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「アイデンティティを確立できない年頃の
さまよっている感情が、この映画には渦巻いている」
映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』清水尋也インタビュー

販売部数累計450万部以上の相原実貴による人気少女漫画を、『溺れるナイフ』の山戸結希監督が映画化した青春ラブストーリー『ホットギミック ガールミーツボーイ』が、6月28日(金)より、梅田ブルク7ほかにて公開される。平凡な女子高校生・成田初(はつみ)が、周囲にいるタイプの違う3人の男性に心が揺り動かされる様を繊細に描き出している。乃木坂46の堀未央奈が映画初主演を務め、清水尋也、板垣瑞生、間宮祥太朗ら若手人気キャストの共演も話題の作品だ。本作の公開を前に、ヒロインと同じマンションに暮らす、頭脳明晰で俺様キャラなのに、不器用ながらも一途な初への恋心が垣間見える、橘亮輝に扮した清水尋也が作品について語った。

――撮影前に原作を読んだ印象をお聞かせいただけますでしょうか。
ラブコメの要素が強かったんですが、原作自体も普通の恋愛漫画じゃないように感じました。バイオレンス的な表現や、セクシャルな表現にしても人間のリアルを追求しているように感じたので、純粋に面白いと思ったんですが、これを山戸監督が映画にすると、このエグみはもっと増してくると思っていたので、それは予想通りでした。『溺れるナイフ』も観ていましたし、映画は絶対このままにはならないだろうなと僕は思っていましたし、分かっていました (笑)。きっと原作を知らない子も多いと思うので、映画を観て面白いと思ってくれた子が、原作を読んだ時の驚く顔がちょっと見てみたいです。原作も映画も素晴らしいものなので両方楽しんでもらいたいです。

――山戸監督とは撮影前から面識があったのでしょうか?
2014年に僕が出演した『渇き。』という映画の、DVDに入る特典映像のディレクションが山戸監督で、僕と小松菜奈さんを撮ってくれたんです。その時から山戸監督が映画を撮りたいとおっしゃっていて、僕も山戸監督の映画に出られるように頑張りますと話をしていました。その後に雑誌での山戸監督のコラボページで仕事をやらせて頂いたんですが、映画でご一緒する事がなかなか叶わなかった。ようやく4年越しでやっと映画を一緒に作るという念願が叶いましたね。この映画への出演が決まったときは嬉しかったですし、すごく楽しみでした。

――山戸監督の演出についてお聞かせください。
僕はどの現場に行っても面白いし、新鮮に感じるのですが、山戸監督の演出は今までのどれとも違っていて、その分大変でした。例えば、朝いちのシーンを撮影しているのに日が暮れることもありましたし、5、6シーンを撮る予定の日でも、1シーンを撮影している内に日が落ちてしまったり。監督は、目の前のモニターに映っているカットをいかに自分の納得がいくものにするか、いかに美しいものにするかに全てを懸けているんです。後ろが詰まっているとか、昼のシーンだから日が落ちてしまう前に撮らなきゃいけないとか、そういうことが一切ないんです。それによってスケジュールが後々大変になることもあるかもしれませんが、芸術作品を作る以上、大人の事情や周りの人が言うことを一切気にせずに、そこにこだわり続けられる度胸やしぶとさみたいなものは、卓越していると思います。それだけ僕たちの芝居を見てくれていることの裏付けにもなるので、僕たちも常に最高のものを作らないといけないという気持ちで毎日撮影に行っていました。普通はどうしてもスケジュールの都合を考えて、計画的に撮っていきますし、こだわってもせめて何時までみたいな感じですが、山戸監督はそういうことが一切ないので、本当にすごいなと思いました。

――清水さんが演じられた亮輝は、特に中盤からすごく可愛らしく見えてきました。清水さんは亮輝に共感する部分はありましたか?
亮輝は最初すごく嫌な奴に見えると思うんです。でも、後半になっていくと亮輝も気づいていくんですよね。自分が初のことをめちゃくちゃ好きだっていうことを。最初から初のことが好きで近寄ったわけじゃなくて、たまたま彼女の弱みを握って、いたずらしてやろうぐらいの気持ちだったと思うんです。でも、思春期特有の、異性に対してとんがっちゃう時期、特に男の方は母親に対して反抗的な態度をとったりするのと同じことで、そういう風に尖がって冷たく扱っていた女の子が、だんだん自分の意思で反発してくることによって、初がひとりの女の子だということを亮輝も認識していくんですよね。それによって亮輝は、初という女の子に引き込まれていくので、亮輝の中でもだんだん気持ちは変わっていくし、最後の方なんかめちゃくちゃデレデレですよね。すごくかっこつけた感じで言っているけど、超恥ずかしいこと言っている一面もあって、すごく可愛いやつだなと思いました。

hot2.jpg――映画初出演、初主演で初を演じた堀未央奈さんとの共演についてお聞かせください。
元々、僕は堀さんのことをほとんど知らなかったので、乃木坂46やアイドル、という意識はなく、ひとりの女性としてお会いしました。なので、すんなり初として見ることができたので先入観がなくてすごくやりやすかったですね。それに加えて、堀さんに人として好印象を持ちました。真面目だし、優しいし、面白いし、可愛いし、非の打ち所がない方だと思います。

――堀さんが演じた初は、相手によって表情が変化するうえに、前半と後半で全く顔つきも異なっているように見えました。
僕も、途中で顔が変わったように見えました。物語が進むにつれて顔に強さが出てきて、亮輝と一緒にいる時の顔が全然違っていて。特に、亮輝と初が一緒に勉強するシーンがあるのですが、そのシーンから一気に女の子の顔になっていくんです。それまではツンケンしていて、亮輝のことをどう思っているのか分かっていない感じだったのが、明らかに変わっていくんですよね。本人が意識しているのか、意識してなくてお芝居としてなのかはわからないですが、そこはどっちでもすごいと思いました。

