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'08年の韓国映画『息もできない』で鮮烈な印象を残した
女優キム・コッピが、「愛情を注いだ作品」と話す日本映画
『つむぐもの』キム・コッピ&犬童一利監督インタビュー

頑固な和紙職人と韓国から訪れた女性が、介護や伝統工芸を通して心を通わせていく姿を描くヒューマン・ドラマ『つむぐもの』が6月10日(金)まで大阪・第七藝術劇場、6月25日(土)~7月8日(金)神戸・元町映画館、7月2日(土)~15日(金)京都みなみ会館にて公開。そこで女優のキム・コッピと本作を手がけた犬童一利監督に話を訊いた。

――'08年の映画『息もできない』の女子校生役で多くの人に鮮烈な印象を与え、以後、日本からのラブコールも多く、『ある優しき殺人者の記録』『グレイトフルデッド』などに出演しているキム・コッピさん。監督が彼女をキャスティングした経緯から教えていただけますか? 
 
犬童監督やっぱり『息もできない』ですね。その後も彼女が出演した映画を観ていますが、圧倒的に『息もできない』の印象が強かった。今回、日本語ができる20代の韓国人キャストが必要だったので、プロデューサーと僕でこの企画が始まったときから彼女しかいないなと話していました。
 
――撮影は福井県と韓国の古都、扶余(プヨ)郡で行われたとのことですが、その場所はどうやって決まったのですか?
 
監督福井県越前市の丹南地域と韓国の扶余郡が元々友好関係で。そこで映画を作ろうというプロジェクトが立ち上がって、プロデューサー側に「やってみないか」というお話が来たんです。なので、越前と扶余を舞台にしたお話にするということはマストだったんです。
 
――なるほど。では、日韓の映画を撮るということはマストで、どのように脚本を練られたのですか?
 
監督年末年始で実家に帰った際、『愛、アムール』(ミヒャエル・ハネケ監督)というフランス映画を観たんです。両親がすぐそばにいる状況で、老夫婦の姿を描いた映画を観たら、ふと介護について考える瞬間があって。それで映画で介護をテーマにしてみようかなと思いました。福井も韓国も行ったことがなかったし、介護に関しても全く無知でしたが、そこからは急ピッチで取材をして脚本家と共に脚本を進めて。
  
――コッピさんが演じたヨナはもともと日本語が分からないけれど、日本に来てだんだんと話せるようになっていく。コッピさんの日本語力は演じるとき、同じような感じだったんですか?
 
キム・コッピもともと日本語に関心もありましたし、少し勉強はしていました。それで、日本の作品にも数作出演していますが、撮影時に少し上達して、韓国に戻ると忘れて、また日本に来て少し覚えて、また韓国に戻ると忘れて…というのを繰り返すような状態でした。ですから今回の撮影に関しても、日本語を忘れている状態で撮影が始まって、だんだん記憶が戻るような感じでしたね。
 
――そんなヨナがひょんなことから日本で出会うのが和紙職人の剛生(たけお)。福井県の越前和紙もこの映画では重要なポイントですよね。
 
監督そうですね。この映画には、日韓、介護、そして伝統工芸という大きなテーマが3つあります。だけど、剛生とヨナの物語なのでこのふたりのキャラクターが一番重要でした。ヨナは自分が何をしていけばいいのか分からず自分に対してモヤモヤイライラしている勝ち気な女の子。剛生は頑固一徹で背中で語るような職人をイメージしていたので、伝統工芸の和紙作りについてもしっかり取材しましたし、石倉さんにも紙すきの稽古をしに福井に行っていただきました。
 
――剛生が越前和紙を作る作業工程の“音”がすごく良くて、とくにこだわって撮られているように感じました。
 
監督音は本当にすごくこだわったので「音がいい」と言っていただけることが多くて嬉しいです。実は音響効果のスタッフらが東京で生音を録音するために、和紙を福井から持ってきて、3日間もかけて録っているんです。それで現場で録った音とレベル1くらいの調整をずっとしていました。 
 
