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2014シーズン・プログラムを前に、
オーギュスタン・デュメイが語る関西フィルの進化
「ここには発展・上達できる基本がある」 (1/2)

 昨年11月、関西フィルハーモニー管弦楽団が、デュメイ・ウィークと銘打って行なったふたつのコンサートは、現在の彼らの実力を十分に発揮した内容だった。8日の定期演奏会では『浄められた夜』の精緻なアンサンブルが印象的であり、何よりもデュメイ弾き振りによるバッハ、疾風怒濤期のハイドン、そしてシェーンベルクというプログラムが関西フィルの新しい可能性を示していた。16日に行われたいずみホールシリーズは、ソリストにヴァイオリンのエステル・ユーを迎えたオールロシア・プログラム。チャイコフスキーの交響曲第5番では光と影に満ちたこの曲から、より多く光の部分を取り出したような新鮮な響きを聴かせてくれた。
 世界的なヴァイオリニスト、オーギュスタン・デュメイを音楽監督に迎えて4年目に突入する現在、関西フィルは大きく変わりつつある。2014シーズンのプログラムを前に、その「変化」についてデュメイ自身が語ってくれた。


 
 
■デュメイさんの定期演奏会への登場は3回。いずみホールへ2回。そのほかへ1回となっています。それぞれに興味深いプログラムが組まれていて、共演者も多彩です。デュメイさんと関西フィルの2014シーズンの狙いについて、お話しいただけますか。
 
オーギュスタン・デュメイ(以下A.D):このプログラムは、私がこれまで記者会見などで宣言した3つのことを反映しています。1つ目がオーケストラの上達。これは、私とオーケストラが日頃、取り組んでいる課題です。2つ目は日本のオーケストラのレパートリーを拡げること。これは現在、日本で演奏されているオーケストラのプログラムには同じものが多いように思われるからです。私がやりたいのは観客がすでに気に入っている曲ばかりではなく、新しい魅力を感じてもらえるレパートリーを届ける、ということです。そして3つ目が、今はまだ有名ではないけれど未来の星になるであろう、とても上手な若手奏者を、日本に他のオーケストラより先に関西フィルで紹介することです。

 2月の定期演奏会では、成田達輝という日本の若い奏者を紹介します。私が彼に初めて会ったのは、彼がエリザベート王妃国際音楽コンクールに出場した時(2012年 第2位/ウジェーヌ・イザイ賞)で、私が審査員をしていました。彼を聴いて「素晴らしい」と感じ、ぜひ彼を関西フィルで呼びたいと考えたのです。おそらく数年後には日本のヴァイオリン奏者の中では最もよい奏者の一人になるでしょう。また、5月にいずみホールで聴いていただくリーヤ・ペトロヴァという若手奏者は、2013年ティボール・ヴァルガ国際ヴァイオリンコンクールでファイナリストに選ばれています。
 
■2011年9月に私は初めて、いずみホールでデュメイさんと関西フィルのステージに接しました。モーツァルトの協奏曲と交響曲で、すでにとてもしなやかなアンサンブルを実現していたように思います。2014年には音楽監督として4年目を迎えるわけですが、進化の手応えはありますか?
 
A.D現在の関西フィルの進化を象徴するのは、私の指揮で録音した2枚のCDです。ヨーロッパでも発売されたのですが、どちらも大変好評を得ることができました。特に3週間ほど前に出た2枚目のブラームスは、今までで最上の解釈のひとつ、と言われています。もっともブラームスのセレナーデはクラウディオ・アバドなどの指揮で、これまでに素晴らしい演奏があるのですが。とは言え、今までの練習や労力がこうした結果を生んでいるというのはとてもうれしいことです。2015年に予定しているヨーロッパツアーまでの間に、もっと努力を続けていきます。
 
■11月8日の定期演奏会ではシェーンベルクの『浄められた夜』を聴きました。バッハやハイドンと組み合わせたプログラムはとても新鮮でしたし、アンサンブルも一定の水準にあったと思います。しかし私は、この作品の持つ独特な情緒の表出という点で、まだ課題が残るような印象を持ちました。
 
A.Dもちろん、もっと上手に演奏できるようになりたいと思っています。この作品は、われわれにとって初めての演奏でしたが、オーケストラのレパートリーとしては欠かせない曲なのです。音楽史では、この作品以後は無調音楽の時代になり、音楽のかたちが変わってしまう。『浄められた夜』はその境目にある重要な作品なのです。関西フィルには演奏前に、レパートリーを拡大するためには取り組んでいかなければならない作品のひとつであると伝えました。これもチャレンジなのです、と。

(低解像度:確認用)デュメイnew08(C)T_300.jpg
(C)T.DAGUZAN  

 オーギュスタン・デュメイは世界的に活躍するヴァイオリニストである。しかし、音楽監督としてのデュメイはさらに全人格的な音楽家としてオーケストラと向かい合っている。現在、指揮者、デュメイにもっとも親しんでいるのは、ここ日本の、関西の音楽ファンに違いない。2m近い長身が躍動する情熱的な指揮のスタイルは、私たちに強い印象を残している。だが、指揮者としての彼のキャリアはこれまであまり知られてこなかった。
 
 
■関西フィルのファンにとって、オーギュスタン・デュメイはすでに指揮者としての姿のほうが印象深いような気がします。でも、日本での資料では(当然ながら)常にヴァイオリニストとしてのデュメイさんを紹介していて、指揮者としての活動に触れているものがありません。どのくらい以前から、指揮を始められたのでしょう?
 
