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the chef cooks meのシモリョー(vo,key)が久しぶりに登場!! 
Turntable FilmsとのスプリットCDを引っさげての
1/15(日)大阪ワンマンを前に、激動の2015年、2016年、
そして現在と未来を語るインタビュー&動画コメント

 the chef cooks meは関西出身のバンドではないけれど、彼らの関西でのライブが異様に熱いことは、周知の事実といっていい。それは、『RGBとその真ん中』(2015年)に収録の『PAINT IT BLUE』のコーラスを大阪のライブで収録したことにも明らかだ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONやGotchのソロ、チャットモンチーやカジヒデキらのサポートとしても活躍するフロントマンのシモリョーこと下村亮介に、今回話を聞くことができた。自身の喉の病気も含め、オリジナルメンバーの脱退、新メンバーの加入、さらに「バンドが始まって以来、もっともライブの本数が少なかったと思う」と語った2015年から、バンドにおけるマイルストーンといえる傑作アルバム『回転体』のアナログ盤がリリースされた2016年。ポップマエストロとしての力を発揮するのに十分な蓄えもすでに完了し、1月15日(日)Shangri-Laでのワンマンに向け準備も整いつつある彼が、さまざまな動きがあったここ数年について、改めてthe chef cooks meというバンドについて、じっくりと語ってくれた。

あのアルバム(回転体)を作った時に、
すごく大事な根幹をちゃんと見つけられたんだろうなと思ってる



――2015年、2016年はメンバーの脱退や加入、2013年に発売したアルバム『回転体』のアナログ盤リリースなどバンドにとって大きな動きがありましたね。
 
「そうですね。アナログのリリースに関しては去年の3月頃にも話があったんですけど、ちょうどその頃に結成から連れ添ったドラマーが脱けて、活動を一旦止めるかという話にもなっていたので、その時に出してももったいないなと。2016年の5月と7月に『回転体』を再現したライブを東名阪でやったんですが、正直その時に改めて“3年が経ったんだ”って感じましたね。僕らとしてはキャリア上一番の自信作だし、未来永劫にこのアルバムの歌は歌っても演奏してても恥ずかしさはまったくないだろうなというものだから、改めてそう思ったのかもしれない。それ以前の作品は、歌詞やアレンジメントで“若いな”と苦笑いする感じがあったり、ちょっとこっぱずかしい気持ちになったりするものもあるんですけど、『回転体』に関してはまったくないだろうと。あのアルバムを作った時に、すごく大事な根幹をちゃんと見つけられたんだろうなと思ってますね。レーベルオーナーの後藤さん然り、一緒に演奏してくれた仲間とか周りの人たちに頂いたもの、気付かせてもらったものがあるなって。自分の気分的にはものすごく暗い時に作ってたんですけどね(笑)」
 
――歌詞にも結構な病みっぷりが表れていますよね(笑)。“消えてなくなればいい そう思うものありますか”で始まる『うつくしいひと』は最初の数秒で見事に体が固まります(笑)。
 
「当時、メンバーにも笑われました“この歌い出し、すごいね”って。あんまり自分ではそう思ってないんですけど」
 
――下村さんにとってはスタンダードですか。
 
「終わりがちゃんと見えているからでしょうね。どれか1つのフレーズだけとかではなく、起承転結がある詞を書いているので。最初だけ歌われると、“この曲、どんな曲なの?”と思われるのもわかるんですけどね」
 
――確かにその通りで、聴いていくと、人とのことや自分の人生について考える瞬間があって。“誰もが本当は美しい人”という声が聴こえた時には、赦されたような気持ちになります。歌詞を書く時は、思いついたことを書くというやり方ではない?
 
