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「僕は僕の音楽的表現を持ちながら
 いろんなアートフォームの人とやっていく」
金子ノブアキの拡大する夢幻のソロ世界を描き切る
『Fauve』撮り下ろしインタビュー&動画コメント

 金子ノブアキの3rdソロアルバム『Fauve』が発売された。昨年、初のソロライブを行い、聴覚のみならず視覚的にも体感的にも、彼が携わるRIZEやAA=等のどのプロジェクトとも違った斬新な衝撃を与えたその総合芸術を表現するステージからのフィードバックは、今作に大きな影響を与えている。それらと共に、今回のアルバムを作る上で金子に大きなインスピレーションをもたらしたのは、写真に刺しゅうを施すなど独創的な作風で知られるアーティスト、清川あさみが手掛けた絵本『シートン動物記 狼王ロボ』だったと彼は言う。ストーリー性とメッセージ性が溶けあった歌詞や、言葉のない音世界=インストゥルメンタル曲の中に鮮やかにドラマを描き切る音楽表現など、これまでにない可能性に挑んだこの新作を携え6月13日(月)には梅田AKASOにてツアーの大阪公演を実施。アルバムについて、ソロ活動について、今現在の想いをじっくりと語ってもらった。

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どんどん成長していく様を、作品として記録したかった
 
 
――抽象的な言い方になりますが、『Fauve』を聴いていると大きなものに包まれているような安心感があって。音に自分を投げ出してしまえるような包容力も感じつつ、『Take me home』(M-2)ではアルバムが始まったばかりとは思えない熱量の高揚感があって。
 



「あの曲はクライマックス感がありますよね。もうアルバムが終わっちゃうんじゃないか?っていう(笑)」
 
――実際にアルバムを作る上では、どんなイメージを持って制作されたんでしょうか?
 
「これまでもいろんなプロジェクトに関わらせてもらってきたけど、3枚目までの区切りとか、3枚目のアルバムっていうのは結構大事で。それも分かってたし、去年初めてソロライブをやったことも含めて、ここまで培ってきたものをちゃんとパッケージできるように、というところは心して。今回はコンピューターで美しい音もいっぱい作ってるけど、生の演奏に関しては大きなスタジオでヴィンテージの機材を使って一発録りでいい音で録って、という具合に、肉体と頭脳を二極化して考えようと。ドラムは全曲一発撮りで1日で録ったんですけど、そこからのエディット、ミックスには時間をかけて。鉄を熱い内に打つことと、コトコト煮込むことの両方をやりましたね。PABLO(g、Pay money To my Pain)くんも草間(敬、Syn他)さんも、去年のツアーも一緒にやってるからお互いの中にライブのイメージもあったし、PABLOのギターが入ったことで、ドラムもメロディも変わったりして、よりバンドサウンドに近くなりましたね」
 
――昨年10月のソロライブの、あの場で鳴っていた音やスクリーンに映し出された映像、緊張しながらもふつふつとたぎるものを感じながら聴いているフロアの空気など、あそこにあったものが記録されているような作品で。
 
「本当にそう。ライブを一度も経験していなくて、イメージだけを持ったプロジェクトのあり方もある種のイノセンスがあって、それもいいんですよね。でも今回は、すでに肉体(=ライブ)を手に入れているわけで、勝ちも負けも経験してる。自分はこれまでもいろんなバンドやプロジェクトでずっとライブをやってきている身ですけど、もう1回、このプロジェクトでそのプロセスが踏めるのはすごく楽しいことで。そうやってどんどん成長していく様を、作品として記録したかったんですよね」

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まさしく“アップデート”ですよね
 
 
――『Girl(Have we met?)』(M-9)は、1stアルバム『オルカ』(‘09)に収録されている『Girl』のリメイクですが、純粋に歌モノだった原曲とはガラリと異なり、バキバキのEDMにアップデートされていて。
 
