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「こういう題材だからこそ、メジャーシーンでやりたかった」
『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』
大根仁監督インタビュー

漫画「奥田民生になりたいボーイ出会う男すべて狂わせるガール」(原作:渋谷直角)が実写映画化され、現在TOHOシネマズ梅田ほかにて大ヒット公開中。同じく漫画原作の映画化である『モテキ』(2011年)を手がけた大根仁監督が、今回は主人公に妻夫木聡、ヒロインに水原希子を迎えて、雑誌業界を題材にしたラブコメを描いた。

そこで、来阪した大根監督にインタビューを実施。以前から何度も取材をさせて頂いているのでフランクな空気感もありながら、基本的には良い意味での緊張感が漂うインタビューとなった。深く濃く真っ直ぐ掘り下げてもらえたので、是非とも読んで頂きたい。

――改めて、原作者の渋谷直角さんについてお伺いさせてください。大根監督は、いつ頃から直角さんを知っておられたのでしょうか?
「relax」という雑誌があって、彼がそこで編集ライターをやったりイラストを書いていた頃かな。名前も目立つし、単純に文章もイラストも面白かったから、自然に意識するようになって。
 
――1998年頃のお話ですね。
そうそう、みんなが本屋で雑誌を買っていた時代だよね。隅から隅まで面白い雑誌だったしね。直角やドラマ『去年ルノアールで』の原作のせきしろも「relax」で知った。って考えると、俺は「relax」発の人とばかり仕事してるね。
 
――その頃からお知り合いだったのでしょうか?
いやいや、ずっと気になる存在だったんだけど、会ったのは4、5年前かな。「フィナム」というサイトで色んな人のところに行って、直角が人からタダでモノをもらって、わらしべ長者みたいにしていく企画があったの。伊賀大介君から俺で、その次が(スチャダラパーの)Bose君だったんだけど。その時に初めて逢って、「大根さんはサブカル界隈のキラキラしている人ですよね!」と言われて、「あんたの方がサブカルエリートでしょ!」と言い返したのを覚えている。自虐的に見積もる人なんだなと思ったね。
 
――その時点で一緒にお仕事をしたいなとは思っておられましたか?
いやいや。そのあとに彼が描いた漫画「カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の 一生」は面白かったし、読み物として成立していたけど、まだコラムの延長線だなと感じたし、映像化とかまでは思わなかった。で、「民生ボーイ」も連載の頃から読んでいたけど、「ボサノヴァ〜」より物語になっていたし、ちゃんともがいて描いて、パンツを脱いでいる感じがしたんだよね。もちろん「ボサノヴァ〜」も良かったけど、まぁ、別に「民生ボーイ」も全部が自分の事ってわけではないんだろうけど。
 
――その時点で映像化は考えておられましたか?
う~ん、でも、ぼんやりだよ。『ジョジョ』や『ワンピース』と比べたら、全然売れていないんだから。
 
――カルチャー好きの人々の界隈で流行っている現象を、しっかりとメジャーシーンと繋げた上で発信していくのが、大根監督の特色の様にも感じています。
それは自分では、もうよくわからなくて。取り沙汰されるほどの事なのかなって。ただ、「民生ボーイ」はニッチな場所でやるのは違うと思っていたしね。こういう題材だからこそ、メジャーシーンでやりたかった。それに民生さんの曲をふんだんに使いたかったから。そう考えると深夜ドラマではないなと。そしたら本当に民生ボーイであるブッキー(妻夫木聡)が興味を示してくれて。それでも東宝が乗ってくれるかは、まだ自分の中でわからなかった。でも、東宝にはお世話になってるから「やりませんよね?」みたいな報告くらいの感じで話をしたら、「いやいや! やりましょう!!」と言ってくれて。それが去年の年明けくらいで、そこから撮影終わりまで半年くらいだったな。突貫工事だったんだけど、良く言えば勢いがあった。まぁ、映画の『モテキ』も、そんな感じだったけどね。この手の題材には、このスピード感が合っているのかも。
 
――脚本についてもお伺いたいのですが、基本的に原作に忠実ですよね。
うん、そうだね。映像にした時に、ここは違うなというのは直角にネームで直してもらったりはあったけど。
 
