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「朝起きて鼻歌が歌えれば、まだ音楽はやっていける」
貪欲に偶然という奇跡を引き寄せた、現在進行形の音楽
『Records and Memories』からはちみつぱいの復活までを語る
鈴木慶一インタビュー&動画コメント

 昨年には音楽活動開始45周年の節目を迎え、実に24年ぶりとなるセルフプロデュースによるソロアルバム『Records and Memories』を発表した鈴木慶一。巧みなソングライティングと重層的でオーケストラルなアレンジによって繰り広げられる幻夢的なポップワールドは、圧倒的でありながらもどこか軽妙。完全セルフプロデュースによって、これまでにありそうでなかったソロ世界を64歳にして築き上げた氏に、多面的なおもしろさに満ちた今作の魅力と完成に至るまでの経緯、そして、ムーンライダーズの前身でもある日本語ロックの先駆バンド“はちみつぱい”の’88年以来となる復活劇と、5月9日(月)ビルボードライブ大阪での貴重なライブについても語ってもらった。



何をやってもいい自由な状態だったんだけど
実はその自由な状態がなかなかコワいんですよ(笑)
 
 
――完全セルフプロデュースでのソロ作は、久々となったわけですけど。
 
「別に俺はソロのミュージシャンを目指して音楽を始めたわけじゃないし、最初からずっとバンドを作りたいバンドを作りたいで、今まで来ていますから。ソロをやるツラさ、みたいなものもよく分かるので。だから、ユニットが一番気楽に出来るんですよ。2人でやりとりして、よければそっちに行くし、これはやめた方がいいんじゃないと思えばやめるし。バンドはもっとややこしくて、どんなバンドを作ってもややこしいです(笑)。でも、ワンマンバンドを作る気は全くなくて、各自が作詞作曲も、演奏も出来る人と、どうしてもバンドを作っちゃうんですよ。ムーンライダーズもはちみつぱいもそうだったし、Controversial Sparkでも、曲を書いたことがなかった人に書いてもらったので。手間はかかるんですけど、それが好きなんです。でも、ソロだとそうはいかない。要するに、1人で全部の曲を書くわけで、しかも今回はこの作品の前に1枚別のアルバムを作っていて、ほぼ完成していたんですよ」
 
――そうだったんですか?
 
「それは歌があまりなくて、非常にアウトレイジな音楽とかエレクトロニカなサウンドのもので、’13年から作り始めて’14年くらいには出来ていたんですけど、やっぱり歌があるアルバムの方がいいんじゃないかということになり、方針を変更して全く新しく作ったのが『Records And Memories』。世には出ていないけどエレクトロニカなアルバムを作ると、それと違うモノを作りたいという反動で(笑)こういうアルバムが出来るんです。ムーンライダーズのときにも、それとは違うものを作ろうという反動で曽我部(惠一)くんのプロデュースで(ソロアルバム『ヘイト船長とラヴ航海士』('08)が)作れましたけど、今はバンドが活動休止しているので、反動を付けるためのものがなかった。何かを作るときに、白紙から始めるのは非常に難しいんですよ。だから、今回はそれが自分で作った1つ前のアルバムになった。他のソロの人がどうやっているのかは知らないけどね(笑)」
 
――そこで生まれてきた『Records And Memories』は、単なるエレクトロニカな音への反動みたいなサウンドでもなければ、これまでの集大成的なものともまた違う感じで。
 
「今までに作ってきたものの集大成ではないですね。自分でやっていてもそう思ったんだけど、そのときに閃いたものだったりするんで、そうなったかな。あとは、バンドじゃないので、この人がベースで、コーラスがこの人だからという想定をして気を遣わなくてよかったですね。曲を作って、ほとんどの楽器を全部自分で弾いて出来上がるってことだから、何をやってもいい自由な状態だったんだけど、実はその自由な状態がなかなかコワいんですよ(笑)」
 
 
いつもそうだけど、何もない(笑)
 
 
――作り始める前に青写真的なものはなかったんですか?
 