「僕の場合は曲が先にあって歌詞が先立つことはそこまでないんですけど、“こういうことを歌いたいな”という1つの大きなタイトルだったり、イメージからメロディーやリズムができていくことが多くて。『うつくしいひと』も何となくピアノを弾いていて、いいコードを見つけた時に、この響きはこういうことを歌いたいなと思って作っていきましたね。僕は子どもの頃から、サザンオールスターズや吉田拓郎さんとか、父親の世代の音楽を“音楽”と意識せずに聴かされていたんですけど、後になって歌詞を見たりするとどれもすごく手が込んでいて緻密なんですよね。音楽的な強度があるというのかな。コード進行もそうだし、サザンや拓郎さんの曲って子供の頃の僕では理解仕切れない部分があったけど、何年か後になって聴いたらもの凄く入ってくることがあって。その時代のポップミュージックの影響は受けているでしょうね。当時は阿久悠さんはじめ職業として作詞家をされている方がいらっしゃって、そういった人たちはものすごく巧みな手腕で歌詞を書かれていて。自分が今、それほど見事なものが書けているかどうか正直、自信はないんですけど、ただ絶対にその人たちが仮想敵というか、負けたくないなと思って書いているので、ちゃんと自分なりのプライドはありますね」
 
――そうなんですね。
 
「作詞に関しては、以前だったらもっと自分の感情だったり、“この言葉のスピード、速いな”と思うものをバンバン入れてましたけど、今は推測してもらえばわかるとか、聴いたそのままが伝わるものじゃなくて、聴いた人が考えることのできる余白があって、読み解いていく楽しさのあるものにできたらと思っていますね」
 
――私事ですが、最近中島みゆきさんを聴いていて。中島みゆきさんも拓郎さんに大きな影響を受けていますが、みゆきさんがTOKIOに詞を提供した『宙船』を初めて聴いた時に、そこら辺のパンクバンドの人が逆立ちしても書けないような真正パンクな歌詞に震えました。
 
「パンクですよね(笑)。今の人たちよりも、諸先輩方のほうが相当なパンクですよね。今この歌詞を歌ったらコンプライアンスにめちゃくちゃひっかかるよなって楽曲がすごくたくさんあると思いますし、そういう意味では今って表現の自由もないような時代になりつつあるなって。そうなる理由も分かるんですけどね」
 
――the chef cooks meの曲を聴いた時に、日本語に対するこだわりというか、日本語に対する矜持みたいなものを感じるところは確かにありますね。
 
「それはうれしいですね。僕もどこかで何かが変わったのかな。僕らもかつてメジャーデビューなどをさせてもらったり、それがあまりうまくいかなくて半年で契約が切れたこともあって。それから、自分たちでプレスもやってライブ会場と大阪のFLAKE RECORDSでしか売らなかった時期もあって。その辺りが病み期ですよね、たぶん(笑)」
 
――(笑)病み期は明けました?
 
「最近思ったんですけど、人によっては失恋した時にいい歌が書けたり、怒っている時にいい曲が書けたり、ものが生まれる瞬間って何かがあると思うんですよ。“何年契約で毎年アルバムを作れ”って言われた時のしんどさって僕は分からないし、わりと自由にやらせてもらっているけど、それでも曲が生まれる時には何か出来事とか理由があったりする。最近また、何かが溜まってきたなって自分でも感じていて、言いたいことが増えてきているのもあるし、これはたぶんそういう時なんだなと思って曲は書いています。それが病んでいるといわれるものなのかは分からないんですけど」
 
――ただ感情をぶつけるのではなく、さっきの歌詞の書き方のように、音楽に昇華するというやり方でしょうか。
 
「ああ、そうですね。直情的に呪いのようなものを吐きだして、音楽に乗っけて世に出しても喜ぶ人はいないですよね(笑)。それほど滑稽なことはないので、絶対に僕はしないです。たとえば呪いみたいな想いが100だとしても、そういう中にも絶対にいいところはあると思うし、よく観察してみたら誰でもが思っていることがその中に見つかるかもしれない。そういうふうに切り口を変えていければ、誰かの応援歌になったり刺激になるような歌詞に変換することができるのかもしれない。それは音楽の魅力ですよね。誰かの悪口とか呪いとかはSNSで吐きだせばいいんですよ (笑)。ただ、直情的にバーンと吐き出すのがカッコいい人もたくさん知っています」
 