A.D器楽奏者が指揮者をすると、どうしても指揮が演奏の陰に隠れてしまいますからね。私の指揮者としてのキャリアはもう大分前に始まりました。ヘルベルト・フォン・カラヤンと出会った頃からです。カラヤンが、ヴァイオリニストだけだと人生が狭くなってしまうので、あなたは指揮をやった方がいい、と言ってくれたのです。あなたは「全体的な音楽家」だから、ヴァイオリンのレパートリーだけだときっと物足りなくなってしまうだろう、と。そこで私は、ではどうすればいいのでしょうか?と聞いたのです。カラヤンは、私に任せて下さい、と言って、その場で電話を取ってアシスタントに指示を与えました。今ちょうどパリに若手のオーケストラがあるので、これから1年間、毎日、リハーサルの時間を1時間デュメイにあげるようにしてください、と。それが私の指揮の始まりでした。私の練習中、カラヤン自身が2回くらいリハーサルに来て、アドバイスをしてくれました。若手のオーケストラだったので、偉大なカラヤンがわざわざその練習場まで足を運んでくれたことに、団員みんなが大変緊張していました。もちろん私もです。30年以上前の話ですよ。
 
 それまでは演奏するだけだったのですが、指揮を始めたことで、オーケストラとの関係が変わっていきました。弾き振りが増えていったのです。ザルツブルク・カメラータ・アカデミカとは、モーツァルトの協奏曲をドイツ・グラモフォンのために録音しました。ザルツブルクの音楽祭がきっかけです。いつも、依頼はオーケストラの方からあったのですね。私自身には自分は指揮者だという強引な主張はなくて、いろんなオーケストラに呼ばれることで、自然にそうなっていったのです。そして、いくつかのオーケストラで、さまざまな役割を頼まれるようになりました。客演指揮者だったり、音楽監督だったり、首席指揮者だったり。関西フィルの音楽監督もそうです。とても自然な発展だったと思います。
 
■私が不思議に思うのは、オーギュスタン・デュメイならば、ヨーロッパやアメリカのオーケストラのために時間を割くことで成果を挙げることもできると思うのです。クラシックの伝統から遠く、環境や技術の点でまだまだ課題の多い日本のオーケストラに時間をかけて取り組む、ということを、ご自身ではどのように捉えていますか?
 
A.D私が音楽家として、一番興味深く思っているのは、舞台に立つことでもなく、観客との関係でもなく、音楽を研究する、ということです。それは、あるところから出発してここまで辿り着くといったような意味において、挑戦と呼べるものだと思います。私はとりわけ無理に近い挑戦に興味を持っているのです。
 私が最近、とても誇りに思ったのは、先ほどお話したブラームスのCDを聴いた友人-彼はたいへん有名な音楽家です-から連絡があって、日本のオーケストラにこんな音が出せるなんて、と言われたことです。私は友人に「それは偏見じゃないか?」と答えました。ヨーロッパの人たちはいまだに日本のオーケストラに対してこのような見方をするのです。でも、そのような中で驚きの声をもらえたことが、とてもうれしかったのです。
 
 私は日本はオーケストラの上手な国としては、5本の指に入ることのできる可能性がある、と考えています。日本人にはドイツ人の精神に似ているようなところがあり、それは奏者のまじめさに表れています。練習の仕方や集団に対する考え方なども非常にドイツに近くて、きっとドイツの水準までは上がっていけると考えているのです。それに対してフランスやイタリアやスペインといった国の人はそういう精神を持っていません。これらの国では個人が一番重要とされているからです。ある意味、自己中心的であるために、偉大な指揮者や優れたソリストが現れるのですが、オーケストラの水準は、それほど高くはありません。だからクラウディオ・アバドのような指揮者は良いオーケストラを見付けようとすると自分の国を脱出するしかないんです。自分の国では見つからないので(笑)。
 
■とても面白い考えだと思います
 
A.D現実ですよ。考え方の問題ではなく。証拠もあります。ウィーン・フィルはローマに無いでしょう。ベルリン・フィルはパリのオーケストラでは無いし、コンセルトヘボウはマドリッドには無いので・・・(笑)。そしてなぜ私がこの関西フィルにいるかというと、ここには発展、上達できるようなちゃんとした基本があるからなんです。


