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『カメラを止めるな!』で大旋風を巻き起こした
上田慎一郎監督の長編劇映画第2弾
『スペシャルアクターズ』上田慎一郎監督インタビュー

大ヒットを記録し、大旋風を巻き起こした『カメラを止めるな!』でその名を世間に知らしめた上田慎一郎監督による長編劇映画第2弾『スペシャルアクターズ』が、10月18日(金)より、大阪ステーションシティシネマほかにて公開される。極度の緊張やストレスにさらされると気絶してしまう売れない役者の青年が、偶然再会した、疎遠になっていた弟に誘われ、演技を使った何でも屋“スペシャルアクターズ”の仕事として、カルト集団から旅館を守る演技に挑む姿を、予測もできないような展開で描き出している。本作も『カメラを止めるな!』同様に、オリジナルの脚本の下、ワークショップで発掘した俳優たちが個性豊かな演技を披露している。そんな本作の公開を前に、上田慎一郎監督が作品について語った。

――今回も、前作の『カメラを止めるな!』(以下、『カメ止め』)と同様、無名の俳優の方をオーディションで選んで、ワークショップを経て作品を作り上げた理由をお聞かせください。
松竹ブロードキャスティングもオーディションでキャストを選抜し、ワークショップをして映画を作るという企画だったんですが、著名な人を何人かキャスティングすることも可能ではありました。でも、ワークショップをして集まってリハーサルをして、宣伝活動もみんなで一体となってやるような部活のようなチーム感というのが、著名な人が入ることによってやりづらくなりますし、現場でも萎縮してしまったりする役者もいると思ったので、今回は著名な人をひとりも入れずにやろうと思いました。一度、国民的な誰もが知っている大女優をひとりだけ入れて、あとは全員無名の役者で、無名の役者 VS 大女優という物語、フィクションとドキュメントが重なり合うようなものを考えたんですが、やっぱり大女優が入ることによって、みんなが萎縮してしまうのと、大女優の方が浮いてしまうように感じたんです。その方がこの映画に出ていたとしたら、その方が出てくるたびに、「あーこの人だ」と作品の外に出てしまうんじゃないかとも考えて、そのアイデアはボツにしました。

――キャストはどのように選んだのでしょうか?
15人を選ぶ時には、まだ物語がなかったので、単純に自分がおもろいと思って、撮りたいと思った人ではあるんですが、ただめちゃくちゃおもろいやつでもチームの輪を乱す人ではなく、いい意味で輪を乱す人はいてもいいと思うんですが、チームを作るとしたら、この15人かなという感覚で選びました。主役はいますが、群像劇的な物語なので。登場人物がいっぱい出てくると、この人誰だったっけ? となることがありますよね。キャラクターもポジションも被らないように選んでいますし、女性も男性もタイプの違う人を選んで、男女のバランスもある程度取ったつもりです。演技の幅は狭くても個性的な人もいれば、演技が器用にできて支えてくれる人もいるというようなバランスも考えて、15人を選んでいます。

――脚本がなかなか完成しなかったとお聞きしました。
まずは『カメ止め』の呪縛と言うか、いざ物語を考え始める時に、急にプレッシャーが襲いかかってきて、考えるという心の状況になれなかったですね。何を書いてもすぐに駄目だと思ってしまって。『カメ止め』に似ちゃいけないとか、カメ止めに似せた方がいいんじゃないかとか、いずれにせよ『カメ止め』に捕らわれていて、それを振り切ってもう1回、ただ面白いと思う映画を作るだけだと思えるまでに、長い時間がかかりました。一度を想定していたプロットをゼロに戻して考え始めたので、今の物語に近くなったのが3月下旬ぐらいでした。結構長い間すったもんだしていましたね。