――秋にTurntable Filmsとスプリットシングル『Tidings One』が出ました。それぞれの新曲に加えて、お互いのバンドのために書き下ろした楽曲を1曲ずつ、計4曲収録されていますが、the chef cooks meの新曲『最新世界心心相印』(サイシンセカイシンシンシャンイン)はシンセサイザーの音に新鮮味があって、音数もそれほど多くなく、今のバンドの空気はこういう感じなのかなぁと。
 
「そうですね。これまではたくさん楽器が入ってたいたりもしたけど、今はまたちょっと違っていて。僕の場合、他の方のサポートをやらせて頂いた時にシンセやキーボードを弾く機会がたくさんあるので、自分のバンドでは弾きたくないなと思っていて(笑)。シンセって、ベースもギターもリズムもどんな音でも出せちゃうから孤独な楽器だと思うし、それ故に語り過ぎる楽器でもあって。ロックバンドのかっこよさって、ギターの歪み具合だったりちょっと不完全な、コードじゃ説明できないような不協和音だと思っていて、そこを語り過ぎちゃうと一気につまんなくなることが多いなって気づいてきて。ただ僕らはロックバンドじゃなくてポップスをやっているので、じゃあこれまでキーボードでやったことのないものを作ってみようと思ったんですね。たまたま最近、中国人の友達が出来て、その人がとにかくよく話す人で。日本語の不思議とか、“中国ではこうなんだよ”とか“何で日本人はこうなの?”とかを毎回聞くのが楽しくてそれをヒントに歌詞に書いてみようと思って。自分たちの母国語をしゃべれない人達とコミュニケーションを取ることって、これまであまりなかったので、それも曲を作ろうと思ったきっかけになって」
 
――おもしろいですね。
 
「あと、ちょうどシンセと被ったのが、今年新メンバーを迎えて新たにthe chef cooks meを始めるとなった時に、YMOとか山下達郎さんを改めて聴いたんですね。特にYMOは『パブリック・プレッシャー/公的抑圧』(1980年)、達郎さんは『IT’S A POPIN’ TIME』(1978年)を聴いていて、どちらもライブ盤なんですけど、それはもう一流だし演奏能力にしても楽曲、アイディアにしても、半分は楽しんで聴いてますけど、もう半分はお説教ですよね(笑)。達郎さんのライブには坂本龍一さんがキーボードで参加していて、YMOもロンドンとニューヨークと東京のライブを集めたアルバムで。達郎さんは25歳ぐらいだし、YMOも20代で、そりゃあ誰が聴いてもヘコむと思うんですよ。ただ、改めてもう一回the chef cooks meをやるとなった時に、それまでのストーリーの続きの話をやるつもりはなくて、絶対目標は高い方がいいと思ったし、去年の12月に中野サンプラザであった山下達郎さんのコンサートを観に行った時に達郎さんもMCでそういう事もおっしゃっていて。その時のMCを聴いていて、頭をパシーンとひっぱたかれて”すみませんでした”って土下座したくなる気持ちと同時に、バシーンとむちゃくちゃ背中を押された気持ちの両方があったんですね。それで、自分と同い年の頃に達郎さんは何をしてたかなと思っていろいろアルバムを引っ張り出して聴いたら、本当に最高でした。ライブ盤では特に演奏力もそうだし、自分たちがやりたいと思っていることを、もっとそれ以上のハイレベルでやられていて、改めてお手本になる人たちがいたなと思った。しかもスタジオアルバムよりも、ライブ盤から感じられるものがたくさんあったのも発見で。そこを聴き直しましたし、シンセサイザーを使う音楽としてはYMOは超一級品で、あれほどクールでロジカルでちょっと狂ったシンセサイザーは日本では他に追随はいませんよね。そこに1つ、教科書としてもらったアイディアがありましたね。その時のYMOは、歌詞がない曲がほとんどですけど、コード進行や音色でこんなにも雄弁なのかと思ったんですね。ただ、僕は歌詞を書いて歌いたいし、教科書からアイディアを拾いつつ、新しいものを生み出したい。そう思った時に中国人の友人の言葉とYMOや達郎さんの音楽とが自分の中でうまくピントが合ったんですね」
 


――タイトルにある『心心相印(シンシンシャンイン)』とはどういう意味になるんですか?
 