「いつもそうだけど、何もない(笑)。このアルバムもそうだし、ケラとのユニットのNo Lie-Senseも(高橋)幸宏とのTHE BEATNIKSもそうですよ。スタジオに行く途中に出来るとかね。最近は敢えてよく電車を使いますけど、地下鉄に乗って移動している間とか、駅を降りた瞬間に出来るとか、そういうのが多かったですね」
 
――音としてはアレンジもかなり凝っていてすごく緻密に作り込まれたように聴こえるんですが、どちらかと言えば、タイトル通りに最近の慶一さんを瞬発的に反映していった“記録”というか。
 
「そうですね。最近に聴いた音楽とかもいっぱい反映されているでしょうし。特に反映はしていないけど、最近に聴いてサウンドがイイなと思ったのは、ジム・オルークの新譜(『シンプル・ソングス』(‘15))だね。あのギターが大量に入ってる感じとか。結構よく聴いてたな。あとは、緒川たまきさんが聴かせてくれた、米国の宅録音楽家のR. スティーヴィー・ムーアとか」
 
――オーケストラばりに様々な楽器やシンセなども駆使しながらも、どこか宅録的というか。聴いていると年代を特定できなくなってくるサウンドになっていますよね。
 
「ソフト・シンセとかを使って作る音は自分の会社のスタジオでやりましたけど、生楽器に関しては今回のレコーディングとミックス・エンジニアも担当してくれた権藤知彦くんのスタジオに行くと大量にあったので、ちょっとこの楽器を使ってみようというのがすぐに出来たので。だから、大量の楽器に囲まれてという環境がよかったんだろうね。鍵盤で入力した音を送信して、それを基準にしながら手で楽器を弾いてと、手作業が相当に多かった。だから、不思議な混ざり方をしているのかもしれない」
 
――ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(‘67)を、今の進化した宅録テクノロジーを使ってやったらこんな音になるのかな、とも思いました。
 
「『サージェント・ペパーズ~』の頃はトラック数も少ないし、もっと大変だったと思いますよ。ただ、その大変な手作業がああいう作品を生んでいるわけで、今同じようなことをやろうとしても、同じような音は出ない。不純物が混ざっている、と言ったらヘンだけど、(音の背後に)カウントが残っていたり、ノイズが乗っていたりということでああいう音になっているんですよ。エレキギターも昔のものの方がハンダに不純物が混じっていて音がいいとも言われていたりもするし、エフェクターを使って似たようには出来るけど、あの空気は再現できない。録音というのは、そのときの空気を閉じ込めることだから。いかにダイレクトで録音していても、マイクを使えばその空気が入ってくるし、特にドラムの音っていうものはそのときの空気を実に具体化していると思うの。ドラムを聴けばその年代が分かる。ただし、ヒップホップ以降はそれをいろんなところから使っているので、時代性はごちゃ混ぜになっているけど。だから、今回のアルバムも、今の空気が入っているんだけど、過去の雑音のようなものを取り込んでいたり、後ろで鳴っていたりもするので、そう聴こえるのかなと。今の音になっていてくれればいいけどね」
 
――いや、これは今でしか生まれ得ない音なんだろうと思います。
 
「ただね、ムーンライダーズが’15年にアルバムを作っていたら、私はこういう曲をプレゼンしていたと思うんだけど、ほとんどボツになっていただろうね(笑)。そんな気がするな。で、やってらんねえやと別のアルバムを作ったら、こうなるのかもしれないね」
 
――逆の逆で、ソロはやはりこうなっていたと(笑)。
 
「ムーンライダーズはちゃんとイメージがあるので、それには落ちる曲ばかりだと思うんだよね(笑)。1曲くらいは通っていたかもしれないけど」
 
 
過去っていうものは、ともすると邪魔だったりもする
 
 
――歌詞もまたサウンドと同様に独特ですよね。男女のことを題材にしている曲が多いのは意外でしたけれど。
 
「うん。今回は、男女のことを歌っている曲も多いですね。こんなに男女のことを取り上げるのも、これが最後だと思いますけど。ややこしい男女関係とか、イヤな女の人のこととかだけどね」
 
――そこは何か理由があったんですか?
 