「ドラムンべース再流行の兆しがあるので、流行る前にやっておこうと(笑)。PABLOがアコギを入れたときに、彼はスペインの血が入ってるだけにすごく雰囲気がよくなって。スタジオで彼がアコギを弾いてる横で、俺はパソコンを持ち込んで同時にクラップとかクランチーな効果音をガンガン入れていって、“うわ、めっちゃいいやん!”とか言いながら(笑)その場で手を加えていって。ライブ感溢れる録音でしたね。1stの曲に関しては新しいバージョンを作ろうと前から思っていて。1stは実験作でもあるし、当時は歌を録ったこともなかったんで、プロのボーカリストでもない自分が“いったい何が出来るのか?”を作品にしていったもので。でも、ラッキーなことにあの作品でやったことは、今でもサウンドの軸になってる。『Girl』はアレンジを変えて去年のライブでもやっていて、同じコードだし譜面上の構成は何も変わってないんですけど、BPMやジャンル的には変わっていて、まさしく“アップデート”ですよね。それと今回は、バンドサウンドをガッツリ録って、日本語で歌っているものは歌詞もしっかり書いて、歌を真ん中に持ってこようと。それと共に『blanca』(M-6)『Lobo』(M-7)みたいなアンビエントな曲は、10分ぐらいの長尺にしようと。『Lobo』を去年の秋に配信リリースしたときに、“作業中に聴きたいのに4分じゃ短い”っていう声を、何人かのクリエイターの方から頂いたので(笑)。じゃあアルバムに入れるときにリメイクしようかと。僕もアンビエントは好きだから、放っておいたら何十分とかの曲になっちゃうんだけど、本質的にアンビエントのトラックは10分ぐらいは欲しいなと思う。ブライアン・イーノの新作(『ザ・シップ』(‘16))とかも、1曲で20分とか普通だもんね(笑)」

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このプロジェクトって、音楽以外とのコラボレートが重要なんですよね
 
 
――歌詞のブックレットが洋書のペーパーバックのような体裁になっていることも関係しているのか、アルバム全体にも文学的なものを感じます。特にインストゥルメンタルの『blanca』の広く深遠な世界が、次の『Lobo』へ切り替わった瞬間に、切り裂くような音が耳を貫く威力がまたすごくて。
 
「『Lobo』のあの音は、考え得る限りで最も理不尽な音を作って、そこから曲にしてみようと思ったんですね。それと同じタイミングで、清川あさみさんが手掛けた絵本『シートン動物記 狼王ロボ』を、あさみさんが送ってくれて。すぐに読んで、めちゃめちゃ感動してその勢いでバババッとトラックを作ったのが『Lobo』で。あのイメージなんですよね。バッと切り裂く野生の感じと、流れる血と、狼のプライドと秩序…そういう緩急と、シーケンスの整備されてる音の中に生の演奏を入れることで伸縮が生まれて、動物っぽい感じに聴こえる。すぐにドラムを録音してメロディをつけて、歌詞は本から引用しようかとも思ったんですけど、それも野暮だなぁとも思って。でも、作品へのリスペクトもしたい。そう考えたときに、最終的に歌詞は1行だけだなって。それが自分の中の“狼”感で(笑)。アルバムの曲順で言うと逆だけど、『blanca』の冒頭から低い声が聴こえてくるでしょ? あれは僕が『狼王ロボ』の物語を朗読した音声を、逆再生したりして編集、加工してるんですよ。ヘッドフォンで聴くとその声が右耳のところにベタッと貼り付いてる。日本語とは言えない音声になってはいるけど、声に感情は乗っかってるから何となく文学的になっていると思うし、アンビエントの世界でもこの曲の言わんとしてることが色になって浮き出てるんじゃないかな」
 
――『狼王ロボ』は、単に人間と動物との攻防とは言い切れない、とても重いものを投げかけている物語ですよね。
 
「子供の頃に読む『シートン動物記』と、大人になった今読むのとでは、全然違いますね。子供の頃なんて、“狼カッコいい!”ぐらいで(笑)。実際にあった人と自然の闘いの話だし、どっちが悪いかと言えばそれは人間なんだろうけど、読んでいくと、人間と狼の双方に何となくリスペクトがあって。『白鯨』も似たような感じなのかもしれないけど、人の愚かしさとか、動物も人間もひっくるめた生物学的な男の愚かしさ、弱さみたいなものが感じられて。暴力的な話だし美談にしちゃいけないけど、やっぱり美しくて。音にする上では、そこへのリスペクトもありますね。あの2曲は、一番いいのは本を読んだ後に聴いてもらうこと(笑)。物語の後半ぐらいから『blanca』を聴き始めて、読み終わってから『Lobo』を聴いてもらったら、よりこのアルバムで言わんとしてることが伝わるんじゃないかな。このプロジェクトって、そういう音楽以外とのコラボレートが重要なんですよね。6月16日(木)の東京EXシアターでのライブで共演するパフォーミングアーツカンパニーのenraさんもそうですけど、僕は僕の音楽的表現を持ちながら、いろんなアートフォームの人とやっていく。今、俳優の仕事も復帰してフットワークが軽くなって、いろんなことがやりやすくなってるところもあって。新しく、僕の中の何かが開いている感じがしてますね」

