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今年のトレンドは「おうちへ帰ろう」 
アジア映画の最新注目作が今年も《大阪アジアン映画祭》に集結!
今、アジアで最も勢いのあるベトナム映画特集も!!

3月4日(金)~13日(日)まで、梅田ブルク7、ABCホール、シネ・リーブル梅田、第七藝術劇場をはじめとした会場で開催される大阪春の風物詩《大阪アジアン映画祭》(以下、《OAFF》)。11回を迎えた今年は、インディ・フォーラム部門がさらにパワーアップし、過去最多の計55本(うち、世界初上映8本、海外初上映10本、アジア初上映1本、日本初上映22本)が上映される。

2009年より《OAFF》のプログラミング・ディレクターを務める暉峻創三氏は今年の特徴を、「キーワードは“地域、故郷”。オープニング作品(『湾生回家』)とクロージング作品(『モヒカン故郷に帰る』)が“故郷へ帰る”組み合わせになった。他のラインナップも、自分たちが生まれた場所や生まれた時代の共有体験、それに伴う地域に根差したアイデンティティー、もしくはアイデンティティーの喪失を語っている」と分析してくれた。ここでは暉峻氏イチオシの〈小特集:刷新と乱れ咲き ベトナム・シネマのここ数年〉上映作品をはじめ、ぴあ編集部が注目した作品を暉峻氏のコメントを交えながら紹介したい。

~大阪アジアン映画祭プログラミング・ディレクター
   暉峻創三氏に聞く今年の映画祭の見どころは?

「ドイツの杉野希妃」登場!
ヨーロッパ映画好きにもオススメのモンゴル出身女性監督、衝撃デビュー作

 

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『そんな風に私を見ないで』 (コンペティション部門作品)

幼少時モンゴルから東ドイツに移住し、本作で長編デビューを果たしたウィゼマ・ボルヒュ監督の『そんな風に私を見ないで』。「出だしの数秒で監督の才能が溢れており、コンペ部門に入選と確信。ドイツ人として生きるモンゴル系ヒロインの物語だが、祖母を思い出す際にモンゴルの光景が挿入され、故郷を懐かしむ様子が伝わる」(暉峻氏)。映像や演出も素晴らしい本作は、ボルヒュ監督自身が主演を務めるだけでなく、製作も担当しており、映画に向き合う姿勢はまさに「ドイツの杉野希妃」。移民系監督の新星としても、今後大いに注目したい才能だ。

 

リチャード・リンクレイター監督『ビフォア』3部作を彷彿とさせる「街と男女」の物語
 

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『香港はもう明日』 (コンペティション部門作品)

街の存在感が始終観客を感動させ続ける」(暉峻氏)という本作は、タイトル通り香港が舞台。夜の街並みがとても魅力的に映る物語だ。現地社員のアメリカ人男性と、出張で香港を訪れた中華系アメリカ人女性が出会い、楽しい一夜の予感がしてきた時に思わぬアクシデントが起こる。だが、この二人は一年後香港で偶然再会して・・・。恋愛映画の金字塔、『ビフォア』3部作の香港版を見ているようなショットや会話の連続に心躍ること間違いなし。「えっ、ここで!?」と驚くようなラストにも注目したい。

 

コンペティション部門は人気監督ロイストン・タンがシンガポール建国50周年にローカル回帰した作品『3688』、ナワポン・タムロンラタナリット監督(『マリー・イズ・ハッピー』)の最新作『フリーランス』、チャップマン・トー主演&監督デビュー作『ご飯だ!』、石倉三郎、キム・コッピ主演の石川県・越後を舞台にした『つむぐもの』、恋に家族に悩む不眠症のアラサー男女を鮮やかに描くフィリピン映画『眠らない』など全11作品を上映。

 

 

ベトナム版ホウ・シャオシェン VS 本家より面白い!? ベトナム版『怪しい彼女』
昨年のベトナムナンバー1、2 ヒット作が登場!


今のベトナム映画は、80年代の香港映画の多様性や、ハチャメチャな勢いのある雰囲気を持ち合わせている」という暉峻氏が、海外の映画祭ではなかなか紹介されない現地の大ヒット作として今回セレクトしたのが、この2作品。
 

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『草原に黄色い花を見つける』 
〈小特集:刷新と乱れ咲き ベトナム・シネマのここ数年〉

ベトナムのベストセラー小説原作の昨年ナンバーワンヒット作。80年代半ばの美しい田舎を舞台にした幼い兄弟の物語は、ホウ・シャオシェン監督の『冬冬(トントン)の夏休み』『童年往事 時の流れ』を彷彿とさせる映像美と懐かしさを呼ぶ感動作だ。


 

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『ベトナムの怪しい彼女』 
〈小特集:刷新と乱れ咲き ベトナム・シネマのここ数年〉
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を抑えベトナム国内で大ヒットを記録した本作は、韓国映画『怪しい彼女』のリメイク版。とにかく主人公が魅力的で、スー・チー似のキュートな風貌から繰り出される毒舌もインパクト大。主人公がバンドで歌うベトナムオールディーズの歌も胸に響き、聴きごたえがある。本家よりオシャレでパンチが効いた本作をお見逃しなく!

