えであり、「想いを広げていく、伝えていく」というバンドの原点に立ち返ることだったのだろう。

そして、これまでのLOSTAGEの軌跡が詰まった集大成であるからこそ、磨き上げられたバンドサウンドと芯を打つメロディと歌詞が、よりエモーショナルに胸に突き刺さり、グッとくるのだろう。夢の結晶をエネルギーに突き進んでいく新たな出発点でもあるから、眩しく、まだ見ぬ先の世界へ連れて行ってもらえるようで、心踊らされたのだろう。なにより、やっと楽曲を世に送り出せるとう喜びが爆発したこのライブは、より前のめりで多幸感がみなぎっていた。


ラストを飾る『Shoeshine Man』は、アルバムとイベントの“幕を閉じる”楽曲というよりも、この先の地続きにある人生や物語だったり、これからLOSTAGEが見せてくれるだろう、ほんの少し先に広がる世界を想像させてくれるようなナンバーだ。繊細で美しく、その一方で力強くもある楽曲で、このアルバムを象徴しているようにも感じた。




アルバム収録曲10曲すべてが披露されたにも関らず、フロアでは鳴りやまない拍手とアンコール。とうとう、ダブルアンコールにまで応えて、『SURRENDER』、『手紙』、『ひとり』とぶちかまし、拳が突きあがる大団円を迎えた。


限られた入手方法は、「楽曲を広げたい、届けたい」という想いとはもしかすると矛盾しているように思われるかもしれない。けれど、今回のライブで最も感じられたのは、LOSTAGEが信じる音楽が持つ強さや、音楽に触れることの楽しさだった。わざわざライブハウスまで足を運び、気に入ったバンドのCDを本人から直接買うということがどういうことか。やっと手に入れたCDを聴いた瞬間の喜びたるや。なんでも簡単で便利にこなせるようになった時代だからこそ忘れかけていた、そんな屈託のない“煌めき”を再発見できたように思う。終演後には、自らが物販に立つ五味兄の元へ長蛇の列ができていた。LOSTAGEが伝えたかった想いは、観客に確実に届いていたのだ。

7月から来年1月にかけては、全国ツアー『LOSTAGE In Dreams TOUR』が開催される。それまでにTHROAT RECORDSの店頭かオンラインストアで購入して予習しながらライブを楽しみにするのもよし、ライブ会場で直接購入するまでワクワクドキドキするのもよし。いずれにせよ、音楽で夢を見させてくれる今作を手に取り、聴いてみてほしい。LOSTAGEが詰め込んだ“夢の結晶”と音楽に触れる“煌めき”を多くの人に感じてほしい。

文／大西健斗
撮影／森好弘

（2017年6月14日更新）