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あのときのみんなの反応がこのアルバムを生んだと言ってもいい
 
 
――最後の3曲『dawn』(M-10)『The Sun』(M-11)『fauve』(M-12)に差し掛かった辺りで、『blanca』と『Lobo』の生死の経緯を思い出す瞬間があって。ここまでの物語をも包み込むような最後の3曲にみなぎっている生命力に、迫力と共に最初にも言いました安心感を覚えます。『fauve』で最後にピアノの音だけになったとき、1曲目の『awakening』を思い出してもう1回最初に戻る、そういう自然なループがありました。
 
「そうなったら最高(笑)。アルバムを作るときはいつもそうなんだけど、最後まで聴くともう1回最初に戻りたくなるというか、レコードだったらA面B面を聴いて、もう1回ひっくり返してA面を聴いちゃう、みたいな。そういう育ちをしちゃってるところもあって、CDになってもその感覚がずっと残ってるんですよね。そうやって10代の頃からいろんな音楽に救われてきた中で、ある種の死生観みたいな大きな思想は最初の頃からあるし、このアルバムも実験的だしチャレンジングな作品になりましたね。ライブも、去年初めてやるまではどういう空気になるか分からなかったし、俺とPABLOでやるから“もしかしたらモッシュとか起きるんじゃね?”って言ってたんだけど(笑)、フタを開けてみたらフロアにいるお客さん全員がシーンッてしてて。めちゃめちゃ熱いんだけどシーンッとしてるのを見て、“これはヤバい! 新しい!”って思ったし、あのカタルシスは“やったね!”と思いましたよね。そこに導かれてこのアルバムを作ってるんですよね。あのときのみんなの反応がこのアルバムを生んだと言ってもいいし、もしもあのとき、フロアでダイブとかが起きてたらもう何をしていいか分かんなくなっちゃって、“何を作っても一緒かよ”って思ってたかもしれない。AA=とかRIZEとか、地獄の洗濯機がガンガン回ってるような現場も僕にはあるんですけど(笑)、人生の年齢感とか音楽の創作の在り方、アートフォームの在り方とか、いろんなものを作っていく可能性として、よりリアルタイムであり、ライフワークなのはこっち(=ソロ)ですよね。ただ、バンドのカルチャーに戻ってJESEEとかKenKenとか、上田剛士さんと演奏するときは、必然的にバンッと一瞬で14歳ぐらいに戻っちゃう(笑)。それがバンドの美しさなんだなって」
 
――なるほど。
 
「音楽の持っている可能性って本当に無限大だし、そこにロマンがある。夢を見ているんですよね。今、俳優で映画やテレビに出ながらバンドもやって、その母体としてこういうソロの現場がある。それって最高じゃないかなって。RIZEをやりながら芸能界に戻るときは否定的な意見ばっかりだったし、ソロプロジェクトをやるなんて10年前は1ミリも考えてなかったけど、自分の名前が独り歩きできているから屋号になるわけですもんね。僕は堀越学園出身なんで同級生に歌舞伎役者もいれば、ボルドーの国立バレエ団に入ってた友人もいて。自分は中学でバンドを始めて高校でそういう仲間と出会って、僕自身はストリートカルチャー出身だけど、素晴らしい人たちが周りにいっぱいいたおかげで、それだけじゃない可能性もあって。そういう元々あったものが、やっと今30代になって表現できるようになってきたのかな。ここにきて花開いている感覚がありますね」

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1人1人のプライべートな空間がある中で全身で感じてもらいたいし
トリップしてもらいたい
 
 
――このアルバムに伴うツアーの大阪公演が、6月13日(月)梅田AKASOにて行われます。
 
「今回は座席を用意してます。座って観て、聴いてもらいたいんですよ。去年のツアーが終わったときに、ワンマンの場合は演出効果も含めて考えると、ギュウギュウ詰めのライブハウスで観てもらうのはもう限界かなって。座ってもらって、1人1人のプライべートな空間がある中で全身で感じてもらいたいし、トリップしてもらいたい。その方が、僕らのやろうとしてることを気持ちよく観てもらえる気がするし、前回来てもらった人にもまた違ったものを感じてもらえるライブになると思います!」
 
 
Text by 梶原有紀子
Photo by 渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)




(2016年6月 9日更新)


Check

Movie Comment

プロジェクトの形成から新作、ライブ
金子ノブアキが語る動画コメント!

