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“未来はどこにも来ないし 永遠に今しかないのよ”
1枚の写真から生まれたアーバンで非日常なクオリティポップス
一十三十一が誘う10篇の砂漠のミステリーとは?
『THE MEMORY HOTEL』インタビュー&動画コメント

 ‘87~91年に一世を風靡した映画『私をスキーに連れてって』(‘87)『彼女が水着にきがえたら』(‘89)『波の数だけ抱きしめて』(‘91)のホイチョイ3部作にインスパイアされた“Surf & Snow”の世界は、『Surfbank Social Club』(‘13)『Snowbank Social Club』(‘14)、そして、トドメの『Pacific High / Aleutian Low』(‘14)で見事に結実。新たなモードへと突入した一十三十一から届いた最新作『THE MEMORY HOTEL』は、’12年にリリースした『CITY DIVE』以降、“シティポップ”という新たなフィールドをいち早く提示し、ムーブメントが起こった頃=現在には、そのハレーションを軽やかにかわして、さらなる次元のハイクオリティポップスを構築。プロジェクトの肝であるアパレル・ブランドYugeのデザイナー、弓削匠のアート・ディレクションの元、街場、浜辺、ゲレンデとスライドしてきた舞台が、今作では砂漠にある架空のホテルリゾートへと着地している。チェックインしたが最後、クニモンド瀧口(流線形)、Kashif、Dorian、LUVRAW、Crystal、mabanuaという最高の演出家たちによる洗練されたアレンジと言葉のチョイスが冴え渡る10篇のミステリー。48分間のタイムトリップ・ランデヴーを、コケティッシュで甘い媚薬ヴォイスでナビゲートする一十三十一が語る。

 
 
既存の景色を描くような物語じゃなくて、非現実的なもの
大人っぽさだったり、ミステリーだったり、アンニュイな世界観を作りたい
 
 
――昨年12月にリリースされた『Pacific High / Aleutian Low』で、ここ数年続いた“Surf & Snow”の流れが一旦落ち着いて。その時点からすでに次回作へ向けて動き始めてます、みたいな話でしたよね。
 
「実はさかのぼると’13年の秋、ってめちゃくちゃ前なんですけど(笑)、弓削(匠)さんのある日のSNSに、彼がディレクションした砂丘でのファッション撮影の写真が上げられてて、すごい素敵だったんですよ、その非現実感が。『CITY DIVE』(‘12)で横浜~東京と来て、次にビーチ(=『Surfbank Social Club』(‘13))が来て、ゲレンデ(=『Snowbank Social Club』(‘14))が来て…次は“砂漠”なんじゃないかな?と思って(笑)。ちょうどそのとき、Web Magazin『ハニカム』編集長の鈴木哲也さんのInterFMの番組に呼んでいただいて、“大貫妙子さんみたいな、ちょっとミステリー調なものも聴いてみたいな。ミステリーっていうテーマは、すごいアーバンじゃない?”みたいな感じのことを言われて、確かに!と。そこで、何となく描いていた“砂漠”と“ミステリー”が出会うんですね。だから、’14年の頭ぐらいにはもう、“砂漠のミステリー”のイメージは何となくありましたね」
 
――なるほど、思いのほか構想は長かったんですね。
 
「新たなチャレンジだし非現実の物語だから、これはいろいろと時間がかかるだろうというのもあって、’14年の頭にそれを決めて、『Pacific High / Aleutian Low』を作りつつも、頭の中では砂漠のイメージがあって。去年末に改めて弓削さんとの打ち合わせが始まって、また脚本を書いてもらうに至り…っていう毎度の流れです(笑)。ただ、これまでの既存の景色を描くような物語じゃなくて、非現実的なもの、大人っぽさだったり、ミステリーだったり、アンニュイな世界観を作りたいと弓削さんに話してく中で、大人っぽさみたいなことで言うと、“ホテル”というのもキーワードとしていいんじゃない?みたいな提案があって。“砂漠のミステリー”と“ホテル”が何となくそのミーティングでつながって、それを元に弓削さんが脚本を書いてきてくれたのが今年の初めぐらいですね。そこから制作陣に振って、結構つい最近まで作ってました、みたいな(笑)」
 
