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「今までで一番、観客の気持ちをつかんで、
揺さぶったり離したりすることを心がけて作りました」
映画『見えない目撃者』森淳一監督インタビュー

吉岡里帆が、視力を失った元警察官という難役にチャレンジしたサスペンススリラー『見えない目撃者』が、梅田ブルク7ほかにて上映中。自らの過失による事故で弟を失った上に失明し、警察官への道も閉ざされた主人公が、偶然遭遇した車の接触事故の際に、視覚以外の感覚で車中から少女の助けを求める声を感じるものの、警察にも信じてもらえなかったことをきっかけに、女子高生連続殺人事件の真相を追うようになる姿を描き出す。監督は『重力ピエロ』や『リトル・フォレスト』などを手掛けた森淳一が務め、高杉真宙がヒロインの手助けをする高校生役で出演し、田口トモロヲや、大倉孝二、浅香航大ら演技派俳優が脇を固めている。そんな本作の公開を前に、脚本も務めた森淳一監督が作品について語った。

――まずは、この映画を作りたいと思った理由についてお聞かせください。
古いところで言うとヒッチコックなどからサスペンス映画をずっと観てきたので、そろそろ王道のサスペンス映画をやってみたいと思っていたところに、ちょうどこの映画のお話を頂いたのでお受けしました。(原作である)韓国の映画も見させてもらうと、コンパクトにエピソードが集まっていて、楽しかったんですが、日本版に置き換えるならこうしたいああしたいと自分の中からアイデアが湧いてきました。オリジナルの方はタクシーを乗り間違えてしまうことから物語が展開していくんですが、日本の場合は、自動ドアなどを含めて明らかにタクシーと自家用車が違っているので、根本的に、そのまま韓国版をスライドさせてくることができなかったんです。そこが崩れると、どんどん歯車が違うほうに動いてしまうので、アイデアを足していきました。まずは、耳が良いなどだけではない、なつめの警察官としての能力、この人が警察官だったらすごく優秀だっただろうなと思わせるような推理力や観察力などをもっとフィーチャーしたいなと思いました。そうすると自然にミステリーの部分も出てきたので、そこはかなり時間をかけて考えました。

――邦画のサスペンス映画で、R15+指定のものはなかなかない中で、本作がR15+指定になったのはどうしてでしょうか?
映画を作る前に、R15+にしようとか、そういう刺激的なものを作ろうなどとは一切考えてなかったんですが、ストーリーを作っていく上で、こうやったほうがスリリングになる、犯人の残虐性を表現できると、脚本を作っていく過程で、こういうストーリーだったら、ここまで描かないと僕たちの伝えたいことはお客さんに伝わらないんじゃないかと突き詰めていった結果、 R15+になりました。特別にそこを狙ったわけではありません。

――本作は、サスペンス映画ですが、登場人物の人間描写も丁寧に描かれていたのが印象的でした。
今回はサスペンスやスリラーに挑戦したいと思ったんですが、とは言いながらも、僕は常に人間の暮らしぶりを撮りたいと思っているので、映画でもテレビドラマでもCMでもそうなんですが、それは外せないんです。人間の暮らしぶりを全く描かずに、ただ怖いだけの映画は僕の撮りたいものではなかったので、登場人物の生活感みたいなものは見せたいと思っていました。人間味の感じられない人が何をしていても、臨場感もなければリアリティもないような気がするんです。人間が描けてからのサスペンスだと思っていますし、いろんな挫折を経験したり、思うようにならない人生を生きている人達を描いている映画を作りたいと思っています。この作品も、そういう人達への応援になるような映画になればいいと思っています。

――主役の吉岡さんをはじめ、高杉さん、田口トモロヲさん、大倉孝二さんなどのキャスティングについてお聞かせください。
ミステリアスな印象を受ける方がいいなとは思いました。“この人何考えているかわからない”という印象を受ける方が、全体的な映画のトーンが不思議な感じになっていいんじゃないかと思ったんです。トモロヲさんは、映画監督もされていますので僕にお任せという感じでした。大倉さんはちょこちょこアドリブみたいなものも入れていましたね。この映画でアドリブを入れたのは彼が唯一だと思います。今回はナチュラルな感じでお願いしました。そうしたら最初に撮ったシーンがナチュラルすぎて、多少はトモロヲさんとの凸凹関係みたいなのも欲しかったので、もうちょっとテンションを上げてくださいとお話しました。

――主演の吉岡さんは目の見えない元警察官で、盲導犬と共に生活しているという難しい役でした。
弟を事故で亡くして精神を病んでしまうという、あまり明るくない始まり方の映画なので表情の豊かな人がいいなと思いました。もうひとつは、元警察官という役柄なので意思の強い感じのする方がいいなと思っていました。そういう意味では吉岡さんにぴったりだったと思います。吉岡さんは、アスリートみたいな方だと思います。準備をして現場に入ったら、もうくよくよせずに、まずはやるという感じの方で、すごくやりやすかったです。吉岡さんは目が見えない役なので、視覚障がい者の方に話を聞いて、椅子に座る時も触ってから座ったり、ぶつかったり色々と試行錯誤しながらやっていました。目が見えない演技をしようと思って、焦点をぼかして話していると、目が寄ってきてしまうので、相手を見て見えない演技をしなければならず、吉岡さんは大変だったと思います。視線を外すと、その人に対して話をしているように見えなくて、会話が成立しているように見えないので、その外し具合もワンカットワンカット調整していました。相当ストレスも溜まっていたと思いますが、何も言わずアスリートのようにやってくれました。元警察官で、弟を事故で失った後遺症で精神を病んでいる設定でもありますし、視覚障がい者でもある。そして、今回は盲導犬を使っているので、もう一つやることが増えるんですよね。いくつもやることがあったので相当大変だったと思いますが、1日終わるとお疲れ様でしたと元気に帰っていく吉岡さんの存在は、スタッフをひとつにしてくれたと思います。

