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大阪府茨木市を舞台にしたユニークな青春群像劇
映画『葬式の名人』でキーパーソンを演じた
注目の俳優・白洲迅インタビュー

文豪・川端康成による複数の小説を原案に創作された現実とファンタジーが混じりあうユニークな青春群像劇『葬式の名人』が、イオンシネマ茨木では先行公開中、そして9月20日(金)より、梅田ブルク7ほか全国にて公開される。大阪府茨木市を舞台に、突然亡くなった高校時代の友人・吉田創の訃報を知って10年ぶりに集まった同級生たちの、風変わりなお通夜体験をコミカルに描き出す。『旅のおわり世界のはじまり』など出演作の相次ぐ前田敦子が主演を務め、『シン・ゴジラ』『多十郎殉愛記』の人気俳優・高良健吾が共演し、10月4日公開の人気シリーズ最新作『HiGH&LOW THE WORST』にも出演するなど、活躍の続く白洲迅、尾上寛之、奥野瑛太ら個性派キャストが脇を固めている。そんな本作の公開を前に、卒業以来10年ぶりに突然現れたのに突然亡くなってしまった吉田創を演じた白洲迅が、作品について語った。

――まずは、脚本を読んだ印象を聞かせてください。映画の全体像は想像できましたか?
初めて脚本を読んだ時は、何がわからないのかもわからないというか、それぐらいつかめそうでつかめないけれど、確かにそこに存在しているような作品だと感じました。さっきの舞台挨拶で監督もおっしゃっていましたが、ジャンル分けが難しい映画なんですよね。活字だけの状態の脚本を読んだ時も、自分の中でイメージが膨らみましたが、リアルではない、実際には撮れないようなイメージも湧いてきたりしました。僕は、役柄の上ではほとんど死んでいて、皆さんのやり取りも見ていないところが多かったので、出来上がった作品を見たときはイメージ通りだったシーンもありましたし、明らかにイメージとは違った、こんな演出になっているんだと驚くようなシーンもありました。でも、そういうイメージなどで語れないような作品になっているように感じました。だからきっと見るたびに印象が変わるような映画のような気がします。

――1年前の炎天下の中で撮影は行われたそうですね。
実際に棺桶の中に入っているシーンもあったので、その時は氷とか氷嚢をたくさん敷き詰めて、冷蔵庫状態になっていました(笑)。熱中症の心配とかもあったので棺桶に入るシーンは最小限にしてくださっていました。さっきの舞台挨拶で監督もおっしゃっていましたが、撮影中は確かに暑かったですし、情熱的な熱さも感じていたんですが、その暑さが映画には出ていなくて、凛とした良い質感というか、集中した熱が冷たい炎のような感じで、ひんやりしているように感じたんです。それは、原作の川端康成さんのテイストが持つ不気味さやファンタジックなところがいい具合に作用していたような気がします。夏は僕も大好きな季節なんですが、夏の楽しい思い出ゆえの別れの寂しさやわびしさ、そういう感情に響くような作品なんだと思います。

――白洲さんは遺体役としてスクリーンに映っている時間が長いですね。
汗に関してはきちんと冷やしてくださいましたし、、対策をしてくださっていたので何とかなったんですが、息を止めておくのが本当に難しくて。なんとかごまかして撮ろうとはしてくださっていたんですが、とはいえ、全部が全部そういうわけにはいかないので、本当にクラクラしました。遺体役でこんなにたくさんのシーンに出演することはもう二度とないと思います(笑)。棺桶に入っているのか、それとも外に出ているのかについては監督と色々話し合いました。暑さ問題も鑑みた上で、周りに影響を与えたい時は外に出ていますし、棺桶の扉も開けるのか開けないのか、周囲への影響の与え方によって変えていました。

――吉田がみんなにとって中心人物だったんだということを伝える演出だったということですね。
僕が演じた吉田創という役を作ってくれたのは、周りで吉田の話をしてくれていた皆だと思うんです。吉田がどういう存在だったのかという説明を皆が担ってくれているので。元々、仲間の中心にいた人物が事故にあって亡くなってしまうんですが、それが理由でまたみんなが集まって、彼が皆を呼び寄せたという見方もできるのかなと思います。撮影を重ねるごとに、吉田像がどんどん色濃くなっていったように感じました。それのおかげで、いい流れで最後のシーンに向かっていくことができたと思います。

