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“汗”“涙”“笑い”が観ている方の心に届くことを願って――
『百円の恋』で脚本を手がけた足立紳の監督デビュー作
『14の夜』足立紳監督インタビュー

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を獲得した注目の脚本家、足立紳の監督デビュー作『14の夜』が、関西では12月31日(土)よりシネ・リーブル梅田、順次、京都みなみ会館、元町映画館にて公開される。本作は、1987年のとある田舎町を舞台に、性に興味津々の男子中学生たちのちょっとした冒険と青春の1ページをユーモアたっぷりに描き出す“性”春映画。公開前に来阪した足立紳監督に『百円の恋』『14の夜』についてほか様々な話を訊いた。

――中学生男子が主人公ということで『14の夜』は監督自身の自伝的要素も多そうですね。

中学2年生のとき、僕が住んでいた鳥取の田舎町にレンタルビデオ屋さんが出来て。そのレンタルビデオ屋のオープン1周年記念に、当時とても人気があった、かわいさとみさんというAV女優さんがサイン会をしにくる、しかも夜12時を過ぎると胸を見せてくれる…という噂がたったんです。それを友達数人で見に行ったという体験を元にしています。
 
――町にレンタルビデオ屋が出来たことで、当時の足立少年は映画にはまっていかれたのですか?
グッと見れる映画が増えましたからね。それまでは「ロードショー」とか映画雑誌を読んでは、例えば『わらの犬』(1971年/サム・ペキンパー)の暴力描写がすさまじいとか、評論家の方が書かれているのを読んで興味が沸いていたんですけど、なかなかテレビでは放送しないし、VHSを買おうと思うと15000円くらいしましたからね。レンタルビデオ屋が出来たことで、そういう映画も見れるようになったのがすごく嬉しかったですね。
 
――レンタルビデオ屋が出来る前から映画雑誌を買っていたということは、前から映画好きだったということですよね?
親がテレビの洋画劇場とかをよく見ていて、それを一緒に横で見ていたんです。それで映画が大好きになりました。「ロードショー」に読者が映画の感想を投稿するページがあって、そこによく送っていました。
 
――中学生、高校生くらいで渋い映画に興味を持っていたんですね。
でも、基本は70年代から80年代のアメリカ映画が基になっていると思います。日本映画より洋画が好きでした。角川映画と北野武さんの映画以外の日本映画は観ていませんでした。薬師丸ひろ子さんのファンでした。
 
――そこからどのように映画のお仕事に就かれたのですか? 相米慎二監督に付いていた時期があるとか。
相米さんに付いてはいましたが、そのときの経験が今活きてるのか活きてないのか自分でまったく分からないんですよ……。今思えば、人生で一番くいの残る1年間かもしれません。21、22歳の本当に若いころで、自分の状況が辛くて、当時はどうすればここから脱出できるのかばかり考えていましたから。
 
――そもそも相米さんとの出会いは?
日本映画学校を卒業するときに、恩師にオフィス・シロウズという会社を紹介していただいたんですが、そこで「相米さんが若いの探してるから行くか?」って。でも初めてお会いしたときはオフィス・シロウズ代表の佐々木史朗さんと相米さんがずっと囲碁をしていて、その横でボーっとしていただけで会話らしい会話もせず。マネージャーさんみたいな方に「とりあえず1年くらい付いてみたら?」と言われて。
 
――助監督でというわけではないんですか?
ゼロから映画作りを見せようとしていただいたんだと思います。でも、僕が付いていた1年間、相米さんは映画を撮れなくて。企画を練ったり台本作りはされていたので、そういうのにお付き合いはしていましたけど。弟子みたいな感じだったのかもしれませんが、毎日どこかに行かなければいけないわけでもなく、相米さんに「お前も来い」と言われたときだけ行く。今こういう形で映画の業界に入る人ってたぶんいないと思いますけど、当時でもめずらしいパターンだと思います。当時は、自分の置かれている状況がまったく理解できないのと不安感で本当に辛かった。
 
――付いていたのは1年間のみだったんですか?
そうです。1年経って「いったん離れろ」と。でもその期間に知り合いも出来たので、その後はいろんな現場に手伝いに行ったりして。そうこうしていたら、相米組のチーフクラスだった人たちをデビューさせるオムニバス映画を撮る企画が1年後に上がって。相米さんが総監督の『かわいいひと』(1998年/村本天志・冨樫森・前田哲)というポッキーのCMを映画にしたものです。それにも呼んでいただきました。
 

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――脚本家としてのデビューは?
相米組の先輩が監督でデビューするときに「シナリオ書いてくれ」と言われてシナリオを書きはじめたんです。それが『MASK DE 41』(2001年/村本天志)。当時26、27歳で若かったので、その先輩の映画が大ヒットしてシナリオライターとして売れっ子になるかもという甘い想像をして(笑)。シナリオライターから監督になる方が早道かもと思ったんですが、そううまくはいきません。『MASK DE 41』から『百円の恋』まで15、16年かかっているんですが、形になったのは3つくらいですから。いったん映画の世界は諦めたこともあるんですが、先輩の監督にまた「シナリオ書いて」と頼まれて『キャッチボール屋』(2005/大崎章)のシナリオを執筆しました。諦めたようで結局諦めてなかったんですね(笑)。
 