――いつも話を聞いていて思いますけど、映画でも作ってんのかっていう壮大なプロジェクトですよね?(笑) そう考えたら“Surf & Snow”の後に何をすればいいんだろう?って悩む間もなく次のテーマに出会えたと。
 
「はい。絞り出す感じは特になくて、毎回本当に触発されてというか、いろいろインスピレーションをもらって、どんどんテーマが湧いてくるので」
 
――でも、“砂漠がCDのジャケットになったらいいかも”から楽曲制作が始まるプロジェクトって、他にないと思いますね。ジャケットやMVの撮影は鳥取砂丘ということですが、確かにすごい光景ですね。あんな場所が日本にあるんだなって思うぐらい。
 



「真夜中に灯り1つない真っ暗な砂丘の中を、ドアと街灯を担いで持ち込んで、太陽が出るのをひたすら待つ、みたいな(笑)。2日間いたんですけど、全然違う明け方をするんですよ。毎回ジャケ撮影で、本当に自然と対峙するみたいな…山の厳しさを味あわせてもらったり(笑)。弓削さんが予備日みたいなものを作らない人なのでどうなっちゃうんだろう?と思いつつも、両日晴れてくれたので奇跡的な1枚が撮れたんで」
 
――しかも、いつもはリリースに間に合わないことすらあるMVが、ここ一連の一十三十一の作品の中では、最も早くアップされたという(笑)。
 
「アハハ!(笑) そうですね。私は鳥取砂丘に初めて行ったんですけど、砂の壁があって崖になって海があるんですけど、本当に砂丘が素晴らしく綺麗で。砂丘センターっていう合宿所みたいなホテルに泊まったんですけど、本当に砂丘に隣接してる“砂丘ビュー”なんですよ。鳥取の空港からそこに着くまでも全体的にノスタルジックでタイムトリップ感があって。ただ、ちょうどそのとき“鳥取に遂にスターバックスが出来た!”ってすごい話題で、Twitterのトレンドワードが“鳥取”みたいな時期に乗り込む感じになりましたけど(笑)」
 
――スタジオでブルーバックの前で撮ってたら、こんな感動は生まれないわけですもんね。
 
「それもあってか、私たちが撮影をしに行った後に、私の写真とかを見てすっごい気になっていたKashifが、個人的に鳥取砂丘を旅してて(笑)」
 
――アハハハハ!(笑) 
 
「あれっ? これ鳥取砂丘なんじゃない!? みたいなインスタが上がってて(笑)。“鳥取砂丘に行きた過ぎて、個人的に一十三十一を巡る旅みたいになっちゃいました”、みたいな(笑)」
 
 
もうメンバーが…分かってらっしゃるというか
ちゃんと世界観をシェア出来てるんですよね
 
 
――今回の“ミステリー”というテーマが関わってるんだと思うんですけど、“Surf & Snow”のときの明確なドラマ性とはまた違って、あまり全てを言い切らない感じはありますよね。歌詞然り、映像然り、説明し切らないというか。
 
「そうですね。今までだったら、ゲレンデに行くまでの道のりだったりがすでにあるので、それを観察してデッサンするだけで何となく1曲書ける、みたいなところがあったんですけど、今回は横浜とか乃木坂とか湘南とか、既存の街の名前とかを一切使わないことにして、歌詞を作るときにまず地図から書き起こす、みたいなところがチャレンジで。作詞は本当にディープ・トリップでした」
 
――Twitterでも“永遠に終わらないんじゃと思われたrecがついに終わりました。今年に入ってから確か一度もお酒飲んでないし”みたいな(笑)。その甲斐あってか、今回もマジで素晴らしいですね。
 
「嬉しい~! ありがとうございます」
 
――恐ろしいです、本当に。一十三十一は信頼のブランドだなぁと思いましたよ、改めて。
 
「フフフ(笑)。嬉しい。まず、鳥取砂丘で撮るんだなっていうところから、(ミケランジェロ・)アントニオーニの映画『砂丘』(‘70)を観て…ちょっとインプットしておこうと(笑)。それでパン!と最初に書けたのが『忘・却・飛・行』(M-5)だったり。今回は、ホテルの“扉”=記憶がキーワードで、その記憶を軸に未来だったり過去だったりにタイムトリップしていく物語なんですけど」
 
――ホテルと“MEMORY=記憶”が結び付いたのは何なんでしょう?
 