――最初にどのアイデアを思いついたんでしょうか?
日常の中で演じる仕事をしている人たちを取り巻く何かで、面白いことができないかというアイデアと、一旦やめようと思ったプロットがポンコツ超能力者のスパイ集団が日本を救うというSFコメディだったので、超能力やスパイという要素はどこかに入れたいと思っていました。超能力を実際に使えてしまうと、自分の映画ではないんじゃないかという気がしてきて、超能力を使えるふりをしている人たちの話の方がいいと思いました。

――主人公が緊張すると気絶してしまうのが本当に面白くて、何度も笑ってしまいました。この設定はどのようにして思いついたんでしょうか?
当初は、情けない小心者の役者がカルト集団に潜入して頑張るという話でした。初稿の段階ではあの気絶するという設定はまだなかったので、パンチに欠けると言うか、物語のドライブ感、躍動感みたいなものがまだ出ていないように感じていたんです。自分がプレッシャーや緊張みたいなもので脚本を書けなくなっていた中で、自分の好きな映画を見ると元気が出たことは脚本を書くうえでのきっかけになったと思います。そうやって、映画に助けられて復活したみたいなところは、脚本に生かされていると思います。

――主人公が、緊張をほぐすためある小道具を使っているなど、大澤数人さんが演じた彼だからこそ主人公は愛すべきキャラクターになったと思います。
売れない無名役者の役を、たとえば有名な役者さんが演じてもフィクションだと割り切って観るしかなくなってくるので、主人公を彼がやったことによって、ドキュメントにもなっているし共感できる部分も生まれて、応援したくなると思うんです。

――そんな主人公が憧れ、辛いことがあった時にいつも見ているのが“レスキューマン”です。
ヒーローに憧れる情けない男が1分だけヒーローになれるような、そういうイメージは最初の方からありました。コスチュームは『スーパーマン』をモチーフにしていますし、もちろん『スーパーマン』は観直しました。ただ、スーパーマンは基本的には人を傷つけないので、超能力を使う部分は『AKIRA』や『クロニクル』など、自分の好きな映画を取り入れていますし、自警団でコスチュームを自分で作った設定にしているので、『キックアス』など最近のヒーローものもミックスして、90年代に作られたヒーローもの映画という設定にしています。

――また、劇中に登場するカルト集団も、ありそうでなさそうな、絶妙なリアリティがありました。
そこは僕も気をつけました。リアルにしすぎると社会派のようになりますし、あんまりふざけすぎてもコントみたいになってしまって、お客さんもどの程度まで真剣に見ていいのか分からなくなってしまうので。実際の新興宗教も色々調べたりしてみたんですが、もっととんでもないところもいっぱいあるんです。だから、そこのリアリティの塩梅はすごく慎重に検討しました。信者達にとって幸せな場所なのであれば、彼らがそれを奪ってはいけないんじゃないかとか、色々考えました。それも不問にするような大技が必要だと思いました。そういうストーリーの展開を考えることと、登場人物たちのことを考えた時にどうなのかを考えるのはすごく難しかったです。

――脚本を悩みに悩み抜かれたと思いますが、物語が二転三転した先で、最後に待っていた“オチ”は本当に素晴らしかったです。
2稿まではあの“オチ”じゃなかったんです。最終的に“オチ”に関しては、ぎりぎりまで悩みました。とってつけたような、どんでん返しをしたいからした、みたいなものにはしたくなかったので、“オチ”を綺麗に決めることができるのかというのは慎重に検討しました。どんでん返しをした時に、ちゃんと人の気持ちが乗っていて、かつ、しっかり伏線が張られていれば決まるかなと思って、最終的にあの“オチ”にしました。本当にひとつひとつ検証しながら作っていきました。

