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ロックは不良の音楽
若くして亡くなったカッコいいミュージシャンはみんな地獄にいる
そう思うと、地獄に落ちるのも悪くないかなって――
『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』
宮藤官九郎監督インタビュー

演劇・映画・ドラマと幅広いジャンルで活躍する稀代のストーリーテラーである宮藤官九郎監督が贈る、恋あり、友情あり、ロックバトルありの“超絶地獄コメディ”『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』が、6月25日(土)よりTOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開される。17歳でこの世を去ったフツーの高校生・大助(神木隆之介)が大好きなクラスメイトに会いたい一心で、地獄で会った地獄専属ロックバンド・地獄図(ヘルズ)のボーカル&ギターであるキラーK(長瀬智也)のもと、地獄からの生還を目指し奮闘する本作。ロックが題材の1つとなっていることから、ロックナンバーからバラードといった多彩な劇中歌、豪華俳優陣と共に映画に華を添えたアーティストの出演も注目ポイントになっている。その最新作について、メガホンを取った宮藤監督に“音楽について”を中心にした話を聞いた。

――今作のような振り切れたロック・コメディ映画を作ろうと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
長瀬くんとそういう(映画を作ろうという)話をしていたんですが、僕自身も4作目を作るにあたり、日本映画界というか、日本の映画というものの中で、自分が何を望まれているのか、僕の映画ってどんな感じだといいんだろうか、というのを初めて客観的に考えて。うまく撮るとか、芸術的に撮るとかじゃなく、僕の監督作は発想から何から振り切れていないといけないんじゃないかと思って、そう意識して臨みました。現世じゃない世界、地獄でしかもロックな映画っていうのは最もしっくりくるというか、自分の作品としても大きく振り切れているし、テーマとしても映画の見た目的なルックスからしても、自分らしい作品になるんじゃないかって。
 
――今作でも音楽が重要な位置を締めているように、宮藤監督とロックは切っても切り離せない関係だと思います。
そうですね。僕もバンドをやっているし、もともとロックが好きなのでそれも自分の1つの特徴なのかなって、今回わりと客観的に思う部分もあり。でも、今回はパンクとかそういうジャンルに対するこだわりは捨てて、ロックっていう広い意味の、音楽のジャンルとしてのロックではなく『ロックな映画』というか『ロックなコメディ』っていうのにこだわって作りました。その面白さを多くの人に伝えるために間口を広くしたいっていうのがあったので、けっこう色んなジャンルの音楽が入っているんだと思います
 
――今回もZAZEN BOYSの向井秀徳さんが音楽を担当しています。いつからの関係になりますか?
1本目からですね。全作品、音楽は向井さんに。もともとバンドで対バンしたのが最初だったんですが。(向井さんが)ナンバーガール時代に知り合って、向井さんも映画が好きで日本映画の話をワーってしてから交流が生まれて、僕らのライブに出てもらったりとか対バンしたりする機会が増えたんですよ。それから向井さんがZAZEN BOYSを組んですぐに芝居の音楽を作ってもらって、そのままの流れで1本目の『弥次喜多』(真夜中の弥次さん喜多さん)の音楽をやってもらって、という感じです。
 
――なるほど。
映画だけでいうと、僕は色んな人と組むよりは向井さんと毎回違うことができるといいなっていう想いがあって。全部お願いしたわけじゃないですけど、音楽監督的というか、映画全体の音楽を向井さんと一緒にやりたい気持ちは変わらないので、最初からずっとお願いしているんですけどね。僕は台本を書きながら一緒に歌詞も書いているんですけど、今回は向井さんが台本を読んで率直にどういう曲を作りたいのかを尊重したいと思って、曲に関してあまり何も言わなかったんです。それは僕にアイデアがないわけじゃないんだけど、あんまり言葉で言っちゃうのは失礼かなと思ったので。それでも歌詞にこんな感じの曲になるだろうなっていう想いは込めていたんですけど、向井さんがそれを外してきたというか。全てタッチの違う曲にしてくれたので、それに応える形でどういう演出にするのかを考えるというか。脚本家としての自分から作曲家の向井さんにオーダーをして、できたものを監督としての自分がもう1回受け取って、演出を考えるっていういつもと違うやり方だったんですね。でも、それをやれるのも信頼関係ですよね。3作一緒にやって、どういう曲にしたいとかいちいち細かく言わなくても分かると思ったし、向井さんには台本を読んだ時のイメージで曲を作ってもらいたかったので。なんか聞いたことのない曲ばかりで面白かったですけどね。本人もやったことがないことばかりやらされると言っていますけど、その通りだなって思います。
 
――劇中歌の「天国」はフォーキーな感じで印象的なものになっていますよね。
そうですね。バラードをちゃんと作ってくれたのは初めてだと思うんですけど、「歌詞がああだったから、こういう曲になるな」っていう風に向井さんは言ってくれて。僕もどんな歌になるのか分からなかったんですけど、他の曲とはタッチが違う感じになるだろうなって思っていたので。あれは良い曲ですよね。
 