――『百円の恋』『14の夜』を書かれたのは?
どちらも7、8年前には書いていました。『百円の恋』の武正晴監督とは長い知り合いなんですが、若い女性を主人公にしたアクション映画の企画を求めているというのを聞いて、いくつかプロットを書いて渡したんですが、全部断られて。若い女性という感じではないんですがと見せたのが『百円の恋』のプロットだったんです。それを「シナリオにしてきてよ」と言われて、そのころ全然仕事もなかったんで10日ほどで書き上げて持っていって。
 
――『百円の恋』のシナリオが松田優作賞を受賞するのはその後ですか?
それから3年後くらいです。武さんもそのころ不遇で、僕や武さんが企画を持っていっても誰も相手にしないんですよ。いろんな方に見せましたけど誰も乗ってきてくれなかった。なので、自分ではダメなシナリオなのかと思って放ったらかしていました。
 
――松田優作賞受賞がきっかけで状況がどんどん変わったんですね。
映画化が確約されている賞ではないのですが、営業しやすくなったのは間違いないです。前に読んでるはずの人から「松田優作賞とったやつ読ませて」とお願いされたこともあります。やっぱり冠がひとつあるだけで営業はしやすくなりますよね。
 
――『百円の恋』が大ヒットしたのをどのように感じていましたか?
しばらくはヒットしている実感が全くなかったです。評論家の方々が褒めてくださってるなとかは分かりましたけど、どれくらいのお客さんが来てるかという実感はなくて。その実感をもてないまま現在にいたっています。
 
――今回の『14の夜』に関しては『百円の恋』のヒットが後押しに?
子どもをメインにすると興行面で厳しいことは前から分かっていたのでこの企画はたぶん通らないだろうと思っていたんです。なので、自主映画で撮ろうと当初は思っていて去年くらいから自主映画で撮るための相談を周りの方にしていたんです。そのときに、『百円の恋』のプロデューサーから「どんなのやろうと思ってるの?」て聞かれて、「実は…」と『14の夜』のプロットを見せたら「うちでやりましょうよ」と言ってくださって。ありがたかったです。
 
――念願が叶ってついに監督デビュー。今までとは全く違う心境ですよね?
ようやく監督ができるという思いはありましたが、ワクワクと楽しみな気持ちのほうが大きかったですね。「やろう」と言ってくださったプロデューサーがいる限り、最低でもその方が喜んでくださる映画を作らねばと思いました。と同時に、自主映画ではないので自分さえ良ければいいわけではないという不安は新たに生まれました。
 
――『14の夜』を作る上で大事にした主軸は?
“汗”“涙”“笑い”、この3つが入っている映画を僕自身面白いと思うので、その3つを形として入れるだけでなく、観ている方の心に届くようなものになればいいなとは思っていました。
 
――主演はオーディションで選ばれたという新人の犬飼直紀さんですが、彼含め、現代の中学生に役柄として演じる80年代の中学生の性に対する興味は理解できるものなんでしょうか?
やっぱり今の中学生って全然違うんですよ。「この映画の主人公ほど女性の胸を見たいと思わない」と言っていました。家のパソコンとか親のスマホかなんかでもう見てるんですよね。ただ、彼らは彼らなりに家のパソコンで見たりしたらその履歴を消すのに苦労したりしていて。今とは状況が違うけど、そういうハードルを乗り越えるということだよというお話だけはしました。
 
――大人キャストに関しては光石研さん門脇麦さんなど実力派が脇を固めていますね。しかも光石さんのデビュー作『博多っ子純情』(1978年/曽根中生)と『14の夜』にはリンクする雰囲気もありますよね。
そうなんですよね。犬飼くんを見て、光石さんご自身も「この映画とちょっと似ている映画で主演デビューしたので思い出す」とおっしゃっていました。
 
――最近の日本映画にはない懐かしさがあります。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の青春映画を彷彿とさせる感じもしますね。
侯孝賢大好きなので光栄です。まったく足元にもおよびませんし、侯孝賢の作品ほど観客の心をうつ作品ではないだろうけど、侯孝賢的なにおいがあればいいなとは思いながら撮りました。それ初めて言われました!
 
――アジア映画ならではの青春映画のにおいが魅力に感じました。
そういえば《東京国際映画祭》で上映された際、声をかけてくださったりメールをいただいたり、興味を持っていただいたのはアジアの映画祭関係者の方々ばかりでした。
 
――最後に、今後も監督としてのご予定はありますか?
これからも監督できる機会があればやりたいですが、基本的にはシナリライターとして食べていければなと思っています。まずは『14の夜』を多くの方に観ていただければと思います。よろしくお願いいたします!!



(2016年12月30日更新)


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Movie Data

©2016「14の夜」製作委員会

『14の夜』

▼12月31日(土)より、
シネ・リーブル梅田ほか関西順次公開

出演:犬飼直紀 濱田マリ
   門脇麦 和田正人
   浅川梨奈(SUPER☆GiRLS)
   健太郎 青木柚
   中島来星 河口瑛将
   稲川実代子 後藤ユウミ
   駒木根隆介 内田慈
   坂田聡 宇野祥平
   ガダルカナル・タカ
   光石研
脚本・監督:足立紳
音楽:海田庄吾
主題歌:キュウソネコカミ
    「わかってんだよ」

【公式サイト】
http://14-noyoru.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/170904/


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