――『カメ止め』が大ヒットを記録したこともあり、長編2作目である『スペシャルアクターズ』への期待も高いと思います。本作の公開を前にした今の心境をお聞かせください。
『カメ止め』を忘れて観てくださいというのもおかしいですし、そう言うと余計に忘れられないでしょうし、難しいですね。でも、ある程度はそれを想定しながら作ったようなところもあります。『カメ止め』も、37分のワンカットが終わるまでは、「これ、面白いって聞いていたのに」と思っていた人も、その後の展開によって変わったと思うんです。この映画も、そういう意味では色んな予測不能な展開があるので、『カメ止め』でハードルが上がっている人でもびっくりさせられるんじゃないかというのは、なんとなく考えていたかもしれません。自分では、変なバランスの映画になったと思っています。後半からはずっとドタバタしているんですが、中盤にはすごくオフビートな場面があって、一気に邦画のテンポ感になって、その後またハリウッド的なテンポ感に戻るというのはあんまりない感覚じゃないかと思います。僕はハリウッド映画を観て育ってきましたが、もちろん日本で生まれて日本映画もたくさん観ているので、ハリウッドではなく日本でしか作れないハリウッドスタイルの映画なのかな、と思います。

――『カメ止め』と比べるとスタッフもキャストも人数が増えて、撮影日数も増えたと思いますが、撮影はいかがでしたか?
撮影は毎回大変です。『カメ止め』は撮影日数が8日間だったんです。今回は16日間だったので、最初は16日間あれば何でも撮れると思っていたんですが、やっぱり商業映画になって人数も増えると、撮影のスピードも遅くなってしまうので、結果的にはギリギリでした。序盤は商業映画のやり方と、今までの自分のやり方の違いでぎくしゃくしたところはありました。フットワークの軽さや勢いみたいなもので進んでいけないジレンマみたいなものはありました。スタッフさんは2/3ぐらいは「初めまして」でしたし、キャストも台詞のある役だけで40人はいました。キャストたちの代表作にもしないといけないと思っていたので、『カメ止め』同様に、主人公だけじゃなく全員に見せ場があるように、物語に組み込むのもやっぱり大変でした。

――そのように、主人公だけでなく周りのキャストにも光を当てたいという考え方は、上田監督自身が群像劇を好んでらっしゃるからでしょうか?
そうですね。高校の文化祭の時にクラスで出し物をやるじゃないですか。たこ焼き屋さんとかお化け屋敷とか。僕らは毎年映画を作っていたんです。クラスメイトをキャスティングして、当て書きして、僕が監督をして映画を作っていたんですが、クラスメイトなのでやっぱりみんなに見せ場を作ってあげたくなるんですよね。その頃から、そういう風に作っていたので、それが僕のスタイルとして向いているんじゃないかと思います。主人公や主要な人だけが目立つ映画じゃなくて、脇役たちまで魅力的な映画を自分が好きだからだと思います。

 

取材・文/華崎陽子
 




(2019年10月11日更新)


Check

Movie Data

(C) 松竹ブロードキャスティング

『スペシャルアクターズ』

▼10月18日(金)より、大阪ステーションシティシネマほか全国にて公開
出演:大澤数人、河野宏紀、富士たくや
北浦愛、上田耀介、清瀬やえこ
仁後亜由美、淡梨、三月達也
櫻井麻七、川口貴弘、南久松真奈
津上理奈、小川未祐、原野拓巳
広瀬圭祐、宮島三郎、山下一世
監督・脚本・編集・宣伝プロデューサー:上田慎一郎

【公式サイト】
http://special-actors.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/181976/


Profile

上田慎一郎

うえだ・しんいちろう●1984年、滋賀県生まれ。中学生の頃から自主映画を制作し、高校卒業後も独学で映画を学ぶ。2009年、映画製作団体PANPOKOPINAを結成。国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。2015年、オムニバス映画『4/猫』の1編『猫まんま』の監督で商業デビュー。妻であるふくだみゆきの監督作『こんぷれっくす×コンプレックス』(15)ではプロデューサーも務めている。「100年後に観てもおもしろい映画」をスローガンに娯楽性の高いエンターテイメント作品を創り続けている。2018年に公開された劇場長編デビュー作『カメラを止めるな!』は動員数220万人以上、興行収入31億円を突破し、2018年の最大の話題作となったことは記憶に新しい。8月16日には、中泉裕矢、浅沼直也との共同監督作『イソップの思うツボ』が公開された。