Release

様々な音楽とアートを呑み込み
増大する幻想的な新世界!

Album
『Fauve』
発売中 2500円(税別)
バップ
VPCC-81874

<収録曲>
01. awakening
02. Take me home
03. Tremors
04. Garage affair
05. Firebird
06. blanca
07. Lobo (Album ver.)
08. Icecold
09. Girl (Have we met??)
10. dawn
11. The Sun (Album ver.)
12. fauve

Profile

かねこ・のぶあき…’81年生まれ。幼馴染のJESSEと共にRIZEを結成。’00年シングル『カミナリ』でデビューし、全米、アジア(韓国・北京・台湾)などの海外ツアーも成功させる。以降、RIZEとして現在までに7枚のオリジナルアルバムを発表。現在は、AA=にもドラマーとして参加している。金子ノブアキとして’09年に1stソロアルバム『オルカ』、’14年に2nd『Historia』を発表。パワーのあるドラミングとは対極とも言える繊細で無垢なボーカルも話題を呼んだ。’15年にはギターにPABLO(Pay money To my Pain)を迎え、キャリア初のソロライブを春に行い、秋には東名阪でソロツアーを開催。映像と音楽をシンクロさせた総合芸術を表現したステージが好評を博した。今年5月11日には3rdソロアルバム『Fauve』を発表。6月2日の金沢を皮切りにスタートしたツアー『Tour 2016 Fauve』の大阪公演は、6月13日(月)梅田AKASOにて開催される。なお、ファイナルの6月16日(木)東京EXシアターでの公演には、パフォーミングアーツカンパニー“enra”とのコラボレートがアナウンスされている。また、俳優としても、ドラマや映画、CMなどに数多く出演。6月25日(土)より東京ユーロスペースにて出演作となる映画『スリリングな日常』が公開。

金子ノブアキ オフィシャルサイト
http://kanekonobuaki.com/

Live

新感覚のライブ体験が五感を刺激!
ツアー大阪公演が梅田AKASOで

 
『Nobuaki Kaneko Tour 2016“Fauve”』

【石川公演】
チケット発売中 Pコード294-704
▼6月2日(木)19:00
金沢市民芸術村 パフォーミングスクエア
全席指定4500円
FOB金沢■076(232)2424

【福岡公演】
チケット発売中 Pコード295-905
▼6月3日(金)19:00
イムズホール
全席指定4500円
キョードー西日本■092(714)0159

 

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード294-340
▼6月13日(月)19:00
umeda AKASO
全席指定4500円
GREENS■06(6882)1224
※未就学児童は入場不可。

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【愛知公演】
チケット発売中 Pコード296-157
▼6月14日(火)19:00
愛知県芸術劇場 小ホール
全席指定4500円
サンデーフォークプロモーション■052(320)9100

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【東京公演】
チケット発売中 Pコード294-649
▼6月16日(木)19:00
EX THEATER ROPPONGI
全席指定5000円
[ゲスト]enra
ソーゴー東京■03(3405)9999

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Column1

4年半ぶりのソロアルバム
『Historia』制作秘話にルーツに
ドラムに表現にと語り尽くす!
'14年の撮り下ろしインタビュー&
初のトークイベントレポート

Column2

RIZEの2年半ぶりにして会心の
シングル『LOCAL DEFFENCE
ORGANIZATION』!
ドラマーとして、俳優として
自身とRIZEの現在地を語る
'12年の撮り下ろしインタビュー

Comment!!

ライター梶原有紀子さんからの
オススメコメントはこちら!

「タイトルの『Fauve』が持つ意味―― Fauve=フォービズム(野獣派)の信望者、野獣――を知ったとき、前作『Historia』のラストに収められた『The Chair』のイントロで高らかに鳴り響いていたトランペットを思い出しました。金子くんはそのトランペットを“最高に快楽的”と呼んでいた。マティスやルオーら野獣派と呼ばれた画家が原色に塗りこめるようにして描いた快楽…と考えていく内に、これまでの2作のソロアルバムと新作が見事に頭の中でつながっていった。その瞬間の快楽といったらもう! 洋書を読むようなブックレットの造りも、落ち着きのある深紅色に黒字でクレジットが並んだジャケットもディスク盤面のデザインも、モノ愛好家のハートをくすぐってしょうがない。“音楽の持つ可能性は無限大で、そこにはロマンがあるし、夢を見ている”と金子くんは言ったけど、先日同じことをThe BONEZのインタビューでJESSEも話していました」