「それはソウルメイトとか、以心伝心とか、言葉にしなくても伝わる関係というか。YMOに『以心伝心』という曲があるし、彼らには中国語を使った曲名も多いですよね。最初は、最近自分の中にくすぶっている呪いみたいな思いをうまく曲に乗せたいなと思ったんですけど(笑)、『回転体』の時よりもストーリーをしっかり提示するというよりは、聴く人に何か気づいてほしいというか。自分が思っていることを1から10まで全部言っちゃうと、押し付ける力が強くなってしまうんですけど、何となく言葉をポンと置いていって、それだけで会話ができる相手を見つけたいなと思ったんですね、ソウルメイトってそういうことですし、Turntable Filmsの井上君という人は僕にとってもソウルメイトですし。いいタイミングだったこともあって力まずに作れた曲ですね」
 
――下村さんの声はライブでもCDでもとても身近に感じる声で。”全部言っちゃうと押しつけがましい”みたいに感じるのは、そういう特徴があるからでしょうか?
 
「実は僕、気づかぬ間に喉を壊していて、それはカミングアウトもしていて今治療中なんですね。昔のリハとか音源を聞いていて、“あ、こんなふうに歌えてたんだ”と思った時に、今はそう歌えない部分もあるし、経年変化で声が変わっているのもある。あの時にできた歌い方が今はできないことをさみしく思いながらも、歌うことができなくなる日が来るんだということにすごくびっくりして。昔は、キーを下げて歌うことがイヤだなと思っていたんですけど、こういうふうに人間は劣化していくんだなって」
 
――劣化だなんて。
 
「あ、でも僕は、劣化ということに関しては、プラスの意味でとらえていて。その切なさだったり、キーを下げたなりの表現を見つけるべきだとも思ってるんですね。今年ASIAN KUNG-FU GENERATIONが『ソルファ』を再録してライブもやっていますが、そうやって経年変化すら作品にしたり、それさえも美しいものにすること自体がすごいなと思ったんですね。僕も、“経年変化が何じゃボケ!”ってやっていけばいいじゃんとも思いましたし、声が出なったらどうしようかなとも思うけど、それはたぶん大丈夫なので、新しい歌い方とか新しい気持ちで出来ればいいやって」
 
――なるほど。それと、これは自分の勝手な印象なんですが、下村さんを見ていてブライアン・ウィルソン(ビーチ・ボーイズ)と重なるところがありまして。
 
「最近カジ(ヒデキ)さんにも同じことを言われて、申し訳ないような嬉しいような気持ちで(笑)。カジさんのサポートもさせてもらっているんですけど、それ以前から、使っていたスタジオが同じでよくお会いしていたんですよ。カジさんはその度に“あ、ブライアン・ウィルソンだ”って思っていたらしくて(笑)。僕もブライアン・ウィルソンは大好きだからうれしいんですけど、ブライアン・ウィルソンにもいろんな時期があるから、“どの時期ですか?”って聞いたんですよ。“場合によってはすごく切ないですよ”って言ったら、“いやいや。一番いい時期だよ!”って言われて。本当かなぁって(笑)」
 
――私の場合は、どの時期というより全体的に(笑)。ブライアン・ウィルソンは、たぶん子供のころからずっと内向的でインドアな人で、ほとんどの曲をスタジオや部屋で作っているにもかかわらず、作る曲は海辺や太陽の下で若い男女がキャアキャア言ってるものがほとんどで。歴史に残るメロディーメーカーでもあるしマッドサイエンティストでもあり、基本的に病んでいる人でもあり。その裏も表もちょっとずつある、全体的にいろんな意味でブライアン・ウィルソン(笑)。
 
