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「ラブストーリーだけど、
 “偶然”と“過去と現在の出会い”を私は表現したかった」(ユン監督)
『心に吹く風』ユン・ソクホ監督&真田麻垂美インタビュー

日本に韓流ブームを巻き起こしたテレビドラマ「冬のソナタ」を手掛けたユン・ソクホが初めて映画監督を務めたラブストーリー『心に吹く風』が7月8日(土)よりテアトル梅田にて公開。自然豊かな大地が広がる春の北海道を舞台に、互いを思いながらも別々の道を歩むしかなかった男女の20年ぶりの再会と、愛の再燃を情感たっぷりに描き出す。そこで、ユン・ソクホ監督と本作が16年ぶりの映画出演となる女優、真田麻垂美にインタビューを行った。

――今回初めて映画を撮られた感想をまずは聞かせてください。
 
ユン監督以前から映画は好きで、いつか映画を撮りたいという気持ちはありましたが、テレビドラマの世界で活動をしてきたので、まさか日本でこのような機会をいただけるとは思いませんでした。無我夢中で頑張り、良い経験が出来ました。幸せな時間でした。
 
――今までのテレビドラマと今回の映画で監督が大きく違うと感じられたところは?
 
ユン監督今回、今まではできなかったロングショット(被写体とカメラの距離が非常に遠い撮影)や、ロングテイク(長回し)、メタファーもたくさん入れることができました。テレビはやはり不特定多数のいろんな年齢層の方がご覧になるので、親切な案内が必要になってくるんです。今回はそういった制約をなくして、映画だから出来ることを出来たかなと思います。
 
――ロングショットで撮られた風景とその中にいる二人の男女。監督が込めたその風景が語るものとは?
 
ユン監督この映画のキーワードは、“偶然”と“過去と現在の出会い”です。それが二人の男女に起こる訳ですが、それを自然の中で見せたかった。ロングショットで、自然と人間を対等な立場として映し、物語を引っ張っていきたかったのです。『心に吹く風』というタイトルも、心は人間そのもの、風は自然の現象で、それらを一つの言葉とし、人間と自然が繋がっていることを表しました。
 
“過去と現在の出会い”というのは、時間のことです。時間は過ぎていくものですから、人間は過去に戻れません。ただ自然の中では過去と現在が共存することがあります。例えば、劇中に出てくる古い倉庫の壁。色あせた壁に雨粒が落ちることで、過去のもの(色あせた壁)と現在が混ざり合うのです。青池も池の周りに生えている木は生きていますが、池の中の木は全て死んでいる。死んだ木と生きた木が同じ画面の中に収まっているというわけです。また、オープニングで映る山々には過去に降った雪が残っています。しかしその手前には美しい畑があり、自然の中の過去と現在を一つの画面に収めました。
 
“偶然”は春香の顔にあたる光も自然が作る偶然。葉っぱで春香の顔が隠れたりする場面も偶然吹いた風が作ったもの。それがそのシーンの緊張感に偶然繋がりました。軸としてはラブストーリーですが、“偶然”と“過去と現在の出会い”を私はこの作品で表現したかったのです。
 
――北海道の美瑛や富良野を舞台にしたのはどうしてですか?
 
ユン監督美瑛や富良野はパッと視界が開けて、自然そのままの姿が生きている場所です。テーマでもある“偶然”を、自然の中でたくさん感じられたんです。畑や雲、新芽など、緑と土の色がパッチワークのようになっているのも偶然生まれたもの。自然が作る偶然の美しさがとても印象的な場所だったので、ここを舞台にしようと決めました。
 
――富良野を舞台にした日本のドラマ「北の国から」もご存知ですか?
 
ユン監督はい、「北の国から」の影響もあったと言えます。ずいぶん前なのですが、日本に留学していた先輩から教えていただいて「北の国から」を拝見して。こんなに美しい場所があるのか! と衝撃を受けました。初めて北海道を訪れたのはそれからずっと後で、「冬のソナタ」が日本でも愛され、札幌のNHK放送局に招待された時だったんです。そこで「北の国から」の話しをすると、関係者の方が富良野と美瑛を案内してくださいました。それだけでなく倉本聰先生をはじめスタッフもたくさん紹介していただいて。この場所がやっぱり大好きになって、それからは何度も足を運ぶようになったんです。好きなものを誰かと共有したい、いつかこの美しい場所を自分の絵の中に収めたいという気持ちになりました。
 
――ドラマで四季や雨、今作も風がモチーフに使われていますが、監督が自然にこだわるようになった原点のようなものはあるのでしょうか?
 
ユン監督実はとても特殊な環境で育ったのでそれが要因かもしれません。父がソウルにある農業大学の教授だった関係で、わたしは大学の敷地内にある家で育ったのですが、そこはソウルのド真ん中でありながら、牧場や花畑、森、湖など自然がとても豊かな環境でした。大学の門を出ると都会で、家に帰ると自然がいっぱいでしたから、本当に特殊だと思います。そういったことが大きな影響となっているのかなと思います。
 
――日本で撮影すること、日本人キャストを使うことで難しいことはありませんでしたか?
 
ユン監督全くありませんでした。新しいことに挑戦するということは全てが慣れないことなのでとても興奮しました。慣れないことで大変なことも、これぐらいは覚悟しないと! という気持ちでしたので楽しかったです。
 
――真田さんは韓国人監督の作品に出演するということで難しいことはありましたか?
 