「ホテルをテーマに弓削さんと2人で話し合った中で、記憶=扉は彼からの提案ですね。街灯、扉、謎の男と女、っていうのは何となく最初からキービジュアルとしてあったんで、そこから発展していったというか」
 
――すごく視覚的なところから、“砂漠”→“ミステリー”→“ホテル”→“扉”→“記憶”みたいに、連鎖していってる。
 
「ホテルの一室で目覚めるところから物語は始まるんですけど、隣に血を流して寝てる男がいる。窓の外にはトロピカルリゾートみたいな景色が広がってるけど、いざ出ようとすると全部のドアが砂漠につながってる。砂漠=何もないっていうのが記憶を暗喩してて、その1つ1つを記憶を軸に解いていく。謎の男がまたキーマンで、彼が私の記憶を消した張本人であり恋人という設定なんですね。最初に弓削さんからこの脚本をもらったときは、“おもしろいけどこれをどうやって曲に?”って(笑)。作家陣も、こんな話を聞かせられても…って感じだったと思うんですけど(笑)」
 
――音楽のアルバム制作とは思えないようなギミックですね。
 
「そうですね(笑)。例えば、アーバンのイメージの定番としては車なんですけど、今回はちょっと違う。でも、やっぱり乗り物は出したい。非現実的な乗り物と言えばで、セスナが出てきたりとかするんですけど(笑)」
 
――ビーチとかゲレンデとか街とか、我々が日常的にイメージ出来る場所じゃない砂漠のスケール感に伴って、楽曲もやっぱりデカくなってますよね。“盗んだセスナに乗って”って相当セレブな物語になるから(笑)。
 
「アハハ!(笑)」
 
――あと、粒揃いの収録曲の中でも『サレンダラー』(M-6)はすごくおもしろい曲ですよね。
 
「『サレンダラー』は元々LUVRAWくんの曲で、サウンドクラウドとかに上がってたんですよ。いろいろな方たちからデモが送られてきた中で、曲の1つのテーマとして“虚構のパーティー”みたいなシーンがアルバムのバランス的にも欲しいなと思って。『サレンダラー』はサイケデリックな曲でピッタリだなと思って、当初はそういう感じの新曲を書き下ろす予定だったんですけど、LUVRAWくんに“っていうか『サレンダラー』がいい!”みたいに急遽お願いして(笑)。『サレンダラー』はLUVRAWくんが作った造語なんですけど、何となく悟りソングですよね」
 
――基本的にはミステリアスな世界観でハッキリした結末とかストーリーを浮かび上がらせない中で、『サレンダラー』に出てきた“未来はどこにも来ないし 永遠に今しかないのよ”というラインにグッと掴まれるというか。ここだけふと現実にも通じてね。今が連鎖しての永遠というか。
 
「そうなんですよね。何かその刹那的な感じが、テーマにもすごく合っていて。今作を通して言えることなんですけど、もうメンバーが…分かってらっしゃるというか、ちゃんと世界観をシェア出来てるんですよね」
 
――今後の予定としては、ビルボードライブ大阪でのリリースライブもありますが、また次の作品も絶対いいんだろうなっていう、安心感がすでに。次回作も楽しみにしてます!
 
「ありがとうございました!」
 
 
Text by 奥“ボウイ”昌史



(2015年11月 6日更新)


Check

Movie Comment

マイペースに話す姿がキュート過ぎ!
一十三十一からの動画コメント

Release

砂漠の架空のホテルリゾートを舞台に
ミステリアスな世界が冴える傑作!