「あまりないんですけどね。ま、64歳になってちゃんとやってみるのもいいかなと。歌詞に関して一番大きいのは、最近はインターネット上で検索しながら作詞しているってことですね。地震があってポトンと落ちてきた本がヒントになったこともあったけど、偶然の積み重ねがモノを作るというかね。老人にはもうそれしかないんですよ(笑)。でも、その偶然を作り出すためにはそのための行動が必要で、例えばグーグルで検索しているのも偶然だし、最近は目が悪くなって打ち込みを間違えると違うものが出てきて、これは何だろうとなったり。自分の中の誤動作も偶然なので、それこそ重要なことなのかなと。歌詞に関しては、つながりとかも無視してバーッと書いたし、説明的なことや啓蒙的なことは一切ないので、聴いた方が各々に想像していただければ」
 
――音も言葉も、徹頭徹尾に慶一さんにしか作れないポップミュージックですね。
 
「比較は出来ないけど、このソロが一番“全身”が出てるというか、全身音楽家が出ているんじゃないですか。今までがそうじゃなかったとは言いませんけど、うまく出たなという感じじゃないですかね。あと、詞に関してはControversial Sparkのメンバーに40歳違うkonore(vo&g)というのがいるけど、彼女と一緒に歌詞を作っていると突然敬語が入ってきて、“んー、これは何だろう!?”というのがあったりして、それには影響を受けますね。勝ち負けじゃないですけど、ライバルは絶対に必要だから。ベースの岩崎なおみさんが私の曲に歌詞を付けていたときに、メインのボーカルとコーラスが全く別のことを歌っているのがおもしろくて、それを取り入れたのが『男は黙って…』(M-1)なんですよ。たまたまだけど、No Lie-Senseの次のアルバムは’64年の高度成長期をテーマに歌詞を作っていて、こっちの方が先に自分の分の歌詞は出来ていたので、それを経由しての影響もあるかもしれない」
 



――やはり現在進行形でやっていることからの影響や刺激の中で生まれた作品なんですね。
 
「集大成的なものは、過去の作品からセレクトして3枚組で出したアンソロジー(『謀らずも朝夕45年』('15))でいいんじゃないかなと思っていたので。過去っていうものは、ともすると邪魔だったりもするんで。経験が意味を持つのは、食べ物とスポーツだけだと思っていて。もちろん(45年の音楽家としてのキャリアも)続いているもので、全てを断ち切って別の職業に行っているわけじゃないんで、それは考えつつ今のものを作るってことでね。そこで過去に依存するのは、考えないようにするってことだから。過去を考えるときは、何か困ったときですよ」
 
 
はちみつぱいは45年前とは全然違うし、
‘88年のときともまた違うし、より混沌としている
 
 
――そんなスタンスで活動を続けられている中で、5月9日(月)のビルボードライブ大阪では、原点である“はちみつぱい”の復活ライブが行われるのも貴重で感慨深いことですね。
 
「はちみつぱいをなぜ今やるのかと言うと、かしぶち(哲郎・ds)くんが亡くなったのがすごく大きいんだけど、今やれそうだしやりたいなと思う人と一緒にやっておかないと、ということですね。’88年で封印したつもりだったんだけど、最初にみんなに“すいませんでした、今まで二度とやらないと言って。気が変わりました”と謝って、昨年45周年のライブの最後にやったんだけど、終わった後の打ち上げでギターの本多信介が、“今日は史上最低の演奏をした”と言うもんだから、これはもう一回やらなきゃなと(笑)」
 
――今、当時の曲を歌っていて慶一さんはどんな気持ちなんでしょうか?
 
「歌詞を覚えているね(笑)。で、歌詞の言葉が少ない。歌っていてフッと思い出すこともあるけれど、今演奏していることを楽しんでいるんですよ。ただ、45年前とは全然違うし、’88年のときともまた違うし、より混沌としているというか。はちみつぱいがおもしろいのは、コーラスを決めようとしていないんですよ。演奏していて、歌いたいと思うとみんなコーラスを入れるし、武川(雅寛・vl)は今は声が出ないので、別のメンバーがハーモニーを付けていたりするんです。コーラスのパートを決めないというのは当時からそうだったんだけど、やはりそこはグレイトフル・デッドっていうことでしょうね」
 
 
Text by 吉本秀純



(2016年5月 5日更新)


Check

Movie Comment

新譜の構造とはちみつぱい復活の真相
鈴木慶一からの貴重な動画コメント!