「あははは!それは褒め言葉として受け取ります」
 
――はい。悪い意味ではなく、下村さんご自身の印象もthe chef cooks meの音楽も含めてそう思います。『回転体』、『RGBとその真ん中』もそうですが、どこまでも深く沈むような景色をここまで心地よく聴かせてしまえる人はそんなにいないと思いました。“踊りたくてしょうがない!”と思う曲ばかりではないけど、誰かと一緒に聴きたい曲もある。けど、4曲入りでも、10曲入りでも作品の中には必ず“この曲だけは誰にも触らせたくない”みたいなものもあって。
 
「それは嬉しいです。僕は人に対してモノを言うのは好きだし、“今この人はこういうことについて言って欲しいと思っているのかな?”みたいに見分けるのは得意だと思うんですけど、自分に関しては全然得意じゃなくて。音楽の聴き方は自由だし、自分たちの音楽は世の中に出した時点でどう捉えられても文句は言えないし、クソだと言われてもしょうがない。ただそういうふうに音楽を読み解いてもらったり、“こう思うよ”と言われると分析ができるというか。次回作はブライアン・ウィルソンの病んでる時期だと思われないように頑張ります(笑)」
 
――実際、新しい作品には取り掛かられていますか?
 
「はい。そのモードには入っていて、1月のライブの時にその片鱗を見せられたらなと思っています。『回転体』は2016年にたくさんやらせてもらう場があったので、もっと昔のちょっと恥ずかしいなと思う棚から出してきたものとか、“無何有郷(むかゆうきょう)”ってテーマで1つ表現したいものがあるので、それに即した昔のものも真新しいものも見せられたらなと思っています」
 

呼応してくれる人たちがたくさん集まるためには、
自分が場所を作らなきゃいけない



――無何有郷って、“何もないだだっ広いところ”という意味でしたっけ?
 
「ユートピアと同義語だと思うんです。日本では“ユートピア=理想郷”という意味で、よいとらえられ方をすることが多いと思うんですけど、本来は、“理想郷=この世にないもの”という言葉だったと思うんですね。理想だけれど、どこにもない。それを自分たちの活動になぞらえていて、メジャーデビューした時とか『回転体』を出した時にいろんなフェスに出る機会をもらって、僕らは自信満々にライブをやってたし、めちゃくちゃいい音楽をやってた。その自負は今でもあるんですけど、僕らはただ“楽しくて、盛り上がればいい”というだけじゃない音楽の良さを突き詰めてライブをしているんですね。あるフェスに出た時に、『回転体』を出した年はびっしりお客さんが入っていたのに、翌年はお客さんが半分に減っていたことがあって。前年にフェスに出た後に僕らはツアーをやり、パフォーマンス的にも確実に上げているし曲もいい。それなのになぜ?という想いもありすごくショックで悔しかったんですけど、僕らと同じ時間帯に当時最も勢いのあったバンドがやっていて、“カードが悪かったよ”と言われた。その時が一番悔しかったんですね。そのバンドに罪はないし、そう言われてしまう俺たちは何なの?って。そんな音楽しか作ってないのか?と思ったんですけど、そういう悔しさもその辺のタイミングでたくさん味わえたんですよ。今、世の中で人気が出そうな音楽に理由があるのもわかる。でも何か悔しいし、納得いかねぇなぁって。けど、それを呪ったり、時代とかシーンのせいにするのはカッコ悪いし、そういう時にまさにユートピアって言葉が出てきたんですね」
 
――なるほど。
 
「これは、自分で場所を作れということだなって。自分がいいなと思っていたり、“これ最高でしょ?”って聞いた時に呼応してくれる人たちがたくさん集まるためには、自分が場所を作らなきゃいけない。だったら、それをやろうと。そう考えるとユートピアってちょうどいいなと思ったんですね。できていないもの、これまで見たことないものを作りたいから、自分らのことを好きでいてくれるお客さんとは一緒に作っていく感覚で来てもらえるような何かをしていこうかなって。それが2016年も終わりの今の気持ちですね」
 
