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「女の生き様にこそ価値がある」
Jホラーの巨匠が語るロマンポルノの意義
『ホワイトリリー』中田秀夫監督インタビュー

1971年から1988年にかけて約1100本に及ぶ多彩なジャンルの成人映画を発表してきた映画レーベル「日活ロマンポルノ」。誕生から45周年を迎えた2016年には、現在の日本映画界を代表する5人の映画監督の手によって「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」として復活し、70年代〜80年代に青春時代を送った映画ファンのみならず、リバイバル上映やDVDでその“伝説”に触れてきた若い映画ファンまでを驚かせた。

3月25日(土)よりシネ・リーブル梅田ほかで公開される『ホワイトリリー』の監督として、今回のプロジェクトのアンカー役を務めるのは、『リング』シリーズでハリウッドをも席巻した中田秀夫監督。実は中田監督は東京大学卒業後、助監督として日活に入社しロマンポルノの制作現場で映画作りを学んでいたのだ。そんな中田監督に、ロマンポルノへの思い入れと最新作『ホワイトリリー』について話を訊いた。

――中田監督は大学を卒業されてから85年に日活に入社されているんですよね?
そうです。僕が入社してから3年くらいでロマンポルノは終わってしまいました。
 
――今回のリブートプロジェクトには行定勲監督、塩田明彦監督、白石和彌監督、園子温監督も参加されていますが、中田監督が唯一、80年代のいわば“クラシック・ロマンポルノ”の撮影現場の空気を体感されているのかなと思います
助監督として現場に入っていたのは僕だけです。僕と同年齢の園さん、塩田さんはたぶん観客としてロマンポルノはご覧になっていたと思います。僕が日活に入ろうと思った動機は、とにかく映画がどういう風に作られているのか、その現場を覗いてみたいという非常にシンプルな好奇心からでした。監督することに憧れがあるというよりかは、ロマンポルノに対する憧れと、映画をどうやって作っているのかという好奇心でした。僕が学生だった当時、蓮實重彦先生がロマンポルノを称揚されていました。80年代に学生だった僕は蓮實先生の影響というのが抜きがたくあります。映画を見るのは好きでしたが、学生時代は自主映画を作ったり、映画サークルに所属していなかったので、助監督として参加したロマンポルノの現場で学んだものはすごく大きいです。
 
――中田監督としては助監督としてかつて関わられていたロマンポルノが再始動するという点と、そこに監督として関わることができることについて感慨はありましたか?
今回については、自分がいたところに戻って郷愁を持って目を潤ませながら映画を作ったわけではありません。そもそもそんな感傷に浸る時間的な余裕がなかったです(笑)。
 
――今回のリブートプロジェクトの製作条件の中にも“撮影期間は、1週間”とありましたよね。
撮影期間1週間で目をウルウルさせてはいられません(笑)。もうとにかく僕としては「進め!進め!」と進軍ラッパを吹き続けるような感じで作りました。ただウルウルしているわけではありませんが、若い頃からのロマンポルノに対する積年の想いというのがどうしてもありました。
 
――中田監督の新作『ホワイトリリー』では、傷ついた過去を慰め合うように寄り添いながら暮らす陶芸家志望のはるかと著名な陶芸家・登紀子のもとに、悟という若い新弟子が踏み込んで来ることで変化していく2人の女性の関係が描かれています。いまインターネットで直接的な“ポルノ”が容易に見られる時代ですが、この作品には“スクリーンでしか表現し得ないエロス”を感じました。キャストの皆さんがすごく美しかったです。
映画的にエロチシズムを感じてもらえたというのはすごく嬉しいです。はるかを演じた飛鳥凛さんも、登紀子を演じた山口香緖里さん、悟役の町井祥真君もロマンポルノに出演していた訳ではありません。あとはキャメラマンの近藤龍人さんと照明の藤井勇さん。彼らももちろん世代的にはロマンポルノをオンタイムで鑑賞していないと思いますが、かなり研究していました。この映画は女性同士のラブシーンがメインですが、そうなると女優の肌質を美しく見せなければなりません。ロマンポルノにとって女優の肌質を美しく撮るということはマストだろうということで、僕が事細かに頼んだわけではないのに、二人の背後にピンクの布地を配置した上で明かりを当てたり、「下に白いシーツを敷き詰めましょう」とアイデアを出してくれました。そうすると白いシーツが光を跳ね返してくれて間接照明の役割を果たします。彼らは助手としてロマンポルノの現場に参加したわけではないですが、ある種、ロマンポルノに対する憧れというものがあったんだと思います。
 
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――本作で描かれているのは女性同士の愛ですが、なぜこのモチーフを選ばれたのですか?
僕が日活に入社した直後に、助監督として参加させてもらったのが、小沼勝監督の作品でした。小沼監督も日活ロマンポルノの中で、女性同士の愛を描いています。小沼監督が映画を通じて描いてきた小沼ワールドは、とても耽美的でした。僕としては“2017年の耽美的な世界”を描いてみたかったんです。少しステレオタイプかもしれないですが、女性同士の愛を描くことで“耽美”が表現しやすいのではと考えたのは事実です。
 
