インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 昨年新たに結成された6人のトップ・アーティストからなる ドリームチーム、Six Unlimited それぞれの道で頂点を極め型破りな音楽センスで時代を牽引し続ける 限界知らずの奇才たちの中でヴァイオリンを担当する 古澤巖にインタビュー


昨年新たに結成された6人のトップ・アーティストからなる
ドリームチーム、Six Unlimited
それぞれの道で頂点を極め型破りな音楽センスで時代を牽引し続ける
限界知らずの奇才たちの中でヴァイオリンを担当する
古澤巖にインタビュー

ルーツの異なる6人の奇才が集結した、Six Unlimited(シックス アンリミテッド)。“サステナブル(持続可能・永久不滅)で、アーティスティック(ゲージュツ的)”をテーマに、ライブではエンターテイメント性溢れるパフォーマンスが炸裂する。昨年12月からスタートしたコンサートツアーは新型コロナの感染拡大によって残念ながら中止を余儀なくされた会場もあるが、今だからこそ必要な音楽のパワーとマジックを存分に体感させてくれた。バンドを構成するメンバーは、雅楽という悠久の音楽と独自の世界観を融合させ唯一無二の音色を生み出す東儀秀樹、ベルリン・フィルからも一目置かれる演奏でダンディな色香漂う古澤 巖(ヴァイオリン)、作曲家としても才能を放ち、変幻自在の芸術的テクニックで奏でる塩谷 晢(ピアノ・音楽監督)、ジャンルを超えて世界で活躍する小沼ようすけ(ギター)、圧倒的なリズム感で世界のグルーヴを感じさせる大儀見 元(パーカッション)、サウンドの屋台骨として奥深く情熱的な音色を響かす井上陽介(ベース)。今回はこのメンバーの最年長でもあり、これまでにも東儀秀樹や塩谷哲らと長く交流してきた古澤 巖にSix Unlimitedに至る道のりや、コロナ禍で開催されたツアーで実感したことなどを聞いた。

furusawa2.jpg
Six Unlimited
 

どういう形でコンサートをするべきなのか
自分でもいろいろと考えることがありました
 
 
――昨年から新型コロナの影響で日常が激変しましたが、どのようなお気持ちで過ごしてこられましたか?
 
「去年は休みが多かったので、休みを満喫してましたけど、逆にそのしわ寄せが今になって来てまして(笑)。ずっと仕事が詰まってますが、休み過ぎたせいか、休み癖がついちゃって辛い(笑)。逆に去年は全然辛くなかったんです。だって、それまでは休みたくても休めなかったんですよね。仕事を始めてからは馬車馬のように働いてきた人生でしたからね。ちょうど2年ぐらい前に還暦を迎えまして、そこで、もう一回最初からやり直してみようかなと思っていたのですが…」
 
――そこで一度これまでの活動を振り返られたのですね。
 
「ちょうど30年ぐらい前に自分のキャリアがスタートしたんです。20代の後半に入る頃に学校が終わって、葉加瀬(太郎)くんに出会って、バンドを始めたのがちょうど26のときでした。葉加瀬くんが18で上京してきて、彼と初めて出会った日にバンドを組み、それから僕らのバイオリン人生が始まったんです。当時は誰にも教えてもらえないし、僕らの前には道がなかったんだけど、わからないなりにここまでやってきました。いろんなことを経験した上で、バイオリンと音楽と自分の人生にもう一回向き合ってみようじゃないかと。なので、あらためて練習をし直したり、どういう形でコンサートをするべきなのか、自分でもいろいろと考えることがありました。時間があったから、そんなことを考える余裕ができたんですよね…。それまでは来る仕事に追われるだけだったので…」
 
