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ホーム > インタビュー&レポート > 「こういう映画をずっと手がけたかったんです」 青春映画の旗手による、大人が楽しめる濃密な映画が公開に 『ユリゴコロ』熊澤尚人監督インタビュー

「こういう映画をずっと手がけたかったんです」
青春映画の旗手による、大人が楽しめる濃密な映画が公開に
『ユリゴコロ』熊澤尚人監督インタビュー

“人間の死”を心の拠り所とし、殺人という行為から逃れられないという難役を、女優、吉高由里子が熱演していることでも注目されている映画『ユリゴコロ』が梅田ブルク7ほか全国にて公開中。1冊のノートを通じて過去の物語と現代の物語が交錯していく、ミステリーでありながら愛の物語でもある本作でメガホンをとった熊澤尚人監督にインタビューを行った。

――『心が叫びたがってるんだ。』『近キョリ恋愛』『君に届け』など、多くの青春映画を手がけてこられましたが、今回の作品は雰囲気が全く違うだけでなく、かなり強烈な世界観ですよね。原作を読まれたときの第一印象はどうでしたか?
題材的には殺人者の話ですが、原作を読んだときに(映画では松坂桃李が演じる)亮介の自分の中に流れる血の話だと思いました。家族や血筋に対する葛藤に強く惹かれたんです。
 
――確かに一見、(殺人者の)美紗子メインの物語ですが、亮介の物語でもあるんですよね。
美紗子を描くのにとても惹かれましたが、原作にはいくつか柱があって、そこが一番重きを置いているポイントではないかもしれないんですが、矛盾や葛藤を抱える亮介に惹かれましたし、それを軸に描きたいと思いました。その部分は面白くなるなと思いましたし、こういった題材を昔から手がけてみたいと実は思っていたんですよ。
 
――では、吉高さん演じる美紗子というキャラクターについては?
さすがに殺人者の気持ちに共感とかできないし、人を殺す人を許せるわけがない。許してはいけないと思っています。でも、そういう負の部分を持ちながら、人を愛したり思いやったりする気持ちが同時に生まれた人間はどうなるんだろう。人として矛盾してはいるけど、とても興味を引かれるキャラクターではありました。でもこの小説が持つテイストでの映画化はできないなとプロデューサーには話しましたね。
 
――原作は沼田まほかるさんのミステリーですよね。
原作には小説だからこそ成立している仕掛けがいっぱいあるんです。映像化不可能と言われている所以はたぶんそこで、まずはミステリーの仕掛けを取っていくところから始めないとな、と思いました。映画用に考え直して、整理し直して、新たな物語を作らないといけない。そこがとても難しくて脚本を作るのに3年くらいかかってしまいました。
 
――脚本作りに3年もかけてらっしゃったんですか!
原作を読んだのが4年くらい前ですから。小説だからこそ成立している物語なんだけど、その中に深い題材があって、子どもや結婚相手への気持ちが描かれている。大人が楽しめて味わいのある深いお話なんですよね。こういう映画をずっと手がけたかったんですよ。矛盾を抱えながらも葛藤しながら生きていくような話。
 
――最初は意外だと思いましたが、以前から手がけてみたい題材だったんですね。
ほんと、よくぞ僕に声をかけてくれたと思っています。実際に作品が完成し、映画『ユリゴコロ』はそういう部分がしっかり出せたと思っています。自分的には勝負作ですね。
 
――3年かけて書かれた脚本の中で、大事にされたポイントは?
原作を読んだときに感じたゾクゾク感ですね。ノートを読み進めるところとか。文体も通常とまったく違って、「この先はどうなるんだ?!」と思いながらノートを読んでいく。読む人を引き込ませる力があるんですよね。そのゾクゾク感は映画でも意識して大事にしていきたいと思いました。
 
――確かにノートを読むシーンのゾクゾクを含め、今までにないくらいものすごい集中力でこの映画を観ました。
観始めると、知らないうちにものすごく集中してしまっていて、体力がいる映画だとよく言われます。十二分に映画が楽しめるからこそ生まれる、良い疲労感を感じると思います(笑)。
 
――観るのに気合がいる映画だと思います。
それくらい濃密な作品にはなっていると思います。最終的に正解があるわけではないし、複雑な気持ちになるし、ラストも観るお客さんによって捉え方が違うと思う。
 
――陰鬱とした怖さへの緊張感もありながら、ラブストーリーでもありますよね。
美紗子(吉高)と洋介(松山ケンイチ)は純愛ですからね。今回は今まで描いてきた恋愛作品の中でもある意味で達成点にいけた感覚があり、自分なりにステージアップできて、この映画に取り組めて撮影が楽しかったですね。出来上がった作品を観て、吉高と松山いいな、素敵だな。今まで恋愛映画をたくさんやってきて良かったなと思いました。
 
――美紗子という役をやり遂げるのはかなりのパワーがいると思いますが、吉高さんとはどういうお話をされたんですか?
撮影が始まる前はそれなりに話し合う時間はあったんですが、話しただけで理解するのはかなり難しい役ですよね。でも吉高さんなりにすごく考えてくれて、自分なりに作って初日から現場で出してくれていたんですよ。それが素晴らしくて、吉高さんが美紗子を演じてくれて毎日の撮影が楽しかったです。
 
――怖い場面でも監督は楽しんでいらっしゃったんですね。
妖艶な顔や切ない顔も「バッチリ!バッチリ!」と思いながら撮影していました。吉高さんって、明るさの中に影が見える瞬間があるでしょう? 彼女が演じてくださったら素敵だろうなと思っていたし、それでお願いしているので狙い通りと言えば狙い通りなんですが、実際の演技を見るとやっぱり素敵で。いい表情がたくさん撮れました。共感できるわけがない美紗子という役に入り込んで芝居してくれました。本当にすごい女優さんだと思います。僕はこの映画を観た人に「吉高由里子すごいでしょ?」と自信を持って言えますね。
 
――松山ケンイチさんにはどんな期待をされてキャスティングされたんですか?
美紗子を受け止めて、二人の仲を作っていける役者って、松山ケンイチ以外に思い浮かばなかったですね。『聖の青春』の後で、「体重がやっと元に戻りました!」と言っていたところに「申し訳ないんだけどあと10キロ痩せて」って話して。
 
――えー?! 『聖の青春』のあとでですか?!
洋介って食欲や性欲など、欲という欲を絶っている人なんですよ。松山くんとその認識が一致していて、世捨て人みたいな感じを映画でどう出すかという戦略を練る中で痩せないといけないよね、と。食べないと人ってイライラすると思うんだけど、そんな様子も見せずに美紗子を受け止めて、吉高さんの演技を全力でサポートしようとしていましたね。もともと信頼していましたが改めてすごい俳優だなと思いました。
 
――最後に。
観終わった後、その思いを持ち帰って、考えて直してみたり、誰かと語ることが映画の楽しさでもありますよね? 今回、役者らが素晴らしい演技をしてくださっていて、表情だけで何かを想像させられる部分がたくさんあると思うんです。それって、素敵な体験だと思うので映画を観てそれを感じてもらえると嬉しいです。



(2017年9月25日更新)


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Movie Data

©沼田まほかる/双葉社 ©2017「ユリゴコロ」製作委員会

『ユリゴコロ』

<PG12>
▼梅田ブルク7ほか全国にて上映中

出演:吉高由里子、松坂桃李 
   松山ケンイチ
   佐津川愛美、清野菜名、清原果耶
   木村多江
原作:沼田まほかる『ユリゴコロ』(双葉文庫)  
脚本・監督:熊澤尚人 

【公式サイト】
http://yurigokoro-movie.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/172066/