――ロマンポルノに対する憧れや敬意が、スタッフの皆さんの研究心やアイデアに結びついていたんですかね。
そう思います。今回、確かにいろんな人がリブートプロジェクトに関して “今さらロマンポルノをもう一回やって何になる”という疑念や“アダルトビデオもインターネット上のポルノ動画も直接的な表現はいっぱいある”という意見はあったと思います。いわゆるポルノ度というもので、それらに勝ることができるわけがないではないかというのが、一般的な考え方だと思います。僕自身もその点を争うと、元も子もないと考えています。ただ僕はずっと考え続けています。ロマンポルノというのは、理屈っぽい話になりますが、僕の中ではロマンってフランス語の“物語”って意味だと思っています。つけた人はどう思っているかは分かりませんが、“男のロマン”とか“ロマンチックな”と言う意味ではなくて、ズバリ物語、物語ポルノというイメージです。要するに“ラブシーンがある男女のドラマ”だと捉えています。あるいは“女の生き様”を描いたものだと考えます。だから1971年のロマンポルノの第1作、白川和子さん主演、西村昭五郎監督の「団地妻 昼下りの情事」が今でも観られていて、しかも名作だと言われるのは、エロチックさとともに、団地妻がプロの娼婦に堕ちていく、だけどその相手に対して、本気の愛情を抱いてしまって、いわば自分の性に殉ずる形で、クライマックスを迎えるという白川さんが演じたヒロインのドラマに、みんながグッときたんだと思います。ラブシーンからこぼれ落ちる、ラブシーンとラブシーンをつなぐ、あるいはラブシーンの中にも女の生き様というのは、出ているのかもしれませんが、直接的なセックス以外の部分が、実はロマンポルノの50年近く飛び続けさせた価値だと思います。
 
――本作は昨年の《第21回釜山国際映画祭》でワールドプレミアが行われました。釜山での反響はいかがでしたか?
釜山国際映画祭では、僕の少し下の世代で日本映画マニアの方が司会をしてくださいました。彼は、実はアンダーグラウンドで、ロマンポルノが絶対に公では見られなかった時代にVHSで見ていたそうです。彼と話をしていて興味深かったのが、「自分の恋人の代わりとしての性的表現は、他にもあるし、韓国にも日本のようなアダルトビデオもあります。だけどロマンポルノの価値というのはそういうものではなくて、そこからこぼれ落ちる女のドラマというものにこそ価値があります」と言うんです。ラブシーンの中で描かれる女性の表情とか、あるいはラブシーンの直後の男が帰った後の女性の白けた表情とか、そういうものでヒロインのエモーションや生き方を表現できるのがロマンポルノなのかなと思いました。
 
――改めて、いまロマンポルノをリブートさせる意義について、中田監督の考えを聞かせてください。
僕が学生だった頃には、女性がロマンポルノを上映する映画館の中にいるということは考えられなかったことですが、ここ20年くらいで女性のお客さんが本当に増えました。改めて考えるとロマンポルノはラブシーンがありますが、結局は女性の生き様を描いています。今回のリブートプロジェクトに参加してみて、僕の作品がプロジェクトの最後を飾ることになりましたが、若手監督や女性監督も参加して、プロジェクトも第2弾、第3弾という風に繋がっていけばと思っています。僕は今回のプロジェクトのアンカーというよりも、視線の先にバトンを渡すべき人がいてほしいという夢想に近い想いを抱いています。全てが明るく照らし出される世の中にあって、またオリジナル映画が作りにくい邦画界にあって、日活ロマンポルノを通じて“オリジナル映画ここにあり”という灯火だけはもっていたいという理想があります。
 
 
取材/文:スズキヒロシ



(2017年3月23日更新)


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Movie Data

「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」

全作品<R18+>

行定勲監督『ジムノペディに乱れる』
▼1月28日(土)よりシネ・リーブル梅田、2月25日(土)より京都みなみ会館、大津アレックスシネマ、3月11日(土)より神戸元町映画館にて公開

塩田明彦監督『風に濡れた女』
▼2月11日(土)よりシネ・リーブル梅田、3月4日(土)より京都みなみ会館、大津アレックスシネマ、3月11日(土)より神戸元町映画館にて公開

白石和彌監督『牝猫たち』
▼2月25日(土)よりシネ・リーブル梅田、3月11日(土)より京都みなみ会館、大津アレックスシネマ、3月25日(土)より神戸元町映画館にて公開

園子温監督『ANTIPORNO』
▼3月11日(土)よりシネ・リーブル梅田、3月18日(土)より京都みなみ会館、大津アレックスシネマ、3月25日(土)より神戸元町映画館にて公開

中田秀夫監督『ホワイトリリー』
▼3月25日(土)よりシネ・リーブル梅田、京都みなみ会館、大津アレックスシネマ、4月8日(土)より神戸元町映画館にて公開

【公式サイト】
http://www.nikkatsu-romanporno.com/reboot/


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『牝猫たち』白石和彌監督インタビュー
https://kansai.pia.co.jp/interview/cinema/2017-01/reboot-felines.html