――そうだったのですね。確かに、ステイホームという状態に最初は戸惑いましたが、今まで忙しくてずっとできなかったことができた時間でもありました。
 
「そうですよね。僕の場合、6年ぐらい前にたまたまサーフィンを始めたんですよ。そのためにわざわざ湘南に引っ越して、すぐ海に行けるような環境にして。サーフィン中心の生活に変えたんです。それでなるべく週に3~4回海に行けるようにしました。でも、今は(コロナ禍で)海に入ることも禁止されているんです。普通に出来ていたことが出来なくなると、そういう時間が自分に必要だということが身にしみてわかりました。海に入ったらチャージされるんです。それができないのはちょっと辛いですね。ただ、音楽というのは本当に幸せなものだな…と思うんですけど、僕は音楽が好きというより、仕事が好きなんです」
 
――そうなのですか?
 
「音楽は趣味じゃないんです、仕事なんです。たまたま仕事として選んだのが音楽で、音楽は自分自身を潤わせてくれる大変素晴らしいものだと思っています。そして、僕の仕事はそれを確実に遂行しなければならない。そうやって音楽の世界に身を置いていることがとても幸せだなと感じています」
 

 
コロナ禍で、お客さまが一席置きに座っている状態で
自分たちが理想とする音がそのまま生かされていた
 
 
――独自の音楽性を極めたトップ・アーティストが共演するSix Unlimitedが昨年から始動しました。
 
「やっぱり、ミュージシャンは誰しも思うことだと思いますが、自分が一緒に演奏するバンドの仲間として、いつかはこんな最高のオールスターズでできたらいいなと思っていました」
 
――まさにドリームチームですね! 雅楽、ラテン、ジャズ、クラシックといった異なるジャンルで活躍されてきたこのメンバーが揃った経緯というのは?
 
「メンバーはピアノの塩谷(晢)さんが集めてくれたんです。彼じゃなければ無理でしたね。塩谷さんとは20年前からのつきあいで。1年に1回くらいのペースのコンサートで、ずっと一緒に演奏させてもらっていた人なんです。彼は日本の全てのひとたちがリスペクトするピアニストだというのは知ってましたけど、(オルケスタ・)デ・ラ・ルスを終えてからクラシックを猛勉強して、ものすごく腕を上げたんです。なんだってできるひとなんですけど、今やクラシックも自分のものにしたんですよ。すごいことです!自身のフィールドであるラテンに限らず、いろんな人材と出会って共演もしています。そんな彼に見つけてきてもらったこれ以上の人はいないという人たちが集まってくれています」
 
――雅楽の東儀秀樹さんとはこれまでもTFC55などで活動を共にされていますね。
 
「東儀くんとは長い付き合いですね。彼がデビューしてから紹介されて、たまたまステージで共演したんです。雅楽というのは世界最古の音楽と言われています。音楽家として、これほど歴史があるものを知らないわけにはいかないなと。ましてや日本人ですし。とはいえ、こんなに長く付き合っていても、雅楽の“雅”の字もわからないですよ(笑)。僕と東儀くんが雅楽を弾いているわけではないので。彼はいつもポップスを吹いているだけなんです。僕らの前では雅楽はほとんどやりません。雅楽の楽器を吹いてくれているけれど。ただ、雅楽の楽器を演奏するということ自体、雅楽を奏でているのと同じことをしているんです。曲調が違うだけで、そこに計り知れない宇宙観があるんです。それが雅楽なんです。“東儀秀樹=雅楽”というのはそういうことなんです。彼が何を吹こうと、雅楽の楽器であればそれは雅楽のサウンドなんです。それがそのまんま、どんな音楽に対しても、その宇宙観がマッチしていくんです」
 
――すごいですね。それはジャンルを問わず?
 
「はい。それは東儀秀樹がそういう人だからです。なんでもそうです。その人と融合できれば楽器が違っても融合できると思います」
 
――塩谷さんと東儀さん以外の方々は、今回が初共演だったのですか?
 
「はい、今回が初めてでした」
 
――このメンバーで実際にライブをしてみて、いかがですか?
 