(C)HIKAWA-スプリングスペシャル-306_320.jpg

スプリング・スペシャルコンサート2013(C)HIKAWA
                            (聴き手・文 逢坂聖也/ぴあ)

 

■オーギュスタン・デュメイと関西フィルのCD

インタビュー中、デュメイが言及した2枚のCDは、
英ONYXレーベルより世界発売されている。

 

 

サン=サーンス_200.jpg

①サン=サーンス:ミューズと詩人たち 作品132
②サン=サーンス:チェロ協奏曲第1番 イ短調 作品33
③サン=サーンス:交響曲第1番 変ホ長調 作品2
指揮②③&ヴァイオリン①:オーギュスタン・デュメイ
(関西フィル音楽監督)
指揮①:藤岡幸夫(関西フィル首席指揮者)
チェロ:①②:パヴェル・ゴムツィアコフ
管弦楽:関西フィルハーモニー管弦楽団
録音:2011年5月(いずみホール)、
   2011年11月(泉の森ホール) 
                  商品番号:ONYX4091 


ブラームス-200.jpg①ブラームス:セレナーデ第1番 ニ長調 作品11
②ベートーヴェン:ロマンス第1番 ト長調 作品40
③ベートーヴェン:ロマンス第2番 ヘ長調 作品50
指揮&ヴァイオリン独奏②③:オーギュスタン・デュメイ
(関西フィル音楽監督)
管弦楽:関西フィルハーモニー管弦楽団
録音:2012年5月4,5,6日(神戸新聞松方ホール)
商品番号:ONYX4101 

 




(2014年1月22日更新)


Check
▲オーギュスタン・デュメイ(C)Thibault Daguzan
 ヴァイオリニスト
 関西フィルハーモニー管弦楽団 音楽監督

関西フィルハーモニー管弦楽団   これからの演奏会より

▲成田達輝(C)Masashige Ogata

〔第253回 定期演奏会〕

■ザ・シンフォニーホール 
2月12日(水)19:00開演

【指揮】オーギュスタン・デュメイ
【ヴァイオリン】成田 達輝

【プログラム】
ロッシーニ:
歌劇「セヴィリアの理髪師」序曲
パガニーニ:
ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調 作品6
ベートーヴェン:
交響曲第6番 ヘ長調 作品68 「田園」
 
S席¥5,000/A席¥4,000/B席¥3,000/学生席¥1,000(全席指定・税込)
※学生席は
関西フィル・チケットでのみ受付。

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▲リーヤ・ペトロヴァ

〔いずみホールシリーズ VOL.33〕

■いずみホール 
5月5日(月・祝)15:00開演 

【指揮】オーギュスタン・デュメイ
【ヴァイオリン】リーヤ・ペトロヴァ

【プログラム】
メンデルスゾーン:無言歌集より
(弦楽合奏版/全5曲/D・ワルター編曲)
 「後悔」作品19-2
 「安らぎもなく」作品30-2
 「さすらい人」作品30-4
 「失われた幸福」作品38-2
 「海辺で」作品53-1
メンデルスゾーン:
ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
ベートーヴェン:
交響曲第4番 変ロ長調 作品60

S席¥5,000/A席¥3,500
(全席指定・消費税込)

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▲ジェラール・コセ

〔第255回 定期演奏会〕

■ザ・シンフォニーホール 
4月29日(火・祝)14:00開演 

【指揮】オーギュスタン・デュメイ
【ヴィオラ】ジェラール・コセ

【プログラム】
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲 
フォーレ:
「ペレアスとメリザンド」組曲 作品80 
ベルリオーズ:
交響曲「イタリアのハロルド」作品16
 
S席¥5,000/A席¥4,000/B席¥3,000/学生席(25歳以下)¥1,000(全席指定・税込)
※学生席は
関西フィル・チケットでのみ受付。

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▲上田晴子(C)星合隆廣 ▲石上真由子

〔スプリング・スペシャルコンサート〕

■あいおいニッセイ同和損保
 ザ・フェニックスホール 
5月8日(木)19:00開演 

【指揮およびヴァイオリン】
オーギュスタン・デュメイ
【ピアノ】上田 晴子
【ヴァイオリン】石上 真由子

【プログラム】
〔第1部〕~デュメイpresents!
 関西フィルのメンバーによるデュオ~
ヤン・クーツィール:
デュオ・ジョコーソ 作品69 より 第1楽章
【トランペット】
白水 大介(関西フィル首席奏者)
【ヴィオラ】
中島 悦子(関西フィル首席奏者)
~デュメイが奏でる“春”~
ベートーヴェン:
ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 作品24 「春」
【ヴァイオリン】オーギュスタン・デュメイ
【ピアノ】上田 晴子

〔第2部〕~デュメイが指揮する“四季”~
ヴィヴァルディ:協奏曲集「四季」作品8
【ヴァイオリン】石上 真由子

大人:4,000円
高校生(18歳)以下:2,000円
(全席指定・消費税込)