真田16年ぶりにユン監督のワークショップに参加することになったのも偶然の出会いです。ユン監督は人の気持ちをうまく引き出すマジックをかけられる方。わたしと眞島(秀和)さんが富良野と美瑛に滞在したのは3週間ほどなんですが、その間は二人とも完全に監督のマジックの中で生きていた気がします。本当にありがたい時間でした。
 
――『月とキャベツ』のヒロイン役など以前女優をされていましたが、今回女優復帰をされたきっかけは何だったんですか?
 
真田アメリカに留学して、その後結婚、出産を経て、ヨガのインストラクターとして活動していたんですが、この映画のプロデューサーとお食事をする機会があって、ワークショップの話を聞き「それは楽しみですね」とか他人事のように言っていたんですが、帰りがけに「参加してみませんか?」と仰られて。こちらはユン監督の手がけたドラマなどは見ていましたし「行っていいんですか?」という感じで参加したんです。
 
――夫も子どももいる幸せな家庭がありながら、初恋の相手との再会で揺らぐ気持ちに戸惑いを隠せない、という役どころはなかなか難しかったのではと思いますが。
 
真田ヨガに絡めてお話すると、ヨガのポーズというのは練習の一部に過ぎなくて、自分が何者なのかを考えてる時間がとても大切なんです。それは女優として役に自分を近づける行為とリンクするんですよね。私は長い間このお仕事から離れていたけど、ユン監督の作品に出会うための準備を長年かけてやっていたのかなと、後からですが思えました。今の自分が何者なのかを毎回考えながらやっていたヨガはここに繋がるのかと、今ままでの点と点が線になったような不思議な感覚になりました。
 
――真田さんご本人と映画の中の春香の印象が全然違うので実は驚きました。
 
真田監督が「痩せないでほしい。今より太くなってもいい」というお話を本読みのときにされたので、その意味を自分なりに考え、春香は色々なものを諦めてきたけど、日常を大切に生きる女性だと理解したんです。家族のためにきちんと三食を用意し、自分も一緒にしっかり食べる。そんな春香の生き方を想像して実生活でもしてみたら半年で自然と10キロ増えました。そうすることで、少しずつ春香という人物になっていくことができたのかなと思います。
 
――ワークショップで真田さんと出会い、春香役に起用したポイントは?
 
ユン監督私は外国人の監督で、真田さんの出ていた作品のことも知らないので、ある意味で新人さんを見るのと同じ感覚でした。今、目の前にいる真田さんを見て感じるものが全て。私は韓国でも新人をよく起用してきましたが、その時大事にするのは自分自身のフィーリングで、理由は分からないけれど、もう一度会いたい、魅力的で飽きないと感じる人を選ぶようにしています。真田さんもそうでした。今まで起用してきた俳優たちもみなそうです。
 
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――監督は春香という役と真田さんに繋がるものを感じたのでしょうか?
 
ユン監督春香は普通の主婦であまり女優らしい感じがしてはいけないキャラクターです。私が初めて真田さんに会った時、彼女は本当に平凡な主婦の女性に見えましたが、なぜか惹かれるし、美しさを感じたんです。たくさんの方がオーディションに参加くださいましたが、いろんな方と何度もお会いしていく中で、真田さんだけが毎回会うたびに新しくいいところを発見できたんです。最終的に選ぶとき何の迷いもありませんでした。
 
真田ありがとうございます!!
 
ユン監督ご本人が目の前にいるから嘘みたいに聞こえるかもしれないけど本当なんですよ。
 
――日本にはなかなかないとてもロマンチックな映画ですが、演じる上で役者が恥ずかしくなったりすることはありませんでしたか?
 
真田私はすごくロマンチックなことが好きなんです。実はもっともっとロマンチックなシーンがいくつかあったのですが、眞島さんは「日本人の男性はこんなことはしない」と仰ってました。私は好きな人ならしたらいいのにと思ったんですけどね(笑)。なので私は恥ずかしいとか思ったことはないです。
 
ユン監督自分の中では二人の関係ならあり得ると思って書いたシナリオですが、眞島さんはとても恥ずかしがっていました。自分では疑いのなかった部分でしたが、日本と韓国の感情の違いなのでしょう。ただ、カットされたロマンチックなシーンたちについても心残りはありません。この作品は編集を日本の女性の方がしてくださっているんですが、最終的に仕上がったものを見たとき、本当に自分の作品なのかと思うぐらい自分で新しさを感じました。淡白で、控えめな感じになって良かったと思っています。冬ソナファンを意識したつもりはないですし、出来れば「冬ソナみたいですね」と言われるより、「日本の映画みたいですね」と言われたいです。



(2017年7月 5日更新)


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Movie Data

©松竹ブロードキャスティング

『心に吹く風』

▼7月8日(土)より、
 テアトル梅田 にて公開

監督・脚本:ユン・ソクホ
出演:眞島秀和 真田麻垂美
   鈴木仁 駒井蓮 長内美那子
   菅原大吉 長谷川朝晴
音楽:イ・ジス

【公式サイト】
http://kokoronifukukaze.com

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/172820/

Event Data

舞台挨拶決定!

日時:7月8日(土)
   12:50の回上映後
※予告編の上映はございません
会場:テアトル梅田
登壇者:真田麻垂美さん(予定)
料金:通常料金
※チケットぴあでの取扱いなし。