――それが後に発売された漫画の完全版になるのでしょうか?
そうそう、でも、その直しも作業的には1ヶ月もかかってない。だって出てくる業界も出てくる人も全く知らないわけじゃないし、(直角と)共通言語もあるから。そんなに刷りあわせないといけない事は無かった。
 
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――主演の妻夫木さんについても、お伺いさせてください。ここまで妻夫木さんの困り顔、悩み顔、泣き顔がクローズアップされた作品は久しぶりのように思えました。
確かに、そういうのは久しぶりかもね。ブッキーはさ、メジャーシーンでのキャリアも長くて、たくさん主演もやっているのに、普通さが凄い。悪い意味じゃなくて、現場でも主役感が希薄。大河ドラマの主役までやって、そういう空気感を出せる人っていないから。何をやっても一緒という主役感の人もいて、それはそれでいいんだけど、ブッキーはそれにならないんだよ。俺の作品の主役のタイプの人は、そういう人が多い。(森山)未來にしても瑛太にしても。役者としてはとんでもないスキルを持っているのに、スゲー普通さがある。ブッキーも力んでいる感じが無いというか。そういう意味では、民生さんっぽくもある。
 
――原作とは、また違う映画オリジナルのラストシーンにくぎ付けになりました。
映像的にエモーショナルな感じは出したかったし、映画はラストシーンの印象で決まるし、特にどの曲がラストにふさわしいか?は、原作からどうやってジャンプアップさせるか、考えたかなあ。
 
――大根監督が描かれる主人公は、いつもラストシーンまで満足しきれていないというか、どこか悶々さが残っておられますよね?
そうそう、『モテキ』も『民生ボーイ』もハッピーでもバッドでもないしね。まだ『モテキ』は今後どうなるかわからないという成長過程のエンディングだったけど、今回はね…。まぁ、『モテキ』とか『バクマン』とかみたいに何かに向かっていくみたいなのとも違うし。そこは大人の恋愛映画らしい、ビターなエンディングを意識しましたよ。
 
――今作のラストシーンは本当に大好きでした。悶々と悩みもがきあがく様が素晴らしかったです。
まぁ、それは自分もそういうタイプだからかも知れない。そりゃ、かつてよりは良い環境で撮れているし、ある程度チヤホヤされるし、以前よりはお金もある。でも、心は潤ってないなぁ。全然、安らがない。
 
――それは何故なのでしょうか?
それなりにキャリアを積むと、その分プレッシャーが大きくなるからじゃないかなと。
 
――ウディ・アレン監督も6年くらい前のドキュメンタリー映画で、何も満足していないし、虚無感があって不安で孤独だという感じの事をおっしゃっていました。当時、75歳くらいだったと思います。
ウディが満たされていなかったら、俺なんかが満たされるわけないかな。
 
――最後に水原希子さんの事もお伺いさせてください。
生々しい存在というよりは、カッコ良くしたかった。それに俺が描く女優は、エロいけど不思議な事に女の子に嫌われない。だから、より今回は女の子に好かれるビッチヒロインにしようと。
 
――外見は普通の女子なのに、その内に潜むビッチ性を描かれる監督は、大根監督以外おられないのではない気がしています。
そうかな? 恋愛映画そのものが少ないからじゃない? 女子高生モノか、ドロドロの不倫か、どっちかしかないもんね。大人のラブコメというか、ウディ・アレンのような大人の恋愛映画が邦画には足りないのかも。
 
――大根監督には引き続き、大人の恋愛映画を撮って頂きたいです。
次の仕事と次の次の仕事は違うけど、またタイミングでだね。自分でも得意球だとは思っているけど、連発すると擦り減るし、インフレ化するし、飽きてくるから。4、5年に1回かな。
 
――今日も、たくさんお話を聴かせて頂けました。本当にありがとうございました。
 
取材・文/鈴木淳史



(2017年9月26日更新)


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Movie Data

©2017「民生ボーイと狂わせガール」製作委員会

『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』

▼TOHOシネマズ梅田ほかにて上映中

出演:妻夫木聡 水原希子
   新井浩文 安藤サクラ
   江口のりこ 天海祐希 
   リリー・フランキー 松尾スズキ
原作:渋谷直角
   「奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール」
   (扶桑社刊)
監督・脚本:大根仁

【公式サイト】
http://tamioboy-kuruwasegirl.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/170545/