――その最後のシーンで共演した、前田敦子さん演じる雪子の息子あきおを演じた、阿比留くんとのシーンについてお聞かせください。
僕の撮影期間がすごく短かったので、関係性を深める時間もすごく限られていたんですが、撮影の合間に遊んだりして、関係性を深めていきました。今日の舞台挨拶では緊張していましたが、撮影現場では全くそんな素振りもなく、楽しそうにやっていました。僕と前田さんも夫婦ではあるんですが、実際の掛け合いと言うかやり取りはほぼゼロに等しいので、そこをつなぐ役割として阿比留君には本当に助けてもらいました。でも、それが結果として良かったと思います。

――前田さん演じる雪子との夫婦像はどのように作っていかれたんでしょうか。
普通の夫婦では絶対にないと思いますし、一般的な夫婦像では語れない夫婦だと思いますが、ふたりの間にはきっと何か絆があって、吉田がアメリカに行くこともふたりの間ではきちんと折り合いが付いていたと思うんです。だから、雪子とあきお、吉田の3人の絆みたいなものは、そこはどうにかして最後には表現できているといいなと思っていました。

――撮影中の印象をお聞かせください。
演者自身の言葉がすごく反映される現場でしたし、引きで撮るシーンも多く、皆が協力して撮影しないと成立しないので、それぞれが緻密に考えてワンシーンワンシーンを演じていたと思います。何気なくみんなのやり取りが繰り広げられていくんですが、そのやり取りひとつひとつにユーモアが含まれているので、何回も観てもらって、そこに気付いてもらえるといいなと思います。敢えて人物に寄ってそのユーモアを分かりやすく提示してはいないので、それがこの作品の特徴なのかなと思います。何度か観てもらえると、ここにこんな表情が挟まっていたんだという驚きと発見があると思います。

――白洲さんが高校を訪れるシーンでは、すごく憂いのある表情をしてらっしゃいました。
あのシーンは僕の中ではすごく大事なシーンでした。久しぶりに日本に帰ってきて吉田は何がしたかったのかも含めて、できるだけひとつに絞られないような提示の仕方をしたいと思っていました。壊していたはずの右手でボールも投げていますし。その真相は僕自身も分からないので、そこは見てくださった方の捉え方に委ねようかなと思っています。撮影中はめちゃくちゃ暑かったんですが、そこは我慢して半分生きているのか死んでいるのかわからないような感じで演じていました。

――完成作を観てどのように感じられましたか?
僕の撮影はほとんど学校のシーンだけだったので、商店街のシーンや学校以外でのシーンを観るのは面白かったですね。撮影中は棺桶の中で、目をつぶって本当に耳だけで周りのやり取りを感じていたんですが、言葉だけでも伝わってくるものがあったので、お葬式などで亡くなった人として送られる時ってこういう感じなのかなと思いながら聞いていたんですが、それは何とか表情に出さないように頑張りました(笑)。でもそういう風な気持ちにさせられていたことが、映像から伝わっていれば嬉しいですし、言葉を超えるようなシーンになっていたのかなと単純に思いました。大切な人が亡くなって悲しいんですが、やっぱり楽しい話や、なんなら全然関係ない話でも、賑やかな方がいいのかなと死人目線から思っていました(笑)。同級生の関係性も詳しく説明されてはいないんですが、よく聞けば説明されている台詞もありますし、そういう風に提示されていない余白の部分もすごくあるので、いろんなことを想像しながら観ていただければ、それでやっと映画が完成するんじゃないかなと思います。

 

取材・文/華崎陽子




(2019年9月 5日更新)


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Movie Data

(C)“The Master of Funerals“ Film Partners

『葬式の名人』

▼イオンシネマ茨木にて先行公開中
▼9月20日(金)より、
梅田ブルク7ほかにて公開
出演:前田敦子、高良健吾、白洲迅
尾上寛之、中西美帆、奥野瑛太
佐藤都輝子、樋井明日香、阿比留照太
有馬稲子
脚本・プロデューサー:大野裕之
監督:樋口尚文

【公式サイト】
http://soushikinomeijin.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/177339/


Profile

白洲迅

しらす・じん●1992年11月1日、東京都生まれ。2011年、ミュージカル「テニスの王子様」で俳優デビュー。2019年、映画・ドラマ『BACK STREET GIRLS ―ゴクドルズー』主演し、ドラマ「僕はまだ君を愛さないことができる」でもW主演を務めるなど、一気にブレイクを果たす。10月4日(金)公開の『HiGH&LOW THE WORST』でも重要な役柄を演じるなど、今後の活躍から目が離せない注目俳優。