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このプログラムを弾く体験が、私の精神を
高みに連れて行ってくれる感じがします-川本嘉子
“ブラームスが最期に遺したもの”

大阪市中央区、中之島の南にある、大阪を代表する大正建築・大阪倶楽部。その4階ホールで定期的に行われている室内楽演奏会が、コジマ・コンサートマネジメントの「大阪倶楽部シリーズ」だ。2003年以来、サロン風の瀟洒な雰囲気の中で数々の聴き応えのある演奏を送り出してきたこのシリーズが、2月20日(土)、100回を迎える。この日、大阪倶楽部に登場するのはヴィオラの川本嘉子とピアノの三舩優子。2曲のヴィオラ・ソナタを中心に、川本が近年取り組むブラームスの最晩年の作品を演奏する。ブラームスのこの時期の作品には、バッハの『マタイ受難曲』からの引用が数多く散りばめられているという。孤高の作曲家が最期に遺したものとは?現在、名実ともに日本を代表するヴィオリストとなった川本に聞いた。


■川本さんは近年、さまざまな形でブラームスの晩年の室内楽を演奏しています。また『11のコラールプレリュード』ではオルガンのための作品を、ご自身でヴィオラ版に編曲もされています。川本さんがなぜ、ブラームスのこの頃の作品に惹かれたのか。その理由からうかがいたいと思います。
 
川本:10年位前の事だと思いますが、ブラームスについて調べている時に あるクラリネット奏者のブログで 「『マタイ受難曲』のコラールが引用されている」ということを知りました。思い直して楽譜を見ると、暗号のように各所に散りばめられている。『マタイ受難曲』の中で、コラールは内容によって調性が違います。調性は哲学とリンクして選ばれているようです。それはまるで私にとっての「ダ・ヴィンチコード」でした。そのような知識を自分の中で 分析・消化することはとても楽しい作業でした。
 
■その知識は川本さんの演奏家としての必然性と、どう結びついたのですか?
 
川本:私は宗教を持たない環境で育ちました。でも音楽は勉強すると必ずキリスト教と結びついていることがわかり、少しずつ詳しくなってきました。音の持つ意味を探る事で、表現の源を発見できる。それを消化してアウトプットすることは演奏家としては当然です。良い演奏をするためにはエネルギーをたくさん使います。私は人が仕事をする前に栄養を多めに摂るように、演奏家には表現の源としての知識をたくさん得ることが必要なのだと考えています。
 
■『四つの厳粛なる歌』と『11のコラールプレリュード』が描いている風景とはどんなものでしょう?
 
川本:『四つの厳粛なる歌』は存在を知ってから心が離れなくなりました。人間がこれほどまでに深遠な心境に達する事は、音楽以外の芸術では味わえなかったからです。ブラームスの表現力の素晴らしさ、それほどの心境に到達した彼の人生に非常に共感しました。『11のコラールプレリュード』にはバッハからの習作のような部分も散見されます。だからこそ、ブラームス独特の個性がきらめいている。それはとても濃厚な(神の)愛に近いものに感じます。
 
■三舩さんとの共演、それから今回の大阪倶楽部への抱負などをお聞かせください。
 
川本:今回 三舩さんとは大阪で初めての共演となりますが 東京では震災のチャリティーコンサート以来、共演を繰り返しています。彼女とは同級生ですが、精神年齢やあらゆる能力が優れている人ですので先輩のように頼っています。…このプログラムは精神のエネルギーをごっそり使わないとリハーサルさえ出来ません。でも、その体験が私の精神を高みに連れて行ってくれるような感じがします。大阪倶楽部ではサロン風の広間にピアノを置いて、お客様がそれを囲んでくれます。とても親密な空間なので、その体験が共有できたら最高にうれしいです。

(2016年1月6日 メールでの取材を元に構成しました/逢坂聖也:ぴあ)



(2016年1月14日更新)


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川本嘉子(ヴィオラ)&三舩優子(ピアノ)

“ブラームスが最期に遺したもの”

~J.S.バッハ:マタイ受難曲からの引用と変容による~

●2016年2月20日(土)14:00
大阪倶楽部4Fホール 一般券-5000円 
チケット発売中 Pコード 270-892

【プログラム】
ブラームス:
四つの厳粛なる歌 op.121(ヴィオラ版)
・第1曲    獣にきたるがごとく
               人にもきたるものなれば
・第2曲    我は振り返りそして見たり
・第3曲    おお死よ、なんと汝は苦きことか
・第4曲    たとえわれが人間の、
               また天使の言葉で語ろうとも

ヴィオラ・ソナタ 第1番 ヘ短調 op.120-1

ヴィオラ・ソナタ 第2番 変ホ長調 op.120-2

11のコラールプレリュード
                 (ヴィオラ版=川本嘉子編)より
・第4番    心より喜びに満ちて
・第5番    装え おお 愛する魂よ
・第8番    一輪の薔薇が咲いて
・第9番    心からの願い(1)
・第10番  心からの願い(2)

◆川本嘉子(かわもとよしこ)公式ブログ YOSHIKO KAWAMOTO BLOG

◆Pianist Yuko Mifune Official HP 三舩優子 オフィシャルホームページ

【問い合わせ】
KCMチケットサービス■0570-00-8255

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