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ホーム > インタビュー&レポート > フィルムの最終巻がない… 40年前の映画の結末を完成させようとする中で少女が見た真実とは? 映画愛に満ちた感動が胸を打つ注目映画『シアター・プノンペン』 ソト・クォーリーカー監督インタビュー

フィルムの最終巻がない…
40年前の映画の結末を完成させようとする中で少女が見た真実とは?
映画愛に満ちた感動が胸を打つ注目映画『シアター・プノンペン』
ソト・クォーリーカー監督インタビュー

2014年の東京国際映画祭では『遺されたフィルム』のタイトルで上映され、国際交流基金アジアセンター特別賞に輝いた『シアター・プノンペン』が8月13日(土)よりシネ・リーブル梅田、9月3日(土)より元町映画館、9月10日(土)より京都みなみ会館にて公開される。

カンボジアの首都プノンペンで暮らす女子大生ソポンは、ある日古い映画館で、若き日の母親が女優として出演していた映画を知る。しかし、その映画のフィルムは最終巻のみ欠落してしまっていた。そこでソポンは、フィルムの結末部分を再現しようと奮闘する中で、母が生きてきた激動の時代を知っていく…。

本作を手がけたソト・クォーリーカー監督が、本作のプロデューサーであり、クォーリーカー監督のお母さまでもあるタン・ソトさんと共に来日した際、インタビューを行った。

――クォーリーカー監督が本作を描くことになった経緯から簡単に教えていただけますか?
 
クォーリーカー監督:この映画は、カンボジアの混乱期から現代にかけて約40年ほどの時代に渡ったお話を描いています。主人公の少女はある意味わたし自身です。混乱期に命を落とした父親のことを含め、わたし自身の家族の歴史を知りたい、そしてカンボジアが辿ってきた歴史も知りたいという背景から生まれました。
 
――タン・ソトプロデューサーは、娘が映画を作ることについてどう思われましたか?
 
タン・ソトプロデューサー:この映画にかかる前に彼女はクメール・ルージュを扱ったドキュメンタリー作品や『トゥーム・レイダー』のラインプロデューサーも務めました。それらは基本的には外国の会社の仕事をカンボジアサイドから手伝うというスタンスでしたが、そこで「あなたの娘さんは素晴らしい才能を持っている。手伝うだけでなく自力で映画を撮ってみたらいいのでは」と言ってくださるスタッフもたくさんいました。その後2013年に、イギリス人脚本家のイアン・マスターズさんが素晴らしい脚本を持ってきてくださり、これは彼女にとっていいチャンスになると思いわたしは映画の実現を支えることにしました。
 
――家族の歴史、カンボジアの歴史を扱う話ということについては?
 
タン・ソトプロデューサー:とても頼もしく感じると同時に、辛い歴史を知れば知るほど彼女が苦しんでいることも感じました。
  
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――カンボジア映画史上初の女性監督と映画HPにありますが、カンボジアで女性が監督を務めるのは難しいのでしょうか?
 
クォーリーカー監督:女性監督はほかにもおります。しかし自分の映画を持って海外に進出した監督としては初めてということだと思います。これから数年の内に若い世代でも出て来るだろうと思います。
 
――映画館という場所が大きな役割を果たしている映画ですが、カンボジアの映画事情を教えていただけますか?
 
クォーリーカー監督:クメール・ルージュなど内戦時代前のカンボジアにおける映画館の役割は、どこの国でも同じではありますが現実を忘れ、夢を見るための場所であり、社会性のある作品であれば社会・文化などについて考える場所でした。当時の映画業界は非常に豊かで、映画監督もたくさんいましたし、多くの人が映画を楽しめる環境がありました。しかし、クメール・ルージュ時代(3年8カ月ほど)には、政党のポリシーを人々に沁み込ませ、洗脳させるような作品の上映しか許されませんでした。そして現在のカンボジアにおける映画の役割は、おおむね娯楽、ハリウッド系の映画が圧倒的に人気です。ただわたしにとっては娯楽だけではなく学びも必要だと思っています。そして、家族や友人、外国とのコミュニケーションにも大事なツールだと思っています。
 
――主人公のソポンと若かりし頃の母を一人二役で演じる女優マー・リネットさんのキャスティングについては?
 
