「日本映画の未来のために」
渋川清彦主演! 日本のインディペンデント映画界の内幕を
ブラック・ユーモア炸裂で描きだす映画『下衆の愛』
渋川清彦(主演)&アダム・トレル(プロデューサー)インタビュー
映画『下衆の愛』が7月30日(土)より、第七藝術劇場、京都みなみ会館、元町映画館にて公開される。いまやバイプレイヤーとして日本映画界に欠かせない存在として活躍する俳優・渋川清彦が、自堕落で冴えない毎日を送る映画監督役を怪演。『グレイトフルデッド』が世界30カ国で上映された内田英治監督が、新作の製作に奔走する監督と彼を取り巻く連中の間で巻き起こる騒動を描きだす。そこで、本作の主人公で映画監督のテツオ役を演じた俳優・渋川清彦と本作でメインプロデューサーを務めたアダム・トレルに話を訊いた。
――まずは日本語ペラペラのトレルさんのことについて少し教えてください。
トレル:12、13歳ごろに三島由紀夫の本を読み、その後に『MISHIMA』(ポール・シュレイダー監督/日本未公開)という映画も観て日本に興味を持ちました。そのほかにも鈴木清順、増村保造などいろいろな日本映画を観ました。
――イギリスでアジア映画を配給しているとか。
トレル:当時、イギリスで日本映画と言えば、黒澤、小津、あとは『リング』や『バトルロワイヤル』のような映画しか知られてなかった。でも、もっといろんな映画を紹介したいと思って『下妻物語』『嫌われ松子の一生』『転々』とか80本近く配給しました。それで配給だけでなく一から携わりたくて日本に3年前に来たんです。
――トレルさんが今までプロデュースに携わった映画とは?
トレル:メインプロデューサーとして関わるのは今回の『下衆の愛』が初めてですが、『福福荘の福ちゃん』(藤田容介監督)や『希望の国』(園子温監督)などにも関わってきました。これからは伊藤沙莉と須賀健太が共演する内田英治監督の次の映画『獣道(けものみち)』も。これは来年公開です。
渋川:あとアイドルも好きだよね。キャンディーズのスーちゃんが好きなんだよね。
トレル:スーちゃんいいね。スーちゃんがタイプ。丸顔に八重歯。昭和が好き。日本に来たのは八重歯が好きだからでもあります(笑)。
――ハハハ(笑)! 今回、初めてメインでプロデュースされたということはそれだけ力が入っているんですね?
トレル:自分の持ち物を売ったり、クラウドファンディングもして、お金を必死で作りました。
渋川:彼ね、レコードコレクターなんですけど、ノーザンソウルのすごくレアなレコードを売ったりとかしたんだよね。
トレル:そう。自主映画だけど、とにかく自主映画っぽくない映画を作りたかったんです。いいカメラで撮影して、編集はもちろん、キャスト、ポスターデザインにもこだわり海外でも通用する映画にした。韓国、中国、台湾、タイなどの映画は海外へたくさんいっていてアジアの映画を盛り上げている。そういう意味で言うと日本はそれを下げている。日本にも面白いインディーズ映画がある。今、お金は無くても広く見せていくことが日本映画の未来のためだと思うんです。
――映画業界を題材にした物語はどこから?
トレル:内田監督の撮りたいものをサポートしたんです。『グレイトフルデッド』をイギリスで配給し、監督をTRUST(信頼)しているから。わたしがイギリスで初めて配給したのが園子温監督の『愛のむき出し』。その後も『冷たい熱帯魚』、『ヒミズ』も配給しました。それで、『希望の国』のプロデュースをすることになりました。そうやって監督をサポートしていくのが自分の役割。
――ということは、映画業界を舞台にするというのは内田監督の案だったんですね! 渋川さんが主演になった経緯は?
渋川:『そして泥船はゆく』(渡辺紘文監督)っていう小さな自主映画をアダムと内田監督が一緒に観に来て、そのときに直接「KEEくんで次撮りたい映画があるのでお願いします」って声をかけられたのが始まりですね。それで脚本を送ってきてくれて。
トレル:もともと豊田利晃監督の映画が大好きだったから(豊田作品常連の)KEEくんの大ファンで。今も豊田作品のブルーレイBOXセットを作ってます。
――脚本を読んで、タイトルどおりのゲスい映画監督役ですが、イメージするような人身近にはいましたか?
渋川:身近にはいないけど、こういう人たぶんどこかにいるでしょうね。話には聞いたことがあります。昔のVシネの監督のイメージ。こういう横暴な感じの役を演じる機会が結構多いし、物語の中なので演じるのは楽しかったです。どんなことをやってても「映画が好き」というところだけは好きですね。何か好きなことがあってそれをしている人はかっこいいなと思います。内田監督の身近には劇中のでんでんさんみたいなプロデューサーがいっぱいいたらしいですけどね(笑)。
トレル:でんでんさんみたいなプロデューサーは今でもいる。
――映画を作っていく上で監督とどんなことを話されましたか?