「期待はしていましたが、想像以上でした。日本でこんなことができるとは、すごいことだなと。音楽の核となるのはパーカッションで、リズムとベースが重要なんです。そこがこれだけのクオリティで音楽を支えてくれるので安心して自由に演奏できます。それぞれのアーティストのパワーが存分にお客さまに届くようにと思って。僕らは横並びで演奏してるんです。ピアノとパーカッションはそのど真ん中で、神棚のようにそこにあって。東儀くんはセンターに立って好きなように、いつものようにやってもらっています」
 
――演奏されるプログラムはどのように決めているのですか?
 
「一番分かりやすいのはビートルズメドレーやスタンダード・ジャズのコーナーですが、それ以外に自分たちがそれぞれの曲を持ち寄って、夏からずっとリハーサルをしていたので、どれだけの曲をリハーサルで弾いたかわからないぐらいです。その中からふるいにかけて残ったのが今回のプログラムになりました。今日はどんな演奏ができるだろうと、すごくワクワクするぐらい(メンバーが)みんなぶつけてくるので同じ曲でも毎回、相当違うんですよ」
 
――コロナ禍ではお客様は声が出せなかったり、制限されていることもあると思いますが。
 
「そうですね、ただマスクしていても(お客さまが)驚いたり喜んだりすれば普通に漏れてくるので(笑)。逆にちょっとホッとしましたね」
 
――こういう状況下でもちゃんと伝わってくるものがあるんですね。
 
「今は拍手だけじゃなくて、スタンディングオベーションしてくださいますし。いろんな形でお客さまが表現してくださっていることを、今まで以上に感じるようになりました。それと、一席置きに座っていただいていることで、会場の音が全然違うんですよ。ある意味自分たちが理想とする音がそのまま生かされるんです。音に関して言えば、こんな素晴らしい音の響きを聴いてもらえるようになったんだなって思います」
 
――そんなに違うものなのですか?
 
「ぜんぜん違います。ただ自分は知ってたんですけどね。リハーサルの時がそうです。常々、その音(※お客さまが入っていない会場でリハーサルをする時の音)をお客さまに聴いて欲しいと思ってましたが、どうやったらいいんだろうと…それが、今は無理じゃないんだなと(苦笑)。不思議ですよね…。だから、お客さまもそんな音は聴いたことがないし、こっちも弾いてて、“こんな音出したことないな…”と実感します。だから弾き方もどんどん変わっていくんです」
 
――コロナで悪いことばかりではなくて、逆に今じゃないと聴けないような良い音が聴けるという良い一面もあるんですね。
 
「そうですね。公演の運営や現場ではまだまだ大変なこともあると思いますが、こういう状況で楽器本来の良さを出せるようなってきたかなと…。音楽の力は計り知れないので、集まってくるミュージシャンたちといろんな実験を重ねて、自分の中の大きな目標と喜びに向かって、新しい創造をこれからも続けていきたいと思っています」

Text by エイミー野中



(2021年3月 2日更新)


Check

Movie

Profile

1979年、日本音楽コンクール第1位。 桐朋大学主席卒業。フィラデルフィア、南仏、チューリッヒ、ロンドン、ザルツブルク等でミルシテイン、ヴェーグ、ギトリス、バーンスタイン、チェリビダッケ等に学ぶ。86年より葉加瀬太郎とジプシーバンドをスタート。アサド兄弟よりタンゴを、ルイスにラテンを学ぶ。ヨーヨー・マ、ステファン・グラッペリ等と共演。葉加瀬、高嶋との「三大バイオリニスト」の三人目。2020年5月リリースの最新アルバムはベルリンフィル・メンバー、品川カルテット等との「Violon d’amour(HATS)」。洗足学園音楽大学客員教授。2020年から始動した6人組、Six Unlimitedでヴァイオリンを担当する。

オフィシャルサイト
https://www.iwaofurusawa.com/