――本当に良い曲だと思います。楽曲だけでなく、映画にはそうそうたるミュージシャンが出演していますが、どういう人選だったのでしょうか?
冒頭から歌詞にジミヘン(ジミ・ヘンドリックス)とかカート・コバーン、マイケル・ジャクソンとか(忌野)清志郎さんとか、もう亡くなった実在のミュージシャンの名前がどんどん出てきて。要するに、若くして亡くなったカッコいいミュージシャンはみんな地獄にいるんだっていうのがこの映画の定義というかテーマだったので、人選という意味でも僕がすごくリスペクトする、カッコイイと思う方で、なおかつ洒落が分かってくれそうな人、というのがすごく重要でしたね。古いかもしれないけど、ロックはちょっと不良の音楽って僕は思っているので。それに、カッコいいミュージシャンはみんな地獄に落ちていると思うと、地獄に落ちるのも悪くないかなって。本当だったらキース・リチャーズとかも出て欲しかったですけど、それは無理なので日本に限定しました(笑)。
 
――出演したミュージシャンの方も楽しまれていたのでは?
どうですかね(笑)。野村義男さんとCharさんのシーンはリハーサルの時から実際にその場でギターを鳴らしてもらって、現場にもそのままアンプを持ち込んで出した音をそのまま使いました。逆にマーティさん(マーティ・フリードマン)とROLLYさんのギターバトルのシーンは、事前にスタジオで流れを全部作って。それを録音したものを神木くんに練習してもらって、弾けるようになってもらってからの撮影だったんですよ。それぞれのシーンによって、いちばん良い手法でやった感じですね。全部同じやり方だったら楽だったけど変化がないので、それぞれ特徴というか特性、やって欲しいことに合わせて撮影方法、録音方法も変えたっていう感じです。
 
――そうだったのですね。この映画にはシシド・カフカさんや清さんらも出演していますし、劇中歌も色々とあるので音楽好きな人が見ても楽しめると思います。
僕も長瀬くんも、やっぱり過剰なものが好きなので、ロック=過剰な……なんだろうなぁ、ナルシストであり、過剰にカッコイイを突きつめていくところがいいなと思うので、そういう意味でも特に地獄の場面は普通の人がいないっていう感じにしたかったんですよね。
 
――登場人物もそうですし、地獄パートはセットを組んで撮影するなど、現世パートとの見せ方の違いなど、どれも対比が効いているなと思いました。
そうなるといいなって。今は映画のテクノロジーが進んで、フルCGの地獄もやろうと思ったらできたんですけど、お客さんも目が肥えているから、それに対して素人の僕がCGで地獄を作ったところでやっと観られるくらいのクオリティだったと思うんです。だからCGをがんばってやるよりは、他の人がやらないような、バカみたいなアイデアがないかなと思って、『じゃあセットを作っちゃえ!』って。あえてロケを減らして、なるべくCGも使わないでやったので、若いお客さんは見たことのない超アナログな世界だと思います。ある程度、観る側の想像力を必要とする世界なんですけど、その分、他の映画には絶対にないビジュアルができたなって思っていますね。
 
――色々な見どころがある中で、この映画を通して監督がいちばん伝えたいことはなんですか?
カッコいい人は地獄に落ちるっていうことはこの映画の一貫したテーマですが、誰か身近な人が死んだ時に、『きっとあの地獄にいるんだろうな』って思ってもらえたらいいな、ということで、地獄をビジュアル化したかったというのがあるんですよね。死って想像していると悲しくなったり怖くなったりするけど、こうやってビジュアル化することによってちょっとバカバカしいものというか、悲観的にならなくていいんじゃないかなって。死んだあとの世界を想像したときに、死ぬことが怖くなくなるっていうか。別れは別れではあるんですけど、この映画のようにまた好きな人に会えたりすることがあるかもしれないし、あるいは自分の身近にいる動物が実は誰かの生まれ変わりだったりとか、そういう風に考えることによって、死ぬっていうことが必ずしも悲しいだけのことではないっていう。そこまで考えてくれたら、本当はいちばん嬉しいです。自分としてはそういう死生観みたいなのは表立ってはやってないけど、一応根底にはあるのかなって、この映画を撮ったあとで気付いたんですけどね。
 
――地獄を知ることで、生きる力も湧いてくるかもしれません。
そうですね。自殺がいちばんカッコ悪いって言っていますし、生きるっていうこともそんなに悲観的に考えなくていいんじゃないかなって。8割くらい地獄のシーンですけど、地獄から現世のことを思うと、普通に人間として暮らしていることが実はすごく奇跡的なことなんだっていうか。それに憧れている人たちの話だから、そういうところも本当は組み取ってもらえたら。
 
――分かりました。最後に、とっておきの秘話があれば教えてください。
この映画はみんな死んでいるっていう設定から始まっているから、本当のことをいうと続編を作りやすいんですよね。みんな地獄から出ないし、死んだ人は地獄にいくって考えれば、誰が出てもおかしくないっていうか。例えば誰かのスケジュールがダメで続編に出られなかったとしても、現世に行っていることにすれば動物で出ることもできるし。だいたいの物語って死んじゃったら、続編とかに出られないじゃないですか。これは死んだ人しか出られない映画なので、逆に言えば、誰でも死ねば出れるっていうのは撮っている時から思いましたね。まぁ、作らないですけどね。地獄(のセット)壊しちゃったので(笑)。
 
 
取材・文/金子裕希



(2016年6月24日更新)


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『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』

▼6月25日(土)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国東宝系にてロードショー

監督・脚本:宮藤官九郎
出演:長瀬智也 神木隆之介/尾野真千子 森川葵/桐谷健太 清野菜名 古舘寛治 皆川猿時 シシド・カフカ 清/古田新太/宮沢りえ

【公式サイト】
http://TooYoungToDie.jp/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/167894/


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