――実際に撮影では盲導犬を使われたんでしょうか?
今回は、映画に出演している役者犬ですね。本当の盲導犬だと視覚障がい者の方の言うことは聞きますが、撮影スタッフの言うことは聞きませんし、段差があれば盲導犬は止まりますが段差がないところでも止まってもらわないといけないので、今回は、盲導犬ではない犬を盲導犬のように見せなければいけませんでした。もちろんドッグトレーナーの方も大変ですし、その犬と一緒に演技をしつつ、感情表現もしなければいけない吉岡さんも大変だったと思います。

――映画の後半に、真っ暗な洋館の中で、吉岡さん演じるなつめが感じているであろう映像を視覚化したシーンが、すごく印象に残っています。
韓国版にも少しだけあのようなシーンがあるんですが、もう少し聴覚や記憶、触覚をイメージしたような映像にしたかったので、どうすれば伝えられるだろうかと、編集の期限ギリギリまで何パターンも作って、本当に悩みました。やりすぎると特殊能力みたいに見えてしまうし、ふわふわさせすぎるとなつめはこういう風に見えているんだと思われてしまうので、試行錯誤の末に今の形にたどり着きました。今でも正解かどうかわかりませんが、自分としては大変でしたし、何度挫けそうになったかわかりません(笑)。最後はCG部につきっきりでした(笑)。

――犯人の姿も見えているようで見えていない、なかなか真犯人に辿りつかない展開がスリリングでした。
この映画は、なつめの再生ストーリーだと思っていましたし、強大な敵を倒さないと彼女の傷は癒えないと思ったので、敵を強くしたいと思ってその上でどうしたらいいかすごく考えました。犯人を見せ過ぎたり、人間くさくしてしまうとよくないと思ったので、いかに見せないかというのは考えました。また、見終わった後に、「あの犯人なんだったの?」と思われるような犯人にはしたくなかったので、多少なりとも社会的には認められない理屈ですが、何かこだわった理屈があるような犯人にしました。また、この映画は犯人探しを重要視しているので、犯人探しをするんだったら観ている方にも、一緒に考えてもらえる楽しさがあると思ったので、詳しくは言えませんが、被害者の特徴に意味があるような演出をしています。

――スリリングなサスペンスでありながらも、人間ドラマがきちんと描かれ、さらには日本の社会問題も盛り込まれています。
原作のいいところを残しつつ、物語を深く掘っていって、なつめの再生ストーリーに落とし込めるようにするにはどうすればいいか考えるのは大変でした。日本の社会問題やミステリーにまつわるところも日本の要素を入れたいと思ったので、色々考えました。日本で映画を作るなら、日本の社会問題みたいなものを取り入れた方が、観客の方にリアルに感じてもらえるんじゃないかと思ったんです。

――最初に、ヒッチコックのサスペンス映画を観てきたから、サスペンス映画を作りたいとおっしゃっていました。実際に本作にヒッチコックの要素を取り入れてらっしゃるのでしょうか?
人をハラハラさせて楽しませるというヒッチコックイズムみたいなものは、ヒッチコックの映画を観て、ヒッチコックとトリュフォーの映画術の本を読んだ時から、映画を作る人間には心のどこかにあると思います。“お客さんを楽しませてなんぼ”という、ある意味お客さんのために作るという精神ですね。今回の映画には、その気持ちが一番現れていると思います。観た方がどう思われるかは分かりませんが、今回は今までで一番、観客にコミットしたような感覚がある映画になったと思っています。観客に迎合するというわけではなくて、観客の気持ちをつかんで、揺さぶったり離したりすることを心がけて作りました。ここの編集はこう変えた方が、観客がもっと前のめりになってくれるんじゃないかなど、編集の段階でもワンカットワンカット考えながら作っています。

 

取材・文/華崎陽子




(2019年9月27日更新)


Check

Movie Data

(C) 2019「見えない目撃者」フィルムパートナーズ (C) MoonWatcher and N.E.W.

『見えない目撃者』

▼梅田ブルク7ほか全国で上映中
出演:吉岡里帆、高杉真宙、大倉孝二
浅香航大、酒向芳、松大航也
國村隼、渡辺大知、栁俊太郎
松田美由紀、田口トモロヲ
監督:森淳一
脚本:藤井清美・森淳一
Based on the movie “BLIND” produced by MoonWatcher

【公式サイト】
http://www.mienaimokugekisha.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/181850/


Profile

森淳一

もり・じゅんいち●1967年、東京都生まれ。2002年、オリジナル脚本による映画『Laundry〈ランドリー〉』で長編映画デビュー。第25回モントリオール世界映画祭をはじめ、数々の映画祭に招へいされ、脚本はサンダンス・NHK国際映像作家賞日本部門を受賞。その後も、2009年には伊坂幸太郎原作『重力ピエロ』、2014年に『リトル・フォレスト 夏・秋』、2015年に『リトル・フォレスト 冬・春』などを手掛ける。その他に、ドラマW「イアリー」やhulu「ミス・シャーロック/Miss Sherlock」など。