クォーリーカー監督:今カンボジアでアクティブな役ができる女優はなかなかおらず、ソポン役はなかなかみつかりませんでした。今回ソポンを演じたリネットさんは当初イメージとは少し違ったのですが、個人的な話をいくつかしてみると、内に秘めた強さを感じて彼女にお願いすることになりました。その後、ジュリア・ロバーツ主演の『エリン・ブロコビッチ』など、強い女性が主人公の映画を一緒に鑑賞し、主人公のキャラクターを作り上げていきました。
 
――本作は映画内映画『長い家路』も見どころです。『長い家路』から、過去は変えられない、過去受け入れてどう生きるかというメッセージを感じました。
 
クォーリーカー監督:『長い家路』は、美しい自然と豊かな文化に恵まれた時代のカンボジアを描いて観客に届ける“橋”のような存在です。カンボジアで生まれ育った人々にはアンコールワットやハスの花など当たり前になっている豊かな自然を印象づけたかった。その後いろいろなことがあって壊れてしまいましたが、カンボジア人の心に残るべき美しい遺産なのです。「過去を受け入れる」ということは、この映画の重要なテーマのひとつです。
 
――カンボジア映画が日本で劇場公開されることは多くありません。本作でクォーリーカー監督が日本の観客に送りたいメッセージとは?
 
クォーリーカー監督:日本の観客のみなさんは、わたしたちカンボジア人とは違う体験を持っているので、押し付けることはできませんが、1つ目は、世代の違いによる理解の欠如です。若い世代と親世代で分からないと感じる部分もあるでしょう。壊れた関係も対話することで和解することを描きました。日本の方々もそれぞれ重なるところがあればそれを受け止めてほしいです。2つ目は、自国の歴史、文化を知ることが大事だということです。過去の歴史を学ぶことで自分を知ることもできるはずです。3つ目は、この映画は「良い」「悪い」で物事をあえてジャッジしていません。クメール・ルージュの時代を含め、時代背景や人間関係はとても複雑。単純な判断をする方が楽ですが、善悪を単純に決めないという態度や私の方針を知ってもらいたいです。『シアター・プノンペン』は判決を下す映画ではなありません。観る方が何を感じるかは自由ですから。



(2016年8月12日更新)


Check

Movie Data

©2014 HANUMAN CO.LTD

『シアター・プノンペン』

▼8月13日(土)より、シネ・リーブル梅田、
 9月3日(土)より、元町映画館、
 9月10日(土)より、京都みなみ会館
 ほか全国にて順次公開

【公式サイト】
http://www.t-phnompenh.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/168364/


Profile

ソト・クォーリーカー 
Sotho Kulikar

1973年、カンボジア出身。クメール・ルージュ政権下、及び、その崩壊後の混乱と内戦の時代のカンボジアで育つ。2001年に『トゥームレイダー』(サイモン・ウェスト監督 アンジェリーナ・ジョリー主演)のライン・プロデューサーを務める。自身の映画製作会社ハヌマン・フィルムズ(Hanuman Films)で、『ルイン(Ruin)』(2013年ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門審査員特別賞)など数多くの映画とドキュメンタリーをプロデュース。2014年、初監督となる本作で、第27回東京国際映画祭「アジアの未来」部門国際交流基金アジアセンター特別賞(スピリット・オブ・アジア賞)受賞。各国の映画祭から注目される。カンボジア映画界期待の女性監督である。
国際交流基金アジアセンターと東京国際映画祭の共同プロジェクトで、アジア出身の映画監督3人が同一のテーマでオムニバス映画を製作する「アジア三面鏡」の3人の監督の一人に選ばれ、2016年の完成を目指して製作中である。