――ライブは1月15日(日)Shangri-La。年頭からユートピアとは幸先が良いですね。
 
「そういうふうにしたいと思います。ただ、そこまで時間が残されていないというか、死ぬか生きるかではないけど、自分の体力だとか喉の病気をやったこともそうなんですけど、そんな悠長にもしてられないなとも思っていて。メンバーにも、“こういうことやりたいから、今やろう”とだけ言って、のびのびじゃなくちょっと駆け足ぐらいで、というスピード感で。時代の動きってめちゃくちゃ早いから、それに乗らないわけにもいかない。難しいんだろうなと思うこともありますけど、そう思いつつ、できないことは何もない、としか思っていないので」
 
――the chef cooks meは関西のバンドかなと思うほど、ライブが熱いんですよ。お客さんもガンガンにのってますし。
 
「茶化してくれるぐらいの雰囲気が好きですね。特に大阪はお客さんたちの“待ってた!”感が強いというか。自分たちが“お客さんを育てた”という意識はないんですけど、僕らのライブに来ている人たちは、例えばTurntable FilmsやKONCOSと一緒にライブをやっても、彼らの音楽が響いてくれる人たちだと思う。それは、僕らのことを信頼してもらえてるんだなっていう気持ちもあるし、そういうお客さんは最高ですよね。今年、KONCOSのツアーに2か所参加したんですが、どっちも本当に素晴らしいステージで。僕らは、自分がいちばんでありたいという意識はそんなになくて、素晴らしいバンドはたくさんあるし、そういうことを含めて2017年はみんなで何か一緒にやれたらいいかなとも思っていて」
 
――最後に、ライブを楽しみにしている読者の方にメッセージをお願いします。
 
「自分が10代の頃はネットでライブを調べるなんてことはできなかったし、雑誌の『ぴあ』を見てチケットを買いに行ったり、ライブハウスに置いてあるフライヤーで行きたいライブを見つけたりして、好きなバンドの出るイベントで、初めて知るバンドにも出会えたり、いいものをたくさんもらってきたなぁって改めて思ったんですね。それがどれだけ素晴らしくて楽しいことか、知ってる自分が人を巻き込んでいかなきゃなっていう責任感みたいなものも出てきましたね。もしこのインタビューを見て頂けたら、僕らの音楽はネット上でいくらでも手繰り寄せられるのでいろいろ聴いてもらって、よかったらライブに遊びに来てください。初めての人や、一人でライブに来る人にとってはハードルが高いかもしれないけど、僕、最近ライブで地方へ行った時に、一人でバーに行くのが好きになったんですよ(笑)。“常連客ばっかりだったらどうしよう”みたいに最初は緊張するんですけど、僕も34歳になって、ここらで自分のコミュニケーション能力を超えていこうと思って(笑)」
 
――おお!(笑)。
 
「行ってみると、普通に生きていたらたぶん出会えなかっただろうなと思うような人とお酒飲みながら話せたり、いろんな出会いも含めて、“これってすごくない?”と思えることがいっぱいあって。一人で地方のバーへ行くというのは、KONCOSの(古川)太一君からもらったアイディアなんですけどね。でも一人でライブに行くって、それに近いものがあると思うし、僕らのライブは1人で来ても疎外感を与えない場だし、初めてでも1回きりでも全然かまわないです。おもしろいライブになると思うので、財布に余裕があったら是非遊びに来てもらえたらうれしいです」

text by 梶原有紀子
 



(2016年12月30日更新)


Check

Movie Comment

本WEBに久しぶりの登場!
simoryoからの動画コメント

Release

相思相愛! Turntable filimsとの
スプリット盤の一般発売がスタート!