Album
『THE MEMORY HOTEL』
発売中 2600円(税別)
Billboard Records
HBRJ-1021

<収録曲>
01. Overture
02. The Memory Hotel
03. その目は、Hypnotic
04. ミステリートレイン
05. 忘・却・飛・行
06. サレンダラー
07. Mon Fatal Amour
08. カナリア気分で
09. ロンリーウーマン
10. Labyrinth ~風の街で~

Profile

ひとみ・とい…札幌出身。’02 年に『煙色の恋人達』でCDデビュー。“媚薬系”とも評されるエアリーでコケティッシュなボーカルで、アーバンでエキゾな独自のポップスを展開。’07 年にはディスニーアニメ『リロイ&スティッチ』のエンディングテーマを歌うJINTANA&EMERALDSはじめ、別名義でのプロジェクトにも多数参加し、CM音楽やナレーションなど様々なフィールドで活躍。‘11 年初夏には、初の主演映画『百合子、ダスヴィダーニャ』が公開され、’12 年には5年ぶりとなるオリジナルアルバム『CITY DIVE』と邦楽カバーアルバム『YOUR TIME Route1』をリリース。’13年には、’87~91年に一世を風靡したホイチョイ3部作の『波の数だけ抱きしめて』(‘91)にインスパイアされたアルバム『Surfbank Social Club』を、’14年1月には『私をスキーに連れてって』(‘87)にオマージュを捧げた続編となる『Snowbank Social Club』をリリース。同年12月には夏の3連続配信シングルを収録したミニアルバム『Pacific High / Aleutian Low』を発表。そして、今年10月21日には最新アルバム『THE MEMORY HOTEL』をリリースした。

一十三十一 オフィシャルサイト
https://twitter.com/hitomitoijoy

Live

新作携えホームのビルボードで
今年最後の大阪ライブ!

 
『一十三十一 Special Guest:LUVRAW』
チケット発売中
▼11月9日(月)18:30/21:30
ビルボードライブ大阪
自由席6500円
[メンバー]奥田健介(g)/南條レオ(b)/
中村圭作(key)/小松シゲル(ds)/
ヤマカミヒトミ(sax&fl)
[ゲスト]LUVRAW(Talk box)
ビルボードライブ大阪■06(6342)7722
※カジュアル エリアは取り扱いなし。
未就学児童及び高校生同士の入場不可。
18歳未満は成人の同伴­が必要。


Column1

一十三十一が誘う音の
ロマンティック・リゾート
『私をスキーに連れてって』
にオマージュを捧ぐ
『Snowfbank Social Club』
インタビュー&動画コメント

Column2

『波の数だけ抱きしめて』を
アップデートしたクールで
メロウなシティポップ!
『Surfbank Social Club』
インタビュー&動画コメント

Column3

5年ぶりのオリジナルアルバム
『CITY DIVE』と80s邦楽カバー
『YOUR TIME Route1』で魅せた
ニューモードは“シティポップ”!
初登場インタビュー&動画コメント

Comment!!

ぴあ関西版WEB音楽担当
奥“ボウイ”昌史からのオススメ!

「『THE MEMORY HOTEL』、今年の後半はこの盤をよく聴きましたね~。“分かってらっしゃる”過不足のないジャストなアレンジと楽曲のクオリティ、そこにスーッとフィットする一十三十一のエアリーで艶やかな歌声…彼女の一連の作品は毎回相当な出来で驚かされるのですが、今回はさらにその上をいく作品です。ここ数年で一番好き。ホント素晴らしい! そして、普通の制作とは異なり、ビジュアルワークから派生する要素がまた音楽を生むのがこのプロジェクト。毎回MVも映画並みの作り込みと、どうやら彼女の周りには凝り性しかいないと思われます(笑)。そして何より会う度に射抜かれるキュートさを、ぜひ彼女のホームと言えるビルボードライブ大阪で確かめてください。こちらも自信を持って品質保証いたします(笑)。もう完璧」