渋川:最初はもっとテツオに重点をおいた物語だったんですけど、もっと周りの物語を出したほうがいいのでは? とは言いました。それでちょっと脚本が変わった気がします。
トレル:KEEくんの意見でも脚本は何回か変わってるけど、この脚本で演じてくれる女性のキャスティングがみつからなくて、それが一番大変だった。それで脚本が結構かわっていった。内田慈が演じた役なんてギリギリまで見つからなくて決まったのはクランクインの2日前。
――えー! 内田慈さんめちゃくちゃハマリ役ですよね。
渋川:内田さん本当めちゃくちゃうまいよね。
トレル:うまいのはもちろん知っていたけど、準備時間もほとんどなかったのに本当に上手でびっくりした。
――女性キャストといえば岡野真也さんは? 普通の女の子から新人女優、そして大女優へと変貌していくのが見事でしたね。
トレル:内田監督は新人を起用するのが好きなんだけど、彼女を起用して良かった! 外国でも岡野真也の評判はいいんですよ。準備期間中にKEEくんがインフルエンザになったから、この映画ほとんどリハーサルなし。
渋川:そうだ。人生初めてのインフルエンザにかかったんだった。
――渋川さんは『お盆の弟』に続き、映画監督役ですね。
渋川:内田監督は「映画業界って特殊だから物語にすると面白い」と話していました。でも『お盆の弟』はあんまり映画業界のことは描いていなくて。今回とは間逆で女の人に手を出せないタイプの映画監督役でしたし、映画を撮っているひとりの男の話という感じでした。映画監督役といっても様々。巨匠から学生で映画撮っているような人もたくさん見てきていますがいろんな人がいますからね。
――内田監督はこんな感じの監督ではないんですよね?
渋川:内田監督はもっとドライ。
トレル:まじめですごくいい人。ピュア。「ぼくはピュアじゃない」と本人は言うけど本当にピュア。
渋川:アダムのほうがピュアだよ。
トレル:笑。内田監督は、NOT 下衆。
――映画監督をたくさん見ているだけに映画監督役の引き出しがまだまだありそうですね。
渋川:豊田さんの映画では台詞のないト書きのところでアドリブを入れることが多いんですけど、そこで「お前もっと引き出しないのか!」っていつも言われて、辛いんですけどね(笑)。『ポルノスター』以降ずっとお世話になっていますけど、豊田さんの作品には今後も意地でも出てやる! って思っています(笑)。
――渋川さんから見た、豊田監督の良さってどういうところですか?
渋川:本当に優しい人だし芯がある。頭のいい人です。23歳からの付き合いですが、本当に信用しています。
――ちなみに、本作にもアドリブはあったんですか?
渋川:即興の演技ワークショップみたいなシーンはアドリブです。内田さんも。
――あのシーンの内田さんはめちゃくちゃウザくて最高です。
渋川:内田さん本当うまい。内田さんのアドリブですごくいいなと思ったのが、テツオに対して最初はタメ語で話すんだけど、すぐ丁寧に言い直すところ。あれ、たぶん計算してやってるんだと思うんですけど、(内田演じる)女優・響子と(渋川演じる)監督・テツオとの関係が見えてすごくうまいんですよね。
――アドリブが好きな役者さんもいるようですが渋川さんはどうですか?
渋川:いやぁ~出来れば台詞どおりにやりたいです(笑)。台本上で芝居が終わってもカットをかけない監督が多いので、そのままアドリブで演技を続けなければいけない。そういうときは内心あせります。でもそれが俳優の仕事なのかもしれない。でもやっぱり台詞どおりにできれば単純に楽ですね(笑)。
――それでも渋川さんの演技はどの役を演じていても渋川さん自身がそんな人なのかなと思うほど自然なんですよね。ある意味すべてアドリブに見える。
渋川:ありがたいお言葉です。
――どういった役作りをされているんですか?
渋川:あんまりやらないですね(笑)。あ、多少はしますよ。役によっては。(役者を)ずっとやっていても、やっぱり現場では緊張するんです。準備しても出来ないことのほうが多い。ああやればよかったこうやれば良かったって後から思うことはたくさんあります。キリがないですね。
――では今回の完成作を観ての感想は?
渋川:アダムが本当にいろいろ頑張ったので、アダムが好きな映画が出来たのなら良かったと思います(笑)!
トレル:何回観ても気になるところが出てきてしまって、もっと編集したくなってしまう。映画は編集でリズムが変わるから。厳しいかもしれないけどこうやって口出しする人がいないから日本の映画は無駄に長いのが多い。もっともっとカットしたい。
渋川:『百円の恋』の編集をした洲崎千恵子さんもめっちゃ切るよね。
トレル:日本で編集うまい人は少ない。だからその人はめちゃくちゃ忙しい。いい映画にするためには監督が編集しない方がいいと思う。
渋川:監督はひとつひとつのシーンに思い入れがあるからね。
トレル:マーティン・スコセッシは自分で編集しない。あと日本は製作委員会の関係でこの役者のシーンをカットしたらマズイとかもある。それはわたしには関係ない。カットするのはいい映画にするためだけ。でも海外でカットしすぎるのもあってそれは問題。大事なことは1本1本の映画を丁寧に作り上げていくことだと思う。
(2016年7月29日更新)
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