――ラストに待ち受けている、亮輝と初、ふたりの長回しのシーンは本当に印象的でした。
内面から出てくるものはもちろん全て山戸監督が演出していますし、例えば前髪一本などの視覚的なことや、物の配置まですごくこだわっている方なので、特にあのシーンは台詞も多いですし、感情も目まぐるしく動くことに加えて、やらなければいけない動作も多かったのでそれも大変でした。それでも、あのシーンは最後の方に撮影したので、あのシーンに向かって撮影して、そこにたどり着いたという感覚でした。あのシーンに入っている亮輝の気持ちは全部本当ですし、あそこにたどり着くまでの全てのシーンをそれぞれが経た上での気持ちですし、あそこに入っている言葉は全部僕たちが体感していて、それを全部出すだけという感覚だったので爽快でした。あんなに広いところであんなに大きい声で、気持ちを正直に言えたので気持ちがよかったです。

――全体を通して撮影はどのような感じだったのでしょうか?
撮影期間は1ヶ月ぐらいだったんですが、タイトなスケジュールだったので正直しんどかったです。僕は最後の最後まで撮影だったので、全部出しきって、撮影が終わった次の日に、めったに風邪を引かないのに体調を崩しました(笑)。撮影がしんどいことは前もってわかっていたので、他の作品も絶対に入れないように調整してくれていましたし、この作品のためだけ身体をあけていました。撮影は一筋縄ではいかないと分かっていましたが、案の定でしたね。都内のマンションで撮影していたので時間が限られていたことと、当時(板垣)瑞生がまだ17歳で22時までしか撮影できなかったので、フィジカル的な辛さはそんなになかったんですが、ただワンシーンワンシーンの密度がすごく濃いので、めちゃくちゃ頭を使うんです。だから体力はあっても頭を使っているから、お腹はめちゃくちゃ減りますし、終わって家に帰ったらすぐ寝られました。瑞生とも、撮影が一緒だった日の朝は、「今日終わったらご飯行こうよ」と言っていても、撮影が終わった後は、「ご飯は今度にしよう」と言って帰っていました(笑)。だから撮影中には1回もご飯に行かなかったぐらい消耗していましたが、充実した日々を過ごせました。

――完成した作品を観た感想をお聞かせください。
ちゃんと製本された台本はもちろんあるんですが、現場で毎日台本が変わったので、全然内容が違うんです。大筋は一緒だとしても台詞や言い回しは全然違いますし、撮影中は最初の方で撮っていたシーンと繋がるのかなとも思いましたし、シンプルに僕たちの全く知らない『ホットギミック』になっているので、好奇心も含めて観たんですが、純粋に楽しみました。僕は、初とのシーンがほとんどだったので、初が他の人の前でどんな顔をしているのか、どういう態度をとっているのかわからなかったので、それを初めて知ることができて、純粋に面白いなと思いました。亮輝の前と他の人の前では、全く初の表情が違うので、いち観客として楽しみました。

――『ホットギミック』は、恋愛映画でありつつも青春映画のようで、サスペンスの要素も感じさせる作品になっていると思います。清水さんは『ホットギミック』という映画をどのように捉えてらっしゃいますか?
僕は、青春恋愛映画だと思います。恋愛だけの映画ではないし青春だけの映画でもない。恋愛というひとつのテーマがありつつも、そこに渦巻いている恋心だけじゃなくて、年頃の男女の、生きているだけで常に存在する物足りなさも描いていると思うんです。自分がどこにいるかわからないとか、自分が見つからないというもどかしさは僕にもありましたし、アイデンティティを確立できない年頃のさまよっている感情が、この映画には渦巻いていると思うんです。それが恋愛に投影されて、自分がどう生きていくのか、そして自分が自分である意味を見つけていく映画だと思うんです。それを見つけていく上でのプロセスとして、恋愛が挟まれていて、さらに青春はこの年頃にしか存在しないものだから、青春と恋愛の両方が巧みなバランスで含まれた映画だと感じています。

 

取材・文/華崎陽子




(2019年6月28日更新)


Check

Movie Data

(C)相原実貴・小学館/2019「ホットギミック」製作委員会

『ホットギミック ガールミーツボーイ』

▼6月28日(金)より、
梅田ブルク7ほかにて公開
出演:堀未央奈、清水尋也、板垣瑞生
間宮祥太朗、桜田ひより、上村海成
吉川愛、志磨遼平、黒沢あすか
高橋和也、反町隆史、吉岡里帆
原作:相原実貴「ホットギミック」
監督・脚本:山戸結希
主題歌:花譜「夜が降り止む前に」

【公式サイト】
http://www.hotgimmick-movie.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/177014/


Profile

清水尋也

しみず・ひろや●1999年6月9日、東京都生まれ。映画『渇き。』、『ソロモンの偽証 前編・事件/後編・裁判』、『ストレイヤーズ・クロニクル』、『ちはやふる 上の句・下の句・結び』など多数の話題作に出演し存在感を示す。2018年、ドラマ「インベスターZ」にて初の連続ドラマ主演を果たす。その後も、ドラマ「anone」、「チア☆ダン」、映画『ミスミソウ』、『3D彼女 リアルガール』などに出演。現在、映画『貞子』、『パラレルワールド・ラブストーリー』が公開中。待機作に、ドラマ『サギデカ』(NHK/8月31日(土)21時~放送)、映画『甘いお酒でうがい』(2020年公開予定)等がある。