Split Single
『Tidings One』
発売中 1400円(税込)
only in dreams
ODCS-006

<収録曲>
01.Pitiful Island / Turntable Films
02.最新世界心心相印 / the chef cooks me
03.Walkin in the Magic / Turntable Films
04.オレンジの匂い / the chef cooks me

Profile

シェフ・クックス・ミー…写真左より佐藤ニーチェ(g)、下村亮介(vo&key他)、角谷翔平(b)。2003年結成。ASIAN KUNG-FU GENERATION、後藤正文のソロ”Gotch”、チャットモンチーなどのサポートメンバーとしても活躍するシモリョーこと下村亮介(Vocal,Keyboards,Programming,Songwriter,etc...)、佐藤ニーチェ(Guitar)、角谷翔平(Bass)の3ピースバンド。管楽器、コーラス、鍵盤などサポートメンバーを迎えた10人編成のポリフォニックなバンド・サウンドとなり、2013年9月、後藤正文のプロデュースのもと、3rdアルバム『回転体』をonly in dreamsよりリリース。『回転体』は各方面から大きな反響を得、アルバムをひっさげて約5年ぶりの全国ツアーとなった『回転体展開tour2014』は、東京キネマ倶楽部公演でファンの大歓声の中、幕を下ろした。
その後もRECORD STORE DAY2014での7inchEP『ハローアンセム』のリリースや、各地の夏フェスにも出演、更なる編成変更をしながら常に前に進み続ける。2015年2月4日には、4曲入りEP『RGBとその真ん中』をリリース、そして2016年4月には待望の『回転体』をアナログレコードでリリース! 同年「Return to the Focus Tour 2016」を東名阪で行い、東京は初のホール「Mt.RAINIER HALL」での公演、更には1日2公演を実施。大阪・名古屋公演も大盛況で終えた。2016年10月より、新曲『最新世界心心相印』を含むTurntable Filmsとのスプリットシングル『Tidings One』をライブ会場で発売し、12月よりタワーレコードやHMVなどCDショップでも発売を開始。2017年1月15日(日)大阪Shangri-La、1月21日(土)恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンライブ『無何有郷SHOW』が開催される。


the chef cooks me オフィシャルサイト
http://www.thechefcooksme.co.uk/

Live

東阪ワンマンツアーが開催!
大阪公演は1/15(日)に

Pick Up!!

【大阪公演】

『大阪無何有郷SHOW』

発売中 Pコード312-312
1月15日(日) 18:30
Shangri-La
オールスタンディング3300円
GREENS■06(6882)1224

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら


【東京公演】
『東京無何有郷SHOW』

発売中 Pコード312-574
1月21日(土)18:30
LIQUIDROOM
オールスタンディング3300円
LIQUIDROOM■03(5464)0800

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら

Column1

京都・東京でのワンマンを前に
シモリョー(vo&key)、ニーチェ(g)、ジマ(ds)、シェフがメンバー総出で制作秘話を語る!
the chef cooks me『RGBの真ん中』全曲レビュー&動画コメント

Column2

梅田Shangri-Laにてワンマンショー『それからの事柄』を開催。
新旧織り交ぜたライブの模様をレポート!!

Column3

約3年半ぶりのアルバム『回転体』リリース&5年ぶりの全国ツアー
the chef cooks meに盟友8ottoのTORA、FLAKE RECORDSのDAWAを交えた ここだけの話。
“大阪対談 冬の陣”、いざ開幕!

Comment!!

ライター梶原有紀子さんからの
オススメコメントはこちら!

「インタビューでシモリョー氏が、“僕らのライブは1人で来ても疎外感を与えない”と言われていた通り、過去に出かけたthe chef cooks meのライブはどれも楽しかった。自分もいつも1人で彼らのライブに行って、歌いたければ歌うし、手を叩いたり大声で笑ったり、そういう感じの人たちが他にもいっぱいいる。ギリギリッと心臓の擦れる音が聞こえそうな痛い曲も、彼らがその場で演奏し歌う姿もひっくるめて大音量で浴びているうちに、その曲と1つになれるような温かさが感じられる瞬間がある。実際にあった。1月のワンマンも、たまたまそこに居合わせた見知らぬ誰かと友達になりたくなるような、そういう素敵な夜になるに違いないでしょう」