 

〈小特集:刷新と乱れ咲き ベトナム・シネマのここ数年〉では、「あらゆるショットが素晴らしい」と暉峻氏絶賛の芸術系作品『大親父と、小親父と、その他の話』、ベトナムアクションを堪能できる『レディ・アサシン 美人計』など全6作品を上映。

 

 

高校総合文化祭に大阪府代表として出場した
建国中・高校伝統芸術部員の挑戦を描くドキュメンタリー

 

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『いばらきの夏』 (特別招待部門)

「今年の《OAFF》のもう一つの傾向は、多彩なドキュメンタリー作品が揃ったこと」と語る暉峻氏。中でも本作は釜山のテレビ局MBCが当初から映画化を想定して製作したドキュメンタリー番組を映画化したもの。同局のプロデューサーでもある、チョン・ソンホ監督が密着したのは大阪市住吉区の白頭学院建国中・高校の伝統芸術部。彼らが茨城県で行われた高校総合文化祭にチャレンジする姿を通して、在日韓国人としてのアイデンティティーを模索する様子を映し出している。
3月12日(土)11:00からの上映後には、同校伝統芸術部が伝統芸能「地神バッキ」をライブ披露する特別イベントを開催。伝統芸術に全力を注ぐ部員たちの姿を映画で、ライブでぜひ見てほしい。

 

特別招待作品部門では、今のイランを映し出す会話は正に「イランのリチャード・リンクレイター」!音楽にも注目のアリ・アフマドザデ監督作『アトミック・ハート』、ミリアム・ヨン主演の青春時代プレイバック映画『私たちが飛べる日』、シュー・ハオフォン監督(『刀のアイデンティティ』)の最新作『師父』、アジアでメガヒットを記録した台湾映画『私の少女時代 -Our Times-』など全9作品を上映。

 

 

タイニューウェーブの監督たちを育てたのは、海賊版ビデオショップの店長だった!?
 

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『あの店長』

海賊版と聞くと日本では眉をひそめたくなる人も多いだろうが、それも文化のひとつになっているのがタイをはじめとするアジアらしいところ。本作は、タイで未配給の世界の秀作を集めた伝説の海賊版ビデオショップとその店長のことを、現在のタイ映画界を率いる監督たちが語り尽すドキュメンタリー。店長自身は登場しないが、店長の素晴らしいセレクションのおかげで今があると語る映画監督たちが勢ぞろい。海賊版問題だけでなく、監督たちの映画愛をビシビシ感じられるだろう。コンペティション部門でも『フリーランス』を出品しているナワポン・タムロンラタナリット監督作。

 

≪ニューアクション! サウスイースト≫では、西野翔、キム・コッピ出演のエリック・クー監督(『TATSUMI マンガに革命を起こした男』)最新作『部屋のなかで』、CJエンターテイメント製作のインドネシア映画『心からの複製』、エリック・マッティ監督の最新クライムサスペンス『汝の父を敬え』、『男たちの挽歌』シリーズのティ・ロンがおじいちゃん役を好演のマレーシア映画『わたし、ニューヨーク育ち』ほかを上映。

 

 

毎年好評の特集企画≪台湾:電影ルネッサンス2016≫では、『雲の国』『あの頃、この時』とドキュメンタリーが揃い、オープニング&台湾ナイト上映作の『湾生回家』と合わせて3本のドキュメンタリー作がラインナップ。
 

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≪Special Focus on Hong Kong 2016≫では、東京国際映画祭でも好評を博したジョディ・ロク監督デビュー作『レイジー・ヘイジー・クレイジー』や、日本で初紹介されるファイヤー・リー監督の『荒らし』(左写真/デレク・ツァン、ラム・シュー出演)、そして香港で大ヒットした、香港の十年後を5人の監督が描いたオムニバス映画『十年』他が上映される。

 

注目のインディ・フォーラム部門では、今年オーサカ Asia スター★アワードを受賞した永瀬正敏出演のオムニバス映画『ファイブ トゥ ナイン』をはじめ、初長編監督作『くじらのまち』がPFFアワード2012でグランプリを受賞した鶴岡慧子監督が手掛ける2作品(『あの電燈』『ともに担げば』)が上映される。また『函館珈琲』(西尾孔志監督)、『ルマ』(ヨセブ・アンギ・ノエン監督)、『椿、母に会いに』(髙木駿一監督)、『想い出の中で』(完山京洪監督)は、いずれも地域と関連の深い映画づくりや、情景が織り込まれている作品だ。第12回CO2助成作品3作(『見栄を張る』『私は兵器』『食べられる男』)のワールドプレミア上映も行われる。

 


 

作品の見どころを紹介してきたが、最後に一言。何を観ようか迷っている人は、とにかく時間の合う作品をみつけて足を運んでみてほしい。お目当ての作品だけが面白いとは限らない。思わぬ発見ができるのも映画祭の醍醐味だ。見たこともないような驚きと、ここでしか観ることのできない作品に出会える歓びを、ぜひこの春、体験してほしい。

 

チケットは、2月20日(土)10:00より、全国のセブン-イレブン、サークルK・サンクス、チケットぴあ店舗のほか、ぴあwebサイト予約、ぴあ電話予約で販売開始。

 

 

取材・文/江口由美




(2016年2月18日更新)


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大阪アジアン映画祭プログラミング・ディレクター
暉峻創三氏

Event Data

《第11回 大阪アジアン映画祭》

会期:2016年3月4日(金)~13日(日)
会場:梅田ブルク7、ABCホール、シネ・リーブル梅田、第七藝術劇場、他
主催:大阪映像文化振興事業実行委員会(大阪市、一般社団法人大阪アジアン映画祭、大阪商工会議所、公益財団法人大阪観光局、朝日放送株式会社、生活衛生同業組合大阪興行協会)

《大阪アジアン映画祭》サイト
http://www.oaff.jp/2016/ja/

★《第11回大阪アジアン映画祭》 オープニング作品は『湾生回家』、 クロージング作品は『モヒカン故郷に帰る』に決定!
https://kansai.pia.co.jp/news/cinema/2016-01/oaff2016-opcl.html

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《第9回 大阪アジアン映画祭》時に
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https://kansai.pia.co.jp/interview/cinema/2014-02/oaff2014-teruoka.html