――頑固一徹な剛生を、ベテラン俳優の石倉三郎さんが務めていらっしゃいますが、映画初主演というのは意外な感じですね。 
 
監督バイプレーヤーとしてのイメージが強いですよね。たくさんの作品に出演されていますが映画で主演というのは初めてなんです。背中で語る職人ということで、これは役者の人生がそのまま現われるだろうと思っていたので、硬派で孤高な方にオファーしたいと思っていたんです。脚本を気に入っていただけたようで、本当良かったなと思います。 
 
――コッピさんは石倉さんとの共演いかがでしたか? 
 
キム・コッピ石倉さんと会う前に「怖い人らしい」と噂で聞いていました。それで初めて実際にお会いしたときも、とても怖そうに見えて、本当にヤクザのような印象でした。でも、一緒に仕事をするようになると全然違うことが分かりました。最初のイメージとも違う、今回演じている気難しい役柄とも違う、親切で楽しい方でした。今回ご一緒させていただいて本当に良かったです。
  
――コッピさんが本作に出演されたことで現場や作品に影響したことはありましたか?
 
監督この映画の中で圧倒的な存在感を放っていますし、本当に彼女が出てくれて良かったと思っています。役としてだけでなく、待ち時間や食事のときなどでも彼女と石倉さんの波長が合っていたようで、俳優部の良い雰囲気が映画にも反映しているなと思いますね。
 
――コッピさんとは物語や役柄についてもいろいろお話されたんですか?
 
監督言葉が違うので脚本段階から撮影中までかなり意見交換しました。「こういう単語のほうが韓国人の口から発しやすいんじゃないか」とか。ヨナは日本に来て1年の間に感情面がセンシティブに変わっていくので、今回彼女とコミュニケーションをよくとることで信頼関係が築けて、作品にとっても良かったのではないかなと思っています。
 
――コッピさんは今までも日本の映画に多数出演してこられましたが、今までとは違う点はありますか?
 
キム・コッピ監督が今仰ったように撮影に入る前の脚本段階からたくさん関わらせてもらいました。最初は日本の方が書いた脚本から翻訳したものを読んだのでぎこちない部分もあったので直していきました。現場に入ってからも、細かいディテールですね、「韓国人だったら~」という視点で見直して考えることができました。全般的に愛情を注いだ作品になったと言えます。 
 

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――海外で仕事をすることはコッピさん自身にどんな影響を与えていますか? 
 
キム・コッピあまり深く考えたことがないですが、わたしだけではなく、海外でいろいろな経験を積まれた方々は視野が広くなったり、考え方が多様化したりするのではないかと思います。可能性が広がると捉えることもできますね。昔は可能性についてあまり大きく考えることができませんでしたが、私自身が海外で働くようになり、自分の限界を考えることなく、自然にそこに自分の身を置いて仕事をしていくことが可能になりました。
 
――またどんどん日本にも来ていただきたいです!来てくださいますか?
 
キム・コッピはい、もちろんです!



(2016年5月28日更新)


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Movie Data



©2016 「つむぐもの」製作委員会

『つむぐもの』

●6月10日(金)まで、
 大阪・第七藝術劇場
●6月25日(土)~7月8日(金)、
 神戸・元町映画館
●7月2日(土)~15日(金)、
 京都みなみ会館にて公開

出演:石倉三郎/キム・コッピ
   吉岡里帆/森永悠希
   宇野祥平/内田慈
   日野陽仁/ほか

主題歌:「月の砂漠」城 南海
    (ポニーキャニオン)

監督:犬童一利
脚本:守口悠介

【公式サイト】
http://www.tsumugumono.com/

【ぴあ映画生活サイト】
http://cinema.pia.co.jp/title/169164/

花の雨
という意味を持つ名前について

コッピというのは、花が咲く時期に花を咲かせる雨という意味です。韓国でもとても珍しい名前です。