Release

「経験は意味がない」と言い切る
最新型のストレンジポップ!

Album
『Records and Memories』
発売中 2800円(税別)
P-VINE RECORDS
PCD-28027

<収録曲>
01. 男は黙って…
02. 愛される事減ってきたんじゃない、ない
03. 無垢と莫漣、チンケとお洒落
04. ひとりぼっち収穫祭
05. Sir Memoria Phonautograph邸
06. 六拍子のワルツ
07. Records
08. 危険日中毒
09. バルク丸とリテール号
10. Livingとは Lovingとは
11. Memories
12. Untitled song
13. My Ways

Profile

すずき・けいいち…’70年にあがた森魚との出会いから音楽活動を開始。日本語ロックの先駆的バンドであるはちみつぱいを結成し、その後にムーンライダーズへと発展した。バンド活動と並行して、数多くの楽曲提供やプロデュース、ゲーム音楽『MOTHER』の制作などで多彩な才能を発揮しながら、’08年には曽我部恵一プロデュースの『ヘイト船長とラヴ航海士』で日本レコード大賞優秀アルバム賞も受賞している。’11年のムーンライダーズの無期限活動休止後も(‘14年にメンバーのかしぶち哲郎の死を受けて再開)、ソロやTHE BEATNIKS、No Lie-Sense等のユニット、新バンドのControversial Sparkなどで精力的な活動を続けている。音楽活動45周年を記念し、’15年11月には3枚組アンソロジーベスト『謀らずも朝夕45年』を、12月16日には『SUZUKI白書』(‘91)以来24年ぶりのセルフプロデュース作となるソロアルバム『Records and Memories』を発表した。

鈴木慶一 オフィシャルサイト
http://www.keiichisuzuki.com/

Live

伝説のグループの貴重な復活公演
大阪でのライブがビルボードで!

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード293-752
▼5月9日(月)18:30/21:30
ビルボードライブ大阪
自由席7900円
ビルボードライブ大阪■06(6342)7722
※本チケットに整理番号はございません。ご希望の方は発券後、お問合せ先まで要連絡。­当日は整理番号順でお席へご案内しておりますが、整理番号をお持ちでないお客様は開場­時間の30分後のご案内となります。カジュアルエリアの取り扱いなし。未就学児童及び­高校生同士の入場不可。18歳未満は成人の同伴が必要。

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら

 
【東京公演】
Thank you, Sold Out!!
▼5月15日(日)16:30/19:30
ビルボードライブ東京
自由席8200円
ビルボードライブ東京■03(3405)1133
※未就学児童入店不可。18歳未満・高校生は成人の同伴にて入店可。チケット購入後、手元にチケットを用意の上、問合せ先まで要連絡(入場整理番号決定)。

Comment!!

鈴木慶一と先日ライブでも共演!
森山公一(オセロケッツ)のオススメ

「左記のインタビューは先日の大阪ソロ公演前日に行われたもので、僕も役得で同席させていただいたのですが、あれほどの知識と経験値を兼ね備えた全能ミュージシャンの慶一さんですら(だから?)、作品を産み出すのに“偶然”を拠り所にしていることを知り、大いにショックを受けながらも何故か妙に納得したのでした。なるほど、翌日拝見したライブでも、ギター・ピアノ・サンプラー等、いろんな楽器を玩具の様に扱っては、居心地のよいサウンドをその場で捕まえる、捕まえる。で、しばらく愛でてはまた空中へ解き放つ。さながら昆虫採集? まさに“偶然”と戯れる孤高の佇まいに客席の誰もが魅了されたはずです。一方、ご一緒した数曲では、瞬時に僕らの演奏グセやタイミングを捉えて、アンサンブルを構築していく根っからのバンドマン気質も垣間見え、嬉しくも震え上がりました。5月のはちみつぱい復活は、バンド形態を愛する慶一さんのピュアな部分と、即興演奏での偶発性が同居して、凄まじいコンサートになるのではと妄想しています。僕もずっとシラフで観ていられるか心配です。皆さん、会場でお会いしましょう!」